第6話 ワームムーン前編

ワームムーン前編


Chapter???


疲れてその場に倒れ込んでしまった

出口はどこ?どれだけ歩けばたどり着くの?

そんな疑問を抱きつつけてきた

そんな時、足音が聞こえた

雪を踏むザクザクという音だ

誰もいない筈の場所に誰かがいる

誰だろう?***は音のする方向に顔を向ける



Chapter1「看病」


四月三十日

僕はーー風邪を引いて寝込んでいた。


理由は多分疲労だと思われる。こんな楽しい日々は初めてだった為、はしゃぎ過ぎたのが原因だ。お恥ずかしい…..


「翔ちゃん、熱はどうですか?」

「う〜ん、まだボーとするよ」


今、朝の九時を回ったところだ。

雪は朝ごはん代わりにリンゴを剥いてきてくれた。僕はベッドから起き上がる


雪にリンゴを食べさせてもらう

恥ずかしいが今の僕は抵抗する力もない。


「うん、これなら食べれそうだよ」

「よかったです!では、あ〜ん」


僕は口を開き小さく角切りにされたリンゴを食べる。何故か普通のリンゴより美味しく感じた。


「そういえば担院してから風邪引くのはじめてだな…..」


入院していた頃は風邪を引けば看護婦が看病してくれて自分は寝ているだけでよかった。

しかしここは病院ではない。


「翔ちゃんは頑張り過ぎなんですよ?」

「頑張っているつもりはないよ。ただ毎日が楽しくってね」


僕は雪の目を見つめてそんな事を言う

窓から入ってくる。朝独特の風が気持ち良かった。


「確かに入院していた頃よりは遥かに楽しいのは私も同じです。でもね翔ちゃん?まだ時間はたくさんあります。慌てなくても大丈夫です」


雪の言う事は最もだ。僕はーー

一体何に焦っていたのだろう?


リンゴを食べ終わり

雪に渡された風邪薬を飲む。


「アルクはどうしてるの?」


僕が起きた時には既にいなかった。


「今はリビングにいますよ?そもそも翔ちゃんが熱を出している事を教えてくれたのはアルクちゃんですよ」


確か僕とアルクは一心同体、つまりだ

僕の体調が悪ければアルクに伝わるのもわかる。


「アルクは、風邪とか引いていないの?」


一心同体ならアルクも体調を崩していてもおかしくない


「アルクちゃんは、神様が風邪を引くわけないでしょ?と言ってました」


雪は、くすくす笑う。

きっとアルクは胸を張って言ったに違いない。僕は再び横になる。


「おやすみなさい翔ちゃん?」


そんな優しい言葉が子守唄の様に聞こえ僕は、直ぐに眠りに落ちていくのだった


夢を見たーーそれはあり得ない夢だった。

僕と雪が実は死んでいるという夢だ。

だからこの幸せな毎日は、天国で起こっている日々なんだ。

ここが天国と言われても僕は信じてしまうに違いない。それ程までに今が幸せなのだ


どれくらい寝ていたのだろう

僕は目を覚ます。まだ頭はボーとしているが朝ほどじゃない。薬が効いたのかな?

台所からカチャカチャと音がする。

スマホの時間を見るとお昼の十二時を回っていた。

三時間ぐらい寝ていたのか。

僕はゆっくりとベッドから起き上がる

するとお腹から何かが転がり落ちた。


「痛い!」


ドサっと落ちたそれは、声を発した。

カピバラモードのアルクだった。

僕のお腹に乗っていたのか?そんな事も気遣いほど頭が回っていないらしい


「ごめん、アルク!大丈夫?」

「これぐらい大丈夫ですよ。それより星野さんこそ大丈夫ですか?」


どうやらアルクは僕を心配して側にいてくれた様だ。


「朝よりは平気かな。まだ頭は痛いし熱っぽいけどね」


自分のおでこに左手を当ててみる。しかしよくわからない…


アルクとそんなやりとりをしていると

僕の部屋の扉が開かれた。

現れたのは雪だった。手にはお盆、その上にはお粥が乗っていた


「翔ちゃん、起きましたか?」

「うん、今起きたところだよ」

「私を振り落としてね!」


いや、それは人のお腹に乗っているからで…..

まぁ、お腹にカピバラなどというそこそこ重い生物が乗っていて気付かなかった僕も悪いけど。


「いい匂いですね!」

「これは翔ちゃんのお粥です!アルクちゃんのはリビングにありますよ?」

「わーい!」


僕の部屋を飛び出して一階に降りてリビングに向かったと思われるアルク。


「もうアルクちゃんたら!」

「あれでも僕を心配してずっと側にいてくれたんだよ?」

「神様は風邪を引かないのでうつりません!とか言って翔ちゃんの部屋に入っていったんですよ」


なるほど!アルクには感謝しないといけないな。今度、お菓子を買ってあげよう


「翔ちゃん、お昼食べられそうですか?」

「うん、風邪薬が効いたのかな?少し楽になって食欲も出てきたよ」


僕は恥ずかしかったが朝食同様に食べさせてもらった。お粥は出汁が効いていて真ん中にある半熟卵を割ると口の中でお粥とマッチし最高に美味しかった。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

「凄く美味しかったよ」

「そう言ってもらえると作った甲斐があります」


雪は笑顔で答えてくれた。

そういえば家事は僕と雪の二人で行なっている為、こうして雪に頼りっぱなしなのは、始めてだ。何か悪い気がする。そんな僕の考えを読んだのか雪は、


「私は大丈夫ですよ!二人暮らしですから家事の量も対してありません」

「ごめん、治ったら挽回するね?」

「そんな事をされてまた風邪が振り返したら困ります!いつも通りでお願いします」


雪には、叶わないや。

そんな事を思いながら僕はまたベッドに横になる。しかし、学校を休むのは自由なので連絡しなくてもいいというのは、不思議な感じだ。

そんな事を思いながら僕は眠りに落ちてゆくのだった。


また夢を見た。

今度の夢も笑えるものだった。

今から三十年後の江戸川区が舞台だったからだ。電信柱は無く緑で囲まれた江戸川区、江戸川は透き通る様に綺麗になっていて子供達が泳いですらいる。そんな自然に囲まれた夢だった。


僕は目を覚ます。

服は汗で濡れていた。さっきまで夢を見ていた様な気がするが思い出せない。

時刻は六時になっていた。体を起こす前に気づいた。カピバラモードのアルクがまた、僕のお腹の上に乗っていたからだ。お腹の圧力が凄い…..


「アルク?」


呼び掛けても返事は無い。

どうやら眠っているみたいだ。起こすのもかわいそうなので僕はそっとしておく。

枕の横に置いていたスマホを見るとLINEの通知が来ていた。海堂に天王寺さん、更には秋葉くんからだった。内容はこうだった


(風邪大丈夫?ゲームをし過ぎて体調を崩す事は良くある事だからね!お大事に)ーー海堂


(具合はどうかな?最近、部活と修行で忙しかったから体調崩しちゃったのかもね?何かあれば連絡してね?)ーー天王寺さん


(風邪は気合で治せ!)ーー秋葉くん


皆んな心配してくれたんだ…..そんな事実に僕は瞳から涙を流す。あれ?おかしいなぁ?体調不良なんて入院していた頃は当たり前だったのに、誰かから心配されるだけでこんなにも励みになるなんて知らなかった。

僕は一人一人に丁寧にお礼の言葉を送る事にした。


LINEを返し終え僕はどうするか考える。

汗拭きたいけど…..アルクがお腹で寝ているし、着替えるにはお風呂に入るか濡れたタオルで拭いてもらうしかない。

先ずはお風呂だけどこれは雪に却下されるだろう。風邪が振り返すと言われるのがオチだ。では体を拭いてもらうのは?雪なら喜んでオッケーするだろう。しかし、僕が恥ずかしい!どちらを選ぶか…..


「では背中吹きますね?」

「お、お願いします」


結局僕は、雪に背中を拭いてもらうを選んだ。背に腹は変えられない。前向きに考えれば彼女に背中を拭いてもらえる!と考えられなくもない。因みにアルクはカピバラモードのまま雪にどかされ床で寝ている。


「翔ちゃんの肌綺麗ですよね!女の子みたいです!」

「僕だって恥ずかしいんだからそういう事言うのは禁止でお願い…..」


タオルの温かな感触が気持ち良い。

雪は鼻歌を歌いながら背中を拭いてくれている。今日は雪にお世話になってばかりだ。

もし雪が風邪を引いた時は僕が同じように看病しよう。


「前は自分で拭けますよね?着替えここに置いておきますね!後、もう少しで夕食が出来るので楽しみにしていて下さい!」


そう言うと雪は僕の部屋を出て行った。扉を開けた時に漂う匂い、この匂いは、味噌煮込みうどんかな?するとさっきまで寝ていたアルクが飛び起きて人間モードになる


「ご飯!!!」


と言い部屋を出て行ってしまった。

僕はタオルで前を拭くと雪が用意してくれた服に着替えるのであった


僕は着替え終わるとリビングに降りた。

アルクは既にテーブルでスタンバイしていた。

僕に気が付いた雪が言ってきた。


「もう風邪は大丈夫なんですか?」

「朝に比べるとだいぶ楽になったよ」


それは薬のおかげなのかな?それとも雪の看病のおかげなのかな?僕は後者の方が嬉しいね。


「ではご飯はリビングで食べましょうか?」

「そうだね」


僕は味噌煮込みうどんを運ぶ

煙から漂う味噌の匂いが食欲をそそる。

テーブルに並べ終わると三人でいただきますをする。


「熱いから気を付けて下さいね?」

「熱い!?」

「アルク?ガッツクからだよ」


そんな会話をしながら僕はテレビに視線を向ける。やっていたのさ動物番組だ。

芸人がライオンの檻に入って行くシーンだった。ライオンが芸人に向かって突撃して行く。それを檻から出て逃げる芸人


「へぇ〜この動物番組ライオンに声当てしているんだね」

「え?」


そんな僕の一言に不思議そうな顔をする雪


「だって今、ライオンが芸人に向かって行った時に、我の縄張りから去れ!小僧!!て言ってたよね?」

「ライオンさんはガオーしか言ってませんでしたよ?」


え?

僕と雪はお互いに不思議そうな顔をする。

僕は確かに渋い声でライオンが喋っているのを聞いた。しかし雪は聞いていない?どういうことだ?


その疑問に答えたのはアルクだったーー


「簡単な事ですよ!魔法使いは動物の言葉がわかるんですよ?」

「つまりどういう事ですか?」

「つまりです!魔法使いの星野さんが動物の声を聞いてもおかしくありません」


そんな事を言うアルク。しかし待って?

そんな事を言ったらそこら辺にいる動物達の声を聞いていてもおかしくない筈だ。


「でも聞こえる様になったのは今、気付いたん だよ?」

「いいですか?魔法使いには動物の言葉を理解するのは必須項目なんです」

「まぁ、確かにそんな物語の本はたくさん見てきたけど」

「そこで昨日までしていた修行です!魔法使いとしてレベルアップした星野さんは動物の声が聞ける様になったのです!」


なんとなく理解は出来た。いや、普通は驚く事なんだろうけどね?でも神様に会って魔法が使えて、そうなれば動物の言葉を理解出来る様になっても驚かなくなる。しかしこれは、便利ではなのかな?


「明日から月詠のバイトだよね?そこにペット探しがあった筈」

「そうです!動物を探すには動物に聞くのが一番!」

「いいなぁ〜私も動物さん達の言葉がわかる様になりたいですよ!」


雪がそんな状態になればきっとこの家は動物園になってしまうのではないか?

雪は優しいからね


「雪には、子守の依頼とかをお願いするよ。月詠は依頼一つに付き諭吉を一人一枚くれる契約をした。つまりは僕達が別々の依頼をこなせば…..」

「学費も生活費も安泰!?」


今更だが僕と雪は二人暮らしの為、雪は親から僕は両親の残してくれたお金から生活しなければならない。それは勿論、有限で少ない。だからこれは、僕達にとってありがたい話なのだ


夕食を食べ終え僕は風邪薬を飲む。

この調子なら明日には学校に行けそうだ。

更にはバイトも出来る。月詠の考えはわからないが利用出来るものは、利用する。今はそれでいいと思う。


「そうだ。秋葉くんは部活決めたのかな?」


不意にそんな考えが浮かんだ。バイトは五人までオッケーだ。つまり彼の用事次第ではバイトに誘う事も出来る。一応LINE送っておくかな


(秋葉くんは、部活決めたのかな?)


(俺は軽音部を作ったぜ?ギター&ボーカルだから練習が大変だけどやり甲斐はある!)


なるほど、この様子だと誘わない方が良さそうだ。当分は僕、雪、天王寺さんでやっていくしか無さそうだな。でも来年になれば海堂も来て部活は更に楽しくなるだろう。そんな期待を胸に僕は眠りにつくのだった


夜中の二時の事だった。僕は目が覚めた。

別に夜中に目が覚めるのは普通の事だ。

しかし今日は風邪を引いていたせいか

変な時間に目が覚めたなぁ〜なんて思った。

お腹にはカピバラモードのアルクが寝ている。

僕は左手でアルクの頭を撫でようとする。そこで気が付いた。


「指輪が前より光ってる?」


そんなふうに感じたのだ。

それは、些細な違和感…..しかし体に異常はない。なんなんだろう?

あれかな?深夜だからより光って見えるとかかな?それとも風邪を引いたから目が少しおかしいかのどちらかだろう。僕は気にしないでまた眠りにつくのだった。


翌朝、七時にセットしたスマホのアラームがなる。僕はスマホを手に取りアラームを切る。

スマホをベッドの上に戻してお腹の上で寝ているアルクを軽く持ち上げてから起き上がる。

思いっきり伸びをして体調が元に戻った事を実感した。


「翔ちゃん?入りますよ?」

「うん、いいよ」


そんな事をしていると扉がノックされ雪が入ってきた。おそらく僕の体調を心配して来てくれたのだろう。


「体調は大丈夫ですか?」

「雪のおかげで治ったよ。ありがとう」

「それはよかったです!」


と満面の笑みで答える雪。でも雪は、僕の近くまで来ると右手を僕のおでこに当ててくる。本当に熱が下がったか確認しているようだ。


「大丈夫そうですね!」

「僕は雪の前では強がらないって決めてるからね」


雪の前では素直な本当の自分でいよう!そう決めたんだ。


「今日の朝食どうしようか?」

「そうですね〜?スクランブルエッグにトーストにしましょうか!」

「ご飯!!」


ご飯の話を聞いて飛び起きるアルク。

僕達は笑いながら台所に向かうのだった。


朝食を終え、学校に向かう支度をする。恒例の如くネクタイは雪に結んでもらう。

バス停で天王寺さんと合流した後

僕はほうきに乗って学校に向かう。この方がバス代がかからないからだ。

それに僕が空を飛んでいても住人達はそれを当たり前の様に見ていてくれる。


「今日は晴れか、そうだ。今日から美術科の授業が始まるんだった」

「雪さんは、絵を描くの上手なんですか?」


どうだろう?雪が絵を描いている姿は、一度も見ていない。それに新し事の挑戦とも言っていたから初めてなのかもしれない


「よく知らないよ?でも雪なら独特の絵を描きそうだね」

「そうですね!」


膝にアルクを乗せて橋の上を飛び新小岩に向かう。僕達の家から新小岩に向かうには新中川を通らなくてはいけない。その為、風が強く吹き付ける。潮が混じった風が妙に心地よい。


「おや?星野様ではないですか?」


そんな言葉をかけてきたのは、驚く事に僕の隣に並び一緒に飛ぶ鴎だった。昨日動物の声が聞ける様になったんだ。僕は冷静に会話をする。


「おはよう。鴎さん」

「おお!我々の声がわかるのですか!?」

「わかるよ。僕も魔法使いとして力をつけているからね?」

「それは有り難い限り!してそちらにいらっしゃるカピバラがアルク様ですか?」


ん?アルクの事を認識している?

だってアルクトゥールスは別の偽物が成り代わっていたのでは無かったか?


「どうやら月詠夜空の力は人間だけに及ぶみたいですね」

「じゃあ僕達はこれから動物を中心に信仰を集めていけば、月詠に、その上の人達に対抗出来る?」


盲点だった!何も人間だけが信仰対象ではないのだ。動物にだって意思はある。つまりは、動物も信仰対象に出来るのだ!しかし月詠はこの事を知っているのか?


「これからの方針が決まりそうですね!」

「どういう事情か存じ上げませんが我々は星野様とアルク様のお味方です。それだけは揺らぎませんぞ?」

「ありがとう!鴎さん、君のおかげで何とかこの先乗り切れそうだよ!」

「それは良かったです!では私はこれで失礼します」


鴎は川の方へ帰って行った。

一筋の希望が見えた気がした。


episode月詠夜空1


俺は定期連絡を取っていた


「ええ、順調ですよ?」


事は順調に進んでいる。


「はい?彼らが親と別々に過ごしている件?」


これは予定には無かった行動だ。彼らの行動は、全く同じではいけない。


「俺は知りませんよ?予想はつきますけどね。例の異物が何かをしたと思われるだけだよ」


異物とはアルクの事だ。彼女が神様なのは百も承知だ。だがこの世界でどうやって予定には無い出来事を起こしたのか?それがわからない。


「排除?無理ですよ。そんなの!相手は本物の神様ですよ?こちらで用意した。ダミーとは違う」


全く、は本当にうるさい。

こちらにも計画があるのだ。


「いいじゃないですか!星の魔法使いは誕生したんだからさぁ?神様が本物かダミーかの違いだけでしょ?それに今日から計画通り彼らは俺の仕事を手伝ってくれるんだから」


そんな事よりも聞かなくてはいかない事がある。


「それより魂の同調率は、どうなってんですかね?」


なるほど。悪くない数字だ。これなら彼らが高校二年に上がる前に事は終わりそうだ。俺は定期連絡を終えて一息つく。そして自然に呟いてしまった。


「全く…..彼らはお前らの玩具じゃないんだよ」


episode月詠夜空1 end


Chapter2「古文書」


僕と天王寺さんは学校の個別スペースにいた。個別スペースは机が四つあり自由に使う事が出来る。

教室練では美術科の授業が行われている。授業内容はどうやらフルーツのデッサンみたいだった。


「今日からバイトだけど天王寺さんは動物とか平気な方かな?」

「うん!大好きだよ!可愛いよね!」


僕は月詠探偵事務所のホームページを見ていた。

依頼のほとんどがペット探しなのだ。

これは、つまり動物の声が聞ける僕には有利な依頼という事になる。更に人間以外の動物はアルクの事を覚えている、認識を変えられていない為、信仰も得られるのだ。そんな事を考えていると天王寺さんが何かを思い出した様に話しかけてきた。


「そうだ!前に翔太くん、家にある古文書気にしてたでしょ?流石に古文書は、持ってこれなかったけど内容を写してきたよ!」

「本当!ありがとう!」


古文書は気になっていた。それは、僕のご先祖様の事が書いてあるからだ。

今、星野家は僕しかいない以上、この様な情報は貴重なのだ。だが天王寺家に行けば絶対に政宗さんに捕まり、儂と試合だ!とか言われる。それが嫌だからいかなかった。

僕は書き写したと言った大学ノートを受け取る。


僕はーー大学ノートを開いた。

最初に書かれていたのは…..対、星野家!だった


「古文書だったから難しい漢字で、でもそういうのお爺ちゃんから習ったから多分大丈夫だと思うけど、どうかな?」


どうやら天王寺さんは僕が一ページ目から動かないから書き写しが上手くいかなかったのかを心配しているようだ。


「僕も本はたくさん読んだから多少なら大丈夫だよ。僕が驚いてたのは、いきなり対抗心剥き出しの内容だったから」


天王寺さんは苦笑いしていた。

僕は、一ページ目くる。


火の神通力使いの相手をする場合、事前に水を被るべし!相手は炎の壁を作り身を守ってくるがそれを突破出来れば勝機あり!


次のページには、こう書かれていた。


水の神通力使いの相手をする場合、足元に注意すべし!罠を仕掛け転倒を狙ってくる。更に水に攻撃した時、水に竹刀を入れられて速度を落とされる。それでもスピードが落ちぬ一撃を打ち出せば勝機あり!


「なんか…..天王寺家は必死なのが伝わってくるよ」

「あはは…..ごめん」

「別に天王寺さんが謝る事じゃないよ」


僕は次のページをめくる。


風の神通力使いの相手をする場合

速度に注意!相手は最高、二百キロの速度で攻撃してくる。更に竹刀を操り遠距離から攻撃してくる。こちらが近づけば風で吹き飛ばされる!しかし、持久力はない為、持久戦に持ち込めば勝機あり!


「はは、天王寺家と星野家は随分と仲が良かったみたいだね。これを書いている時のご先祖様の笑みが想像できるよ」


これだけ見ると修行という名の遊びに見える。お互いが全力を出せる相手だからこそだったのかもしれない。


「大事なのは次のページからだよ?」


そう促され僕はページをめくる


地の神通力使いは今のところ存在しない


「地のエレメント、魔法は星野家にはいなかったの?」

「うん、お爺ちゃんにも聞いてみたけど儂が負けたのは地の攻略法がなかったからだ!とか言ってたし」


じゃあ僕が星野家、初めての地の魔法使いになるわけか。これはとても良い情報だ。つまりは未知の力になる。もし星野家の人間を知っている人がいても切り札になるからだ。

僕は次のページを見る。そこには更に驚く事が書かれていた。


江戸川区、御三家について

江戸川区の御三家とは江戸川区を守護する者達の事、また支配者


天王寺家

武道で人々を守りその力で江戸川区を支配する御三家の一家


月詠家

優れた頭脳で先を読み人々を守りその力で江戸川区を支配する御三家の一家


星野家

星野神社に祀られた神に仕えし者、神通力を使い人々を守り江戸川区を支配する御三家の一家


僕は驚いた。御三家?そんなものが存在していたなんて…..

それよりも更に驚くべき点はその御三家に月詠が入っている事だ。優れた頭脳、つまり探偵

合点がいく。それに月詠なんて苗字は、珍しくそういるものではない筈


「月詠、て探偵の月詠さんの事だよね?」


やはり天王寺さんも気になっているらしい。

月詠は御三家の事を知っているのか?

いや、知っているに違いない。じゃなきゃ僕達を集めるわけがない!更に言えば僕と雪が天王寺家にお邪魔した時にいたのは偶然ではないのかもしれない。でも政宗さんは月詠の事を葛西と偽名で読んでいた…..つまりは、本名を知らない?


「政宗さんは、月詠の事知っている筈だよね?」

「うん、私も気になって聞いてみたよ?でも月詠という人物には会った事ないって言ってた」


じゃあ意図して月詠は偽名を使った事になる。理由は、なんだ?

僕と月詠は考え方が似ている。ならば僕ならなんでそうする?

答えは簡単だった。


「政宗さんが月詠に会えば間違いなく武道で勝負!とか言うよね?」

「あっ!そうか!?お爺ちゃんに武道勝負を挑まれたくないから偽名を使った!」

「僕ならそうするよ。そして僕達に接触する為に天王寺さんの家にいた。そう考えるのが妥当かな?」


月詠は御三家を集めて何を考えている?

月詠には上がいる、なら黒幕は上か?

ますますわからなくなってきた。これは少し整理する時間が必要だろう

僕は大学ノートを天王寺さんに返そうとする。

しかし天王寺さんは受け取らなかった


「一番読んでほしいのは次なの」

「次?」


僕は大学ノートを再び開きページをめくる。

するそこには奇妙な事が書いてあった。



「厨二のポエムかな?」

「違うよ!古文書の最後にね。そう書いてあったの!」

「意味がわからないよ?」

「翔太くんでもわからないか…..」


何を期待されていたかわからないが、こんな厨二全開の内容を理解しろ!と言うのは無理がある。しかし真面目に考えてみるか。

我が里、夜に支配されし時、太陽の子現る。その者ら災厄を打ち払わん。

我が里は、江戸川区の事で間違いないだろう。しかし夜に支配されし時、太陽子現る?それに災厄とは、一体なんだ?


「やっぱり全くわからないよ?」

「だよね?」

「う〜ん、お昼休みの時に雪にも見せてみよう」

「うん!そうだね」


そんな雪は、

何か美術科の先生に言われている。

聞こえてくる内容的に絵に関しての様だが…..

気になったので教室練を覗いてみる。


「先生、机に置いてあるフルーツの絵を描いてと言ったつもりだったんだけどな…..」

「フルーツの絵、描きましたよ?」

「でもこれ…..」


どうやら雪が何かやらかしたらしい。

しかし先生も強く叱らない辺り通信制の教育方針が見てとれる。

僕は個別スペースから出て教室練に向かう


「何かあったんですか?」

「私フルーツを描いた筈なんですけど何か変ですか?」


僕は雪の絵を見る。それは、初心者と思えないほどに上手で何がいけないのか僕には、わからなかった。


「雪の絵のどこがいけないんですか?」

「いや、先生は机の上に置いてあるフルーツを被写体としてデッサンしてほしかったんだけどね?」


僕は机の上を見る。

そこにはリンゴが置いてあった。

そして改めて雪の絵を見てみる。


「雪?これは何かな?」

「ドラゴンフルーツです!」


どうやら雪は、我が道を行くらしい


お昼休みーー

僕達、三人は個別スペースで机をくっ付けて昼食を取る。


「お弁当はどっちが作ってるの?」

「私です!」


天王寺さんの疑問に答えたのは雪だった。

僕が朝食を作っている間に雪がお弁当を作る。

それは、僕達が役割分担で決めた事だ。因みにアルクはバッグの中で器用にお弁当を食べている


「同じお弁当にする事で私達付き合ってます!をアピールするんですよ?」

「ははは!翔子ちゃんは、心配し過ぎだよ?二人はどう見たって恋人同士にしか見えないよ」


他の生徒達もそれぞれ昼食を取る。

教室練で机をくっ付けて友達と食べる人。

一人で食べる人と様々だ。今日、知った事だが美術科は雪を含めて三人しかいないらしい。

僕は雪が作ってくれたお弁当をありがたく頂きながら古文書の話をする事にした。


「天王寺さん。雪にもさっきのノート見せてあげないかな?」

「そうだね!何かわかるかも」


そう言い大学ノートを取り出す天王寺さん。

その大学ノートを雪に渡す。


「これは、何ですか?」

「天王寺さんの家にあった古文書を書き写したものだよ。そこに僕の家系が載ってるよ」

「翔ちゃんの家系!?気になります!」


雪は早速、ノートを開く。最初のページの反応は、僕と同じものでキョトンとしていた。しかしページをめくるにつれて真剣な表情になる。


「御三家…..」

「そして偶然にも御三家が揃ってるわけ」

「必然かもしれないよ?」

「アルクは、どう思う?」


バッグの中でお弁当を食べていたアルクは顔だけ覗かせ会話に参加する。個別スペースだけあって周りから見えない為、バレる心配はないだろう。


「必然ですよ?だって天王寺さんに合わせたのは、私じゃないですか?」


そうだ、アルクは御三家の事を知っているのだ。なのに今まで伝えなかった。どうして?


「アルクちゃん、何で教えてくれなかったんですか?」

「アルクは未来が見えるんだよね?」


アルクは少し考えてから答えてくれた。


「先ずは星野さんの疑問です。私は未来が見れますが見えるのは運命の分岐点のところ…..海堂夏希さんの時を思い出して下さい」


海堂の時は、確か結果が変わった。いや、僕達が変えた。その時アルクが見た未来は葬式で僕に遺書を送ったシーンと海堂が飛び降りるシーン

つまりは、未来が大きく変わる部分しか見れないのか。

そういえば最近は、未来予知を言ってこない。運命の分岐点とやらは、ないのか?


「次に雪さんの疑問ですが教えてしまうと未来が変わる可能性、つまり結果が変わってしまう可能性があったからです」

「何で御三家の事は僕達の力で知らなくてはいけなかったのかな?」


「それは、簡単です。私が言っても信じてくれませんよね?」

「う〜ん、私は少し疑っちゃうかな?」


確かに天王寺さんはアルクとの付き合いが短い為、信じないだろう。僕達も本当に信じたか怪しいところだ。


「いいですか?星野さんが幸せになるには、御三家が揃わないといけませんでした。そしてバイトをして幸せに高校生活をおくるのです!それを変に口出しして変えてしまうわけにはいきませんからね」

「じゃあ古文書の最後の意味わかるかな?」


僕は、一番肝心そうなこの文章について聞いてみる事にした。


「残念ながら私にもそれは、わかりません」

「これは、未来予知でもわからないんですか?」

「わかりません。だって…..」

「アルクちゃん?」

「すみません、運命の分岐点ではないという事でしょう。それに私は、星野さんが幸せになる分岐点の時しか口添えはしません」


アルクでもわからない。なら僕達がわかるは筈もないか。それにアルクのセリフには力強さがあり譲らない感じだ。


「じゃあ月詠は、信頼していいのかな?」

「注意する人物では、ありますがバイトの件では信頼しても大丈夫な筈ですよ」


バイトの件では、か。

つまりバイト以外の事は信頼出来ないと…..


「大丈夫です!何か危険な事が起きそうになったら私が守りますから!」

「それは、頼もしいね。僕も魔法で出来る限り二人を守るよ」

「私もバイト中は、竹刀を持ち歩く様にするよ」


古文書の謎や月詠の信頼性には、疑問が残ったままだが僕は、アルクを信用する。それが星野としての役目でもあり家族?としての役目だからだ。


episodeアルク1


未来が見えるなんてのは、嘘です。

私はただ未来を知っているだけ…..

だからなるべく同じ様に行動します。月詠夜空もそれは、同じでしょう。だからバイトの事に関しては安心です。しかし彼も何か目的がある。だから私はその目的がわかるまで月詠夜空に気を許すつもりは、ありません。最悪、月詠夜空と直接会うのも手だ。

もう二度と失敗しない。今度失敗すれば星野さんは幸せには、なれません。

だから私は全力を尽くして彼らの魂を完成させてみせる!

そして無事に脱出し…..星野さんを幸せにする

それが私の役目であり約束だからーー


episodeアルク1 end


Chapter3「探偵のバイト」


僕達は、学校から帰ると自分の部屋に入り早速バイトの準備に取り掛かる。制服から着替えて赤のローブを着る。更に月詠に渡された銀色のバッチをローブの胸元に付ける。


「月詠にはLINEで一言送っておくかな」


僕は無理やり渡された。LINEのIDから月詠に一言、(今からバイトさせて頂きます)と送っておいた。


「翔ちゃん!準備出来ましたか?」

「出来たよ」


部屋に雪が入ってくる。しっかりとノックしてから入ってくる辺り流石は雪だ。気を使っている。

雪の姿は動きやすい様にか巻きスカートをはいている。色は雪に一番似合う白だ。胸元にはしっかりとバッヂが付いている。


「天王寺さんの家に行こうか?」

「はい!」

「アルクも行こう」


アルクはカピバラモードのままバイトについてくる事になっている。首元にピンクのスカーフを巻いてスカーフ中央にバッヂを付ける事にした。僕はアルクを抱き上げ部屋を出て階段を降りる。


「天王寺さんはもう待ってるの?」

「さっき家の前で待ってると連絡がありましたよ」


あまり待たせてはいけないな。僕達は急いで家を出る。戸締りをしっかりする。家の前で天王寺さんが待っていた。


「お待たせしました」

「私も今、来たところだから大丈夫だよ」


天王寺さんの格好は黒いジャケットにジーパンとメンズ物だったがとてもよく似合っている辺りちゃんと考えてコーディネートしている事がわかる。


「何の依頼を受けようか?」

「そうですね〜?」

「どうしようか?」


悩むのは当然だ。月詠が用意してくれた。バイト依頼のがペット探しなのだ。それもほとんど猫だ。


「とりあえず家から一番近いのだと公園近くの家かな?」

「そうですね!先ずは近いお家から依頼をこなしていきましょう」

「うん!私も賛成!」


僕達は、二手に分かれる事にした。雪と天王寺さんは依頼者のお宅訪問。その間に僕とアルクがほうきに乗りペットを探すという作戦だ。

依頼には全て写真が添付されている為、わかりやすくて助かる。さてバイト開始だ。


依頼内容

家で飼っていた家猫のシロが留守にしている間に窓を開けて外に出てしまいました。どうか探して下さい。お願いします。


今回の依頼は、白猫の捜索だ。

僕は、ほうきで空を飛びながら膝にカピバラモードで座るアルクに相談する。


「猫の居場所は、猫に聞くのが早いかな?」

「そうですね。ノラ猫には縄張りがありますから見知らぬ猫がいればすぐに気づくでしょうしそれが良いと思います」


一番怪しいのはやはり公園辺りかな?

僕達は先ず公園に向かった。


「おや?星野様とアルク様ではないですか」


僕達に声をかけてきたのは黒猫だった。やはりアルクの事を理解している。

僕はちょうどいいのでこの黒猫に尋ねてみる事にした。


「今、この猫を探しているんだけど見かけなかったかな?」


スマホで依頼に添付されていた。白猫の写真を見せる。


「残念ながら私は見かけておりませんにゃ、そのものがどうかしましたかにゃ?」

「実は人助けのバイトを始めてね。それでペット探しをしているんだよ」

「にゃんと!?星野様自らが人助けとにゃ!」


黒猫は、とても驚いた様で黄色い瞳を大きく開いている。こわい!こわいよ?その顔!


「そんなに意外かな?」

「当たり前だにゃ!お二人は神様とそれに仕えし者なんですよ?」

「えっへん!」


カピバラモードのアルクは胸を張る。どうしてだろう?人間にも尊敬されていたが何故だか動物には、それ以上に尊敬されている様に感じる。これでは駄目だ。


「だからお二人は働かずに私達に命令するだけでいいにゃ!」

「黒猫さん?君は勘違いをしているよ?」

「勘違いとにゃ?」

「僕は自分が特別なんて思っていないよ。それに君もさっき言っていたじゃないか?僕は神様に仕えし者、これはアルクの為の行動なんだ」

「にゃんと立派なお心掛け!つまりは自分の力でなさないと意味がにゃいと?」


また黒猫は、瞳を大きくさせる。


「そうだよ。でも僕の力は小さなものでね。そこで君達に協力を頼みたいんだ」

「つまり私達にもこの白猫を探すお手伝いをしてほしいという事かにゃ?」

「そうしてもらえると嬉しいかな。お願い」


僕とアルクは頭を下げる


「頭をお上げ下さいにゃ!」

「僕は、対等な位置でお願いしているんだ。頭をさげるのは当然だよ」

「星野様…..アルク様…..」


今後も協力する上で対等な立場である事は絶対に必須だ。だから僕達は頭を下げる。


「わかりました!この私ら猫は、全身全霊でお力をかすと誓いますにゃ!」

「ありがとう、助かるよ」

「早速、この公園にいる同胞達に今の事を伝えてくるにゃ!」


そう言うと黒猫は走って去ってしまった。

先ずは第一段階クリアかな?


次に僕達は、この公園に住む鳥達、鳩、雀、烏、インコに先程の様に頭を下げてお願いした。反応は先程の猫と同じ様なものだった。


「しかし星野さんもやりますね?」

「何がかな?」


僕は少しとぼける。


「信仰しているから更に信仰を得るには対等な立場になる」

「それで?」

「更に信仰している神様が対等な立場になり頭を下げれば全力で助けてもらえます。そして協力をして依頼をこなす事で絆という名の信仰を得る事が出来ます」


なるほどね。アルクもわかっていて頭を下げていてくれたのか。


「そうだよ。先ずはこの公園、全ての野生動物に協力を仰ぎ仲間になってもらう。信仰も得れて依頼も手伝ってもらえる」

「はい、そうですね」

「そして範囲を広げていき江戸川区、全ての動物が仲間になる作戦だよ」


もしも何かあった時、僕達は人間以外の動物達に力をかしてもらうのだ。僕は思い出す。人々の視線をーーあれは尊敬の視線ではあるが。もう一つの意味もある事に僕は、とっくに気づいていた。あの視線のもう一つの意味は、恐怖だ。

当然だと思う。魔法など不思議な力を使う人がいたら人は怯えて恐怖する。


「僕の…..ご先祖様も恐れられていたのかな?」

「…..はい」


仕方のない事だ。しかし中には本当に尊敬してくれている人もいる。だが…..


「僕は元々、人間不信で人見知りだからね。気にないよ」

「そうですか」

「でも雪、海堂、秋葉くん、天王寺さんは信じてるよ?」

「わかってますよ」


ああ、そういう事かーー何で動物達が星野家を人間より尊敬しているのかわかった気がする。きっとご先祖様は、人間不信になり動物達しか信じられなくなったんだ。だから動物をたくさん助けた。それが今でも動物達の間で伝わっているのかもしれない。

だって僕も同じだから…..現に一部を除いた人間を信用していない。だから信用出来る動物達に力を借りているんだ。

少し星野家の事がわかって嬉しい気持ちとよくわからない罪悪感で心が揺らいでいた。


それから僕は空から公園を探索をしていた。

するとスマホが震えた。確認してみると雪から着信だった。僕はワイヤレスイヤホンを左耳につけると通話に出た。ほうきに乗りながらのスマホは危険だ。だからしっかりとワイヤレスイヤホンをつけて通話に出る。


「雪、どうしたの?」

「翔ちゃん!シロちゃん見つけましたよ!」

「どこにいたの?」

「依頼主のお家の近くです」


どうりで公園を探しても見つからないわけだ。

しかし他の動物達の協力を得る事が出来る様になっただけでもここに来た意味はあった


「それで捕まえられそうかな?」

「それが怯えてしまっていて…..」

「僕もそっちに向かうよ。場所を教えて」


僕は雪から場所を教えてもらうと通話を切った


「見つかったんですか?」

「うん、でも怯えてるみたいでね」

「では私達の出番ですね」


僕達は協力してくれた動物達に見つかった事とお礼を言って回るとすぐに教えてもらった場所に向かった。


ほうきで飛んで目的地に到着した。しっかりと道路標識に書いてあった時速二十キロで来たんだよ?因みに最高速度は六十キロだ。

まぁ、ほうきは自動車か自転車かどちらにあたるかわからないんだけどね。


「雪、天王寺さん」

「翔ちゃん!」

「翔太くん!」


どうやら依頼の白猫はまだこの場から動いていないようだ。


「状況は?」

「変わらないです」


見てみると目的の白猫は、家と家の間にある小さな通路にいつでも逃れる様に低い体制をとっていた。


「君がシロ?」

「にゃ!にゃ!そのお姿は、星野様にアルク様!」


よかった。どうやら話は通じるようだ。


「星野くん。本当に動物の言葉がわかるんだ!?」

「凄いですよね?自慢の彼氏です!」


雪だって自慢の彼女だよ、と言いたいが今は何でそこに隠れているのか聞き出さないと。


「どうしてそんなところにいるのかな?」

「これには、訳がありましてにゃ…..」

「訳?」

「実は、好奇心で外に出てみたは、いいものの、家がどっちにあるかわからなくなってしまったのにゃ…..」


迷子ということかな。


「それで周りは敵ばかりで身動きが取れずにいたのにゃ」

「そうだったんだね」

「しかし星野様とアルク様がいれば安心だにゃ!」

「うん、君を家に帰してあげるよ」

「お優しい方だにゃ!しかしそちらの方は、星野様の彼女だったのかにゃ?」

「そうだよ」

「そうとは、知らずに威嚇してしまいとんだご無礼を!!!」

「大丈夫だよ。君もパニックになっていたんだから仕方ないよ」


白猫は細い通路から出てくると僕の前に座った。


「じゃあ行こうか?ついて来て」

「はいにゃ!」


僕達は歩いて依頼主の家に向かう。

アルクは、浮遊したらまま動いているほうきに器用に座っている。その後ろから雪と天王寺さんがついてくる。


「私達にはニャーしか言っていない様に聞こえますね」

「うん、でも星野くんにはわかるんだよね?凄い!」

「凄いのかな?でも便利だよ」


そんな会話をしつつ依頼主の家にたどり着く。

僕はインターホンを押す。するとすぐに飼い主らしき人物が玄関から出てきた。


「ご主人様にゃ!!!」

「シロちゃん!」


飼い主と猫の感動の再会!


「何とお礼を言えばいいか!」

「いえ!これもお仕事なので」

「シロちゃん、今度は脱走しちゃ駄目ですよ?」

「それでは、僕達はこれで」

「星野様!この御恩は忘れませんにゃ!」


僕達は軽く手を振りその場を後にした。


初めての依頼は、無事に終えることが出来た。

明日からゴールデンウィークだ。バイトに部活と忙しくなるだろう。


「今日の部活は、流石に中止にしましょうか」

「うん、私も賛成」


僕は、ほうきで空を飛んでいたから楽だったが二人は、歩いて猫を探していたんだ、疲れて当然だ。徒歩で帰る僕達を黄昏時の微かな夕日が照らしていた。影が伸びて少し不気味に見えた。


「あれ?アルクは?」


そんな事を考えていたらほうきに器用に座っていたアルクがいなくなっていた。というほうきも無い


「さっきまでいたのに?」

「どこに行っちゃったんでしょう?」


黄昏時にアルクと乗っていたほうきが消える。

もしかしてアルクの世界に戻ったのか?何の為に?


「まぁ、アルクにも何か事情があるんだと思うよ。そっとしといてあげよう」


今はそれが最善策な気がした。

そんな考えとは、裏腹に僕の心は謎の不安感が支配していた。


episode月詠夜空2


俺は上と連絡を取っていた。


「初の依頼もこなしてくれましたよ」


それは、経過通りなので上も文句は言ってこない。


「え?ああ、例の異物ですか。まぁ、本物が来たのには、驚きましたよ?」


この事に関しては俺も驚いた。

本物の神様が実在していたという事実。


「しかし、人々の認識を変えてしまうのはやり過ぎだと思うけどね〜実際に本物が消えてしまったらどうするんですか?」


上は、何故か人々の認識書き換えたのだ。

これは、魂の同調率に大きな影響を及ぼす可能性がある。それに上の考えそうな事など俺にはわかる。だから既に手は打ってある。


「本物のアルクトゥールスを消すつもりですよね?そんな事して彼らの魂に影響を与えてもしりませんよ」


何故消すのか?今の俺にはわからない。魂の同調率を上げるには同じ日々過ごさせるのが効率的なのだ。なのに偽のアルクトゥールスを使い本物のアルクトゥールスを消す行動は、明らかに非効率的だ。実際に彼らはデータとは、違う日々を過ごし始めている。俺は上が何故アルクトゥールスを消したがっているのか知らなくてはならない気がする。それこそが彼らを助ける近道になる筈だ。


「ええ、ちゃんと聞いていますよ?しばらくはバイトをさせればいいんですよね。わかってますよ。それじゃあ切りますよ?あなた方も少し休んだ方がいいですよ。それでは」


俺は定期連絡を終了する。そして先ほどからそこにいる人物に話しかける。


「悪いね。待たせちゃって」

「いいえ、大丈夫です」

「しかし、本物がご登場とは驚きだね」


俺の前に現れたのは、アルクトゥールスだった。いつどこから入ってきたのか、わからないが好都合だ。


「さっきの会話聞いていたでしょ?上は、君の事を消すつもりだよ」

「最初からわかってますよ」

「わかっててに来たんだ?」

「私はーー厄病神ですからね」


厄病神?どういう事だ?


「私を祀ってくれた星野家の人間は、不思議力を持つ為、他人から恐れられ…..それに耐えきれずに自殺しちゃうんです。また体が弱く早死にしてしまいます。それであなたが言う上は星野家を守る為に私を消したいんでしょう」


親父め…..そんな事は一言も言ってなかったじゃないか。いや、親父も知らなかったのか?


「私はあなたから聞かなくてはなりません」

「ああ、言いたい事は、わかるよ。何で俺なのか?でしょ?」

「はい」


アルクトゥールスは、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。見た目は幼いが生きた年齢は、俺より何千と上だ。


「本当は、この役目は親父の務めだったんだけどね。病気で死んでしまったんだよ。それで代理で俺になった訳。勿論、これもデータからズレる行為なのは、承知さ」


しかしおかげでこうして彼らを知る事が出来た。そして本物の神様に会う事が出来た。


「まぁ、今は上に監視されてないし本音を言おう。俺は彼らを救うつもりだよ?それで一緒に探偵がしたい。それが俺の夢なんだ」


昔、親父から聞いた話しだ。

親父は昔、御三家と一緒に探偵業をしていた事があったらしい。それは、不思議な話で一人は魔法を使い、一人は武道を使い、そして親父は頭脳を使い依頼を解決していたらしい。それに俺は憧れた。そしてチャンスが訪れた。だから俺は今ここにいる。


「では、私達目的は同じですね?」

「そうだね」


俺達は微笑み合う。次に言う事も同じだろう。

だから俺から言った。


「取引をしよう」


episode月詠夜空2 end


Chapter4「ゴールデンウィークと影」


今日から学生生活初のゴールデンウィークだ。

ずっと入院していた僕と雪にとっては、どうでもいい日だったが今は違う。ゴールデンウィークという日を楽しまなくては!


「それでーー何でファミレスにいるのかな?」

「いいじゃねぇかよ!俺達、遊んだ事なかったしよ!」

「私も昨日は疲れたのでいい息抜きになると思いますよ!」

「私も海堂ちゃんに会えて嬉しいな!」

「ど、どうも…..」


僕達五人は、ショッピングモールに来ていた。こうなった原因は、昨日の夜にある

昨日の夜、秋葉くんから遊びのLINEがきたのだ。だから僕は、雪に相談した。

そうしたら雪は、皆んなで遊びましょう!と言い、グループLINE(僕、雪、海堂、天王寺さんが入っている)に遊ぶ誘いのメッセージを出したのだ。そしてこの状況に至る。

今いるメンバーは、僕、雪、海堂、天王寺さん、秋葉くんの五人だ。アルクもいるので性格には、六人か。

集まった時間がお昼という事もありすぐにファミレスに入った。


「それで星の魔法使い様はよう!」

「君にその呼ばれ方は、されたくないかな」


秋葉くんに説明をしていなかったので事前にバイトや魔法、星の魔法使いについて説明しておいたのだ。

そしたらこのからかわれ様だ。


「星野先輩、凄い視線集めてますね?」

「まぁ…..もう慣れたよ」


こうなるからあまり人混みには、来たくなかったのだが、皆んなと遊びたい気持ちが勝って結局来てしまったのだ。


「この後、どうしましょうか?」

「あっ!そろそろ夏物の服出てるんじゃない?」

「夏までまだ結構あるよ?」

「服の発売は早いんだよ」


凄い説得力のある天王寺さんの言葉を受け僕達は、ファミレスを出て洋服が売っているお店に向かった。


「レディースのお店はここですね」

「私、服とかこだわらないんだけど…..」

「海堂ちゃん、もったいないよ?可愛いんだから!」

「か、可愛い?私が?」


女子の会話についていけない僕と秋葉くん。

アルクも洋服には興味ないのか、僕の隣にいる。


「アルクは、服とか興味ないの?」

「私はこの服がありますから!」


アルクは、いつも半袖の白いワンピースだ。

アルクが言うにはこれは神様の力で作った一品で銃弾や刃を通さないとかなんとか…..


「それより星野さんは、服とか興味ないんですか?」

「僕は魔法で作れるからね。無駄なお金を使いたくないだけだよ」

「でも動物の毛などで出来た服は作れませんよね?」

「そんなお金持ちが着る様な服は着たくないよ」


アルクは不思議そうな顔をしているが

絶対に僕には似合わないだろう。


「しかし、天王寺さん楽しそうだね」

「そうですね。でもご自分の意思で決めた事ですから」


天王寺さんの今日の服装もメンズだ。

レディースを見て楽しそうにはしゃぐ彼女を見ていると少しだけ心が痛む。


その後は、大変だった。

レディースの洋服店に行く度に僕は着せ替え人形の様にいじられ、その度に雪が


「翔ちゃん!可愛い!!!」


と抱きついてきた。店員さんもお似合いですよ。と微笑むし…..どうやら僕が思っている以上に僕は女の子に見えるらしい。


「結局何も買わなくてよかったの?」

「うん!見てるだけで楽しめたから!」


天王寺さんにとっては、レディース物は買えないもの…..


「それに翔太くんに、女の子の格好が似合う事も確認出来たし!」

「それは、忘れてくれないかな?」


そんな会話をしていると雪達がいない事に気づく。


「あれ?翔子ちゃん達は?」

「さっきまで隣りに歩いていた筈だけど?」


そこでようやく僕達は、この異様さに気付く。

さっきまでたくさんいた人が誰一人いなくなっていた。


「え?どうなってるの?」

「アルクまでいないか」


不思議な現象には、何回かあってきたから体制は、ついているが今回のは異様だ。


「どうやら、神隠しにあったのは、僕達の方みたいだね」

「えっ!えっ!神隠し!」

「アルクの世界も一種の神隠しだからね」

「つまり神様の世界に入ったって事?」

「アルクはそんな悪戯しないよ。それに場所がショッピングモールそのままだ」


さて、どうしたものか…..

この状況下ではいつもアルクが指示を出してくれていたし、何より神様がついてるという安心感があった。

しかし今は、アルクもいなければ雪もいない。

正直言って参ったな。


「そうだ!スマホ、通じないかな?」


天王寺さんがスマホを取り出す。

しかし、電波が無いみたいで圏外と書いてあった。試しに僕のスマホもポケットから出してみる。しかし圏外だった。


「僕のもダメだよ」

「スマホも通じないならやっぱりここは…..」


そう考えられる事は一つ

ここはーー異世界だ。


問題は誰が作った異世界か、という事だ。


「こういう現象には、必ず原因があるよ」

「原因?」

「例えば秋葉くんは、心が追い詰められて二人に分裂した事があったんだよ」

「それ、前に翔子ちゃんに聞いたよ」

「だから神様じゃなくても不思議な現象は、起こせる訳」

「じゃあこの異世界を作ったのも人間?」

「多分ね。少しショッピングモールを歩いてみよう」


せっかくのゴールデンウィーク初日も人助けに費やす事になりそうだ。しかし困っている人がいるなら放っておけないからね。


「そうだ。念の為に魔法の使用許可くれないかな?」

「え?うん、いいけど」


僕は左手からスピカを召喚すると竹刀を生成した。それを天王寺さんに渡した。


「念の為ね」

「う、うん。でもそんなに危険な場所とは、思えないけどなぁ〜」

「そうだといいけど」


僕達は今、一階にいる。

先ずは一階を見てみる。しかし何も異常は、ない。


「次は二階だね」

「エスカレーターは動いてるか」


僕達は、二階に上がった。


ショッピングモール二階。

ここは、メンズ用の洋服が売っている店が並んでいる。

そこを僕達は足音をたてないでゆっくりと歩く。


「ここからでも一階が見渡せるね」

「念の為に上からも見ておこうか?」


僕達は、ゆっくりとだけど確実に探索していった。今のところ異常はない。しかしーー


「泣き声?」

「え?何も聞こえないよ?」


僕は耳をとぎ澄ます。

確かに聞こえる。自慢ではないが僕は臆病なので物音には、敏感なのだ。


「上の階からだ…..」

「誰かこの世界に迷い込んでるって事!?」

「そうだね。急ごう!」


僕達は、三階に向かう為、エスカレーターに走り出す。だがエスカレーターの前について驚いた。


「なに、あの黒い影?熊の縫いぐるみ?」


エスカレーターの前にいたのは、影の様に黒く不確かな存在。だが、かろうじて熊の縫いぐるみの様にも見える。僕はスピカを強く握りしめる。


「行こう」

「うん」


襲ってこない事を祈りながら

僕達は、エスカレーターの前まで行く。

当然、熊の縫いぐるみの様な影もこちらに気付く…..

僕達は、息を呑み相手の様子を伺う。

すると影は手を振りながらこちらにテクテクと走って近づいてくる。それはとても可愛らしい姿だった。だから僕達は、油断してしまった。

その影がいきなり爪を立てこちらに飛び跳ねてきた。油断していた僕達は、反応が遅れてしまった。影が狙うのは天王寺さん。

彼女は躱す事も防ぐ事も出来ずにただ、その光景を見ているしかない。

僕の魔法でももう間に合わないだろう。


「お二人とも下がって下さい!」


そんな声がショッピングモール内に響いた。


その影は、左から飛んできた。弾に当たり右に飛んでいった。


「間に合ってよかったです」


そこにいたのはーーアルクだった。


「アルク!何でここに?」

「お二人がいきなり目の前から消えて指輪の反応を追ってきました。まさか異世界にいるとは、思いませんでしたが」


やはりここは、異世界なのか。

そうだ!確かアルクは異世界でしか力を使えないと言っていた。つまりさっき飛ばした、光の弾はアルクの魔法という事だ。


「アルク様、助かったよ…..」


安堵する天王寺さん。

僕は飛ばされた影を見る。影はまるで最初からいなかったからの様に跡形もなく消えていた。


「アルク、あの影は何だかわかるかな?」

「いいえ…..あんなのは初めて見ました」


アルクが初めて見る。つまりは、今までに起こった事のない現象という事だ。

あの影は確実に僕達を殺そうと狙ってきた。なら上の階から泣いている子は?


「まずい、早く上の階に向かおう」

「上の階になにかあるんですか?」

「人がいるみたいなの!」

「それは、確かにまずいですね。行きましょう!」


僕達は、エスカレーターで三階に向かった。


そこは玩具売り場だった。そして泣き声はこの階からする。


「本当だ!子供の泣き声がする」


流石に天王寺さんにも聞こえた様だ。


「お二人とも特訓の成果、見せる時がきたようですよ?」

「やれやれ…..僕は戦う為に魔法を鍛えた訳じゃないんだけどね」

「私は、戦う為に鍛えてたよ?だって誰かを守るって事は戦うって事だよね?」


天王寺さんは、いい事を言う。

僕は改めて周りを見る。そこには、さっきいた影が三十体はいるだろうか?

そんなおぞましい光景が目の前にあった。

僕はほうきを生成する。


「作戦はあるかな?」

「ありますよ?突撃です!」


それ、作戦じゃない…..

しかし囲まれるよりはいいよね。

泣き声は一番奥にある玩具屋さんからする。

そこまで役、百メートルぐらいかな?

僕は宙に浮かせた、ほうきの上に立つ。

スノーボード感覚だ。アルクに教わった戦闘スタイルだ。地の魔法のおかげで安定感は抜群!

更にスピカのページを開きあるものを生成する。

それはゴム弾だ。人を殺めない為に作ったオリジナルだ。ゴムは、樹液から出来ている為、地の魔法で弾は、いくらでも作れる。

それを地の魔法で操作して当てるという訳だ。銃は必要ない。


「二人とも準備は、いいですか?」

「いつでも」

「私もいいよ!」


天王寺さんは、先ほど渡した竹刀を構える。準備は、整った。影が何者かわからないが攻撃が当たる異常、なんとかなる!


「それでは作戦開始です!」


僕達はアルクの合図とともに駆け出した。


ショッピングモールは、円を描く様に設計されている。だから天王寺さんは、右から、アルクは左から攻める。僕はほうきで空を飛び中央から援護だ。


だがーー二人は影を次々と倒していく。

正直に言って僕の出番がない。

せっかく作ったゴム弾…..

ゴム弾の出番は、なくても地形操作で役にたとう!

どうせ異世界だ。好きに地形を弄ってもかまわないだろう。

僕は、二人が通った後に岩で出来た壁を作る。こうする事で最悪のケース、挟み撃ちを回避するのだ。後は…..先に泣き声がする玩具屋に行くか。

僕はほうきを全速力で飛ばして泣き声がする玩具屋に向かった。


玩具屋に辿り着くとそこで泣いていたのは、小さな男の子だった。この玩具屋には影はいないみたいだ。僕はほうきを降り男の子に近づいた。話すのは苦手だがこの状況ではそんな事も言っていられないだろう。


「こんにちは、どうして泣いているのかな?」

「お母さんとはぐれた…..」


なるほど、迷子か。


「そうか、じゃあ僕と一緒に探そうか?」

「ほ、本当!」

「うん」


出来るだけ優しく。雪がいつも諭してくれる様に話かける。男の子は安心したのか僕に抱きついてくる。僕は男の子を抱っこし、抱っこしたまま一緒にほうきに乗る。

そして玩具屋を出る。


「救助は完了したよ」


僕は天王寺さんとアルクに呼びかける。


「こっちも終わったよ」

「こちらも終わりました」


本当に二人だけであれだけの数を倒したんだ…..僕の出番ないな〜


「どうやらこの子、迷子みたいなんだよ」

「お母さんとは、どこではぐれたのかな?」


天王寺さんの優しい問いかけに男の子は上を指差してこう言った。


「一番上」

「一番上は、屋上駐車場ですね」

「今が三階で駐車場が九階だから後、六階か」

「流石に心配です。もしかしたら母親の方もこの異世界に来ているかもしれません」


それは大変だ!最悪の結果にならない様にする為、急がなくてはならない。


「星野さんはそのまま飛んで屋上駐車場まで行って下さい。私達は、エスカレーターで向かいます」


二人の強さを考えれば大丈夫だよね。


「わかった。先に行ってるね」

「翔太くん、気をつけてね!」


僕は男の子を抱えたまま屋上駐車場に向かった。


屋上駐車場には、不気味な事に車が一台も止まっていなかった。影もいなかった。しかし、人がいた。

その人は女性でおそらくこの子の母親と思われる。


「お母さん!」


男の子は僕の手を振り解きその女性に抱きついた。


「ああ、魔法使い様!この子をここまで連れてきてありがとうございます!」

「ありがとう!魔法使いさん!」

「いえ、無事に見つかってよかったです」


僕は最悪の事態を回避出来てホッとする。しかし母親と思われし女性が奇妙な事を言う。


「これでやっと旅立つ事が出来ます」


旅立つ?どこに?


「本当にありがとうございました!この御恩は、忘れません」


その言葉を言った直後、女性と男の子から光の球の様なものがたくさん出て姿が薄くなっていく。


「旅立つとは、そういう意味ですか」


この人達は、もうーー

そんな事を考えていると女性と男の子は消えていった。


僕はこんな事を思い出した。確かあれは、入院していた時だ。ニュースでやっていた。

このショッピングモールの屋上駐車場でひき逃げがあったんだった。犠牲者は女性と小さな男の子だったらしい。女性は数メートル吹き飛ばされた。しかし子供は、屋上から吹き飛ばされて落下したのだ。そんな悲惨な事件だった。

つまり今、この親子はようやく再開する事が出来たんだ。


僕は両手を合わせ目を瞑りお辞儀する。

来世では幸せに生きられる様にーー

目を開けるとそこには車がたくさんあった。

人の声もする。どうやら元の世界に戻ってきた様だ。


しばらく駐車場で待っていると雪、アルク、海堂、天王寺さん、秋葉くんがやってきた。


「翔ちゃん!」


と雪は僕に抱きついてきた。その温かさに安心感を覚える。


「お前と天王寺が突然消えて焦ったぜ」

「そ、そうです!突然!目の前からスッと!」


どうやら皆んなには、そう見えたらしい。


「翔太くん!男の子はどうなったの!?」


息を切らしている天王寺さん。

きっとあの後も謎の影と戦っていたに違いない。僕は天王寺さんの持つ竹刀をスピカで回収するとさっきあった出来事を言った。


「つまり今回の事件は霊障ですか?」

「そうなるのかな?」

「人の思いは、時に不思議な力を生み出しますからね」


今回の事件は親子の霊が引き起こしたものだった。だが影については、一切わからなかった。


そのあと僕達は、解散になった。

流石に僕と天王寺さんがヘトヘトだったからだ。

それに気づいたらまたアルクがいなくなっていた。

僕は、ベッドに倒れ込む様に横になる。

今日の出来事を改めて思い出す。

天王寺さんは、勇敢に謎の影と戦っていた。それなのに僕は何も出来なかった。そんな自分が情けない…..

もっと、もっと魔法を鍛える必要があるのかもしれない。いや、この場合は知る必要があるかな?どんな使い方が出来るかとか、生成出来る物を増やすのも手だ。そうしていけば、

いつかはーー夢に近づけるのかな?


episodeアルク2


私は月詠夜空の事務所に再び来ていました。


「今日あった出来事についてお話しがあります」

「うん、知ってるよ。迷子の霊を助けたんだよね?これもデータ通りな筈だよ?」


確かに迷子の霊を助けるのは、決められていた事、しかしーー


「その異世界で謎の影を見ました。あれはなんですか?」

「影?そんな話、聞いた事ないけど?」

「その影は、彼らを殺そうとしていました。矛盾していませんか?」

「殺そうとしてた?そんな筈ないでしょ」


あれは月詠夜空の仕業では、ない事はわかっています。だから可能性として考えられるのは、二つです。


「上は、なんか言っていましたか?」

「いや、今日の定期連絡でも何も言ってなかったよ。ただ順調だってさ」


だったら考えられる事は一つに絞られます。


「あの影は、バグではないでしょうか?」

「バグ?まさか〜!最新のシステムを使っているんだよ?バグなんて起きる筈…..ないとは、言い切れないね」


こんな鮮明に再現しているのだからバグが起きてもおかしくはありません。それに私達は、データを無理やり書き換えたりもしました。その結果、エラーが起きた、とも考えられる。


「俺も上に報告しておくよ」

「何かわかったら教えて下さい」

「ああ!勿論だとも、俺達は取り引きした仲だからね」


そう不気味に笑う月詠夜空。

私の役目は変わりません。絶対に彼らを守り抜き幸せにする事、ただそれだけなのだから


episodeアルク2 end


Chapter5「肺気胸とは?」


ゴールデンウィークは楽しかった。

ショッピングモールでは、色々あったけど、バイトでは、依頼をたくさんこなして街の動物達の協力も得た。一番大変だったのは、カナリアの捜索だ。逃げたカナリアをほうきで飛び追いかけるのは大変だった。カナリアが逃げた理由は、恋らしい。なんでも大烏に一目惚れしたのだとか。面白い話だった。やはり恋の力は凄い。


部活では、春の大三角形を見た。

僕と雪、アルクが繋がっている星座達だ。

天王寺さんも感動してくれていた。

僕は土星に感動した。4mmのレンズで見る土星は、まるでアニメの様な二次元に見えたからだ

それから地学では江戸川の河川敷で石を漁った。いい石は、見つからなかったが新しい魔法を覚えた。こう人差し指と親指をくっつけてオッケーの丸を作る。そこにレンズをイメージし覗くとーーなんと!虫眼鏡みたいに遠くの物がアップに見えるのだ。更に人差し指と親指を少し離すと倍率を上げられる。最大十倍までだ!この魔法は、とても便利でほうきの上でペットを探索する時などに向いている。しかし天体観測などするには倍率が低過ぎて向かないかな?


長く心の中で語ってみたが暇な物は暇でゴールデンウィークが終わった一週間後の五月十四日、僕は再び入院していた。


発端は今朝の事だ。

朝、起きて伸びをしたら左胸が痛んだ。

最初は、寝違えたか最近忙しかったから筋肉痛にでもなったのかと思った。

だから大して気にしなかった。

しかし隣で寝ていたアルクは、目を覚ますと笑顔で


「病院に行って下さいね!」


と言ったのだ。

雪にも伝えたがアルクが言うなら何かあるに違いないという事で前に入院していたいつもの病院にやってきたのだ。症状を言いレントゲンを撮る。医院長先生が診断の結果言った病名は、

だった。

左の肺に穴が空いていたのだ。

しかし病状は軽く、絶対安静をもとに自然治癒という事になった。だが僕の事だから安静にしないだろうという医院長先生の決定で入院する事になり今に至る。


「アルクは、こうなる事わかっていたの?」

「はい!」


今、この病室には雪とアルクがいる。


「翔ちゃん、大丈夫ですか?」

「少し左胸が痛いだけだから大丈夫だよ」


雪の心配する顔が嬉しい反面、悲しかった。

そして再び戻ってきてしまったこの病室…..

僕は自然と溜息をついてしまった。


そもそも肺気胸とは?

医院長先生の話によると肺気胸は、二種類あるらしい。

自然に穴が空いてしまう肺気胸と物理的衝撃で肺に穴が空いてしまう肺気胸だ。

僕の場合は、前者になる。

自然に穴が空く肺気胸は、未だに原因がわかっておらず、痩せ型の男性がなる事が多い以外は、全て仮説になってしまうらしい。

更に厄介なのは、再発率の高さにある。

中には左右の肺、合わせて十五回なった人もいるとか。


そんな説明を受け、ベッドに座る僕は雪と今後どうするかを話し合っていた。


「しばらくは、バイトと部活は無しですね」

「ごめん…..」

「翔ちゃんが悪い訳ではありませんよ」


医院長先生に言い渡された入院期間は、二週間だ。

その間、家の事は雪に任せっぱなしになってしまうし何より病院以外で雪と会えない!

これは、とても最悪な事態だ。


「雪はーー帰っちゃんだよね…..」

「…..はい」


前に入院していた時は、同じ病院に入院していた為すぐに会えた。

しかし今回は違う、雪は入院をしていない

つまり家に帰ってしまうのだ。

次第に自分の瞳に涙が溜まっていくのがわかる。


それは雪も同じだった。


「翔ちゃん…..」

「雪…..」


僕達は、泣きながら抱き合った。

雪がいない生活なんて考えられない。

それほどまでに彼女は、僕にとって大切な存在になっていたのだ。

また雪も同じなのだろう。だがら彼女は、泣いてくれているのだ。


どれくらい泣いただろう?

気付いたら夕方になっていた。

それは、面会終了を意味する。


「雪さん、大丈夫ですよ。星野くんは、私がついていますから」

「え、アルクは帰らないの?」

「当たり前です!私のお社は、星野さんが持っています」


そうだ。僕がしている指輪がアルクの居場所なんだ。

じゃあ、雪は家に一人きり?


「それも大丈夫です!天王寺有里栖さんがいますから!」


僕の表情から察したのかアルクはそんな事を言ってきた。


「私は、平気ですから…..だから翔ちゃんも早く治して下さいね?」


その笑顔は、きっと強がってした笑顔だ。

それでも雪が平気と言う以上、僕には何も言う事が出来ない。だからーー


「うん」


ただそれだけを伝えた。


翌日ーー

僕はやってきた看護婦さんに起こされた。

検査の為に血液検査と親指に酸素量を測る機械をつけられる。

朝食は、味が薄く前までは美味しいと感じていたご飯も美味しく感じなかった。


「暇だ〜」


僕はベッドの上で呟く。もう少ししたら面会時間で雪が来てくれるだろう


「雪さんが来るまで魔法の勉強でもしますか?」

「魔法の勉強?」

「前回、影と戦った時に星野さんは自分の無力さを感じた筈です!」


アルクに気にしていた事を言われ黙り込んでしまった。確かにアルクには色々と魔法の事を教えてもらったが、いざ使うとなるととても難しいのだ。


「地の魔法は、仲間を巻き込む可能性もあるから建物とかでは、無力なのを感じたよ…..」


取り敢えず僕は、正直に思った事を話す。


「確かに地の魔法は、とても扱いが難しいです。しかし、それは使う本人次第で変わるのです!」

「前に一ヶ月間、魔法の実戦練習を行ったよ?でも基本的には、ほうきで空を飛んだり物を飛ばしたりだったよね?」

「そうです!初歩的な事を教えました。なので次に私が教えるのは、中級編です!」


中級編?

もしかしたら僕は更にレベルアップ出来るのかな?そんな期待を込めてこれからアルクが言う事を聞き逃すまいと耳を傾ける。



「先ず、空を飛ぶ行為ですが、ほうきは辞めましょう!」

「何でかな?」

「ほうきは、初心者向けの乗り物と考えて下さい。例えるなら自転車です」


確かにほうきは、乗りやすいしバランスがよくて安全だ。しかし前の戦いで痛感した。

ショッピングモールで飛び回るには、不向きなのだ。ほうきの先がどこかに当たらない様に気をつけたりしなくてはならない。

それにいちいちスピカで生成するのも面倒だし飛んでいない時は片手が塞がる。


「そこで星野さんには、新たに飛べる乗り物を用意しました!」

「そ、その乗り物とは何かな?」


僕は期待を込めて聞いてみる。

するとアルクは、トコトコと歩き僕の靴を持ち上げる。


「靴です!」

「…..」

「靴です!」

「いや、二度言わなくてもいいよ?」

「だって星野さんの反応が鈍いから!」


だって新しい乗り物とか言うから期待するよね?そしたら靴って…..しかも僕がいつも履いているやつだし


「星野さんは、わかっていませんね。靴こそ、空を飛ぶに一番適した乗り物!いや、履き物なのです!」

「何で靴なのかな?」


一番の疑問は、そこだ


「いいですか?ほうきだと生成する時間や狭い場所では、不利ですよね?」

「確かに」

「それに飛ばない時は片手が塞がってしまいます」

「うん、そうだね」

「その点!靴ならいつでも履いている物ですし狭い場所でも大丈夫!更に片手が塞がらずに武器を二つ持てます!」


言っている意味はわかる。しかしーー


「靴の素材的にはいけると思うよ?でもそんな好都合な靴なんて売っているかな?」


一番の問題は、靴の素材とサイズ、更には履き心地にある。


「何を言っているんですか?それを生成するのが今回の課題です!」


こうして僕は何故か靴を魔法で作らされる羽目になった。


それからしばらくして雪と天王寺さんがお見舞いに来た。雪は僕の事を抱きしめてくれた。

それが心地良く、魔法の特訓の疲れがあったのかそのまま眠ってしまった。


僕が起きたのはお昼だった。

雪はずっと抱きしめてくれていたらしい。

そんな愛情が心に染み渡った。


「この靴で空を飛べるの?」

「星野さんなら可能です!」


気がつけばアルクと天王寺さんがそんな会話をしていた。雪と天王寺さんが来る前に完成した靴は、赤色のスニーカーだ。周りには樹液が塗ってあり、中は綿で出来ている。

その為、僕の地の魔法で自由に動かせる訳だ。


「では早速試してみましょう!」


アルクはそう言うが…..


「駄目です!翔ちゃんは絶対安静なんですから!」

「僕も肺が痛いし遠慮しておくよ」


残念ながら絶対安静の身。この病室を出るのも駄目なのだ。

早く試したい気持ちは、あるが体を治すのが先。


「ぶー!ぶー!」


アルクは不満そうだが僕はこのお見舞いに来てくれている時間を明一杯に堪能したいので無視する事にする。


「そんな悪い子にはこれ、あげませんよ?」


そんな雪が取り出したのは、サンドイッチが入ったタッパーだった。


「はい!良い子にします!」


流石は雪、アルクの扱いが上手い。

それに雪の手料理が食べられる!

どうやら僕も単純らしい。

その日は、雪が作ってくれたお昼を食べ、これからのバイトや部活方針を決めるのに時間を費やした。



ああ、よく言われるので肺気胸について少しおさらいしておくのもいいかもしれない。

先ずは、どの様に痛いのか。

この痛みは、言葉では言い合わらせられない独特の痛み。医者いわく肺気胸患者が再発した時に


「この痛み肺気胸です」


と言えば大体当たる。

それぐらい独特で忘れられない痛みなのだ。

更に続いてよく言われるのは、


「肺気胸になる瞬間どんな感じなの?パン!と音がなるの?それともシューと空気が抜ける感じなの?」


答えは突然痛むだ。音もしないし、風邪みたいに事前症状がない。

よく肺は風船に例えられる。風船に穴が開けば膨らまなくなる。それと同じで肺に穴が開けば膨らまなくなるのだ。

肺気胸には段階があって軽傷だと治療のしようがない為、自然治癒になる。

中傷または、重症だとドレーンと言う管を通す治療が必要になる。また治りが遅いと手術も行う。以上が肺気胸と言う病気だ。再発率が高いので治っても安心出来ない、恐ろしい病気なのだ。


僕が入院してから一週間が経った。

未だに肺は、痛いままだ。

僕の唯一の楽しみといえば雪達が毎日お見舞いに来てくれる事だった。それまで暇なので本を読んでいる事がほとんどだ。


「星野さんは、よく飽きずに読んでいられますね」

「本は、知識なんだよ。魔法に役立つ事だって書いてあるよ?」


僕が今、読んでいる本は探偵が登場する推理ものだ。探偵というと月詠の顔が浮かぶが僕はそれを払拭する。


「しかし、スマホでも本が読める時代なんですね」

「そうだね。電子書籍のおかげでいつでもどこでも本が読めるのは嬉しいよ」


時代の流れを感じる。しかし僕は紙の本も好きだ。あの手触りや匂いは、紙でしか味わえない。


「暇です〜」

「もうすぐしたら雪達が来てくれるよ」


アルクはソファーに横になりながらボーとしている。あれ以来、魔法は教わっていない。僕の体を心配してなのか、はたまた教える必要がないからなのか、僕にはわからない。


「翔ちゃん、入りますよ」


そんなやりとりをしていると雪が来た。しかも今日は天王寺さんと海堂もいる。


「海堂が来てくれるなんて珍しいね?明日は、嵐かな」

「失敬な!私のゲーマー友が入院したと聞いたから来たのに!」

「冗談だよ。ありがとう」


いつも通り雪と抱き合う。


「病状はどうですか?」

「変わらずかな。左腕を動かすと痛むよ」

「それじゃあゲームは、難しい?」


海堂が取り出したのはスイッチだった。


「海堂ちゃんがどうしても翔太くんとやりたいって言ってね?」


僕も少し退屈していたところだしその提案は、ありがたい。


「大丈夫だよ。その代わりお手柔らかに頼むよ?」


どうやら今日は、ゲーム大会になりそうだ。

まぁ、参加者は僕と海堂だけだけどね。


今日もそんな平和な日になると思っていた。

だが現実は、違った。


病院内にあの影が現れたのだ。


episode月詠夜空3


俺は今、緊急の連絡を受けていた。内容は最悪のものだ。前回アルクトゥールスから聞いた影について上に連絡をしたのだ。上は、調べてくれた。そして返ってきた答えはアルクの想像通りのものだった。


「つまりもうシステムが維持出来ないと?」


システムが維持出来ない…..それは、この世界の終わりを意味する。何故そんな事になったのか?俺は聞いてみる事にした。


「この世界の寿命は後、三時間ですか…..なんでそんな事になったのか心あたりはあります?」


それは些細な出来事ーー

アルクトゥールスと上が引き起こしたデータの改ざんが原因だった。彼らが上と一緒に暮らさなかった事。

上がアルクトゥールスの偽者を設置してしまった事。

この二つが重なり合いシステムの異常を引き起こした。もっと簡単に説明しよう。

この世界はとても繊細に出来ている。

例えるなら綺麗に生成された飴細工だ。そこにお湯が二滴、垂らされた。

すると飴細工は形を変え汚れてしまう。

今、この世界の状況はまさにそれだ。


「それで、二人の魂の同調率は?」


一番大切なのはそこだ。もし八十を超えていれば今にでも取り出して肉体に戻す事が可能だ。だが、それ以外ならーー


「なるほど…..バラつきがありますね。彼女の方はどれぐらいで取り出せますか?」


一時間…..


「彼の方は?まだ半分もいっていないんですよね?」


俺にとって大事なのは、彼の方だ。もし彼が駄目ならばこの計画に参加した意味がない。


「五十をいけば可能性は、あると?取り出す時間は彼女より掛かりますよね?」


早くて三時間!?それでは、遅すぎる。この世界が崩壊するのが先になれば彼の魂はこの世界と共に消滅してしまう。それに…..


「俺は彼らがいる病院に急いで向かいます!そちらは、取り出し作業を急いで下さい!」


俺は連絡を終え事務所のビルを出てバイクに跨る。


影の正体はウイルスだったのだ。しかしただのウイルスではない。彼らを殺す為に仕組まれたウイルスだったのだ。

上の中に裏切り者がいるーー


俺は急いでバイクを病院へと走らせた。


「どうか無事でいてくれよ!」


月詠夜空3 end


ワームムーン前編 end



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