第10話 共同戦線 ⑤

 りんが今しがた生成を完了したばかりの爆弾を構えようとするが、美和子みわこが手で制する。


「それは温存しておいて。ここから出た後に必要になるかもしれないから」


 なるほど確かに、と皆が感心する。

 今、爆弾を使えば敵を一掃出来いっそうできるが、安置の制限時間以内に三つのストックをたくわえ直すのは無理だ。

 せっかく安置から一方的に攻撃できるのだから、爆弾を使う必要もないだろう。

 各々が携帯を武器へと戻す。

 そんな中――、


「ねぇ、私自己紹介まだなんだけど」

「ごめんごめん。鍬野君くわのくん御免ごめんね。これを片付けてから!」


 美和子は己の片手を顔の前にたてて、ゆうに続いて恭平きょうへいに平謝りする。

 彼女は攻撃できないにも関わらず、しっかり刀を手にしていた。

 律儀りちぎというべきか。


「散っちゃう前に、射撃練習だと思って気楽にやりましょう」


 美和子と凜をのぞいた三人で窓際に並び、窓枠を肘置ひじおき代わりにして狙いを付ける。


 ――意外と狙いづらいな。


 とはいえ、バケモノは十数体いるので多少の事では外さない。

 意外にも、最初に引き金を引いたのは優。

 続いて、恭平、健吾けんごと続く。

 スタートダッシュこそ優が取ったが、その後はサブマシンガンを持つ健吾に軍配ぐんばいが上がる。

 下階の案山子達かかしたちうめき声を漏らしながら地面に倒れて行く。


「腕が痛くなってきた」


 二つのカートリッジを使い切った辺りで優が愚痴ぐちを漏らす。

 彼女のリロードは特殊で、二つの銃を打ち合わせる事で完了する仕組みのようだ。

 対して、健吾のリロードは現実に忠実だ。

 セーフティーをかけて弾倉を取り外し、空になった弾倉頭部だんそうとうぶ装填口そうてんぐちに手を置く。

 その動作が装填じゅうてんわりらしく、手を置いていた時間に応じて弾が補充される。

 補充が終わると弾倉をセットし直し、セーフティーを外してようやくリロードが完了。

 瞬間的な火力が高い分、リロードには時間が必要なようだ。

 案山子達は銃声に釣られてか、5人のいる建物の一階の入口へ殺到さっとうしてきた。

 当然、店には入れないので、かえって狙いがつけやすくなるだけだ。

 そうして、30秒ほどで殆どのバケモノが地面に倒れた頃。


「何してんだ、あれ」


 健吾の視線の先には、異端いたんとされる赤玉あかだまが地面にこうべれてうずくまっていた。

 銃声に反応した案山子と違い、元居た場所から殆ど動いていない。

 ゆっくりと呼吸するように動いているので、集中砲火で死んだ訳ではない。

 赤玉の前には銃撃で死んだ案山子の一体が横たわっていた。



 耳障りな皴枯しわがれれ声。

 まるで、死んだ事を嘆くように赤玉は絶叫し、案山子の頭部に両手をわせる。


「なんだか、撃ちづらいな」


 人間臭い動きに、恭平達は攻撃できずに手を止める。

 だが、それは間違いだった。

 次の瞬間、赤玉は案山子の皮を一気に引き剥がしたのだ。

 肉が千切れるような形容しがたい音と共に、案山子の白い外皮が膨大な血と共に宙を舞う。


「気持ち悪」


 おぞましい光景に絶句する。

 凜は目を背け、優は銃を持ったまま口に右手を当てる。

 だが、悪夢のような光景はそれで終わりではなかった。

 皮を剥ぎ取られ死んでいる筈の案山子が、背中をくの字に折り曲げ、その場で一メートル近く跳ねた。

 変に折れ曲がった手足で着地する案山子、いや、この姿は――、


赤玉あかだま……おい、おい、おい! しかも生き返ってるぞ!」

「やばくない?」


 優が呟くとほぼ同時に赤玉二体の顔らしき部分が此方こちらを向いた。そして、四肢を体の内側に格納するように限界まで引き絞り、


「みんなけて!」


 反応できたのは恭平、美和子の二名。

 それも運に近かった。

 恭平は後ろにいた凜を突き飛ばしながら窓から飛び退き、美和子は優と健吾の首根っこを掴んで床に引き倒す。

 尻もちをついた二人の頭上をかすめ、赤黒い塊が開いた窓から二階に飛び込んで来た。

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