第4話 学校にて

「ふぁ~……」


 眠い。非常に眠い。めちゃくちゃ眠い。

 登校して朝のHRも始まる前から既に電池切れを起こしそうだった。


 翌日、朝起きると俺のベッドに先生が潜り込んでいた。なんてこともなく、いつも通りに起床した。

 リビングには掛布団を吹っ飛ばしたのであろう先生が大の字で寝ていた。たぶんあの人寝相悪いんだな。

 軽く起こしてみると、グーパンされそうになったので怪我したくないし放置。

 とりあえず自分の朝食を軽く済ませ、先生の分を用意し、鍵をわかりやすくテーブルの上に置いて俺は先に家を出ることにした。

 一緒に登校するのもおかしいしね。

 あの調子だともしかしたら寝坊して遅刻もありえるけれど、その辺は社会人なのだし大丈夫だろう。大丈夫だよな……。


「なんだ達也、眠そうだな」

「ん? あぁ、昨日ちょっと寝るの遅くてね」


 声をかけてきたのは、後ろの席の守屋直人もりやなおとだ。

 一年のころからの付き合いでなにかと俺に張り合ってくるところがある。

 主に勉強面だけど、こいつ自体そんなに勉強が好きじゃないみたいで成績も良いとは言えない。なぜ張り合うのか。

 まぁ勉強は苦手みたいだけどスポーツやゲームは得意なようで、付き合わされた時にボコボコにされたっけ。

 友達かと聞かれれば、正直わからない。

 ただ、あまり人付き合いが上手くない俺にとって、一番話しやすいやつなのは間違いないと思う。仲がいいかはしらんけど。


「へー、彼女でも連れ込んだん?」

「……アホか。そういうのいないの知ってるだろ」

「今少し間があったよな? な?」


 こいつ変なところで勘がいいんだよな。

 割と近いところを突いてきてドキっとしてしまった。

 いや、先生は彼女とかそういうのではないわけだけど。

 なんというか手のかかるペット飼い始めたような気分なんだよな。


「普通に勉強してただけだよ。今週小テストあるって言ってたろ」

「ふーん、まぁそういうことにしておいてやるか」

「そういうわけで俺はめちゃくちゃ眠いの。HR始まったら起こしてくれ」

「仕方ねえなぁ。まぁもうチノちゃん来そうだけどな」


 少しでも寝ておきたくて、俺は話を止め机に突っ伏すように眠りについた。




「――くん。――しきくん。伊佐敷くん」

「ひゃ、はい!?」


 どれくらいたったのだろうか。

 肩を揺すられながら声を掛けられ目が覚めた。

 目の前には家で大の字で爆睡していた池野崎先生が立っている。

 しまった……寝すぎたか。

 周囲を見るとクラスメイトたちが笑っている。

 後ろに座っている守屋なんかは大爆笑だ。

 あいつ……、起こせって言ったのに。


「おい、起こしてくれって言ったろ」

「そうだっけか? まぁでも寝てるほうが悪いだろ?」


 にひひとイタズラが成功したような子供のように笑う守屋。

 確かに寝てた俺が悪いのかもしれないけど。先生めっちゃ見てくるし。

 目の前に立つ先生は、うちで素を出していた時と違い学校モードに入っていた。


「えーと、すみませんでした」

「ん、昨日あんまり寝れなかったのかな?」


 そうです。あなたのせいで眠れませんでした。と言うわけにも行かないので適当に返事をしておく。

 寝不足の原因が先生なのにそれで怒られるなんて理不尽だ。辛い。


「先生、ここは一発叱っとかないとっすよ」

「お前は黙ろうね」

「うーん、そうね。伊佐敷くんのことだから勉強してて寝るの遅かったんでしょうし、今回は特別に見逃したげるわね」

「え?」


 叱られるのを覚悟して起立したが肩をぽんっと叩かれそれで終わりだった。

 さすがに先生も俺の寝不足の原因が自分にあるので叱らなかったのだろうか。


「先生、達也に甘すぎじゃないっすかー?」

「お前うるさい」

「そうね、守屋くんは静かにしなさい。はい、じゃあこの話はおしまい。HR始めるわよ」

「ええ……理不尽だぁ」


 自業自得である。




 それから今日の学校は散々だった。

 睡魔にやられ、ほとんどまともに授業を受けれずに放課後になってしまった。

 まぁこれからのバイトに備え睡眠できたと思うとしよう。授業よりバイトを優先するのもどうかと思うけどそうでも思っとかないとやってけないや。

 そんなことを思いながら帰ろうと廊下を歩いてると後ろから声がかかった。


「伊佐敷くん、ちょっと待って」

「先生、どうかしました?」


 振り向くと、池野崎先生だった。

 俺を追いかけてきたのか少々息を切らしている。


「ちょっとこっち来て」

「はい?」


 そう言われ、人のいない空き教室に連れていかれる。俺何かしただろうか?


「どうしたんですか?」

「今日なんで起こしてくれなかったのよ?」

「起こしましたよ。先生が起きなかっただけです」

「それは起こしたって言わないの」

「だって先生起こそうとしたら殴るんですもん」

「そんなことしないわよ」

「しましたよ? 先生の友達もそういうの嫌で泊めたくなかったんじゃないですか?」

「そんなまさか……」


 言うと、先生が顎に手を当てて考え込む。どうやら心当たりがあるらしい。

 今回は俺が正しい。……今回というか大体俺の方が正しい気がするけど。


「まぁそれはいいわ」

「いいんですか」


 自分が不利だからって話切り上げたなこの人。


「呼んだ理由はこれよ」と言って先生がスマホを差し出した。


「なんです?」

「RINE交換しておきましょ。やってなかったら電話でもメールでもいいけど。今日みたいなときとか必要でしょ。朝起きたらあなたいないんだもん、焦ったわよ」


 確かに、一緒に暮らすなら連絡先の交換はしておいたほうがいいか。今日だってバイトもあるし。


「あぁ、了解です。RINEはやってるんでそれで」

「あ、やってるのね」

「なんですかその反応は」

「だって伊佐敷くん、友達あんまりいないから必要なくてやってないパターンもあるかなって」

「さすがに失礼では」


 今時友達が少なくてもSNSの一つや二つやってるでしょうに。

 確かに連絡先交換してる人はすくないが。


「ごめんごめん。まぁそういうわけだから、はい」

「できましたよ。あと今日俺バイトなんで帰り遅くなるかもです」


 差し出されたスマホを使いお互いのスマホに連絡先を交換して先生に返す。というか自分のやつは自分でやってくれればいいと思うんだけどね。


「バイトね、オッケー。鍵はどうするればいい?」

「ああ、その鍵は持っといてください。自分のは俺持ってるんで」

「あ、あと夜ご飯は?」

「夜ご飯ですか? 冷蔵庫に材料とか入ってるんで適当に……ってそっか料理ダメだんでしたっけ」

「そうなのよ」

「そんな自信満々に言われても。確かキッチンの棚にカップラーメンあったと思うんでそれ食べててください」

「えー、カップラーメン?」

「文句あるなら自分で作れるようになってくださいよ」

「むう……」


 不服なのか先生は頬を膨らませ訴えるように睨む。

 ちょっと可愛いと思ってしまったが先生は自分の歳を考えてください。


「はぁ、バイトのまかないでよければ持って帰りますよ。それで我慢してください」

「まかない! それなら待っておくわね」


 なんでそんなに喜んでるんだ。

 まかないになんか思い入れでもあるのかこの人。普通の牛丼なんだけど。


「あ、思ったんだけど伊佐敷くんのバイト先で食べればいいんじゃないの? まかないってことは飲食店なんでしょ?」

「それは駄目、絶対駄目です。ていうか先生お金ないでしょうに」

「えーケチ、奢ってよ」

「生徒にたかる教師ってどうなんですかね……」

「細かいことは気にしないの」

「細かくないんだよなぁ。今日はまかないで我慢してください」

「んー……、仕方ないわね。じゃあ今日はそれでいいわよ」

「今後もですけどね。それじゃあ俺は家帰って準備したらバイト行くので」

「バイト終わったら寄り道せずに帰ってくるのよ」

「わかりましたよ」


 お母さんかとツッコミを入れようと思ったけど、そろそろ帰らないとバイトに遅れそうだったので素直に返事をして先生と別れ学校を後にした。

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