第8話 共同戦線 ③

威力いりょくすっご。ってか、りんが居れば最強じゃない?」

「威力がある分、巻き込まれると私たちも……」


 ゆうは『絶対に失敗するなよ』という威圧的いあつてきな視線を凜に向け、彼女をすくみ上らせる。

 そこにすかさず、美和子みわこが割って入った。


「使い方次第で、こうして安全に敵を倒せるって事」

「だからこの建物を選んだのか」


 バケモノが集まってくる側を直上から狙える建物が必要だったわけだ。

 建物によって窓は全てごろしで開閉不可かいへいふかの所も少なくない。

 また、大きな建物では正面入り口が広い、または複数個所ある事で、敵が分散してしまうので一網打尽いちもうだじんむずかしい。

 丁度ちょうどいい大きさで、籠城ろうじょうてきした食料や資材があり、いざという時は搬入口はんにゅうぐち非常出口ひじょうでぐちのような別の出入り口と通路が用意されている建物。

 その厳しい条件をクリアするとなればなるほど、ここまで走らされたのも合点がてんがいく。


「それじゃ、みんな改めて自己紹介しましょう。これから一緒に戦う仲間だから、武器や特技とくぎ、いろいろ情報を共有しなきゃ」


 一階の食品エリアから各々おのおのが好きな飲み物と食べ物を持ち寄り、円になった。


あらためまして、私は浜辺美和子はまべ みわこ由比ヶ浜高校二年ゆいがはまこうこうにねん剣道部副部長けんどうぶふくぶちょう持久力じきゅうりょくに自信があります。よろしく」


 溌溂はつらつとした声で先陣を切ったのは美和子。

 当たり前のように場を仕切っているが、異論を唱える者は誰もいなかった。

 圧倒的なカリスマ性と発言力。

 この得体の知れない状況を乗り切る為に彼女の指揮しきは必要不可欠だと全員が納得している。


「私の能力すきる各種かくしゅブースト。武器の攻撃力を上げるバーサーク、体の動きが少し早くなるクイック。能力を使ってる間は能力ゲージが減って、使うのをやめると回復する感じ。両方同時には使えないんだけど」


 分かりやすい能力。

 シンプルゆえに強いのだろう。

 ここに来るまでにバケモノをバターのように切り殺していた。


「いや、スキルとか意味不明なのは俺だけか? 今のこれってまさかゲームなのか?」


 当然の疑問を口にしたのは健吾けんご

 とはいえ、全員が同じ疑問を抱いていた。


「ゲームかもしれないけど、現実だよ。参加者は今日まで例のアプリを消していなかった人。みんなもそうでしょ?」


 お互いの顔を見て、全員がゆっくりと頷く。


「バケモノに殺されたら、きっと私たちはそのまま死ぬ。だから、出来るだけ協力しないといけないと私は思うの。それで、私がスキルって言ったのはこういう事」


 美和子は刀を携帯に戻してアプリを操作、ステータス画面を開いてみせてくれた。


「みんなもやってみて」


 皆、彼女の説明の通りに操作を行い、各々のステータス画面を開く。


「それじゃ、確認しながら自己紹介の続きをどうぞ。時計廻とけいまわりで」


「俺か。五条健吾ごじょう けんご渋谷西狭間中学三年しぶやにしはざまちゅうがくさんねん


 その自己紹介に、優が「中学生……」と零す。

 健吾はこの中で一番背が高く、体もガッチリとしている。

 顔も強面の部類で、皆が年上と思っていたのだ。


「わかってる。老け顔って言いたいんだろ。それは良いや。武器はサブマシンガンっていう銃らしい。スキルは浜辺さんと似てる。一定時間、弾丸が強化されるオーバーヒート、一定時間リロード不要になるトリガーハッピー。俺は両方を同時使用可能みたいだ。再使用までが5分、オーバーヒートの使用後30秒は弾を撃てなくなる……って書いてあるな。弱くないか、これ?」

「その隙は私たちでカバーすれば大丈夫。デメリットがある分、威力はすごいと思う。それじゃ、次は凜ちゃん」


 凜はゆっくりと頷いて、スマートフォンを輪の中心に差し出す。


「私は……」

「声が小さい」


 話をさえぎる優。

 美和子が「まぁまぁ」となだめる。


「あのぅ、私は春日凛かすが りんです。津雲つくもフェレーデ高校一年です」


 津雲フェレーデは非常に偏差値の高い私立高校で、同時に学費の高さからお嬢様校と呼ばれる事も多い。

 如何いかにも優がからみそうな案件だと思ったが、意外にも彼女は「ふぅん」と頷くだけだった。


「私の武器は手榴弾しゅりゅうだんです。この生成せいせいボックスから取り出します。形は、私が知ってる爆弾と結構違うんですけど」


 彼女の手榴弾は一般的なパイナップル型と違い、野球ボール程度のサイズで、サッカーボールに似たスリットがある。

 そして、この爆弾を作り出すのは彼女のてのひらから少しこぼれる大きさの、オレンジ色をした立方体りっぽうたいの箱である。


「私の場合は、爆弾生成ばくだんせいせいときに何を作るか決める方式で、普通の爆弾と、閃光弾せんこうだん音響弾おんきょうだんが選べます。普通の爆弾は作成に3分、閃光弾は3分30秒、音響弾は4分です。閃光弾は相手の動きを少し止められます……どれだけかは分からないですけど。音響弾はまだ使ってなくて、使うと音で敵を引き付けるみたいです」


折角せっかくだから、安全なここで使ってみようか?」


 美和子の突拍子とっぴょうしもない提案に、全員が「えっ!?」と真顔で彼女を見つめ返した。

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