第11話「エスケープ」
「こっちだ!」
デリトはゴブリンキングの前から身を翻し素早く走り出した。
「ふん早いな・・・!お前の”権能”は”逃げ足”なのか!?」
ゴブリンキングの皮肉には答えず、デリトは地対空ミサイルを出現させてノールックで天井に何発か撃ち込んだ。天井が一部崩れ落ち、走って追って来ようとしたゴブリンキングの頭上や破壊竜に落ちた。
「うぉぉぉ!・・・貴様、逃げる気か!」
「ああ。逃げるね!今の俺じゃゴブリンキングさんにはとてもじゃないが勝てそうにないからな!」
デリトは先ほど通ってきた王座の間への隠し扉に一目散に駆けた。
ゾーレやボッチェレヌもそれに気づき、自分たちを囲んでいるゴブリンゾンビたちと戦いながら隠し扉へと急いだ。
デリトが何発か銃弾を撃ち込んで隠し扉を破壊すると、3人はその中に駆けこんだ。
「追え!我が同胞たちよ!」
破壊竜は大きすぎて隠し扉の穴に入れないのでゴブリンキングはゴブリンゾンビ達を追っ手に差し向けた。
もしかすると逃げると見せかけたデリトの罠なのかもしれない、そう思い、猜疑心の強いゴブリンキングは自分では動かないことを決めた。
それから数分後、<
「すごいね。私たちにも魔法を使えるなんて。」
すぐ近くにいるにもかかわらずデリトたちに気づかず別の道へ行ってしまったゴブリンゾンビたちを思い出し、ゾーレは驚いていた。
「そうだな。魔法というか厳密に言うと魔法スキルなんだが、魔法スキルに限らずBクラスまでの弱いスキルならお前たちにも付与できる。<
「ゾーレ。異世界転生者のスキルにはクラスがあるんですよ。上からS、A、B、Cで、異世界転生者唯一無二のスキル”権能”は測定不能のXクラスってとこですかね。・・・てか、どうするでやんすか。旦那。あの異世界転生者は今までの中でも相当強いですぜ。断トツで強いんちゃう?」
「あのゴブリンキングに勝てるの・・・?」
ゾーレが先ほどのおぞましい光景を思い出し、不安そうに言った。
「ああ。道はあるはずだ。そのためには、人間の捕虜を探して奴の弱点を探る。」
「人間の捕虜ってさっきネドカイが言ってた・・・?」
王座の間へ行く道中、ゴブリンキングが部下として紛れていた人間族の反乱分子を数名とらえたとネドカイが言っていたのをゾーレは思い出していた。
「その情報、信用できるんですかね?あの裏切り者の女ですよ?」
「・・・ああ。だが、彼女が裏切り者であることは途中からそれとなく分かっていた。嘘やごまかしが多数ある中で、いくつか真実を含んだ情報があった。例えば、反乱分子の話は本当だった。」
「えっ、裏切り者って気づいてたって、どこで?」
ゾーレは全然気づくことができていなかった。
首元にネドカイの隠しナイフを突きつけられるまで、ゴブリンに捕らえられた人質だと思っていたのだ。
「例えばだが、彼女の髪の毛の艶や整い具合が他の女性よりも明らかにきれいだったこと、衣服も一見破れているが、他の女性のひどさに比べれば必要最低限の面積しか敗れていないのを見ると違和感を感じた。それに皆、奴隷の女性たちが憔悴しきって人のことに構っていられない中、ゾーレを心配する余裕があるのも変だ。」
「なーるほどでやんすねぇ。それだけですか?旦那。」
「ほかにも、もちろんある。残念ながらネドカイは嘘がうまくないようだ。人は嘘をつくとき、目線をそらしたり、声が上ずったりする。彼女はそれが顕著だった。だから分かった。」
「すごい、あの短時間でそこまで・・・。」
「それに隠し扉のスイッチを見つけたときも彼女はうろ覚えなふりをしていたが、あれも嘘だ。あのスイッチは相当手馴れていないとどこにあるのか分からない仕組みに見えたしな。」
「ことは明らかだったと。」
ボッチェレヌが納得したように腕組みする。
「だいたい何故、奴隷のような扱いの女性が王座の間への隠し通路を知っているのか。そういったことを鑑みれば事実は明らかなはずだ。この異世界の転生者に会うために、逆に彼女を利用したんだ。俺が異世界転生者だとバレたことやゴブリンキングの”権能”は予想外だったがな。」
ゴブリンキングの強さを思い出して苦笑するとデリトは行き止まりの壁の前で立ち止まった。
「・・・さぁ、ネドカイはこの洞窟のどこかに人間族の反乱者が捕らえられているといってたが、ここだな。この道だけ重いものを引きずった後や、他とは違う重みと思われる荷車の深い轍がついていた。とらえたものを運んだ際についたのだろう。」
「ほんとだ!精巧に作られてるように見えるけど、これ、偽物の岩壁だ!」
「確かに。うまく作られておりやんすが、質感が少し周囲の岩壁と違うし、線がはいっておりますね。轍の後も不自然にここでとぎれておりやす。」
「<
デリトの目が緑色に光輝いた。<
「おっ、デリトの旦那。迷宮の異世界で獲得したスキルですね!あれは頭使ったなぁ~。
いや、旦那のそのスキルであっという間でしたっけ?」
集中しているデリトにはボッチェレヌの問いは聞こえず宙に消えた。
「・・・ここだ。」
デリトが偽の岩壁にそって指を動かすと鍵が開き、偽の岩壁はゆっくりと横にスライドして隠し扉が開いた。
中に入ると暗闇の中、少し離れたところに檻があった。
檻は松明の光で微かに照らされ、数人の男たちが後ろ手に縛られているのが見えた。
三人が中を歩いていくとデリトは背後に気配を感じた。
「死ねぇ!侵入者め!」
突然、何者かが3人を襲おうとした。
しかし、デリトは素早い動きで襲撃者を回し蹴りして吹き飛ばした。
「ぐぎゃぁ!」
情けなく汚らしい声で壁に激突したのは老いぼれたゴブリンだった。
ゾーレが倒れたゴブリンをまじまじとみつめる。
「・・・あなたはゲリピーピ!」
「・・・誰がゲリピーピじゃ!ゲババービじゃ!」
襲撃者はゴブリンキングの大幹部の1人ゲババービだった。
「貴様、俺らを襲ってきたということは命がいらないということだな。一度逃がしてやったようなものなのに。」
デリトがそう言うとゲババービは即座に土下座の体勢にうつった。
「・・・うっ、失礼しました!わ、私めはゲババービ、”キング”の大幹部をやっております!命だけはお助け下さい!何でもしますから!靴でも舐めますから!」
「いらん。お前、汚そうだしな。それよりも、大幹部がいたのは好都合だ。ゴブリンキングの弱点を教えろ。」
「へぇっ!?キ、キングの・・・弱点でございますか。」
「・・・言えないのか。なら死んでもらおう。」
デリトはボウガンを出現させて突き付けた。
「ちょ、ちょとまつでげす!・・・と、見せかけて<
ゲババービは観念するふりをしてデリトに攻撃を仕掛けた。
<
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