第5話 スノームーン後編
スノームーン後編
Chapter???
何度も挫折した何度も諦めかけた
その度に思う
あの人の笑顔をもう一度見たい
あの人の温もりをもう一度感じたい
だから諦めない
それに約束をしたから…必ず幸せにして見届けると
希望は必ずある
例えそれがゼロに等しくても…
Chapter1「同居と高校生活」
ある日、突然彼氏と同居する事になったら皆さんはどうしますか?
私なら…攻めます!私は今、翔ちゃんの部屋にいます。今日、入学式があり今は夜の十時を回ったところです
翔ちゃんの部屋にはベッドしかなく本は押し入れにダンボールごと詰めてあるとか
こんなにも生活空間の無い部屋を私は初めて見ました。それはまるで翔ちゃんの心を現している様で私には少し悲しく感じました
さっきまでお母さんと新しいお父さんと翔ちゃん、それにアルクちゃんと一緒にお祝いをしていました
それはとても楽しかったのですが翔ちゃんは常に戸惑った感じで皆んなにどう接したらいいかわからない…そんなふうに見えました
だから翔ちゃんが今、ベッドで横になっていてそれを私が心配そうに横で見ているのは不思議な事じゃありません
「大丈夫ですか?」私は翔ちゃんの頭を優しく撫でます
「少し…頭がついていかなくてね」
仕方のない事です。いきなり同居とするとなればパニックになります。それも翔ちゃんは家族との接し方を知りません。だから夕食の時も一人だけ寂しそうな顔をしていました
「ごめんなさい。私がドッキリを仕掛けようとしたばかりに…」
「雪は悪くないよ。僕は実際、雪と一緒に住めて嬉しいし…でもまだ距離感がわからないんだ…雪と春さん、それに医院長先生は正真正銘の家族だよ?でも僕は違う…僕はただこの家に住まわせてもらってるだけの赤の他人なんだよ」翔ちゃんは天井を見つめながら話します
「血が繋がっていなくても家族にはなれますよ。ただ翔ちゃんには時間が必要なだけです」
「そうだね。頭では理解しているよ。でも心がついていかない…そんか感じかな?」
「ゆっくり…時間をかけて家族になりましょう。ね?」
「そう出来たら…いいな」その言葉はまるで家族になる事を否定しているかの様に聞こえて私は少し嫌な気持ちになりました
「そもそも私と翔ちゃんが結婚すれば法律上、家族になれますよ」私はいつもの笑顔で優しく翔ちゃんを諭す様に言います
「そうだね。でも結婚は二十歳になってからかな?未成年の結婚は…なんか抵抗がある」
「それはわかります!でも学生結婚はしたいですね」それは私の願望
「へぇ〜雪は学生結婚がいいんだ。じゃあ大学生で僕達、結婚する事になるのかな?」
「翔ちゃんがプロポーズしなくても二十歳になったら私が毎日、プロポーズします!」
「そ、それは…雪なら本当にするだろうね…」
私達はしばらく笑い合いました
「雪…ベッドに来てほしいな」それは何気ない一言…翔ちゃんはそんな深く考えないで言ったのでしょう。それを私は理解しているからなんの躊躇いもなく翔ちゃんが寝ているベッドに行き隣で一緒に横になります
すると翔ちゃんは私の胸に顔を埋めてきました
「最近、心臓の鼓動が恋しいんだ…」それは翔ちゃん自身に心臓がないから、それは翔ちゃんの近くに人がいないから…だから私は翔ちゃんを優しく抱きしめます
「泣きますか?いいですよ」
「う〜ん、今はそんな気分じゃないかな…こうしているだけで幸せだよ」翔ちゃんの髪の毛からシャンプーの匂いがする
翔ちゃんの体から男の子の匂いがする。そんな事を思いながら私の心は満たされていきます。ああ、私はきっと独占欲が強いのかもしれない。翔ちゃんがこうして甘えてくれるだけでこんなにも幸せなのですから
そんな考えが見抜かれたのか
「僕は甘えん坊さん、なのかもしれない。雪にくっついているだけでこんなにも安心するんだから…」翔ちゃんがそんな事を言ってきました。
「それは多分、翔ちゃんが今まで甘えられなかった反動…甘えられる人がいなかったから…だから私がその役目になれて嬉しいと思っています」
「そうなのかな?自分ではよくわからないや」翔ちゃんは良くも悪くも男のプライドなどという言葉は絶対に使わない
だって彼は男女差別が大嫌いだから…前に私に話してくれた事があります。
「よく看護婦に男の子なんだから泣かないのとか言われたけど痛いものは痛いし悲しい時は悲しんだよ。そういった点でも男女差別は嫌いだね」と…理由は捻くれていましたがそれが翔ちゃんらしいと私は思いました
だからでしょうか?次に起こる男女差別事件で翔ちゃんが奮闘したのは
入学式から一夜明けました。結局、私達は同じ部屋、同じベッドで一緒に寝ました。変な事はしていません!そりゃ翔ちゃんの寝顔が可愛くてこっそりキスはしましたが…それは至って健全な行為です!
朝、私達は起きて朝食を作ります
「雪はおかずをお願い、僕は味噌汁を作るよ」
「了解しました」私達は一緒に台所に立ちます
「こうして見ると夫婦に見えるよ」そんな恥ずかしい事を言ったのはお父さんです。今日は流石にお休みらしく。のんびりリビングでテレビを見ています。因みにお父さんの下の名前は金冬、今まで医院長先生と言っていたので紹介が遅れました。お母さんと結婚して私のお父さんになってくれた人です!
「でも気が引けるわ。子供達にご飯を作るせるのは」
「お父さんもお母さんもお仕事で忙しんですから家事ぐらい私達に任せて下さい」
「ええ、雪と共同作業出来て楽しいですからね。アルク、ご飯炊けたからよそって」
「はい!任せて下さい!」お母さんにはアルクちゃんの存在は翔ちゃんの妹という設定にしてある。まぁ多分誤魔化せていませんと思います。だってお母さんは翔ちゃんの家庭事情を知っていますしアルクちゃんは星野さんと呼びます。バレバレでしょう。それでもお母さんは詮索しませんでした。とてもありがたい事です
朝食を作り終えテーブルに並べます。
「いただきます」と全員で言うとお箸をつけ始めます
今日の朝食はご飯、お味噌、鮭の塩焼き、卵焼き、小松菜のお浸しです
「このお味噌美味しい!」お母さんがそう言うと翔ちゃんは
「ありがとうございます」と言います。そのまだ少し他人行儀な感じに胸がチクリとしますがこれは仕方のない事です
その後の会話にも翔ちゃんが参加してくる事はありませんでした
朝食を食べ終え私達は登校する準備をします。今日は午前で下校なのでお昼はお家で食べる事になっています。これはお父さんとお母さんの提案でおそらく翔ちゃんを気遣ってのものだと思われます
そんな考えをしていると翔ちゃんが話かけてきました
「雪、お願い出来るかな?」私に差し出したのはネクタイでした!
「任せて下さい!」この日が来るのをどれだけ待ちわびたか…ネットで調べ、何度も練習しました。私は丁寧に手際よくネクタイを結んでいきます。最後にきゅっと締めて完成です
「ありがとう」お礼を言う翔ちゃんの顔は少し赤く照れていました
「どういたしまして」と私は笑顔で言いました。夢の一つ、彼氏のネクタイを結んであげるが達成されました…感激です!
「行ってきます!」
「行ってきます」
「気をつけていくんだよ」
「行ってらっしゃーい」
私達はお父さんとお母さんに見送らせて家を出ます
翔ちゃんは溜息をつきました
「やっぱりまだ慣れませんか?」
「うん…ごめん」
「仕方ありませんよ。謝らないで下さい」これは時間が解決してくれる事…
私は気分を変える為、話題を変えます
「そういえばアルクちゃんはどうしました?」登校の支度をしている時には既に見かけなかったので聞いてみました
「いるよ?ほら」翔ちゃんはスクールバッグを少し開けて見せてくれました。そこにはカピバラモードでぐっすり眠るアルクちゃんがいました
「今はお腹いっぱいで寝てるよ」
「……翔ちゃん連れてきたんですか?」
「まぁ指輪に戻ってほしかったんだけどね…断固としてバッグからでなかったから仕方なく…」きっとアルクちゃんは朝食を食べ終わったあと、カピバラモードになりスクールバッグに潜り込んだのでしょう
「毛が白いから目立ちやすいのがな…」翔ちゃんはバッグのチャックを少し閉めてちゃんと酸素が入る様にしていました
確かに紺色のバッグに白は目立ちます
「今日は説明会なのでいいですが教科書とか必要の時はどうします?」
「それが問題なんだよね。どうしよう?」
そんな会話をしているうちにバス停に着きます
バス停には既に人がいました
肩まである髪を二つのシュシュでカントリースタイルのツインテールにしている子、横髪も長くとても綺麗な髪の毛でした
すると向こうも私達の姿に気づきました。その顔は少し幼くまるでお人形さんみたいに整っていました。そんな事を考えていると
「あの…もしかして金冬のところの翔太くん?」そんなふうに向こうから話しかけてきました
対する翔ちゃんは…夏希ちゃんに負けず劣らずの人見知りっぷりで私の後ろに隠れてしまいました。翔ちゃん曰く
「事前に頭で予測出来ていれば知らない人でも挨拶くらい出来るよ?例えば道を歩いてるとさ前から人が来て挨拶されるかも?とかいう状況とかあるよね。あんな感じなら大丈夫、逆に不意を突かれて話かけられると…僕には無理…その時は雪、助けて」と言ってました。今の翔ちゃんはまさに不意を突かれた状態なのでしょう。ここは私が守らねば
「あの…どちら様ですか?」
「あ!ごめんなさい。私は天王寺有里栖といいます」
天王寺…?確か私達の家の向かいが天王寺道場だった気がします
「私は雪翔子です。そして彼が星野翔太です」翔ちゃんは頭をペコリと下げる。今の翔ちゃんはハムスターモードです。小動物の如く天王寺愛里栖という人物を警戒しています
「翔ちゃん、大丈夫ですよ」その一言で警戒心が解けたのかいつもの翔ちゃんに戻ります
「ごめん。いきなり知らない人から名前を呼ばれたからつい…」
「あはは、大丈夫だよ。私もいきなりごめんね?でもこの辺りじゃ有名だよ?」
「僕が有名?」私も翔ちゃんもなんの事かわかりません
「だってあの有名病院の医院長さんの家に突然現れた謎の少年…て」よくわかりました。確かにお父さんは長い事、一人暮らしでした。その家に突然、男の子が住む様になれば当然とも言えます
「有里栖ちゃんでいいですか?」私はいつもの笑みで接します
「うん!私も翔子ちゃんでいいかな?」
「はい!いいですよ」
「僕は天王寺さんで…」控えめな翔ちゃんらしい呼び方です
「じゃあ私は翔太くん、て呼ぶね!」まさかの下の名前呼び!?これはジャブを打っておかないといけません
「多分後々、聞かれると思うので言いますと私と翔ちゃんは恋人同士なんですよ」どんな反応できますか…?有里栖ちゃんは目を輝かせて
「そうなの!?それはとても素敵な事だと思うよ」どうやら翔ちゃんに脈無しでいいみたいです。危なかったです
「因みに私は昨日、金冬さんのお家に引っ越して来ました」
「あっ!昨日の引越しトラック!じゃあ金冬さんの結婚相手は翔子ちゃんのお母さんなの?」また目を輝かせる有里栖ちゃん
「はい、そうですよ。これからご近所同士、仲良くしましょうね」
「こちらこそよろしくね!」そんな会話をしているうちにバスがやってきました
私達はバスに乗り一番後ろの席に座ります
「それで!それで!翔子ちゃんと翔太くんは同居してるという事だよね?」どうやら有里栖ちゃんはこの手の話が大好きみたいです
「はい、そうですよ」
「じゃあこれから毎日ドキドキだね!いいな〜」
「ドキドキです」
「翔太くんも責任重大だね!」翔ちゃんは首を傾げ
「何が責任重大なの?」と言います
「え?」流石の有里栖ちゃんもその言葉にポカーンとします
「翔ちゃんはこんなですから安全ですよ」
「なんかバカにしてない?」
「してませんよ?」と新小岩駅に着くまでたわいもない会話で盛り上がるのでした
新小岩にたどり着き私達は学校の入ったビルに入ります。エレベーターで三階を押し降ります
受付には前にもいた職員さんがいました
私達は挨拶して名簿に名前と来た時間、それに生徒IDを記入します
教室練には既に何人か来ていて後ろ側の席は埋まっていました
なので私達は前の席に座りました
「天王寺さんは普通科なんだ?」
「うん!そうだよ。翔太くんは情報科なんだね?」
「やっぱりある程度はパソコンを使える様になった方が進学にも就職にも便利かなとおもってね」
「ちゃんと未来の事考えてて凄いな…翔子ちゃんは美術科なんだね?」
「はい、私は新しい事にチャレンジしたくて」私達は先生が来るまでの間も話で盛り上がります。でも周りの視線を凄い感じます…
私達は気にせずに会話を続けます
「それよりも天王寺道場てさ、何やってる場所なのかな?」翔ちゃんが質問します
「う〜ん色々だよ?武道系中心にね」
「前にベランダから見たんだけど、竹刀でサンドバッグ叩いてたのは…なんでかな?」
「あ〜見られてたの?恥ずかしいから内緒だよ?」
有里栖ちゃんは小声で言いました
「お爺ちゃんが天王寺流とかいう武術を使っててね。それで…その技の特訓を…ね?」
「やっぱりオリジナル武術とかあるんだね」
「翔ちゃんも男の子ですから興味あります?」翔ちゃんは少し考えてから
「流石に僕には向かないかな…?僕は、インドアだからね」と自虐的に言いました
「そんな事ないよ、少しずつやれば誰だって上手くなるよ?私の家は誰でも歓迎だから興味があれば是非!」ここぞとばかりに勧誘してくる有里栖ちゃん
「天王寺さん、グイグイくるね…」翔ちゃんも少し引いていました
「ご、ごめん!そんなつもりはなかったんだけどね?同い年の子がいないから…」そんな事をいう有里栖ちゃんの表情は少し悲しそうな表情でした
「そうです!だったら今日お昼食べたら、見学に行きませんか?」私は思い切って提案しました
「まぁ見学だけなら…いいかな?」その言葉に有里栖ちゃんは先ほどまでした悲しそうな表情を辞め喜びの表情になりました
「本当に!?」
「はい!」今日のお昼の予定が決まりました
「よう!翔太に雪さん!」そんな時、後ろから木下さんがやってきました
「秋葉くん、おはよう。てっきり君は遅刻するタイプだと思ったよ」
「ああ、それがよ〜起きたら結構ギリギリで急いで来たぜ…」
「翔子ちゃん…あの人は?」私にだけ聞こえるような小声で有里栖ちゃんは聞いてきます
「木下秋葉さんです。この前の教科取りの時にお会いしまして」
「そうなんだね」有里栖ちゃんは納得してくれました。出会ったのは事実ですが色々あった事は伏せます
「初めまして、私は天王寺有里栖と言います!」木下さんに向かって自己紹介をする有里栖ちゃん
「おお!俺は木下秋葉だ、よろしくな天王寺!俺の事は好きに呼んでくれ」
「じゃあ秋葉さんと呼ぶね?」その後すぐに先生がやってきました。眼鏡をかけた男性職員さんです。この学校の責任者の人です
確実プリントが配られ色々説明を受けます
・教科書は自宅に宅配便の代引きで届く
・単位を取るには毎月の二十日までに、各自、決められた教科毎のレポート提出する
・提出遅れの場合は獲得した点数からマイナス五点され、更に一ヶ月、提出が遅れるとマイナス十点の様に一ヶ月毎にマイナス五点されていく仕様
・獲得点数が四十五点未満の場合は再提出になり同じレポートをやらされる。但し再提出で得られる点数は最大で四十五点、つまり再提出レポートで百点を取ったとしても四十五点扱いされるという一番避けたい結果になる
これらを簡単にまとめると
例えば今月提出のレポートを期限までに出せなくて得た点数が四十九点だとする。提出遅れでマイナス五点されるので結果は四十四点、再提出になるというわけだ
たかがマイナス五点だと思って決められたレポートを提出しないでいると痛い目をみるという仕組みですね…
・体育の授業は月一回ある。これは皆んな必須単位の為必ず出席しないといけない
・また校外学習もありこれも必須単位
・各学科(情報科・美術科・音楽科)の授業は出席必須ではないが最低回数は受けないと進級に必要な単位が取れない為注意
・夏には大学を貸し切ってサマースクールを行う、詳細はまだ決まっていない
・救済措置として放送視聴というパソコンを使った授業がある。これは必須科目に出席出来なかった人が単位を得る為に行う
一通り説明を受けて私は納得します。つまり学校は好きな時間、好きな日に登校して良いが体育などの必須科目の時は時間通りに登校しないといけない。それに加えて学科の授業も忘れてはいけません。後は各科目のレポートを毎月二十日に提出すれば問題なく進級出来るというわけですね
更に進級するには進級試験があり二十点未満で不合格、不合格者は学科にて追試
合格か不合格かは電話で伝えるとも書いてあります。レポートや進級試験の面白いところはいかなる手段を使っても良いというところ…つまりネットで調べようが誰かに答えを聞こうが点数さえ取れればいいという点です
最後に先生は言います
「この学校には様々な事情を持った生徒がいます。なので今から言う注意事項は絶対に守る様に、守らなかった場合には単位の剥奪、または退学処置もあり得ます」と物騒な事を言いました。しかし退学になっても仕方がない納得のいく内容でした
・この学校には二十歳以上の生徒も混じっているが喫煙、飲酒は禁止とする
・バイクや車の登校は禁止
・虐めが発覚した場合には加害者を即退学とする
先ほども先生が言っていた通り特別な生徒…つまりは心に傷を負った生徒、私達みたいに中学に通えなかった人、病気を患う生徒、その他にも様々な生徒がいると言うことでしょう。そう言った意味では通信制の学校は私達にとっては救いなのだと思います
それに必要な時以外は、登校しなくてもいい。これも普通の学校とは違う点です。レポート提出は郵送でも送れる為そこも問題ありません
「この明星館高等学校はまだ今年出来てばかりの学校です。つまり君達がこの学校を育てていく事になります。その点で言えば一番大きいのは部活でしょう。プリントにも書いてある通り、部活はメンバーが三人集まれば申請出来ます。大抵の部活は許可されますが、学生を逸脱した部活は申請が下りないのでそこは理解して下さい。他に質問などはありますか?」
眼鏡の先生は生徒を見渡します
「なければこれにて説明会を終了します。それでは明日からこの学校を育てていきましょう。誰一人かける事なく卒業出来る事を祈っています。では各自帰宅して下さい」
こうして説明会が終了しました
「なるほどな…バイト生活してもいいのか」そんな発言をしたのは木下さんでした
「秋葉くんはバイトするのかな?」
「やっぱり学費が安いとはいえあんまり親に迷惑かけたくねぇからよ」その言葉に考えこむ翔ちゃん…翔ちゃんが何を考えているのかわかります。だから私は優しく諭す様に言いました
「翔ちゃんはもっと周りを頼って下さい。学費の心配もお小遣いの心配もありませんよ?翔ちゃんにはそれを補ってくれる保護者達がいるじゃないですか?」そんな私の言葉に少し照れる翔ちゃん…考えてる事がバレて少し恥ずかしかったのでしょう
「うん…わかってるよ。でも…バイトもいいかなって…その…」翔ちゃんは言うのを躊躇います
その代わり左手の薬指にした。隕石がついた指輪を見せてきます
「ゆ、雪にも…ね?その…してほしいから…」その言葉に私はとても嬉しくなり翔ちゃんに思いっきり抱きつきます
それに驚いた有里栖ちゃんが言います
「わ、わわ!皆んな見てるよ!?」
「いいんです!私達が恋人同士なのを見せつけて先制攻撃します!」その言葉が可笑しかったのか木下さんが笑います
「ははは!相変わらずだな!お前達は!」
周りはドン引きしていましたがお構いなしです!しばらく私は翔ちゃんの温もりを感じているのでした
しばらくして木下さんとは別れ私、翔ちゃん、有里栖ちゃんでバスで家に帰ります
そのバスの中で…
「私は部活を作りたいと思います!」
「雪ならそう言うと思ったよ」
「へぇ〜なんの部活を作るの?」私は誇らしげに言います!
「天文部です!」
「僕もそれには賛成だよ。天体観測しつつ、地学も学びたいかな」
「翔ちゃんは地学に興味があるんですか?」
翔ちゃんは左手を見せてきました。それだけで私は察します。翔ちゃんの得意とする魔法…エレメントは地…つまり地学を勉強する事は大きな武器になるのです
「いいな〜私も部活やりたかったよ…」既に諦めモードの有里栖ちゃんが不思議で私は尋ねます
「私達の部活に入らないですか?部活は三人からじゃないと作れないので!」でも有里栖ちゃんは困った顔をし…
「お爺ちゃんが少し厳しい人でね…武道一筋だから…多分許してもらえないと思う…」
「それは許してもらえたら入ってくれるという意味に捉えていいかな?」
「う、うん…私も星を眺めるの好きだよ?それに地学と言えば宝石も含まれるよね!私、可愛くて綺麗なの大好きだから…」その言葉を聞いて翔ちゃんは目を配らせる。私は頷きで返します
「じゃあ見学ついでに僕達が説得してみるよ」
「えっ!本当に!?」それは有里栖ちゃんにとっては考えてもいなかった提案だったのでしょう!目を輝かせて期待してきます
「はい!私達に任せて下さい!」
「で、でもお爺ちゃん怖い人だよ?」
「大丈夫だよ、最悪、僕が本気を出せば土下座でも何でもするよ」翔ちゃん…それはちょっと違う方向に本気を出しすぎでは…?ほら、有里栖ちゃんも引いてます…
私達は虹の家に着き、バスを降りて帰宅します。当然、私達のお家の向かいが有里栖ちゃんのお家なのでお家の前まで一緒です
「ではお昼ご飯を食べらたらご自宅にお伺いさせてもらいますね?」
「うん!待ってるね!」そう言って私達は別れました
「アルクちゃん!出てきて大丈夫ですよ?」そう言う翔ちゃんのバッグから飛び降り、人間モードになるアルクちゃん
「流石に三回目となるとお二人も手慣れたものですね!」
「今回はわかりやすかったからね」
「はい…有里栖ちゃんが可愛そうです!早くなんとかしてあげましょう」そうなのです!バス停で会った時にアルクちゃんが小声で
「今回のターゲットです!」と言ってきました。なので今回のターゲットは有里栖ちゃんです
「しかしまぁ…周りの視線が気になって仕方なかったよ」翔ちゃんが嘆くのも無理ありません。私達はバスに乗る時、道を歩いている時、学校で…かなり注目されていました
「学校で注目されていたのって半分は雪のせいだよ?雪が抱きつくから…」私を頬を膨らませて抗議します!
「だって翔ちゃんが嬉しい事するから…それに周りに私達、恋人アピールする事で恋愛目的で近く人達はいなくなるでしょう?」
「まぁ…そうだけど…と、とりあえず家に入ろうか?」翔ちゃんはまだ恥ずかしがっているみたいで私に顔を見られない様に玄関の鍵を開けるのでした
私が抱きつくのも無理ありません!だって翔ちゃんがバイトしてまで私に婚約指輪を買ってくれようと考えていたのだからそれは抱きついちゃいますよ!私はそんな事を考えながら鼻歌を歌いながら玄関を潜ります
「ただいま帰りましたー」
「ただいま」私達は家の中に入ります。すると台所から香ばしい匂いがしてきました
台所を覗くとお母さんが鍋を振るっています
「あら、お帰りなさい。早かったのね」
「はい、説明会だけでしたからね。とても興味深い学校でしたよ!」
「じゃあお昼を食べながら聞かせてもらおうかしら?」お母さんはニコニコしながら言ってきます
「僕に手伝える事はありますか?」
「そうね…じゃあ着替えたらお皿を並べてもらえるかしら?」
「わかりました」翔ちゃんがお母さんと積極的に会話をしました。これは翔ちゃんなりに早く馴染めるよう頑張っている証拠です
私達は二階に上がりました。翔ちゃんの隣の部屋が私の部屋です。元々ここは空き部屋だったらしく私の部屋にしてもらいました
お母さんはお父さんと同じ部屋に住む事になっています
一階ではアルクちゃんがお母さんとお話ししている声が聞こえます。アルクちゃんは
「お外で遊んでた!」と不在を誤魔化していました
私と翔ちゃんは着替えを済ませて一階に行き昼食のお手伝いをします
お母さんが作っていたのはチャーハンでした
「お母さんのチャーハン美味しんですよ?」
「それは楽しみだよ」
テーブルに並べられたチャーハン
それを囲む五人、お父さん、お母さん、翔ちゃん、アルクちゃん、私…普通に見れば家族が食卓を囲んでいるだけに見えます。でも私が見た翔ちゃんの横顔はまるで最初からそこには自分しかいない…そんな悲しそうな顔をしていました。まだ家族になるには時間がかかるみたいです
頂きますをしてチャーハンを食べ始めます
「どうかしら?お口に合うといいんだけど…」お母さんが翔ちゃんに向けてそんな言葉をかけます
「とても美味しいですよ」
「良かったわ!」翔ちゃんは少しだけ微笑む…それは翔ちゃんなりに努力をしようとしてる証拠…だから私も翔ちゃんが早く馴染める様に頑張り食卓を盛り上げます!
「お母さん、なんでチャーハンなの?」
「ごめんね。雪ちゃん、私が食べたいと言ったからだよ」お父さんは申し訳なさそうに言います
「私は美味しい食べ物なら大歓迎です!」無邪気に食べるアルクちゃん
それを嬉しそうに眺めるお母さん
それでも…翔ちゃんは心ここにあらずという感じで私は胸が痛みました。そんな私の視線に気づいたのか翔ちゃんが私を見てきます
その顔は申し訳なさそうな表情をしていました。だから私は気にしなくてもいいよ!と意味を込めて笑顔で返します
ああ、こんな食卓は嫌です…私は大好きな人には笑顔でいてもらいたいし、食卓は家族団欒、楽しくなければいけないと思っています。何かいい作戦はないでしょうか?私はそんな事を考えながら昼食を取るのでした
味…しないです
episode星野翔太
また味がしなかった…そんな
昼食を食べ終え僕達は医院長先生と春さんに天王寺さんと同じ高校だった事を軽く話、遊ぶ約束をした事を伝える
「偶然もあるものね〜」
「天王寺家は武道、一筋だからね。普通の高校よりも武道に時間が割ける通信制を選んだじゃないか?」そんな事を医院長先生は言う
僕は天王寺さんの事を頭で整理する
最初バス停で会った時から違和感はあった
そしてバッグの中にいたアルクからターゲットと聞いた時、確信に変わった。僕はどう接するか悩んでいた。そんな時に天王寺さんの方から声をかけられたものだから情けない話僕は、咄嗟に雪の背中に隠れてしまった
まぁそれはさておき
最初の違和感は服装だった。彼女は僕達と同じ制服を着ていた。だから同じ高校なんだとすぐにわかった。それは向こうも同じだろう、だが問題はその制服が男子生徒用の制服だったのだ。勿論、天王寺道場の存在は知っていた。いつも竹刀を打ち合う音や、サンドバッグの音、それに門下生と思われる人達の声がしたからだ。しかし彼女に会ったのは初めてだった
その為、最初は僕も戸惑った。雪も勿論、戸惑っただろう。しかし雪は何事もないかの様に会話してくれたおかげで上手く仲良くなる事が出来た。流石はコミュ力が高い雪!
そしてバス停やバスの中、学校で会話をしてさりげなく天王寺さんについて情報を聞き出していた。学校で先生も言っていた通り通信制の高校には様々な事情を抱えた生徒がほとんどだ。天王寺さんもその一人…最初は好きで男の格好をしているのかとも思ったが天王寺さんは恋の話が好きで可愛いものが好き、そして宝石にも興味ある普通の女の子と言う事がわかった
その証拠とも言えるのが髪の毛にくくりつけあったシュシュ、色はピンクでとても女の子らしい模様もしていた。雪には内緒だが実は男の線も考えて胸をチラ見した。そこにはしっかりとした二つの膨らみが確認出来た。大きさは雪と同じくらい…つまり詰め物とかではないと言う事だ。ここで男の線は消えた
だとしたら考えられるのは天王寺道場の問題だ…だからこれから僕達はそれを調べに天王寺道場に向かう。その為に上手く天王寺道場に行ける口実…つまり見学と言う約束を取り付ける事もしたのだ
僕と雪は家を出て向かいの家、天王寺道場に向かう。玄関…と言うよりは門に取り付けてあるインターホンを押す
しばらくして出てきたのは天王寺さんの母親らしき人物だった
「初めまして、この度、天王寺道場を見学させて頂く星野翔太です」
「同じく雪翔子です!本日はよろしくお願いします」僕達は軽くお辞儀をする
「娘から聞いているわ、さあ上がって!上がって!」やはりこの人は天王寺さんの母親らしい。髪の毛に顔立ちがよく似ている。天王寺道場の敷地はとても広く住まいと思われる本宅と道場と思われる別宅がある
僕達は砂利道を通り別宅らしき場所に案内される。その玄関の扉を開けて天王寺さんの母親は
「有里栖!お友達が来たわよ!」と呼ぶ
その行動に少し違和感を覚える…
「はーい!」バタバタと駆けつけてきたのは道着を着た天王寺さんだった
「いらっしゃい!翔太くん!翔子ちゃん!」
「さっきぶりですね!」
「こんにちは天王寺さん」何か練習していたのか額には薄らと汗が滲んでいた
「見学させてもらってよろしいですか?」雪のその言葉に少し困った表情をする天王寺さんと天王寺さんの母親…僕は思った事を口にする
「もしかして女性は入ってはいけない…とかいう決まりがあるかな?」その発言に驚いたのか天王寺さんは
「え!?」とビックリした声を上げる
そして母親が申し訳なさそうに肯定する
「はい…この別宅は道場になっていまして祖父の決まりで女性は立ち入り禁止になっております。申し訳ありません…」僕は雪に目配せする。それに雪も頷き意図を理解してくれた
「決まりでは仕方ありませんね…本宅の方はお邪魔しても大丈夫ですか?」
「はい」
「翔子ちゃん…ごめんね。お爺ちゃんを説得出来なくて…」なるほど、道場の頭首は天王寺さんのお爺さんなのか
「いいえ、気にしないでください」雪はいつもの笑顔で対応する
「お母さん!翔子ちゃんを私の部屋に案内してあげて!」天王寺さんの母親は頷くと
「こちらへどうぞ」と雪を本宅へ案内する。これから僕が足を踏み入れるのは猛獣がいる檻の中同然の場所、そんな場所にハムスター呼ばわりされる僕が立ち入るのだから対策は必要だ
「雪、海堂さんに例の承諾を得といてくれないかな?」
「わかりました!因みに私はオッケーです!」雪は承諾してくれた。おそらく海堂もしてくれるだろう
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」僕は雪に見送られ道場に踏み入る
episode星野翔太 end
有里栖ちゃんの部屋は薄いピンクをメインにしたとても女の子らしい部屋でした
ベッドには可愛らしい縫いぐるみが数匹、置かれていました
机にもアクセサリー入れが置いてあります
「雪さん、お茶をお持ちしました」有里栖ちゃんのお母さん入ってきます
「ありがとうございます!」私はお礼を机に置かれた紅茶を一口飲みます
「ここは有里栖の部屋なんですよね?」
「ええ、そうですよ。とても可愛らしい部屋でしょ?」有里栖ちゃんのお母さんはこの部屋を自慢します
「はい、とても可愛らしい部屋です」
「おかしいですよね…」有里栖ちゃんのお母さんが突然…いえ、私達が事情を知ってるからこそ話てくれました
「娘なのに男の子の様に育てるなんて…」
「ご家庭の事情なんですよね?」
「ええ、私はあの子には女の子として生きてほしんです。だから有里栖というとても可愛い名前をつけました…でも祖父が古い考えの持ち主でしてね。天王寺の後継ぎである有里栖は男ではならない!だから男の子に育てると言いまして…」その声はとても悲しそうで表情は暗かった…
「お母様はお爺様の意見には反対なんですよね?」
「はい、しかし嫁の私には発言力はなく、夫の言葉にも耳をかしません。祖父は自分より強い人、もしくはそれと同等の人じゃないと言うことを聞かないんです」私はスマホを開きLINEで夏希ちゃんからの承諾を得た事と今の情報を翔ちゃんに送ります
「実はですね?今日は私達、道場破りに来たんです!」
「え!」有里栖ちゃんのお母さんは驚きます。無理もありません
そして私はある一点を見つめていいます
「有里栖ちゃんは女の子らしい生活を出来る様になりますよ?だって翔ちゃんは武道では最強ですから!」そんな事実を私は言います。私の見つめる先には明星館高等学校の
女子制服が飾られていました
「だからきっとあの制服、着れますよ!」
Chapter2
「男女差別と天王寺政宗」
僕は一面畳の部屋に通された
かなり広い部屋だ。例えるならテレビで見たホテルにある大宴会場
奥には庭もあり的がある事から弓道も行なっていると思われる
外見だけでも天王寺道場なかなりの大きさなのはわかっていたが実際に中に入ると圧巻だった
七名の門下生と思しき人達が竹刀を振っていた
「今、素振りの練習中なの」僕は見て気になった事を率直に聞いてみた
「皆んな道着の色が白なのに天王寺さんだけ青なのはなんで?」
「これはね階級を表すの白は下級、青は中級、黒は上級」
「なるほど、つまりこの中で天王寺さんが一番強いのかな?」その言葉に笑う天王寺さん
「違うよ、一番強いのはお爺ちゃんだよ」
そんな会話をしているとマナーモードにしていたスマホが震える。通知を開くと雪からだった…
状況は理解出来た、後は実行あるのみか…
先ずはちゃんと見学しよう
人間や動物を観察するのは僕の得意な部類に入る。だって僕はずっと入院していて暇をつぶせるのは本と人間もしくは動物エリアの動物達の観察だったのだ。更に言えば両親がいなかった僕は看護婦や医師、他の患者さんの真似をして育ってきた。これから僕が行うのは道場破り…敵の観察は必須だ
「そのお爺様はどこにいるのかな?」僕はさりげなく尋ねてみた
「お爺ちゃんは今、別室でお客様の相手をしているよ」僕達以外にもお客さんが来てたのか
「そんな時に押し掛けてなんか悪いね」
「ううん!とんでもないよ!?私の家、こんなだからお友達が来るの初めてなんだ!」そんな事を笑顔で言ってくる
「僕達もう友達認定されてたの…?」
「えっ!違った…?」天王寺さんの大きな瞳が潤む。本当に人形みたいな子だな…
「ううん!そういう意味じゃなくて…その…僕、友達少ないからさ、よく分からなくて…」今、思えば雪は彼女だから除くとして友達と言えるのは海堂と秋葉くんだけだ
「そうなんだ…なんかごめんね?」その可哀想な者を見る目…辞めて!傷つく…
「別に気にしないよ。天王寺さんが友達になってくれるなら嬉しいよ」
「勿論!そう言えば最初、翔太くんを見た時、女の子だと思ったよ」そうなんだ…僕は天王寺さんを男の子だと思ったよ。とは言わない方がよさそうだ
「それ、雪にも言われるんだけど僕、かっこいいとか言われないんだ、よく可愛い…て言われるよ。そんなに女の子ぽいかな?」
「なんか小動物みたいな可愛さがあるよ?」
「それってまさか…ハムスターぽい…とか?」前に雪に言われた事を思い出す
「そう!それ!小さくて臆病でちょこちょこしてそうなイメージ…て、ご、ごめんね!男の子にそんな事言うの失礼だよね…」
「僕は気にしないよ?可愛い、て言われて嬉しいよ?背が小さいのも本当だし、臆病なのも本当だよ。最初バス停で会った時、雪の後ろに隠れちゃったし…」天王寺さんは意外そうな顔をする
「翔太くんは男女とか気にしない…人?」恐る恐る発言したその言葉はきっと天王寺さんの事を言っているに違いない。だから僕は思っている事を素直に口にする
「僕は男女差別が大嫌いなんだよ。お前は、男だからこう生きろ!お前は、女だからこう生きろ!とかそんなの他人が決める事じゃないよ。自分の生き方は自分で決める…と僕は思っているよ」
「じゃあ私は…翔太くんから見たらどう見えるかな?」その瞳には覚悟が宿っていた。今なら言われるであろう事を理解しているみたいだ
「僕から見たら君は、そうだね…ジャンガリアンハムスターのブルーサファイアかな?」
「ふぇ?」あまりに想像していた言葉と違かったのかポカーンとする天王寺さん
「つまりは愛くるしい、可愛いて事だよ。因みに僕はロボロフスキーで雪がパールホワイトね。秋葉くんはキンクマかな」そんな僕の言葉が次第に理解出来てきたのか天王寺さんは大笑いする
「ぷっ…!ははは!誰もハムスターで例えてなんて言ってないよ〜!」尚も笑い続ける天王寺さん
「君が僕をハムスターみたいとか言うからだよ。さて、そろそろいいかな?天王寺さん、竹刀借りるね」まだ笑い続ける天王寺さん、瞳には涙が滲んでいる
天王寺さんは雪と同じで笑顔が似合う
僕は竹刀を手にする。そして懐にスピカを隠す。僕の得意な地のエレメントは大地が育むものを操作したり鉱石などを生成出来る力…つまり木で出来た竹刀は僕の力と相性がいい。アルクは言っていた。大切なのは理解力だと…
僕は竹刀を軽く握るだけ、後は頭の中で想像する。左に!と想像すれば竹刀は左に薙ぎ払われ、右にと想像すれば竹刀は右に薙ぎ払われる
「よし…やっぱりいける!」全く筋力を使わなくていい。そして軽く竹刀を上に投げる。僕は竹刀が空中に止まる様に想像する
すると竹刀は空中に浮かんだまま停止した、その姿を見ていた門下生や天王寺さんは驚いていた。更にその竹刀を手に戻る様に想像する、すると空中にあった竹刀は僕の左手に綺麗に収まった。どのエレメントより力がありずば抜けて安定している…これが地のエレメントの力だ。デメリットは生成の遅さだが既に完成している竹刀を振るだけなら生成など関係ない為、デメリットは無い
チュートリアルはここまでかな?
さあ始めようか
「実はさ僕、道場破りに来たんだよね。だから君達を倒させてもらうよ。ルールは簡単、僕に竹刀を一発でも当てられたら君達の勝ち、逆に竹刀を手放したら君達の負け、それでどうかな?審判は天王寺さん、お願い」
「えっ!えっ!えっ!?」
episode天王寺有里栖
今、私の目の前で何が起こっているのか…理解出来なかった。道場破り事態は珍しい事じゃ無い、天王寺道場はそこそこ有名で腕自慢の人達が何回も来た事があるからだ、しかし翔太くんが道場破り?何の為に?そんなの決まっている。私の為だ
小学生の時も友達が同じ様な事をしてくれた。でもお爺ちゃん相手に手も足も出ずに終わった。中学生の時にもまた友達が同じ様に道場破りをしてくれた事があった。しかし結果は惨敗…
そして今日、高校生になった今、翔太くんが同じ様に道場破りをしに来た…けれどお爺ちゃんは今は席を外している。いや…これも翔太くんが仕組んだ事なのかな?私は慣れた手つきで審判を務める。これで友達が私を助ける為に道場破りをしてくれるのは三回目なのだ、その度に審判をやらされた。だから嫌でも慣れる
再度ルールを確認する
門下生は翔太くんに一発でも竹刀を当てられたら勝ち
翔太くんは門下生の竹刀を手放せさせる。つまり武器を弾けば翔太くんの勝ち
改めて整理するとおかしなルールだ
それじゃあ圧倒的に翔太くんが不利だ
そんな事を思いつつ一人目の門下生が構える。対して翔太くんは構えもしない
「それでは今から勝ち抜き戦を始めます!ルールは先程、相手が伝えた通りです」
「こんな初心者相手に一発入れるとか可哀想だ…やれやれ」門下生の一人が悪態をつく
「負けた時の言い訳ですか?そちらは七人もいるんですから全員負けたらダサいですし仕方ありませんよね?」それに挑発する翔太くん…どうか怪我だけはしないでね…お願い!
私はそんな事を思いながら開始の合図をする
「それでは始め!」
門下生が一気に間合い詰め、銅目掛けて竹刀を振るった
しかし次の瞬間…門下生の竹刀は地面に転がっていた。一瞬だった…翔太くんは左手に握った竹刀を右に払っただけで門下生の竹刀を弾いたのだ
しかも早かった。お爺ちゃんに稽古を受け続けた私ですら反応出来たか怪しい…
「勝負有りだね。弱すぎるよ?面倒だから六人まとめてかかってきてくれないかな?」明らかな挑発行為…六対一なんて勝てるわけがない。そもそもこの人達は天王寺道場に二年は通っている…簡単に言うならば真剣に武道を学ぼうとしている人達だ。そんな人達を一度に六人も相手にするなんて無謀だよ…
「天王寺さん。それでいいかな?」翔太くんはそんな事を言ってきた。私は返答に迷った…しかしその瞳を見て決めた
「わかりました!これよりルールを変更します!」門下生達は呆れた顔をしていたが翔太くんだけは無表情だった。彼がさっき見せた瞳…それはまるで勝つのが当たり前…そんな自信に満ちた瞳だった
門下生の六人が翔太くんを囲む様に並ぶ、当たり前の陣形だった。それでも竹刀を左肩にトントン当てながら余裕を見せる翔太くん
「ガキが!イキがるなよ?」またしても悪態をつく門下生の人達…
私は非道と思いつつも…開始の合図をする
「それでは開始!」開始直後、翔太くんが私に向けて話しかけて来た
「あっ天王寺さん、君の隣にいるカピバラだけどその子、家で飼ってるカピバラなんだ。ついて来ちゃったみたいで…ここにいても問題ないよね?」
「え?カピバラ…?」私は右下を見た、するとそこにはいつの間にいたのか白い毛で覆われた生き物がいた。これがカピバラ…?初めて見た!可愛い!モフモフしたい!」そんな想像に頭が支配される。そんな私が目を離している間に決着は付いていた
バタバタと竹刀が落ちる音がする
私は慌てて視線を試合場所に戻す。するとそこには竹刀を落とした。六人の門下生達の姿があった
私が目を離した間に何があったの?
門下生の一人が慌てて言う
「い、今のは竹刀が滑って落ちただけだ!」
「俺は竹刀が勝手に動いて落としてしまったんだ」などと言う意味不明な発言だった
「君達…負けたからってそんな言い訳ないよ?」翔太くんは呆れた様に言う
「ふ、ふざけんな!何か小細工をしたに決まっている」言い争いが始まってしまった
「その竹刀は僕が来る前から君達が持っていたものだよ?小細工なんて出来るわけないよね?」私は審判!言い争いは止めないと
「そこまで!ルールに則り翔太くんを勝者とします!」門下生達は不服な様で私に向かって文句を言ってくる
それを私はなだめる
「ルールはルール、審判の言う事は?」
「絶対…だけど!」門下生は尚も食い下がる
そんな時、怒声が響き渡った!
「喧しいわ!!!」そこにいたのはお爺ちゃんだった
「し、師匠!?」門下生達は一斉に頭を下げる
「審判の言う事は絶対じゃ!儂の娘を愚弄するか!!?」
「い、いえ!」ようやく門下生達は落ち着きを取り戻した
翔太くんはお爺ちゃんの方を向くと
「星野翔太といいます」丁寧にお辞儀をする
「儂は天王寺政宗、この道場を指揮しているものだ」
「本日はお願いがありここに来させて頂きました」
「お願いとな?話してみろ」お爺ちゃんの圧力に全く動じない翔太くん…
「本日は有里栖さんの件で来ました。どうか有里栖さんを我が部…天文部への入部を許可して下さい」お昼にお爺ちゃんに天文部に入部していいか聞いた…しかし答えは勿論、駄目だった。部活する時間があれば練習しろと…
「ただお願いに来ただけ…ではなさそうだな」翔太くんは微笑むと堂々とこう言ってみせた
「ええ、今日は政宗さんを倒しにきました」
その発言に門下生含め私も息を呑む
「ほぉーう」お爺ちゃんは面白い人を見つけた様に笑った
「昔から言うじゃないですか?意見がぶつかった時は決闘と…つまりそう言う事です」
「よかろう。小僧との勝負、受けてたとうではないか!」
「そうでなくては!道場破りに来た意味がありません」微笑む翔太くん…そんな彼の表情にお爺ちゃんは…
「まるで儂を倒せるとでも言っている様に聞こえるが?確か小僧、金冬のところのだろ?」
「ええ、医院長先生にはお世話になっております」
「なら病院送りにしても良いな?」
「いやいやご冗談を政宗さんが亡くなったら嫌なので寸止めにしましょう」
「生意気言いおる」お爺ちゃんの目つきが殺気立つ
「あと、一つ…これもお願いなのですが天王寺有里栖さんに女の子の格好をする許可を下さい」えっ?
「何…?小僧!本気で言っておるのか?」
「ええ、本気ですよ?僕が道場破りする理由はこの古臭い道場…そんな掟を壊しに来たんですから」お爺ちゃんの殺気が更に強くなる
「小僧、場を弁えろ?」
「場をとか…馬鹿にしてます?ここ道場ですよ?そんなに嫌なら勝負するのが普通じゃないですか」
「面白い事になってるじゃないか!?」そんな殺気立った場所に見知らぬ男性が一人現れた
「葛西か…さっき帰ったのではないか?」
「いやいや!帰ろうとしたら怒声が聞こえたから戻って来たんですよ」お爺ちゃんの言葉からしてその男はお客様として来ていた人だろう
「その声…」翔太くんが表情を変える
「やぁ会いたかったよ!星野翔太くん?」
「僕の事、調べたんですね?」
「当たり前じゃないか!だって君はあの木下夫妻の離婚を止めてみせた!探偵の僕が興味を持つのは当然だろう?」
「僕は会いたくなかったよ」
「つれない事言うな〜まぁそっちの方が面白いか」
「葛西この小僧がお気に入りの様だなら?なら黙って見ていろ。今からこの小僧を叩きのめすところだからな」
「政宗さん、さっきのお願い聞いてくれますか?」お爺ちゃんは少し考えたあと…
「よかろう、小僧が勝ったら何でも聞いてやる」その言葉に満足したのか翔太くんは微笑む
「じゃあ天王寺さん、また審判お願い出来るかな?ルールは寸止めで一本取った方の勝ちでお願い」
「う、うんわかったよ」
「は!は!は!まさか政宗さんと星野の一騎打ちを見れるとか俺もついているなぁ〜!」不気味に笑う葛西さんと言う人…
でももし…翔太くんが勝ったら私は…女の子として生きれるの?それは…それは…私の胸は嬉しさとそれで本当にいいのか?と言う感情で一杯だった…
お爺ちゃんが竹刀を手に取る
私は深呼吸する、隣には葛西さんとカピバラ?がいる。そんな中…試合開始の合図をする
「それでは開始!」
episode天王寺有里栖 end
天王寺さんが開始の合図を出す。先ずは様子見したいところだが…政宗さんは一瞬で間合いを詰めて来た。その素振りは見せていなかったし音すら聞こえなかった。なるほど、これが武道の達人と言うのだろう。僕は冷静に判断する。こんな時に限っていつも頭が冴える。海堂を助ける為にエビ鉈を振るった時もそうだった。アルクに魔法を教わっていた時もだ。もしかしたら僕は死という概念が絡むと非常に冷静になれるのかもしれない。いつ死ぬかわからない心臓病…その恐怖の中生きて来たからこそ手に入れた力なのかもな
だから…今、僕はこの一騎打ちに死を感じている事になる
それもその筈だ。僕はハムスターで政宗さんは虎だ。どう足掻いても勝てない…だがこんな言葉がある。窮鼠猫を噛む、ハムスターと虎で通じるかわからないが今の僕なら出来る!
僕は詰められた間合いを咄嗟にバックステップする事で元に戻す
そして竹刀を全力で投げつける。政宗はまさか竹刀を投げるとは思わなかったのか一瞬、動きを止める…そして右に回避する
躱されたか…けど!竹刀はブーメランの様に円を描き政宗さんの背中目掛けて飛んでゆく。政宗さんは一瞬…ニヤリと笑った。そして後ろから竹刀が来るのをわかってたかの様に自分の竹刀に当てて軌道を逸らす
竹刀は僕の手に戻ってきた
この人…今の攻撃を読んだ?普通ではあり得ない攻撃なのに…
「小僧…一つ聞き忘れていた事があった」
「何ですか?」イカサマをしたと思われたか?そう思ったが政宗さんの口からは予想だにしなかった言葉が飛び出してきた
「星野…とか言ったな?それは星野神社の星野か?」
「え!?」僕は驚いた…星野神社を知っている?チラッとアルクを見る
「……」カピバラなので表情がわからない!更には門下生はと天王寺さんは唖然としていて葛西さんはニヤニヤしていた
「ええ…そうですよ?僕は星野神社の星野です」今まで星野神社を知ってる人はアルクを除けば医院長先生だけだった
「そうか…やはり運命とはあるものだな」
政宗さんは天を見上げる
「小僧、儂は星野家の事を誰よりも知っている」その言葉…本当か?
「信用していない顔だな?ならばさっきの攻撃を躱せた理由を教えてやろう。さっきの技は神通力によるものだな?」神通力…神の力…間違っていない。だけど否定したい部分はある
「神通力とか古いですね?今は魔法…て言うんですよ」僕は竹刀を宙に浮かせてみせる
「まぁどっちでもよい…なら魔法と呼ばせてもらおう。天王寺家と星野家は代々交流があってなその魔法についての書物が天王寺家の蔵に眠っておってな…そこには魔法の対処法も書いてある」
「対処法?まるで天王寺家と星野家が代々戦っていたみたいな感じですね?」
「そうだな。互いに極めて追ったのは事実だな。天王寺家は武道を星野家は魔法を…」
「つまりあなたには魔法は通用しないとおっしゃりたいのですか?」
「そうじゃな!そう言う事だ。しかし夢が叶うとは思わなかったわ!」
「あなたの夢とは?」政宗は竹刀を構え直す
「こうして、星野と戦う事だ!」政宗さんは突きの構えを突っ込んできた。僕はそれを右に避け、竹刀をまた投げる!
今度は政宗さんの周りを竹刀が飛び回る形だ
「どこから攻撃が来ると思いますか?」
「儂はどこから来ても防いでみせる!風の力は書物に書いてあったから!」風?僕が使っているのは地だ…しかし、風で竹刀を飛ばしていると思われているのか?そう言えばさっきから僕は竹刀を投げている為、丸腰だ。なのに政宗さんは距離を詰めて来ない
「今僕は竹刀、持っていませんよ?」少し挑発してみる
「近づいたところを風の力で場外まで吹き飛ばす作戦だろう?」なるほど…風はそんな使い方が出来るのか、しかし僕は地の魔法以外は使い物にならないほどダメダメだ。勝機があるとすれば政宗さんがエレメントを勘違いしている事…そこにある!
僕は回転して飛び回っている竹刀で政宗の背後、右、左、前、様々方向から攻撃する。しかしそのどれもが躱すか弾かれるかされる
だったら!僕は政宗さんに突っ込む!そして飛び回っている竹刀を左手に戻すと竹刀を振るう!その攻撃を政宗さんは竹刀で受け止める。いわゆる鍔迫り合い状態になる
「遠くから攻撃してくるだけではないのか?」
「僕はそんな臆病じゃありませんよ?」嘘だ…僕は臆病だ
しかし虚勢を張る
「それにこれはもう武道対決じゃありません」そう…これは武道対魔法の対決なのだ
「それが儂のしたかった戦いだ!なのに何故言え小僧は魔法自体で攻撃しない?」
「何ででしょうね?」僕は意味ありげに笑う。実を言うと意味は無い…だが相手は考えるだろう。何か策があるのだと
episode天王寺政宗
鍔迫り合い状態が続く…この小僧、何を企んでいる?風の力で接近してくるなんて対策法は書いていなかった…なるほど!読めたぞ!この小僧なかなか考えおる…儂が対策法の書いた書物と言ったから対策法には載ってなさそうな攻撃をしてきているんだな…
そして今、この状態だ…儂は力一杯、押し返そうとしているのにまるで向こうの方が力が勝る様に押し返せない
考えられる方法は一つ!小僧は風の力で自身の背中を押して勢いをつけているのだ!ならば!儂は鍔迫り合い状態を抜け出す為に右に転がろうとする。もし、鍔迫り合い状態じゃなくなれば風の力の勢いで小僧は場外まで自分で吹っ飛ぶ事になるからだ
しかしそれを察したのか先に左に小僧が回転して鍔迫り合い状態から抜ける
勘のいい小僧だ…
儂は回避した小僧の背中に向けて竹刀を振るう!しかし小僧は振り向き様に竹刀を振る!バシン!!と竹刀のぶつかり合う音が道場に響く
更に儂は竹刀を容赦なく振るう
しかし小僧もやりおる…その攻撃を防いでみせる。風の力を使っている様子はない
実力で儂と互角なのか?そんな考えは身体の動きを鈍らせる…
逆に小僧から仕掛けてくる事はない…何を狙っている?
いや…考えるな!儂が考えれば考えるほど動きが鈍っていく。儂は自分に喝を入れる為に雄叫びをあげる
「はぁぁぁぁぁあ!!!喝!!!」その大声に小僧も驚いたのか一瞬怯む
きっとこの小僧には今、儂の背に虎の姿を見ているに違いない。対して小僧の背には鼠が見える
「悪いがこの勝負もらった!我が天王寺家に伝わる奥義で仕留めさせて頂く!」
「政宗さんは厨二病ですか?」嘲笑う小僧
儂は後ろにバックステップし距離を取る
「気をつけて!翔太くん!」儂の娘が小僧に注意を促す。たわけ!審判が口出しをするな!
娘の注意に儂の言っている事が嘘ではないと悟ったのか更に距離を取る小僧…
「無駄な事を!」儂は抜刀のポーズを取る
この勝負…儂の勝ちだ!
episode天王寺政宗 end
六メートルぐらい先に抜刀のポーズを取った。政宗さんがいる。天王寺さんの掛け声がなければ嘲笑っていたところだがどうやら本気で奥義は存在するらしい
さっき政宗さんが喝を入れた時に見えた虎の姿…あまりの迫力に心臓麻痺するかと思ったよ…心臓が無くてよかった
僕はこの限られた時間で必死に考える…
抜刀なら一気に接近して来る筈だ
だったら場外ギリギリまで距離を取った。この位置が安全な筈だ…
僕の後ろには場外を示す線が引いてある
場外の白線?しまった!?
そう思った時には既に遅かった。すぐ目の前には政宗さんがいた
奥義が来るなら白線ギリギリまで下がる。そしてそれがどこか一瞬、後ろを見る!これが狙いか!?視線を政宗さんから外させる事こそが最大の狙い!
僕は急いで防御態勢を取る。しかし抜刀から放たれた一撃は僕の竹刀をあっさりと折ってしまった!勝負あり…か…後ろに下がれば場外、このままだと抜刀で負ける、前に回避する事はもはや不可能、詰みとはまさにこの事だ…
だけどね?政宗さん…相手を追い詰めた時ほど油断するものなんだよ?それが勝ちを確信した一撃なら尚更ね!
この場所は一面、畳の道場だ。畳は大地で出来た自然の物質を使って作らせている。つまりこの場所は地の力が最大に発揮出来る場所なんだよ!
僕は白線の引かれた畳の上にいる。しかし相手はその一つ前の畳にいる
だから通用する技さ!僕は政宗さんがいる畳を魔法で操作しひっくり返した。ちゃぶ台返しならぬ、畳返しだ。政宗さんは後ろに飛ばされる
「政宗さん?あなたの敗北の理由はわかりますか?」僕は転倒した政宗さんの首に割れた竹刀を突きつける
「僕はね?」周りの畳を次々、宙に浮かせる。更には竹刀置き場にある竹刀も宙に浮かせる
「地の魔法使いなんだよ」そんな言葉に政宗さんは呆気にとられたのか…
「な…!」そんな言葉しか返って来なかった。僕は畳をちゃんと元の位置に設置し直し折れた竹刀も直してみせる
自分でも初めてやったからビックリしたが直せるんだな…
「天王寺さん、判定は?」このままご老体に竹刀を突き付けるのも気が引けたのでジャッジを求める
天王寺さんもまた呆気にとられたのかしばらく呆然としていた。ようやく我に返ったのか判定をしてくれた
「し、勝負あり!勝者!翔太くん!」その判定に門下生達は歓声を上げる
「約束、覚えていますよね?」
「ああ…」放心状態の政宗さん…無理もないか
「じゃあお願いを言いますね?僕のお願いは…天王寺有里栖のお願いを二つ叶えるです」その発言に天王寺さんも政宗さんも驚く
「し、翔太くん?」
「小僧…本気か?」
「ええ、本気ですよ?僕はただ天王寺さんに手を差し伸べただけ…願いをどう叶えるのかは天王寺さんの自由だよ」僕は政宗さんに向けて手を差し出す
「ふん!小僧の力など借りん」僕の手を弾くと自分で立ち上がる
「して有里栖なにかお願いがあるんだろ?言ってみろ」まだ心の準備が出来ていないのかあわあわ!と慌てふためく天王寺さん、そんな彼女に僕は左手で優しく頭を撫でてあげる
「君が思っている事を言えばいいよ。僕は…いや、僕達は、その為に手を差し伸べたんだからね」天王寺さんはその言葉で決心したのか…
「お、お爺ちゃん!あのね!私ね、天文部に入りたいの!!」
「その天文部には小僧もおるのか?」
「はい、後は天王寺さんの家にいる雪もいます」政宗さんは手を顎にやり考える
「雪…と言うと金冬と結婚したと聞いたな。その娘さんもおるのか…金冬には世話になっているからな、よかろう!天文部の入部を許可しよう」緊張した表情から笑顔になる、天王寺さん
「ただし!修行は怠らぬように!」
「は、はい!」
「二つ目の願いはなんだ?」さて、天王寺さんはなんて答えるかな?それには僕も興味があった。普通に女の子として暮らさせてくれかな?それとも…
天王寺さんは真面目な顔になるとこんな事を言い出した
「お爺ちゃん、私は女の子として暮らしたい。でもそれは私がお爺ちゃんを倒してなさなければならない…そう考えているの」
「ほぉうして?」
「だからね…今は力不足だけど…いつか!いつかだよ?お爺ちゃんに武道で勝ったら!その時は女の子として過ごさせて!」僕はそう答える可能性も考えていたが…まさか率直に言うとは思わなかった
「いいだろう!もしお前が儂を武道で超えたら女として生きて行く事を認める!これでよいか?」天王寺さんはその回答に満足したのか笑顔で「うん!」と言うのだった。その笑顔を見て僕はいつか見る事になるだろう。天王寺さんの制服姿を想像する。それはきっと周りの目を引くほどに可愛いに違いないだろうな。勿論、僕は雪一筋だけどね
「小僧!今日はしてやられたが今度はそうはいかないからな?」
「いえ!遠慮しておきます。それでは〜」こんな化け物じみた人ともう一度戦うなんてごめんだね。僕は逃げる様に道場を後にする
「あっ!待って、翔太くん!玄関まで送るよ」そう言い天王寺さんもついて来る
雪にLINEで終わった事を知らせないとな。僕はスマホを取り出す。そしてLINEのメッセージで終わった事を伝える
程なくして雪が本宅から出てきた。僕達は天王寺さんに誘導される形で門にたどり着く
「今日はありがとうね?私の為に」
「まぁこれが僕達の役割だからね」天王寺さんは不思議そうな顔をする
「簡単に言えば困っている人を助けるのが私達のお仕事です!それがお友達なら尚の事」
「お二人ともお疲れ様でした!」いつの間にかカピバラモードから人間モードに戻ったアルクが隣にいた
「え?この子…誰?」そんな反応になるだろう。だが今回は簡単に信じてもらえそうだ」
「この子はアルクだよ。神様なんだ」
「え?神様…?」ポカーンとする天王寺さん
「そうです!私は神様ですよ?実際に星野さんに魔法を伝授したのは私ですからね」
「そ、そうなの、翔太くん?」
「さっき政宗さんも言ってたよね。星野家は神通力を使う家庭だ。そして星野神社とも」
「う、うん言ってたね」
「このアルクこそが僕達、星野神社で祀られてた神様なんだよ。そのアルクが星野家の人間に不思議な力を与える…今では魔法と言うやつだね」僕は左手からスピカを召喚して見せる
「す、凄い!凄いよ!これからはアルク様…て呼んでいいかな?」天王寺さんはどうやら信じてくれた様だ。まぁ、あんな戦いをした後だからね…
「いいですよ!これでまた一人、信仰者をゲットです!」
「良かったね!アルクちゃん」そんなアルクの頭を撫でる雪、そんな僕達四人の後をついて来る人…葛西さんだ
僕達は門を出る。すると目の前にはいかにも高級そうな黒い車が一台止まっていた
僕達はその車を見つめる。車の前には黒服の人が一人立っていた…
「ああ、この人は俺の事を迎えに来たんだよ」そんな事を言う葛西さん
「そうですか」僕は素っ気なく返す
「冷たいなぁ〜まぁいいや、これ俺の名刺、渡しておくよ」突然、僕に向かって名刺を投げて来る。それを僕は反射的に手にしてしまう。そしてそこに書かれた文字を見てビックリした
「月詠夜空…?探偵?」
「これが俺の本名だよ。気に入った人にしかその名刺は渡さないんだ」この人は偽名を使ってたのか…
「入りませんよ!あなたの名刺なんて」
「もらっておいた方がいいよ?だって君達は明日、そこの住所に訪ねて来るんだから!じゃあね!」そんな謎な事を言うと葛西さん…じゃなくて月詠は車に乗り去っていった。あんな偽名を使う人、呼び捨てでいいよね
「さっきの人は知り合いだったの?」天王寺さんが聞いてくる
「う〜ん…知り合いではありますけど…嫌いな人ですね」雪が人を嫌いと言うのは珍しい事だ。やはり雪もまた月詠に良い印象は抱いていないようだった
「それより天王寺さんこそ、あの人とは知り合いなの?」僕は尋ねてみた
「ううん、お爺ちゃんが知り合いなだけだよ。それにお爺ちゃんだって葛西さん、て呼んでたでしょ?だから親しくは無いんじゃないかな」確かに政宗さんは月詠の事を葛西と呼んでいたな…あの人は一体何者だ?それに明日この名刺の住所に来る事になる?その場所は葛西、僕達は天王寺さんと別れ帰宅するのだった
Chapter3「家族形」
夕食と入浴を済ませて私は自分の部屋にあるダンボールを片していく。まだ引っ越しの整理が終わっていないのです
勉強机にベッド、クローゼットに本棚、私はあまりお化粧はしないのでその辺りの家具や道具はほとんどありません。勉強机にはまだ届いていない教科書を入れるスペースや小物類を置きます。ベッドにはお気に入りの抱き枕を置き、クローゼットには持ってきた。洋服などをしまいます
制服はいつでも使える様にハンガーに吊るしておく。本棚には星の図鑑やミステリー本をしまい…これでよし!
「大体終わりましたね!」私は一人で呟くとベッドに横になります。そして今日は色々あり過ぎたので頭の中で整理します。有里栖ちゃんと出会い。即行で行動し問題を半分解決…翔ちゃんから聞いた話ですと有里栖ちゃんは自分の力でお爺ちゃんに勝ち、女の子として暮らせるように茨の道を選んだようです。今考えてみると私達が手を差し伸べた三人は問題自体はまだ解決していません。夏希ちゃんは虐めをなくし傷を癒す…今はまだ癒している段階です。木下さんは両親の離婚を止めました。しかし正確には弁護士をつけて話し合いをする…つまり根本的な解決はしていません。有里栖ちゃんは天文部に入部の許可をもらいましたが女の子として暮らせるようになる為には自身でお爺ちゃんを超える道を選びました。なのでこれも根本的解決はしていません。三人とも自身の力で根本的解決をする事を選んだのです。それは立派な判断で勇気がある行動だと思います。私達が手を差し伸べた甲斐があるというものです
後、問題があるとすれば翔ちゃんです…お父さんとお母さんが結婚した。それは私も嬉しいですし翔ちゃんも喜んでいました。しかし問題は翔ちゃんが私、お父さん、お母さんを家族と思っていない為、団欒の過ごし方が楽しくない事にあります。食事の時はいつも上の空か曖昧に相槌を打つだけの翔ちゃん…こんなんでは翔ちゃんの心が潰れてしまいます。早くなんとかしないといけません。これは私にか出来ない事です。
だって私は翔ちゃんの彼女、ゆくゆくは家族になる人間だからです。私は隣で横になっているアルクちゃんに尋ねてみます
「アルクちゃん、翔ちゃんが私達との生活に馴染むにはどうしたらいいと思いますか?」
アルクはピョン!と起き上がると考える仕草を見せます
「そうですね…時間が解決では駄目なんですか?」
「それまで翔ちゃんの心が持つかわかりません!」つい身を乗り出して叫んでしまいました。ですがアルクちゃんは動じる事なく更に意見を言ってきました
「では逆に考えてはどうですか?進んで近づくのではなく離れるんです」
「それはつまり翔ちゃんをお父さんとお母さんから遠ざけるという事ですか?」
「そうですね。私は星野さんと一つに繋がっているので感情がよくわかりますが星野さんは雪さんと二人で暮らしたがっています」それは…確かに一つの方法かもしれません。しかし、それは、お父さん、お母さんの承諾を得なくてはいけません。それに先ずは翔ちゃんの意見を聞かなくては…
その時、二階に上がってくる足音がしました。おそらく入浴をしていた翔ちゃんが戻ってきたのでしょう
「私、翔ちゃんと直接話してみます!」私は自分の部屋の扉を開けて入浴から戻ってきた翔ちゃんを自分の部屋に引き摺り込みます!
「え、え?どうしたの、雪?」私は翔ちゃんを自分部屋にあげるとベッドに座らせます
「今から会議をします!」
「会議?」翔ちゃんはキョトンとした顔でアルクちゃんを見ます。しかしアルクちゃんは笑顔のままで何も答えようとしません。きっと私達、二人で話し合うべきだと判断してくれたのでしょう
「議題は翔ちゃんと家族についてです!」
「僕と家族…?家族、て誰?」
「お父さんとお母さんです!私が気づいていないと思いましたか?翔ちゃん、お父さんとお母さんの前では気を遣っていますよね」翔ちゃんは私から目を逸らします
「私は心配なんです…翔ちゃんの心が潰れてしまいそうで…」
「潰れたりしないよ」私に目を合わせてくれない…
「嘘…ですよね?」
「……僕にはあの二人の顔がノイズが掛かった様に見えないんだ…表示がわからない、今、どんな顔をして僕に話しかけてきているんだろう、そもそも、二人の顔って…どんなだっけ?ただそれだけだよ」私が思っていたよりも早く翔ちゃんの心は限界を迎えていたようです。私は気づいていたのに…そもそもドッキリで翔ちゃんには伝えない様にしようと提案したあの時の私はバカでした!あの時の私は翔ちゃんにも家族が出来る!家族がわかってもらえる!と…そんな甘い事を考えていたのです…その結果、翔ちゃんを追い詰める様になってしまった…心に傷を負わせてしまった…
これでは、夏希ちゃんを虐めていた人達と一緒です!私は最悪です!
「もしかして雪…自分を責めていないよね?雪のせいじゃないよ?僕が、僕が馴染めないのが悪いんだよ。だから…」そこでアルクちゃんが割って入ってきます
「私はどっちもどっちだと思いますけどね?」
「アルクちゃん?」
「お二人は知らないかもしれませんがこの事で悩んでいるのはお二人だけではありませんよ?金冬さんも春さんも悩んでいます。一度、話し合ってみてはいかがですか?丁度、リビングにいるみたいですし?それでも解決しない場合は私を頼って下さいね?あまりこの手段は取りたくありませんが…星野さんの幸せの為なら仕方ありませんね」そういうとアルクちゃんは私のベッドに潜り込み
「おやすみなさーい」と眠ってしまいました
私は思った事はすぐ行動なので翔ちゃんの手を掴み、部屋を飛び出して一回のリビングに行きました。そこにはお父さんとお母さんがソファーで何か話し合っていたみたいです。しかしあまりにも私がドタバタ来るものですから二人は驚いた様子でこちらを見ていました
「翔子?どうしたのそんな慌てて、ご近所迷惑よ」そんなの関係ありません!
「今から家族会議をします!」
そんなわけで今、私達はリビングのソファーに座っています。会議の参加者は私、翔ちゃん、お父さん、お母さんです
「議題は家族についてです!私が進行役をやらせて頂きます!」突然の事で他の三人はまだ理解出来ていない様です。ですが私はお構いなしに進めます
「私達はまだ家族になりきれていません。その事について話し合いたいと思います!」
「ゆ、雪、家族になれてないのは僕だけであって…」私は笑顔で翔ちゃんの言葉を遮ります
「お父さん、お母さん!私は家族とは何か?とお二人に質問します!」私の質問になのかそれともいきなりの会議自体なのにか少し悩むお父さんとお母さん…最初に答えたのはお母さんでした
「私はどんな時でも助け合う、それが家族だと思っているわ」温厚なお母さんらしい意見でした
「私はね、一緒にいて楽しい、それが家族だと思っているよ」なるほど、お父さんは、楽しく一緒に過ごすのが家族と…
「でしたら私達は家族ではありませんね?だって私、楽しくありませんし」そんな私のセリフに顔をしかめる、お父さんとお母さん
「翔子ちゃんは、何が言いたいのかな?」
「だって私は、翔ちゃんが笑顔じゃないので楽しくありません!家族なら助け合うんですよね?」
「翔子…」
「私達も星野くんの事は、考えていたよ。最近は、元気がない…その原因が私達にあることもね…そもそも、私が星野くんに春さんとの交際を打ち明けていればこんな事にはならなかったと思う」
「医院長先生!それは違います!ここは先生の家です。先生がこの家で幸せになる権利はあるんです!ただ僕は邪魔者で…家族が…わからなくて…それを考えるだけで、胸が痛くて…なんで僕には家族がいないんだろう…て」これが翔ちゃんの本音…ずっと抱えていた感情
「翔ちゃん…」私は優しく翔ちゃんを抱きしめます。その時、私の脳裏にアルクちゃんの言葉が蘇ります。「近づくのではなく離れるんです」ああ、きっとそれが一番いい方法です。私とお父さん、お母さんは法律上、家族です。そして私はそれを認めています。しかし翔ちゃんはどうでしょう?法律上、家族ではありませんし認めてもいないだったら…私達、二人だけで生活するのはどうでしょう?もう高校生ですし問題ない筈です!そんな事をお願いしてもお父さんとお母さんは許してくれないでしょう…でも私達にはそれが出来る力があります。翔ちゃんは、今日までたくさんの人達を救ってきました。なのにその本人が救われないなんてあり得ません!
「家族会議をこれにて終了します!」私は翔ちゃんから離れると急いで二階の自室に行きます
「翔子!待ちなさい!」そんなお母さんの言葉など聞いている暇はありません!私は自室に戻るとアルクちゃんを起こします
「アルクちゃん!翔ちゃんを幸せにする方法…あるんですよね?」アルクちゃんは一度大きな欠伸をすると頷きます
「それはどんな方法ですか!?」
「私の力を使う事です。星野さん達が信仰心を集めたおかげで私は随分と力が戻りました。とは言ってもまだ本来の半分ですが…そして私が得意とする力は人々を幸せに導く力…その名も[曲解]です!」
「曲解ですか?」
「簡単に言うとですね。私が過去に行ってきて未来を変える力ですね。因みにこの力はリスクがあります」
「リスクですか?」私はアルクちゃんの言葉を一語一句、聞き逃すまいと前のめりになります
「先ずは願った本人ですら私が曲解を使った事がわからない事です。だって当然ですよね?過去を変えれば今、この会話も無かったことになるんですからね。後は最悪の場合、天王寺さんの出来事が無かった事になる場合もあります。だって雪さんと春さんがここに引っ越して来たのは天王寺さんと会う前なんですから」それもそうです…ですが
「天王寺さんの事は多分大丈夫だと思います。この件にお父さんとお母さんは関わってはいません」
「そうですね。私も可能性は低いと思います。しかし一番、変わる可能性としては雪さん、金冬さん、春さんの仲です!」私とお父さんとお母さんの仲?
「それはなんでですか?」
「それはだって星野さんと雪さんが一緒に住む事をお二人は許可すると思いますか?」さっき私も思った事です…二人暮らしは絶対に許可しないと…
「そうなると当然、喧嘩になりますよね?」
「そう…なるでしょうね」
「だから私は尋ねます!雪さんは両親の仲と星野さんの仲どちらを取りますか?」私は…私は…翔ちゃんに辛い思いをしてほしくない!翔ちゃんを泣かせたくない!だから簡単に決断出来ました。アルクちゃんは私の出した決断が満足だったのか笑顔で言います
「結局はこの力は使うつもりでしたけどね?だって私の役目は星野さんの幸せなんですから!では過去に行ってきて上手く事をはこびますね?明日の朝には終わっているでしょう。だってお二人にとっては一瞬の事なんですから!」そういうと鳥居が現れました
「あれ?黄昏時にしか現れないんじゃないですか?」そんな質問にアルクちゃんはこう答えました
「さっきも言いましたよ?私の力が半分は戻ってるとそのおかげでほら!見て下さい!」私はアルクちゃんが時計を指さしたので時計を見ます。時刻はまもなく日付が変わる時間帯でした
「おかげで日付が変わる瞬間にも鳥居を出せる様になりました!でもまぁこの事は曲解した未来では隠しておきます。もしもの時…これが最後の切り札になるかもしれませんから…だから日付けが変わる時に鳥居を出せる事は、星野さんも雪さんも知らないままでしょう」そういうとアルクちゃんは鳥居の先に行ってしまいました。すると突然、強烈な睡魔に襲われました。私は自分のベッドに倒れ込むとそのまま意識を失う様に眠ってしまうのでした
私は最後に思いました。家族には様々な形があります。そしてその家族にあった距離というものもあると私は思います。だから…今回私が行った事はけして間違いではないと
翌日
私は目を覚ましました。ベッドから起き上がりカーテンを開きます
「今日は雨ですか…」高校生活二日目は生憎の雨です。ですが今日は教科書はまだ届いていないのでお勉強は出来ません。なので高校に行く生徒は少ないでしょう。先生のお話では今週中には届くの事。なのでレポート提出や学科の授業は来月の五月から始まります
ですので今月中に学校に来る生徒は友達作りや部活作りで来る生徒でしょう。先生もそれを見越して五月から授業を始める事にしたと思われます。だって通信制に通う生徒は普通よりも馴染むのに時間がかかりますからね…
そんな事を考えていると一階の台所から物音がしました。時計を見ると既に朝食を食べる時間になっていました。私とした事が寝過ごしてしまうなんて!?
私は急いで制服に着替えます。そして一階に降ります
「雪、おはよう」翔ちゃんは私が寝過ごした事を気にしていない様で普通にあいさつしてきてくれました
「おはようございます!ごめんなさい…朝食はどうなりましたか?」
「今、出来たところだよ。雪は顔を洗って来て。アルクは配膳、手伝ってよ?」
「はーい!」アルクちゃんはソファから立ち上がると朝食を運びます
私はお言葉に甘えて洗面台に行き色々、準備をさせて頂きました
私がリビングにつくとそこに待っていたのはフレンチトーストでした
「翔ちゃんのフレンチトースト!」私はあまりの美味しそうな匂いにテンションが上がります
私達は[三人]テーブルにつくと頂きますをし食べ始めます
「う〜ん!美味しいです!」口の中でとろける食パン…卵の甘味と牛乳がマッチして最高です!
「雪にそう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
「ほひほはんはひひほむほにひけまふ」
「こら!アルクちゃん、お行儀悪いですよ?」これぞいつもの我が家の食卓です
「でも最初、二人暮らしするって話をした時は、どうなるかと思ったよ」翔ちゃんがそう言うのも無理はありません。私はアルクちゃんの未来予知の力でお父さん、お母さんと住むとどうなるか結末を聞いてしまったのです。だから私は、提案しました。二人暮らしをしたいと、その理由は翔ちゃんが家族に馴染めないと言うものです
お父さんもお母さんも最初は反対しましたが私が交際を隠しているお二人にも責任がある!など様々な事を指摘し挙句の果てには大喧嘩までしました。そこまでしてようやく得れた二人暮らしです!
「私のわがままです。翔ちゃんは…迷惑でしたか?」
「ううん、全然…むしろ感謝しているよ。なんでだかわからないけど…あの二人とは上手くいきそうなきがしなかったから…」
私達が今、住んでいる場所はお父さんの家です。そのお父さんは私の家…つまりはお母さんの家に引っ越しました
「でもそのせいで喧嘩別れさせちゃったね…ごめん」確かに私とお母さんは絶賛喧嘩中です。しかし翔ちゃんが気にする事ではありません
「いつか時が来れば仲直りしますよ」今日の朝食はいつもより美味しく感じました
朝食を食べ終え食器を片付けて私達は学校に登校する準備をします
「アルク、カピバラモード」翔ちゃんがそう言うとアルクちゃんはカピバラになり翔ちゃんのバッグの中に入ります
「今日は雨なので傘、忘れないで下さいね?」私達は玄関を出て傘をさします
しばらく歩くと虹の家のバス停が見えてきました。そこに私達と同じ制服の人が一人いました
「あっ!翔太くん!翔子ちゃん!おはよう」
「おはよう。天王寺さん」
「おはようございます。有里栖ちゃん!」
バス停にいたのは有里栖ちゃんでした。その姿は男子の制服…しかしそれは彼女が望んだ事なので気にしません
「昨日は…政宗さん大丈夫だったかな?腰痛めたりとかしてないかな?」
「うん!大丈夫だよ。今日も朝から竹刀で素振り千回やってたし」
「それならよかった」昨日、翔ちゃんと政宗さんは決闘したと聞きました。私は有里栖ちゃんの部屋にいたのでその勝負は見ていませんがきっと翔ちゃんがカッコよく決めたのでしょう!
「昨日はありがとう…」有里栖ちゃんは頬を赤く染めお礼をいいます
「こちらこそ、堂々と魔法が使えたし、それに星野家の事が少しわかったから、気にしないでいいよ」そんな会話をしているとバスがきます。バスが停車し扉が開く
先に有里栖ちゃんが乗り私が電子マネーで乗ります。続いて翔ちゃんが乗り電子マネーでお金を払います。そこで…
「ああ!星の魔法使い様!ご乗車頂きありがとうございます!」運転手さんは一言そう言うと扉を閉めます
私は少し疑問に思いながも一番後ろの席に座りました
すると真っ先に聞いていたのは有里栖ちゃんでした
「星野…魔法使い様…て星野くんの事?」
「アルクどう言う事?」翔ちゃんはアルクちゃんに問いました。アルクちゃんはカピバラのままバッグから顔をピョコっと出して
「昨日の魔法が知れ渡った…のでしょうか?」
「疑問系ですか?つまりアルクちゃんもわからないんですか?」アルクちゃんは
「はい…」と言いました
「政宗さんが言いふらしたりとかはしたのかな?」しかし有里栖ちゃんは首を横に振りました
「う、ううん!お爺ちゃんも昨日出掛けてないし電話もしてなかったよ?それどころか門下生達にも口外禁止って言っていたし…」つまりは政宗さんもあり得ないと…そして何よりも気になるのは視線です
さっきからお年寄り達が
「星野様と同じバスとは…ありがたや!ありがたや!」など言ってきます。若い人達もチラチラ見てきます。昨日感じた視線は有里栖ちゃんが男の子の格好をしていたから…しかし今は明らかに翔ちゃんを見ているもの…
翔ちゃんは心当たりがあるのか珍しく舌打ちします
「ちっ!月詠か…」
「月詠さん…て昨日家から帰る時に名刺を渡してきて…確か明日会いに来る事になるとか言っていた人だよね?」そんな有里栖ちゃんの問いに頷く翔ちゃん
「月詠は昨日、僕の魔法を見ていた。だからこうなる事を知っていた…いや…あるいは仕組んだ。そうなれば僕達が事務所に殴り込みに来ると…」
「だから事務所に来る事になると言ったのですか?」確かに翔ちゃんの考えは辻褄が合います。更に驚いたのはアルクちゃんがそれに同意した事です
「私の考えが正しければ間違いないと思います。あの月詠夜空は…とにかく今日、月詠夜空に会って下さい」こうして私達の日常が変わってしまったのです
Chapter4「星の魔法使い」
僕達は皆んなの視線を集めながら学校に着く
エレベーターに乗り三階で降りて学校の扉を開く。生徒はほとんどおらず僕は少し安堵する。ちょうど受付の先生がいなかったのもラッキーだった。僕達は受付用紙に名前、来た時間、生徒IDを書き、机に降りてあった。部活申請書を取る
「席は…後ろの方にしましょう」雪も気を遣ってくれている
「部活名は、天文部と、部長は誰にします?」その言葉に僕と天王寺さんは一斉に雪を見る
「ふぇ!私?」
「雪が言い出した事だし知識量もあるでしょ?」
「うん、私は部長向きじゃ無いし…」
「じゃあ…うん!私が部長をやります!」僕達は拍手をする。ここに天文部部長、雪翔子が誕生した
「でも私、星の知識はあまり無いけど大丈夫かな?」
「それなら大丈夫だよ。雪が丁寧に教えてくれるからね」
「はい!任せて下さい!」かつて病院の屋上で僕に教えてくれたように…そうか雪に出会ってもう一年になるんだ!早いな…
「あ、でも僕達、地学の事はさっぱりだよね?アルク頼めるかな」
「お任せ下さい!江戸川区の地学なら図書館レベルの知識量を持っています」頼もしい言葉だ。流石は江戸川の神様
「じゃあ後は提出するだけですね!」受付の先生が戻って来ていたので部活申請書を提出する
受付の先生は一通り見た後に許可の印鑑を押す。そして大学ノートを雪に差し出す。先生の説明ではこのノートに活動記録を書いて定期的に提出するらしい。活動した日付や活動内容を書けばいいみたいだ
雪はそのノートを大切にしまうと笑顔で言った
「では最初の活動は図書館で星と地学の勉強です!」
「おー!」やる気満々の雪と天王寺さん。掛け声は恥ずかしいので取り敢えず僕も左手だけ上げておく
「そうすると篠崎図書館だね」僕も最近、行った事ある場所だ。建物の三階にあり一階と二階はスーパーになっている。三階には図書館の他にカフェもありくつろげる様になっていてその清潔さは病院にも匹敵する
本好きの僕には天国と言える場所だ
因みに月詠に会うのは夕方…黄昏時だ。アルクの鳥居でいきなり押しかける作戦だ
相手が本当に探偵なのか…素性がわからない以上、海堂や秋葉くんを巻き込むわけにはいかない。僕達、三人で行く事に決めた
僕達は帰宅時間も自由なので申請書を出したらすぐに受付に帰宅時間を書く。学校に来たのが十分前なのにもう帰宅出来る、しかも学校公認だ。これが通信制…恐るべし!
僕達は学校を出て篠崎駅に行くバスに乗る。ここでも魔法使いとか色々言われたが情けない事に左には雪、右には天王寺さんがいて、まるでボディガードの様にしてくれているから僕も視線を気にしないでいられる。因みにバッグにはアルク、完璧な配陣だ
僕達はしばらくバスに揺られながら雪の太陽系講座を聞いていた。その時に気がついてしまった
「そう言えば僕達の名前さ、太陽系惑星の漢字入ってるよね?」僕がいきなりそんな事を言ったので二人とも考える
海堂夏希が海王星
木下秋葉が木星
天王寺有里栖が天王星
「ほらね?」
「ちょっと待って下さい!私がいませんよ!?」
「翔子ちゃんは…え〜とあれだよ!…あれだよ?」フォローの言葉が見つからないらしい。言った僕の責任でもあるか…それらしいフォローを入れておくか
「雪は、僕と結婚したら星野になるんだから星が入るよ」
「そうでした!星とは全ての惑星を示す言葉…早く結婚しましょうね!?」
「ごちそうさま」自爆した…!天王寺さんの優しい目が心にくるよ…
「そして太陽系は太陽を中心として成り立っています。つまり私達が翔ちゃんの周りに集まるのは運命なのかもしれませんね?」
「それ!ロマンチック!」女の子達の恋話が始まった。その理論だと太陽と月は切り離せない関係
星野翔太が太陽
月詠夜空が月
つまり僕と月詠が出会うのも運命という事になる…それは、笑えないね
そんな事を考えてるうちに篠崎駅に着く
篠崎駅は地下鉄で図書館がある建物とも直接繋がっている。今回はバスだから関係はないが…
まだ昼前だからか図書館は空いていた
僕達は天文関係と地学関係の本を持ってきて自由に使える机に置いた。本の配置がわかりやすいため非常に助かる
僕はスマホでメモ機能を開くと本に書いてある事をメモしていく
エネルギー、有機物、水があれば生命体がいる可能性がある。しかし今のところ、その存在は確認されていない…か
それで地学は…
地球をやそれを形成する物質についての学問、地質学、鉱物学、地震学か…地質は地層の事、鉱物は宝石などの類、あとは地震か…僕のエレメントは地だから鉱石を理解すれば生成出来るし地震も起こせるという事か?
この二つは覚える必要はないかな
石や岩を操作して攻撃したり防いだり、集めてゴーレムを作るなんてのは使えそうだ。他には建物を建てたり?試す価値はある
砂はどうかな?砂でお城を建てたり操作して芸をする…皆んなで海に行った時に使えそうだ。一番使えるのはやっぱり大地の恵…植物や作物などの操作だ、その中で丈夫な魔女ほうきを作り空を飛ぶ!これは地のエレメントの特権だろう。安定性がいいのが重要な点で速度はあまり出ないと推測出来るが竹刀を飛ばしてみた感じだと出せて六十キロ辺りかな?それだけあれば充分だろう
更に花畑や果実の付いた木、お米だって作れる。勿論、樹木だって作れる。そう考えると地の魔法は便利性ではトップクラスかもしれないな!あれ?今、魔法の勉強しているんだっけ?
我に返った途端、バッグから視線を感じた。そして小声で…
「魔法の勉強は私が教えますよ!」とアルクに言われてしまった。確かにアルクに教わった方がいいだろう。アルクは丁寧に魔法を教えてくれた
地の魔法で出来る事や役に立つ魔法、更には地の魔法以外も僕が使えそうな初歩的な事だけ教えてくれた。魔法は実戦よりもやはり理解が大切らしい。僕は一番、使いたい魔法
ほうきで空を飛ぶイメージをする
ほうきを宙に固定させて腰を掛ける。跨がるのはダサいから却下だ…
そうだ、思い出した!僕が入院していた頃に魔法使いがほうきで空を飛び困ってる人を助けるお話があった筈だ。相棒に黒猫を膝に乗せて依頼をこなしていき人々を幸せにする物語で僕はそれに憧れたっけ…
「やってみますか?」また小声でアルクが話かけてくる。どうやら顔に出ていたらしい
ほうきで空を飛び膝には白いカピバラ…ありだね
「少し試したいことがあるんです」
アルクは雪と天王寺さんにも聞こえる様に話した。今、魔法を使っていいか…だ
「そうだ。もう天王寺さんも仲間だし魔法を使う掟を伝えないとね。それに海堂の事も紹介しないと」
「そうでした。少し図書館を出ましょう」僕達は図書館を出て休憩スペースに移動する
雪はスマホで海堂にLINEでメッセージを送る。するとすぐに返事が来た
「今から夏希ちゃんと通話しますね?それに有里栖ちゃんが出て下さい」なるほど、海堂は今学校だから直接会えない…しかしLINEを使えば声だけでも聞けるし人見知りの海堂にはありがたい筈だ。何で中学校にいる海堂がスマホを持ってきているのかは詮索してはいけない
雪は通話ボタンを押し、天王寺さんにスマホを渡す
「あの、もしもし?」スマホから海堂さんの声が聞こえてくる
「は、はい!」
「初めまして!私は天王寺有里栖と言います。宜しくお願いします!」
「わ、わわわわ、私は…海堂…な、夏希…です」一度打ち解ければ会話に支障は無いがそこに至るまではしばしかかると思われる
雪は天王寺さんからスマホを返してもらうと
「ごめんね?夏希ちゃん。昨日、新しく仲間になった有里栖ちゃん、翔ちゃんの魔法の事も知っているよ」
「そ、そうなんだ…やっぱり初対面…対面していないですけど緊張する…」そのあと、海堂に昨日あった出来を細かく話し今、おかれている状況を説明する
「そんな激しいバトルが!?是非みたかった!」まぁ、ゲーマーの海堂ならそこに食い付くのは無理もないよね
「それでね。星の魔法使いって知っていますか?」雪が本題に入った
「なんですか?星の魔法使いって言うのは?」どうやら海堂は知らない様だ
しかし思わぬところから情報が入った。保健室にいた先生だ
声が遠くて聞き取りづらいが先生が何かを語っている。それを海堂がそのまま伝えてくれた
「先生によるとね。大昔、この江戸川区を管理…支配していたのがアルクトゥールスと言う神様でその遣いが魔法使い星野家だったんだって!それで今でも星野家の人間は星の魔法使いと江戸川区では尊敬されているとか…それって星野先輩と神様の事ですか!?」僕はその事を聞いて驚愕した。だってこの話は、一般的には知られていない筈だ!それにアルクトゥールスという名前をつけたのは最近…だから昔話になる筈がない!
「私達もわからないんです!突然、翔ちゃんが尊敬の眼差しで見られる様になって…そして星の魔法使いと言われたんです」
「そ、そうですか…え?ちょっと待って下さい!この話は江戸川区民なら誰でもが知ってる話だって先生が…」何がなんだかわからない…だって昨日まで一般的に僕は、普通の人でアルクは知られていない存在だった!それが、誰でもが知ってる話?
この場にいる全員が凍りついた様に動けなくなる…そして時が止まっている錯覚さえ覚える。しかしそれを否定するのは休憩スペースにある自動販売機の音だった
「アルク…君はこの状況をどう思う?」流石に状況が状況だからかカピバラモードから人間になる
「私もわかりません…ただそれを出来る人を知っています」そんな人物…いや、一人いるじゃないか?
「月詠夜空…?」僕の問いに頷き返すアルク
「翔太くん、大丈夫?」心配して近づいてきてくれる天王寺さん
「大丈夫だよ。むしろ月詠について興味が出てきた」どうしてこんな事をしたのか…今日の黄昏時にはわかるのだから
海堂と通話が終わったらしい雪が休憩スペースにあるソファーに座る。またそれに続いて僕達も座る
「夏希ちゃんは学校で調べてくれるそうです。あと魔法の許可も得ました」
「よかった。月詠がどんなやつかわからない以上、防御策は必要だからね」
「有里栖ちゃんに魔法の掟を教えますね?これは翔ちゃんが作った掟です。魔法で人を殺めない。魔法は幸せの為に使う。魔法を使うには仲間の許可が必要。この三つが掟になります」
「それで許可を得ていたんだね。その掟…立派だと思うよ。私も武道の家だからわかる。だから私も月詠さんに関係する事全てに魔法を使う事を許可するよ」
「皆さんの承諾を得たので早速、試しに魔法を使ってみて下さい」アルクはここで魔法を使えと言う。しかし真剣な表情から拒否権は無いようだ
「何をすればいい?」僕は左手からスピカを召喚する
「先ずは飛行する為に必要なほうきを生成して下さい。出来れば丈夫な木材で出来たほうきがいいですね」丈夫な木材…僕は目を閉じて頭で想像する。僕が知っているなかで丈夫な木材といえば…紫檀だ!その紫檀を魔女ほうきの形に生成…
すると、スピカの本が開かれ本からほうきが現れた。なるほど!生成はこうやってやるのか
僕はほうきを持つ。色からして紫檀で間違いなさそうだ
「次にほうきを宙に浮かべて下さい」それなら竹刀でやってるから簡単だ
僕はほうきを宙に浮かべる
「次にそれに乗って下さい」
「わかった」僕はソファーから立ち上がりまるでベンチに座る感覚で横向きで座る。やっぱりこの格好がカッコいい!膝にスピカを置く
「わぁ!翔太くん魔法使いみたい!」
「これでローブを着れば完璧に魔法使いですね!」ローブか…植物繊維のローブなら生成出来る筈だ。軽くて肌触りのいい素材だと…綿辺りだね
僕は綿のローブを想像する。ローブだからフードが付いていて色は…赤にしよう。スピカも赤だし紫檀はレッドサンダルウッドとも呼ばれている。だから赤で統一しよう
するとまたスピカが開き、白紙のページからローブが現れた
成功だ!僕はそのローブを着る
「これでいいかな?」
「凄い!凄い!」と拍手して喜ぶ天王寺さん
「可愛いです!」と満面の笑みで喜ぶ雪
しかしこれは…
「ハロウィンかな?とか勘違いされそうだよ…また四月なのに…」
「その姿でほうきに乗りながら図書館に入って下さい」アルクはとんでもない事を言い出した
「つまり空を飛びながら、この異様な姿で図書館に入れと?通報されるよ?」しかしアルクは冗談では無く真面目に言っているみたいだ。仕方ない…通報でもされたら土下座で謝るか
「ちょっと行ってくるよ」僕はほうきに乗りながら図書館に向かう。しかし、流石、地の魔法…全く運動神経の無い僕でも安定してほうきに乗れる。これはありがたい!
「私達も行きます」
「もし通報、されそうになっても三人ならなんとかなるよ!」巻き込まないつもりだったが雪と天王寺さんはついてくる気らしい
正直言って心強かった
僕達は図書館に入る。普通に考えれば
ほうきで空を飛び、しかも怪しい赤いローブを着た人が図書館などに入ったら先ず止められるだろう。しかし…係員達は僕達をチラッと見ると微笑んでくれた
今度は人間モードのアルクも一緒にいる
「やっぱり…星野さんが魔法を使っていても誰も驚きません…」
「アルクが確かめたかった事とはこれの事?」
「はい」アルクは考え込む
「一緒にいる私達も大丈夫そうですね…」雪の言う通り雪と天王寺さんにも何も言わない職員さん達…これは…
「先程、海堂夏希さんが言っていた歴史が本当だと証明されてしまいました」アルクの言葉に息が詰まりそうになる…
「じゃ、じゃあ本当に翔太くんは魔法使いとして認識されているの…?」僕もアルクも天王寺さんも暗い表情になってしまう…しかし雪だけは違った
「つまり!私の彼氏は魔法使い!そして我が部には魔法使いがいる事になりますね!」そう明るく前向きに言ってくれた。だから僕達も前向きになる事が出来た
「そうだよね。人前で魔法を使っていいなら人体解剖とかされずに済むし何より人助けに使えるよね」
「うん!武道対魔法…また実現出来るという事だよね!実はね?私もお相手をお願いしようと思ってたの!」
「アルク、それにこれで君を信じてくれる人が一気に増えるんじゃないかな?」僕は未だ暗い表情のアルクの頭を優しく撫でる
その時ある疑問が浮かんだ
「ん?皆んながアルクを知っているんだったら目的は達成出来てる?」そうだ。江戸川区民誰もが知ってる話しならアルクは信仰を得ている事になる
「う〜ん…それが前と変わらないんです…」
「何で変わらないのかわかりますか?」
アルクは図書館の職員のところに行くと…
「私が江戸川区の神様!アルクトゥールスです!」と言った。しかし職員は苦笑いし静かな声で
「そんな嘘ついたらバチがあたりますよ?」と優しくなだめる
そしてアルクは、こちらに戻ってくる
「どうやら私がアルクトゥールスとは思われていないみたいです」
「つまりどういう事かな?」天王寺さんが疑問に思う
「つまりですね。私はアルクトゥールスとは認識されていないと言う事ですね」
「ん?でもそしたら星の魔法使いが尊敬される意味がなくなるんじゃ…」
「それは多分…」アルクはそこで言葉を止めてしまった
そして僕は気が付いてしまった…
「さっきの職員…バチが当たるとか言ってたよね?それに…」この考えは最悪の考えだ。しかし僕と月詠の考え方が似ているなら…僕だったらこうする
「アルクトゥールスは今も実在している…」僕の人事が意外だったのか二人は唖然としてしまう
「僕の考えはこうだよ。ここにいるアルクとは別にアルクトゥールスという神様が仕立て上げられている」
「翔ちゃんがそう思う理由はなんですか?」僕はほうきから降りて職員さんのもとに向かう
「お忙しいなか失礼します。突然変な事をお聞きしますがアルクトゥールスは今も実在すると思いますか?」すると職員さんは…
「魔法使い様が何を言いたいのかわかりませんがアルクトゥールス様は[今も]存在しますよ?その為に魔法使い様がいるんじゃないですか?」やっぱりだ
「変な事をお聞きしてすみません。少し心配になってしまって…」職員は微笑み
「お気持ちはお察しします」と言ってきた
僕はお辞儀をして三人の元に戻る
「月詠…最悪な事をしてくれたものだね」僕は一番当たって欲しくない考えが当たってしまって怒りが満ち溢れる
それはアルクを偽ったから…
そして月詠と僕の考え方は同じだから…
そんな事実を突き付けられてしまった
実に腹立たしい!
僕達四人は、現状を整理する
・アルクトゥールスは今も実在する神様、それはアルクとは別
・僕は星の魔法使いと呼ばれていてアルクトゥールスに遣える人として尊敬されている
・これら全ての元凶は月詠夜空だと思われる
気付けば時刻はお昼を過ぎていた
「一度家に帰りましょうか?」雪の提案に皆んな賛成する。さっきまで降っていた雨は上がっていた
僕達はバス停に着く
「アルクカピバラモード」アルクはカピバラになる。そしてバッグに入ろうとするがそれを抑える
僕はほうきに腰を掛けるとアルクを膝の上に乗せた
「僕はほうきで帰るよ。少し考え事もしたいし…何よりバスは視線が…」僕の考えを理解してくれたのか雪は頷いてくれた
「天王寺さん。夕方にまた会おうね」
「うん!ほうきから落ちたりしないようにね?」僕達は別れた
あまり低くく飛ぶと人や自転車の邪魔になるしそもそも法律ではほうきはどの位置に当たるんだ?そんな事を考えながら僕は少し高めに飛ぶ、中途半端な高さだと電線に引っかかって危険な可能性があるので電柱より高く飛ぶ
僕は目の前の景色に驚いた。それはアルクも同じだろう。膝にいるアルクが言ってきた
「この景色が見られるのは…私達の特権ですね」
「確かにそうだね。でも月詠が何をしたいのかわかるまでは心から楽しめそうにないよ」
この高さは景色が一望出来て最高だ、しかし…僕の心が曇っているせいか景色も曇って見える。懐にしまったスピカを撫で僕はゆっくりと自転車ぐらいの速度で帰路につくのだった。湿った空気が肌に纏わり付くようで少し気持ち悪かった
やはり空を飛んだ方が早かったみたいで僕が帰宅した十分後に雪が帰ってきた
僕は遅めの昼食を作っている最中だ
アルクは既にソファーで待っている
「私も手伝いますね!」雪もエプロンを着てやってきた
「じゃあお願い。ナポリタンを作ってるんだけどパスタ、火の調整お願い出来るかな?僕は食材を切るから」
「了解しました!」
こうして一緒に料理を作るのが日課になりつつある
「そう言えば翔ちゃんは包丁も左利きなんですね?」
「うん、どうしてかな?」
「だって翔ちゃん、お箸やペンは右手で持ちますよね?なのに他は左手です」
「ああ、それはね?小さい頃に日本は右利き文化だからってお箸と読み書きに関しては右手でやるようにって教わってね」
「お父さんにですか?」
「ううん、途中で退職しちゃった看護婦さんに」僕はこの何気ない会話が大好きだ。こうやって少しずつ家族になっていくのかもしれない。最近そんな事を思うようになっていた。だから早めに不安要素は取り除かねばならない
「じゃあ両聴きですか!?」
「そうだけど…武器、二本持って二刀流とかやらないからね?」
「う〜〜」露骨にガッカリする。雪そういうの好きそうだもんな〜
「じゃ、じゃあ!倒してやる!一人残らず倒してやる!とかは?」それも刃を二つ持って戦う作品だったよね?
「はぁ〜仕方ない…じゃあこの辺りでいい?」僕は一度咳払いし最近の有名作品のセリフを言う
「歪んだ大人の心臓を頂戴する!」雪の顔がぱっと明るくなり
「怪盗団だー!?私の彼氏は怪盗団ー!」などとテンションが上がっていた。その笑顔は可愛くて僕はまぁ、たまに言うぐらいなら…いいか、と思うのだった
遅めの昼食を食べ終えて僕達は天王寺さんを家に呼びリビングでソファーに座り作戦会議をする
「私は竹刀を持ってきたよ。もしもの時の為にね?」
「私はスマホを録画モードにしておきます」
「僕はいつでも魔法が使える様にしておくよ」
「私は私の世界に行ったら星野さんと天王寺さんを少し鍛えようと思います」その言葉に先日の魔法合戦の記憶が蘇る
「ほ、ほどほどにしてね?」
「はい!死なない程度には!」とアルクは無邪気な笑みで言う。これは覚悟しておく必要がありそうだ…
「思ったんだけど…何で皆んな、翔太くんとアルクちゃんの事知っているのに私達は知らなかったんだろう」そうだ!確かにそれはおかしい…なにか共通点でもあるのか?そんな事を考えているとアルクが言った
「私の推測ですけど…私を信仰していたからでは、ないでしょうか?」僕、雪、海堂、天王寺さん、確かにアルクの存在を元から信じていた人達だ。なら秋葉くんも?
今日は学校に登校していなかったからわからないが可能性は、ある
しかし秋葉くんを巻き込むのはやめよう。
「そうだ!今日の夜に天体観測をしませんか?」そんな意見を言ったのは雪だった。
「賛成だね。僕もこんな意味のわからない状態を抜け出して部活をしたいよ」
「せっかく部活作ったんだもんね!」
「今日の夜の天気は晴れか」僕は、スマホの天気予報で確認する
「部活メンバーとして先ずは我が部で活躍する天体望遠鏡を紹介しないといけません!」
「あのでかいやつだね。きっと天王寺さん驚くよ?あれが天体望遠鏡、てね」
「ええ!どんなのだろ?楽しみー」気が張り詰めた空気が一転し和やかな雰囲気になる。流石はムードメーカーの雪だ。
「後は今度さ、江戸川で石を探してみない?地学の本に書いてあった化石とかみつかるかもよ?」そんな楽しい会話をして黄昏時まで僕達は、過ごした
そしてやってきた黄昏時….
僕達は顔を見合わせてから鳥居を潜る
「うわぁ〜凄い!凄い!これがさっき言っていたアルク様の世界なんだね!?」
一面が雪とヒメサユリに囲まれた世界
「感情に浸っている暇はありませんよ?星野さんと天王寺はお稽古の時間です!」
僕が行う稽古は魔法を中心とした飛行や物質の操作だ。
天王寺さんは竹刀を使った接近戦の稽古だ。
結論から言うとアルクの稽古は厳しかった。アルクが飛ばす石をほうきで飛行しながら躱したり、物質を操り飛行した状態でも攻撃、あるいは防いだりと容赦が無かった
天王寺さんはアルクに何度もハリセンで叩かれていた。武道で毎日修行している天王寺さんでもこの世界でのアルクには勝てないのだ。
そんな特訓が何時間続いたかわからない、この世界では時間感覚を失う
「今日はここまでにしましょう」
「きょ、今日は?」
「当然!これから一ヶ月は毎日、特訓です!お二人とも!覚悟する様に!」
「鬼の神様だ〜」
「ファイト!です!」天王寺さんの悲鳴と雪の応援が響き渡るのであった
しばらく休憩し、いよいよ月詠の事務所へ向かう。
「いいですか皆さん!私は月詠夜空には会いません」
「それが良いだろうね。月詠はアルクを脅威に思っている。だから信仰の邪魔をしようとしているわけだし」実際に探偵なら調べるのは簡単だし昨日の天王寺家にいたならアルクの名前を知っているのもうなずける。アルクからアルクトゥールスまで知っているのは探偵の勘か、調べたか、だろう
僕達は光に包まれた
気がつくとそこは、でかいビルの真前だった。ここが月詠の事務所か…..
ビルの前には黒服の男が二人
僕は懐に隠したスピカと左手にほうき、更に赤いローブを羽織る。
雪はスマホを録画モードにする。
天王寺さんは竹刀が入った竹刀袋を握り直す
いざ出陣だ
僕達はビルに堂々と入る。黒服はチラッと見るとオートロックを解除する。どうやら話は通っているみたいだね。つまりそれは月詠が待ち構えている証拠でもある。名刺には十九階に探偵事務所があると書いてある。エレベーターの前にインターホンまでありエレベーターすらオートロック式だ。僕は名刺に書いてある番号を入力する。すると勝手にエレベーターが開いた。あくまでも話は中で…..か
エレベーターに入り十九階を押す。ビルの最上階じゃないか!黒服がいた様子からして他にはどんな事務所が入っているのか気になるところだ
「いよいよですね」雪の声がエレベーター内で響く。
その言葉に僕は頷く。長い時間エレベーターに乗っている気がする。このエレベーターは実は階が存在しなくて永遠に上り続けるのでは?と錯覚してしまいそうだ。だが辿り着いた。
そしてエレベーターは十九階に着き扉が開かれる。そこにいたのは上は白いTシャツに紺色のジャッケットを着ていて下はジーパンで髪は短く、高身長、体型は細めの昨日、天王寺家で会った男性だった
「いや〜!いつ来るのか待ちわびたよ!」
その男は不気味に笑いながら話かけてくる
こんなところには長居したくないな
「ここに来た理由は、わかっていますよね?」雪が最初に切り出した
「星の魔法使いとアルクトゥールスの件だよね?わかっているよ!」
「質問に答える気はありますか?」僕は辺りを見渡す。月詠一人か、
「あるよ?だからこうして一人で待っていたわけだからね?」
「じゃあ最初の質問、どうして星の魔法使いとアルクトゥールスを皆んな知ってる状態になっているのか説明してもらおうか?」高層ビルから見える景色は観覧車がライトアップを始め綺麗だった。しかしこの場所だけは殺気に満ち溢れていた
「それはね?俺がこの世界の神様だからだよ!」
「信じられないよ!」そう力強く言ったのは天王寺さんだった
「なら証拠を見せよう!」月詠は右手を前に突き出す。すると驚く事に手から金が現れた
「これが神様の証拠だよ?他に要望はある?」僕は月詠に近づき金を受け取る。重い!僕の魔法で確認する。元素記号はAuと表示された。本物!?
「なら車はどうです?」雪の発言に首を振った。ビルの床が抜けちゃうよ。道路標識やバイクなら出せるよ?」そう言うと手から止まれの道路標識を出し
月詠の右側にバイクが現れた。
僕は金を返すと更に月詠との距離を縮め言った。
「ではあなたは、何の神様ですか?」月詠はまたしても不気味な笑みを浮かべて
「神は神様さ!この世界の神!それが月詠夜空さ!」最初から頭のおかしい人だとは、思っていたがここまでとはね
「だから俺は人の認識を変えた!アルクトゥールスという異物が紛れこんで何かを企んでいたからね!だから昔話を利用させてもらったのさ!」理由はわかった。やっぱりアルクの邪魔が目的な様だ。しかし聞き捨てならないセリフがあった
「アルクが異物だって?」
「ああ、異物さ!」どちらも譲らない状態、これは良くない、相手のペースに飲まれている!わかっているが…..
「翔ちゃん!落ち着いて下さい!」僕を我に返したのは雪の言葉と左肩に置かれた震えた手だった。雪もまたアルクを罵倒された事が許せなかったのだ
それは天王寺さんも同じだった
「すみません、取り乱しました」
「俺も意地悪な事を言っちゃったね〜でも挑発して相手の本心を聞く、これは探偵の本分なんでね」言い争いで探偵に勝てる訳がないか。そんな僕を見かねて雪が話し合いの進行を始めた。
「それではあなたが神だと仮定します。そしてアルクちゃんが邪魔だから翔ちゃんを利用して人の記憶を改ざんしたと、言う事でいいですね?」
「間違ってないよ」月詠は不気味な笑みを崩さない
「どうしてこんな事を?」
「それはね?君達の!」そこで月詠のスマホから着信音がなる
「おっと?失礼!」月詠は通話に出る
「はい!はい!え?話過ぎ?ええ、ええ、わかりましたよ」
それだけ言うと通話を辞める
「ちょっと神様にも事情があってね?話せないや、上に怒られちゃったよ」
「神様の上?」天王寺さんが疑問を抱く
「そう、そう、神様にも逆らえない存在がいる訳、だから単刀直入に言うよ?君達さ、探偵としてアルバイトしない?」
「君は何を言っているんだい?アルバイト?僕達が探偵の?」月詠が不機嫌そうな顔をする。
「いやさ〜探偵のアルバイトと言っても簡単な仕事だよ?浮気調査とか事件現場とかそういうのじゃなくてね?動物の捜索とか子守とかそんなの」
「えっと?探偵さん…..ですよね?」雪の言いたい事はわかる
「俺も探偵だって言ってるのにね?」月詠は自身のパソコンを弄るとあるホームページを見せてきた
「これ、俺の事務所のページなんだけどね?ほら、これ見てよ」僕達はパソコンを覗く、依頼ページと書かれたそこには探偵には似つかわしくない依頼が書かれていた
「探偵の仕事を勘違いしている人がいるみたいでさ。こんな仕事もくるわけ」
「つまり僕達に雑用をやれと?」
「簡単にはそういう事」さっきまでのふざけた態度とは違って真面目だった
神様の上?某有名作品の海王様とかでもいるのか?しかし好都合だ。僕達は初めからそのつもりでいたからだ。アルクの世界で僕が考えた作戦、それは探偵の仕事を手伝う事だった。勿論、リアルに金銭的な問題もあったが、敵の内部に忍び込み更にはアルクの存在を改めて認識させる。それには人助けが一番だ。星の魔法使いがアルクを連れていても不思議ではないし助けられた人間は心理状、信じやすくなる。やはり僕と月詠の考えは同じだった。
「最初からこれが目的ですか?」天王寺さんの言葉に月詠は頷く
「俺には俺の目的が、君達には君達の目的があるだろ?だからお互いに利用し合う。それでどう?」月詠の目的が今はわからないが僕達の目的を果たすには好都合な条件だ
しかし簡単にはいかせない
「僕は魔法使いですよ?雇うだけのお金があなたに出せますか?」
「お金なら問題ないよ?俺、金持ちだし!このビルだって俺の所有物だからね」この十九階建てのビルが丸々、月詠の所有物!?
「そうだな、一つの仕事に付き一人、諭吉一枚でどう?」
「それは一日中、何回でも依頼を受けていいのかな?」月詠は笑顔で言った
「勿論だともさ!つまり一日で十回、依頼を受ければ三人で諭吉三十人さ!あっ!勿論、契約書も書くし依頼を受ける時はこの俺の事務所のホームページから受けれる様にするからいちいち会わなくてもいいよ。君達の口座を教えてもらえればその日の夜に振り込んでおくよ」つまりスマホで依頼を受けれるし、気分次第で受けなくてもいいか…..
「ちょっとおいしすぎて直ぐには肯けないですね」雪の言う通りだが…..僕は、提案する
「後は一つ、条件をつけてもらっても?」
「いいよ。まぁ、俺と君の考えは同じだから言いたい事はわかるよ?もう二度と人の認識を変えるな、でしょ?」
「話が早くて助かります」こうする事でアルクの得た信仰を失う事はない、まだ月詠が神だとは信じていないが変な技を見せられたし用心に越した事はない
「翔太くんは受けるの?」僕達は目を合わせる。想定外の事もあったが作戦通りに事が運んだ。後は獲れる報酬をどこまで伸ばせるかだ
「後は、最大何人まで協力してもいいですか?」僕は問う
「後、二人までならいいよ」こうする事で来年に海堂も協力出来るというわけだ
僕は雪に頷く。それを見た雪が言う
「交渉成立ですね?それでは契約書を下さい」こうして僕達は契約書をもらいじっくり契約内容を見てから記入した。これで問題だった金銭面とアルクの信仰、そして月詠という謎の存在に近づける。この懐にある、スピカを使わなくて済んだのは喜ばしい事だ。正直言うと僕はエレベーターを出た瞬間、黒服の男達が銃や刃物を持って現れるまで想像していた。しかし月詠はそこまで僕達を警戒していなかった。それは警戒するに値しないなのか?はたまた別の理由なのか?今の僕にはわからない。月詠の事務所を出るときにホームページのパスワードが書かれた紙と謎のバッヂをもらった。探偵活動する時には必ず付ける様に言われた。十中八九GPS付きだろうがそれぐらい気にしない。僕達は無事に帰宅する事が出来たのだから
夕食はオムライスを作った雪がどうしてもと言うのでケチャップでハートマークを描いた。アルクも今日のアルバイトの話は賛成してくれた。アルバイト開始日は五月からだ。それまで時間があるし教科書が届いたらまとめてレポートをやってしまおう。
それから昼と夜は部活をして黄昏時は魔法の修行だ!これから忙しくなる。気合を入れていこうと雪の大好きな聞こえない様に小さな声で言葉を口にした
「僕ワクワクすっぞ!」
夕食後は雪と天王寺さんと天体観測だ。僕達の家にある庭で行う
「さて!有里栖ちゃん!この天体望遠鏡で月を見える様にして下さい!時間は二分です。それではスタート!」でた、雪のテストだ
「えっ!えっ!えっ!」とあたふた戸惑う天王寺さん
勿論、初心者の天王寺さんに出来る筈が無く失敗に終わる。雪は満足そうに頷くと優しく教えてあげていた
三人で見る月はいつもより綺麗に見えた
4mmレンズに変えクレーターと火星も見た。火星はこんな色をしているのか!
天王寺さんは終始目を輝かせていた
勿論、春の大三角形も見た。僕達の関係が春の大三角形をモデルにしている事を天王寺さんに伝えると
「す、凄い!凄い!そんなロマンチックな意味があったんだね」と言った。春で暖かくなったとはいえ夜は冷える。二時間ぐらいで部活を切り上げた。明日も天王寺さんと一緒に登校する約束をしこの日は解散になった
それからの日々は早かった。教科書が届くと僕達は凄い勢いでレポートを片付け、天文部に使う時間を増やした。江戸川の河川敷で岩石を拾いこれは、砂岩?泥岩?礫岩?など本を参考にして調べたりアルクの説明でここは昔、川だったんですよ?と今はただの道路の場所を紹介されたり、とにかく充実した日々だった。黄昏時にはアルクの修行が待っており僕は魔法を、天王寺さんは武道を修行した。そんな日々が過ぎて行き…明日からバイトも始まる四月三十日
情けない事に僕は風邪を引くのであった
スノームーン後編 end
次回から読みにくいと指摘がありましたので作風を少し変えます。視点は統一して主人公、星野翔太の視点で物語を描いて行きます
次回から真実編突入!
この世界の真実とは!?
月詠の正体が明らかに!
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