第16話 共同戦線 ⑪

 眠らなくとも疲弊ひへいしないゲームの主人公と違い、自分達は睡眠すいみんも食事も必要で攻撃を受ければ怪我、出血をする。

 その辺に転がっている葉っぱや栄養ドリンクを口に入れた所で体力が全快になりもしない。


 ……いや、するのか?


勘弁かんべんしてほしい。ホント、無理」

「攻略には直接関係ないかもしれないけど、注意しないといけない事が一つある。ラッシュが起こるのは夜が多い」

「夜は移動をひかえて、迎撃しやすい場所で防衛線をった方がいいって?」


 大きく頷き、「少なくとも、今日の夜は」と付け加える。


「他に注意する点は? ジャンルに関わらず」

「他……あんまり自分もホラーゲームはやらないけど、まれるのは不味い」


 それはみんな知ってる、と突っ込む眼差まなざしが痛いが、皆が同じ認識であることを確認できたのは大きい。

 迂闊うかつな立ち回りで負傷した場合、自分たちが仲間を殺さなければならない状況になってしまう。

 最悪、チームが全滅ぜんめつ、よくても軋轢あつれきを生んで解散はあり得る。


「近接武器が強い訳が分かったよ」


 意外と暢気のんきに返す美和子みわこ

 そう、この中で一番感染リスクを背負っているのは唯一の近接武器を使う彼女だ。


「あとは、出来る限り倒せる敵は切り刻んだ方がいいかもしれないね。さっき赤玉あかだまに変わった奴って、死んでたよね?」


「間違いない」と頷いたのは健吾けんごだ。


「俺が撃って倒した奴だ。死んだふりって感じでもなかった」

「やっぱり、特定のバケモノは死体を別のバケモノに変えられるんじゃないかな」

「しかも、強い奴に。たちが悪すぎるっての」

「それが相手の戦力の強化手段だとすると納得できるところもある。弱い個体が、より強い個体に変化する。それが死んだら、より強い別の個体が変化させる。俺たちがバケモノを倒してレベルアップするみたいに、敵は――」

「敵は死んだら仲間が一気にレベルアップさせてくれるっていうのかよ。倒してるのに敵は強くなるうえに減らないなら、絶望しかねぇぞ」

「あれの二つ名、『皮をぐ者』だっけ。二つ名と同じ行動で仲間を増やすんじゃない?」

「皮を剥げない状態にするなんて、それこそりんの爆弾で粉々にするか、美和子の刀で切り刻むぐらいしかないんじゃないの」

恭平君きょうへいくんの弓矢も有効じゃないかな?」

「……へ、俺?」


 予想外のタイミングで名前が出たので、頓狂とんきょうな声が出た。


「ほら、突き刺さったままの矢があると、がしにくいかなって」

「それは、どう、なんだろ?」


 意味は分かるが、あの馬鹿力で皮を引っぺがしているので、矢なんて関係なく剥ぎ取ってしまいそうだ。


「移動中、近くのバケモノは私が切れるけど、銃で倒したりした遠くの敵を切りに行くわけにはいかないし、それに他の人が倒した死体があるかもしれないし」

「……えっ、これから全部? 効果があるか分からないのに?」

「お願い」「頑張ってくれ」「よろしく」「よろしくお願いします」


 さらっと、とんでもない事を押し付けられた。


「でも、移動中の命中率最悪だったけどね」


 茶化すように図星をついてくるゆう

 そのあと続けて「出来る限りでいいからさ」と付け加えてくれたので、若干じゃっかんだが肩の荷が下りた気がした。


「話の途中だけど、そろそろここを出る支度をしないと。みんな其々、リュックと食料、水を持って。トイレに行きたい人は今のうち」


 美和子に言われ、皆が思い出したように時計を見てから足早にトイレに向かった。

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