第12話 共同戦線 ⑦

 それからしばらくして、美和子みわこゆう恭平きょうへいへ向かって深々ふかぶかと頭を下げた。


「ごめんなさい。私のせいだ」


 この謝罪は赤玉が安置の筈の室内へ進入してきた事についてだ。

 恭平は頭の整理が間に合っておらず、とりあえずの無事だったからとざつうなづいてから、思い出したように自分が突き倒してしまったりんを見た。

 彼女は死んだ昆虫のように手足をちぢめた格好で固まっていた。

 突き飛ばされてから今の今まで、ずっとその姿勢でいたらしい。


「突き飛ばして悪い。大丈夫? 立てる?」

「えっ、はい。ケガは多分ないです。ありがとうございます」


 恭平が凜に手を貸して立たせると、彼女は背中を確認したり手足を動かしたりして体の調子を確認する。


「やっぱり大丈夫そうです」


 よかった、と胸を撫で下ろそうとしたところで、


「あんた、知ってたでしょ」


 ゆう苛立いらだった声が響いた。

 振り返ると、優と美和子が近距離で向かい合っている。


「あんなすぐに動けないって。絶対、来るって分かってたんでしょ。最初にあれを見た時の反応、変だと思ってたんだよね」

「そんなことないよ。変なのが混じってるなって思っただけ。それにほら、情報を見たときに特技に大跳躍だいちょうやくって書いてたから」

「もしかしたら、この窓まで飛んできて、中に入るかもしれないって?」


 優は鼻白はなじらみながら「そんなわけないでしょ」と切り捨てる。


 ……これは、不味まずい。


「まぁまぁ、助かったからいいだろ。何にもできなかった俺が言うのもおかしいけどな」


 辛うじて声を上げたのは健吾けんごだったが、優に速攻で睨まれたため語尾がだんだん力を無くしていった。


「私が言ってるのはそういう事よ」


 優は引き金から指を外し、人差し指を健吾に向ける。


「知ってる事、思ってる事を共有すれば今みたいなことにならなかったわけ。この馬鹿みたいな状況で死んだら終わりかも、なんでしょ? 下手したら全員死んでた!」

「そうだね。私が全部悪かった」

「何それ、開き直り? 私は死にたくないの。知ってる事は全部教えてよ。チーム組むってそういう事でしょ。出来ないなら私は抜けるから」


 彼女の怒り方は激しいが、感情に任せているのではなく思考は理路整然りろせいぜんとしていて、至極真っ当な指摘をしている。


「わかった。知ってることは全部話すし、思ってることも全部共有する」

「口だけじゃないでしょうね」

「絶対に。だから、本当にごめんなさい」


 美和子が深々と頭を下げ、上半身を九十度曲げた状態のまま制止する。

 優の許しの言葉が出るまでそうするつもりなのだろうか。


 それから30秒が過ぎた頃、


「……分かった。今回は許す。腐食ふしょくがどんな感じかも体験できたし、結果オーライだったかもね。ほら頭上げて。休憩時間なくなるでしょ」


 ピリピリとした空気は一旦、なりを潜めた。

 不信感が全て消えたわけではない事を全員が理解していたが、優はスッパリと話題を切り替えて、皆が忘れていた自己紹介の続きを始める。


「さっき見た通り、私の能力は『銀の弾丸シルバーバレット』。一発だけ凄い威力の弾を撃てる。反動は大きいし、クールタイムは15分もあるけど。後は、銃と銃をぶつけるだけでリロード出来る『簡易装填クイックリロード』。パッシブスキルってやつね。オッケー?」

「武器がふたつの理由ってあったりするのか?」


 質問は健吾から。

 優は「私、携帯二台持ちだから」と言いながら、両手の銃を其々、携帯の状態に戻した。


「名前は坂神優さかがみ ゆう。坂道の坂に、神様の神、優しいの優。とうゆうがくいんこうこうにねん」


 東友学院という名前に一同がざわつく。

 凜の津雲つくもフェレーデ高校は上流階級のお嬢様校だが、東友は都内屈指の進学校だ。

 入試倍率、偏差値共に非常に高い。


「人は見かけによらないってこと。塾があるから部活はやってない。よろしく。ほら、最後」


 優の視線が恭平に向けられた。

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