第9話 共同戦線 ④

「だって、使ってみないとわからないし」

「けど、敵が寄ってくるんだろ?」

「まだ15分以上は安全。沢山集まっても、ここなら一方的に倒せるよ」

「……だからって、うーん」


 皆がしりみするのを他所よそに、美和子みわこは強引にりんを窓際に立たせる。


「爆弾は3つまで作り置きできるんだよね?」

「はい、そうですけど」

音響弾おんきょうだん、ストックしてたよね。ほら、出して」


 凛は渋々といった表情で手にした爆弾ボックスの側面、赤と黄色の光が点灯するボタンに触れる。

 このボタンの発光がストックした爆弾の数を表示し、更に光の色が爆弾の種類に対応しているらしい。

 先程通常の爆弾を使ったので、3つあるボタンの内の一つは青色に点滅している。

 この点滅が作成中である事を示しているのだろう。

 彼女が黄色に光るボタンを押すと、箱の蓋が自動で開き黄色のスリットラインが入った爆弾が現れた。


「念のために、耳はふさいでください」


 そっと爆弾をつかんだ彼女は、特に起爆の動作も無しに窓の外へと放り投げて耳をおおう。

 全員がそれにならった。

 二階から道路に落とされた爆弾が、下腹部かふくぶひびく重低音を響かせる。

 決して耳がおかしくなる程の音量ではないが、妙に気持ちが落ち着かなくなる音域だ。

 大した音ではないが、後に起こった変化は劇的だった。


「うわっ、気持ち悪っ!」


 ゆうがドン引きの表情で後退あとずさる。

 一体どこにひそんでいたのか、あらゆる方向の路地からバケモノが湧き出てきたからだ。


「適当に歩き回ってるのが、音につられて寄ってきたんだろうね。効果範囲は広そうだし、上手く使えばあれをおとりにして逃げれられると思う。……あ」


 美和子の視線の先。

 似たり寄ったりのバケモノの中、明らかに異質な奴が一体。

 体格は他の個体と差異さいはないが赤茶色で、背骨が折れているのかに体が折れ曲がっている。


「嫌な感じがする。皆、アプリの鑑定機能かんていきのうを使ってみよ。メニューの青い的みたいなマーク」


 彼女の指示に従ってボタンを押すと、カメラが立ち上がった。

 普通と違うのは、映った皆にポップアップが立ち上がっている事だ。

 箱をタッチすると、名前やステータスが表示される。


「なんだこれ、便利だな」

「私の名前を知ってたのも、これを使ったってわけね。てか、プライバシー的にアウトじゃないの?」

「この状況だとそれどころじゃないけどな」

「あの気持ち悪いのにも使えるみたい」


 皆が一斉に、窓の下へとカメラを向ける。

 白い方のバケモノのポップアップをタッチすると、


案山子かかししかばね ライフ300 特技とくぎなし』


 と表示された。

 特技なし、という特徴とこの量を見るに、このゲームにおける雑魚のような扱いなのだろう。

 その割には恐ろしくタフに感じるが。


「うわ、何だこれ」


 先に赤茶色のバケモノにカメラを合わせていた健吾けんごまゆひそめる。

 続いて、ほぼ全員が等しく同じ反応をした。


赤玉あかだま:皮をぐ者 ライフ500 特技、大跳躍だいちょうやく腐食ふしょく


 少し強めのエネミーと言うにはライフが高い上に特技を二個も所持している。

 二つ名も不気味だ。


腐食ふしょくってなんだ?」


 健吾の問いに、凜が答える。


「普通なら、てつびたりする事を指しますけど。近くにいるだけでがいがあるみたいですよ。備考欄びこうらんに書いてました」


 アプリには用語集のようなものも搭載とうさいされており、それによると腐食とは効果範囲の人間のライフを毎秒蝕まいびょうむしばむものらしい。ダメージの値は距離に比例するようだ。

 なかなか厄介やっかいな特技だ。警戒けいかいしなければならない。


「しっかし、俺たちのライフが分からないんじゃ、どれだけ耐えられるかもわからないな」


 健吾の発言はまとている。

 これが普通のゲームならば操作キャラクターのライフは画面の端にゲージや数値で表示されるか、オプションを開くと確認できる。

 あわせて、武器で相手を攻撃すれば与えたダメージがポップアップするので、なぐる、つ回数や戦い方の指標しひょうになる。

 しかし、アプリのどこを見ても自分のライフは表示されていないし、武器のダメージも書いていない。

 完全なマスクデータとなっている。

 ようは、実戦でれろという事だ。


「リアルな状態異常って怖いですよね。何が起こるか分からないし」

「近寄らないに越したことはないね」

「それか、速攻で倒すか」


 そうしている内に音響弾の効果が切れた。

 爆弾をめがけて密集していたバケモノが、一斉に別々べつべつの方向にかじを切る。


「分散する前に倒しちゃいましょ」

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