第3話 「見つめる "眼" 」
「コラ〜! なんですぐ出ないのよ〜!!」
インターホンに出るが早いが
ドアを開けて改めて由香の姿を確認すると、張り詰めていた糸が切れたように私の心のタガが外れてしまう。
「由香……由香ぁぁ……!」
由香にすがりつきながら震える私。
「え? やだ、何? ちょっとどうしたの?
取り乱した私に驚いた様子の由香。
「怖い……怖い……」
「いいからとりあえず一度落ち着いて、瑞樹。深呼吸出来る?」
由香に促され頑張って深呼吸してみると、少しだけ落ち着きを取り戻す事が出来た。
「どう? 少し落ち着けた? それじゃ、あがるね? 詳しい話、聞かせて」
「あ……」
私は異様な体験をしたばかりの部屋に戻るのを一瞬
「どしたん?」
「ううん、何でもない……」
怖さはあったが、こむぎをほっとく訳にもいかないし今は由香もいる。気を取り直して由香を伴って洋室に戻った。
「おじゃましま〜す!」
「ワンワンワン!」
洋室に通した由香に、こむぎが吠えた。
こむぎもきっと、さっきの出来事でナーバスになっているのだろう……
「あはは、こむちゃん久しぶり〜! もう忘れられちゃったのかな?」
「ごめんね、今ちょっとナーバスになってるみたいなの。ほらこむ、由香だよ?」
こむぎは一瞬きょとんとした顔をすると由香に近寄ってクンクンと鼻を鳴らし、思い出したように尻尾を振った。
「で、何があったの? 怖いって」
「うん……」
私はさっき自分の身に起こった出来事を由香に話した。
更に最近こむぎが何もない所に向かってよく吠えていた事、気になって調べたら昼間の話に行き着いてずっと気になっていた事。
だから、本当は昼間の話に怖がっていた事も含めて。
「そうだったんだ……気にしてたなんて思わなくて、ごめんね。でも、その気配って本当に間違いないの? 昼間の話のせいで意識過敏になってたとかはない?」
「それは絶対! じっと見つめられてるような感覚だった……それにこむぎの吠え方もすごかったし」
言葉にした事であの時の恐怖が再び
「ん……わかった。信じるよ。で、どうする?ここにいるのが怖いなら、今夜うちに泊まりに来る?」
「ありがと……でも、こむぎいるし」
「あ〜、うちペット不可だもんな〜。あ、そうだ! じゃあ今から
「騒ぐのはちょっとw ご近所さんの迷惑になったらいけないし。でも女子会はいいかも……」
「真面目かっ!w このアパート、防音バッチリじゃなかったっけ? ま、いいや、騒がずに盛り上がろ?」
由香が電話すると陽菜も二つ返事でOKし、更に今夜は二人共泊まってくれる事になった。
◇
「こむこむ〜♡ 会いたかったよぉ〜!」
お菓子や飲み物を買い込んでやって来た陽菜が洋室に現れると、こむぎは嬉しそうに尻尾を振ってクルクル回った。
「ちょっとー! こむちゃんさっきの私と態度違わなくなーい?」
「何々? 由香、こむこむに吠えられたとか〜?」
「あはは……ほら、あの時はまだ時間経ってなかったし」
私はフォローを入れるが、暫くの間由香はこのネタで陽菜にいじられる事になるのだった。
そして女子会が定番ネタの恋バナに差し掛かった時。
「瑞樹〜、聞いていい?」
「ん?」
「瑞樹、こないだ青山先輩に告られたってホントなの〜?」
不意に陽菜に尋ねられ、私はギクリとする。
「その顔はやっぱりホントなんだ〜! で、返事は? 付き合っちゃうの?」
「あぁ、うん、断ったよ。私今、男の人はいいかな〜、って……」
「え〜! 断っちゃったの〜? センパイ人気あるのにもったいないよ〜。付き合えばいいのに〜!」
「あはは……」
ごまかし笑いしか出来ない私。
(誰に聞いたんだろ……知り合いに見られてたのかな……?)
私はこの事を誰にも話していなかった。恥ずかしいってのもあるけれど、それよりも……
「ほら、瑞樹困ってるでしょ? 明日も朝から講義なんだしそろそろ寝よ!」
助け船を出してくれた由香の顔がほんの一瞬、沈んだように見えたのはきっと気のせいではなかった……
◇
今夜はいざという時の為に、こむぎもケージに入れずに一緒に洋室で寝かせる事にした。
そして皆が寝静まった頃、それは再び現れた……
「ウゥゥゥゥ……ワンワンワンワンッッ!!」
真っ暗な室内にこむぎの威嚇するような声が響く。
不安から寝付けなかった私が飛び起きると陽菜も目を覚ます。
「瑞樹……これって……、やばくない……?」
既にかなり大きくなりつつある "あの気配 " に陽菜の声が震える。
「由香……由香起きて!!」
しかし声を掛けても身体を揺すっても、由香はまるで死んでいるかのように何の反応も示さない。
「起きてよ由香!!」
「何で由香起きないの?」
「ワワワワワンッッッ!!!」
狂ったように吠え続けるこむぎ。
意を決して私は "気配" のする方に目を向ける。
……………
そこには"二つの眼" が浮かび。私達をじっと見つめていた。
その "眼" は私のよく知っている眼……
「由……香……?」
中空に浮かぶ "眼" は、確かに私の親友のものだった……
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