第11話 共同戦線 ⑥

 赤い塊は商品棚をなぎ倒し、盛大な音を立てて着地を決める。


安置あんちだったんじゃないのかよ!」


 悪態あくたいをつきながら膝立ひざだちでわきめた姿勢を整え、ボウガンを構えた。

 目が霞むほどの悪臭に頭がくらくらする。コレが状態異常じょうたいいじょうという奴だろうか。

 しみなくスキルを使用して射出、青白い光をまとったアイスアローが長距離着地を決めたばかりの赤玉一体あかだまいったいの右手、左足に突き刺さり、氷の花が倒れた棚を巻き込んで敵を地面にめた。


「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁあ」


 良かった、スキルは効くらしい。


「入って来れないのは、一階だけだったみたい!」


 美和子みわこはもう一匹めがけて走っていた。

 だが、散らばった商品が邪魔で踏み込みが甘い。

 四肢が無事な赤玉は腕を振り回して散らばった商品を投げ飛ばし、間合いを取るように後方へ跳躍する。


「ってぇ、クソ! 逃げんのかよ!」


 尻もちの状態から立ち直った健吾けんごが飛びずさる赤玉に弾丸の雨を見舞おうとするが、先程の案山子のせんめつで残弾が減っていたことが災いし、ものの二秒で弾切れを起こす。


「……痛いし、臭いし、ネイル割れてるし! 最っ……悪っ!」


 叫んだのはゆうだ。

 彼女はヒステリーを起こしながら銃底じゅうぞこで床を三度強く叩き、立ち上がる。

 何をしたのか、彼女の両手の銃は神々こうごうしく光り輝いていた。

 スキルを発動したのだと、一瞬遅れて理解する。

 銃の変化よりも彼女の鬼気迫ききせまる表情の方に皆の目は奪われた。

 その気迫たるや、赤玉の放つ禍々まがまがしさに引けを取らない。

 彼女はまず、床に縫い留められた赤玉へと早足で歩み寄る。


「近づくとあぶな――」

「うっさいだまれ!」


 当然、敵も黙って接近する事は許さない。

 自由な左腕で床に散乱した商品を投げ飛ばす。

 優はそれを避けるでも防ぐでもなく、そのまま受けた。

 投げつけられた大きめのタッパーが、バコン、と嫌な音を立てて彼女のひたいにヒット。

 額に血の筋が伝ったが、目の座った優は構わず赤玉の前まで到達、振り回される赤玉の腕を左手の拳銃の銃底で叩き落とし、左手を足で踏みつける。

 そうして身動きが取れなくなった所で、赤玉の額へ右手の銃口をねじり込むように押し付け、引き金を絞った。


 ダンッ!


 およそ小型拳銃とは思えない、ショットガンや大口径銃かと思うほどの爆音が響き赤玉の顔面に十センチの大穴が穿たれた。

 誰がどう見ても即死のダメージだ。


「ああぁぁぁぁぁあああぁぁあ」


 仲間の死に感化されたのだろうか。

 逃げに転じていたもう一匹が奇声きせいを発し、美和子を無視して優を狙って跳躍ちょうやくする。

 優はまたも避けようとせず、飛び掛かってくる赤玉の胸部へ素早く狙いを付ける。


 銃声。


「ッチ」


 優の舌打ち。

 弾丸は空中で体をひねった赤玉の左胸の辺りを腕ごと削り飛ばすだけに留まった。

 着弾の衝撃で推進力すいしんりょくを失った赤玉は優の数歩手前で床に墜落ついらく

 しかし残った右腕を使って器用に着地し、優の追撃を避けるべくみすぼらしく床をゴロゴロと転がった――が、それまで。


「逃がさないから」


 美和子が回り込んでおり、かがやく刀身が赤玉の胴体を素早く三分割に切り刻んだ。


「ぎゃぁぁあ……ぁ」


 断末魔の叫び。死ぬ最後の瞬間まで不快なバケモノだった。

 美和子は赤玉の死亡を確認し、「ふぅ」とため息を吐き出す。

 安堵あんどの混じった静寂が、しばし周囲を包んだ。

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