第10話「”キング”の”権能”」
「<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>!」
ゴブリンキングが”権能”の呪文を叫ぶと既に息絶えていたはずのゴブリンの軍勢が1匹また1匹と起き上がった。
「どういうこと!?」
既に死んだはずのゴブリンたちが生気ない目で武器を持ち、立ち上がったため、ゾーレがおののきながら後ずさった。
「アアア!!」起き上がったゴブリン達が恐ろしい叫び声をあげた。
「・・・成程、ゾンビね。それが貴様の”権能”というわけか。恐ろしいゾンビに数百数千の軍勢。・・・だが、俺の<無限重火器インフィニティウェポン>の前では敵ではない。」
そう言うとデリトは魔法で空中に浮かべた100の武器の引き金を引いた。
発射された弾丸や砲弾はゴブリンのゾンビ達に次々に命中し爆発した。
数分も経たぬ間に、ゴブリンゾンビ達はバタバタと倒れ、動かなくなった。
「な、なんてことだ。我が<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>がこんな一瞬で破られるとは・・・。」
ゴブリンキングが驚いた表情でデリトを見た。
「ケケケ!デリトの兄貴はクソ強いっすよー!ドヤ!」
「お前は何もしてないだろ、ボッチェレヌ。」
デリトが呆れてボッチェレヌを見やる。
「・・・も、」ゴブリンキングががっくりと肩を落としているが何かを小声でぶつぶつ言っていた。
「ん?デリトの兄貴、ゴブリンのボスがちっちゃい声でなんか言ってますよ?」
「とでも、言うと思ったか?」ゴブリンキングは不気味な表情でにやりとした。
「やはり、思った通り、面白いことになってきた。いいぞ!異世界転生者同士、このくらいのチート級の能力でもないと張り合いがない。再び立ち上がれ!<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>!」
「・・・アアアアア!」
ゴブリンキングの”権能”の呪文とともに倒されたはずのゴブリンゾンビ達が再び武器を取り、動き出した。
「なっ、<無限重火器インフィニティウェポン>!」
デリトは即座に呪文を唱え、空中に浮いているアサルトライフル、バズーカや対空砲を発射した。
「グァァァ!」
ゴブリンゾンビたちは再び体中穴だらけになり、倒れた。
しかしなおも起き上がり、デリトたちに向かってきた。中にはバズーカ砲の弾を受け、四肢を失ってなお歯と顎の筋肉を使って這いずってくるゴブリンもいた。
「彼らは不死身なの・・・?」ゾーレが驚愕する。
「ゾーレ、もう死んでまっせ、あいつら。アメ〇カ人に大人気のゾンビっすよ、ジャパニーズはあんまり興味ないから知らないですか?」
ボッチェレヌがゾンビたちにビビりながらダルそうに言った。
こ・の・展・開・は・い・つ・も・通・り・っ・す・ね・、デリトの旦那。
「それにしても打っても打っても、体のほとんどを失っても向かってくるぞ!」
デリトが自分でも拳銃を撃ちながら応戦していた。
「どうだ?私の不死身の友たちは?」
ゴブリンゾンビに気を取られているうちに、デリトの後ろにゴブリンキングが移動していた。
ゴブリンキングの突き上げた右の拳はデリトのみぞおちにヒットし、デリトの体を勢いよく吹き飛ばした。
デリトは王座の間の天井まで打ち上げられ、備え付けられていた豪華なシャンデリアを破壊した。
さらに落ちてくる途中で、空中に跳んできたゴブリンキングの蹴りを横から見舞われた。
「がっ・・・!」
デリトの体は地面と平行に吹き飛び、金色の装飾を施した壁面に打ち付けられた。
体を壁に打ち付けられながら、今までの異世界転生者の中でも力やスピードなど基礎ステータスもトップクラスだ、とデリトは判断した。
「ククク、我が”権能”<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>は死んだ私の部下をゾンビ兵として生き返らせるだけでなく、その身が朽ちて動かなくなるまで戦い続ける。だから、手や足のみになってもお前やお前の仲間に襲いかかるぞ!楽しいゾンビパーティと洒落込もうじゃないか!」
コツコツとブーツの音を響かせてゆっくりと歩きながらゴブリンキングはデリトに近づいている。
「まぁ、メカニズムを言ってしまえば、固まった死人の筋肉を物理法則を無視して動かす”権能”だからな。できるだけ新鮮な肉体の方が良いが、筋肉さえ残っていれば冷たくなろうと固まっていようと動かせるのだ。」
ゴブリンキングはデリトの胸ぐらを掴むと体を引き上げて、対面の壁面に向かって投げつけた。
「うぐあ・・・!!」デリトの体は対面の壁を凹まして打ち付けられた。 衝撃で壁一面に大きな割れ目ができた。
「デリトは反撃できないの・・・?」
2人の異世界転生者同士による異次元の戦いを見ながらゾーレは既に泣きそうだった。
ゴブリンズスレイブで最強と名高い者たちが今、100人集まろうとも2人の戦いに入ることは不可能なくらいに別次元の戦いだった。
「今は難しいかもしれませんね・・・デリトの旦那は異世界転生者としてチート能力を与えられていますが、相手も異世界転生者。腕力などの攻撃力や防御力などの基本ステータスはデリトの旦那と同等か・・・ゴブリンの王様のほうが強いかもしれません。まぁ、いつもそういうものなのでしょうがないですが・・・」
「え、いつもってどういう・・・?」
ゾーレはデリトの力はどこでもいつでも最強だと思っていた。 ゾーレのいた異世界タンファージで断トツに最強と思われたブラックウィンドを一瞬で葬ったのだから。
「どうだ、異世界転生者。私の力は。・・・前世でも私はこうだった。世界有数の総合商社の営業本部長になるまで研鑽を積み上げてきた自分自身の力だけでなく、戦友とも呼べる部下たちの力とともにプレゼンや案件で勝ってきたのだ。クライアントや競合他社といった、とんでもなく強い敵にな。」
ゴブリンキングはパンパンと手についた塵を払いながら異世界転生前のことを思い出していた。
「部下たちもみな、終電が過ぎるまで来る日も来る日も頑張ったものだ。中には過労死してしまう軟弱者もいたがな。体調管理も仕事のうちだとあれほどまでに言っていたのに。だが、この異世界では”権能”の力によっていくら死んでも大丈夫だ。私はゴブリンズスレイブで死にゆく友たちの魂とともに勝利を掴んできたのだ。」
「・・・そうか。それはそれはご立派なブラック本部長なことだ。だが、コンプライアンスの欠片もないお前でも、これならどうかな。」
デリトは<無限重火器インフィニティウェポン>で出現させていた重火器類の銃口をゴブリンゾンビから急展開させてゴブリンキングに向け、発射した。
「ぐぁぁぁ!」
弾丸や砲弾の豪雨が1点に降り注ぎ、ゴブリンキングの悲鳴が響いた。
「すごい!デリトの旦那はわざとやられてゴブリンキングを近づかせたんだ。これで・・・やったか!?」
「・・おいおいボッチェレヌ、それってフラグ・・・」
「<最上級回復ハイエストヒール>」
回復魔法の呪文が聞こえたかと思うと、銃撃と砲撃による立ち込める煙の中で眩い光が瞬き、やがてゴブリンキングが何事もなかったように立ち現れた。
「あの攻撃を受けてもピンピンしてる!?どうして!?」
ゾーレが驚きの声をあげる。
「・・・やっぱりっすか。ゴブリンキングは異世界転生者だから、防御力もスーパーすごくて、最高の回復魔法もお茶の子さいさいってとこすか。」
ボッチェレヌがさっさとあきらめ、がっかりとした様子で言った。
「簡単に言ってくれるな、ボッチェレヌ。これでも攻撃が簡単に治されてショックをうけているところだ。」
デリトは冷や汗を流して苦笑いした。もう一度銃撃しても意味はないだろう。
異常なまでの動体視力をもつゴブリンキングのことだ、次はかわされる。
「さすがに異世界転生者。デリトといったか。私とて無傷で済むとは思っていなかったが、なかなかやるな。しかし、私の本気がこの程度だと思わないでほしいな。・・・<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>!目覚めろ断界の破壊竜!」
ゴブリンキングが両手をかざすと、大きな地響きとともに王座の間の床に亀裂が入り、バキバキと岩が裂ける音とともに巨大なドラゴンが現れた。
「ギァァァァ!!!」
「おいおい、でかすぎないか・・・!?」
デリトはこれほどまでに巨大なモンスターを使役するタイプの異世界転生者と出会うのは初めてだった。
「こいつはいわばこの異世界において最強を誇った伝説のドラゴンの死骸だ。」
「ド・・・ドラゴン・・・?」
ボッチェレヌは首を傾げた。
大体の人が想像するドラゴンではなく、どちらかというと超巨大な蛇のように見えた。
「ガァ!!!」
巨躯に似合う雄たけびを上げてドラゴンがデリトに突進した。
デリトは吹き飛び、再び壁に強く打ちつけられた。
「どうだ!異世界転生者デリト!古代、この世界を滅ぼそうと破壊の限りを尽くしたという断界の破壊竜だ。我がゴブリン軍によって分厚い氷土から掘り起こさせた死体だ。奴は世界が滅ぶ寸前に人間の手によって北の大地で罠の大魔法にかけられ戦いに負けた。しかし、筋肉も内臓も残っているぞ!」
「・・・だんな大丈夫でやんすか!?」
デリトはぐったりと地面にはいつくばっている。
ボッチェレヌが心配したのもつかの間、デリトは素早く起き上がり膝をついた。
「・・・くそ、こんなデカい切り札を隠していたとは、<無限重火器インフィニティウェポン>!」
デリトは重火器を10倍に増やし、砲弾や銃弾を撃ち、突如として現れたドラゴンのゾンビを攻撃した。
かつて”断界の破壊竜”と呼ばれ世界を滅ぼす寸前まで至ったドラゴンのゾンビは腐敗が進み、削げ落ちた肉の間から骨が見えていた。
「おやおや、そんなちゃちな銃や対空砲ごときで、この異世界を滅ぼしかけた破壊竜を倒せるとでも?我がゴブリン軍が誇る最強の兵器だぞ?」
ゴブリンキングが言うととおり、ドラゴン族特有の硬い表皮は無傷ではないものの、銃撃はあまり効き目がないようだった。
「見せろ、破壊竜!貴様の真の力を!」ゴブリンキングがそう言うと破壊竜の4つあるうちの中央の目が光り輝き、一閃のレーザーが宙を切り裂いた。
破壊竜のレーザーはデリトの <無限重火器インフィニティウェポン>を舐めるように攻撃した。1000以上用意された重火器類はほとんどがレーザーによって爆発した。
「いや、巨○兵やん!」
ボッチェレヌが目を丸くして驚いた。
かつてゴブリンズスレイブを滅亡させかけたとあって、”断界の破壊竜”の攻撃は他の異世界の魔王をも上回ってしまうのではないかと思えるほどの強さだと感じていた。
「くくく、ハハハハハ!」
「おい、強すぎやしねぇかゴブリンキングさんよ。破壊竜ってのはお前より強いんじゃないか。だいたいなんだよ”断界の破壊竜”って!そんな厨二心くすぐるような名前、そそるじゃねえか!」
相変わらずデリトは<無限重火器インフィニティウェポン>で無数に重火器を生み出しているが、破壊竜にはあまり通用しなかった。
途中から炎や氷の魔法に切り替えて戦っていたが、相変わらず破壊竜にはかすり傷を負わせるくらいだった。
不死身というわけではなさそうだが、いかんせんもともとの体が強すぎるな、とデリトは思案していた。
「ククク、こいつは1000年前、この異世界ゴブリンズスレイブに突如として現れ、破壊の限りを尽くし、ヒトやエルフ、ゴブリンなど全ての種族の街を焼き尽くしたという悪名高き破壊竜!我が<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>が甦らせることができるのはゴブリンだけではない!・・・この世の全ての死んだ生命だ。」
破壊竜のレーザーが空間を切り裂き壁面を爆発させた。
「”死んだ生命”ね・・・洒落が効いてんな!」
デリトは破壊竜の攻撃をかわしながら思案していた。このままだとジリ貧だ。
”アレ”を使えばもしくは・・・。
「キャァ!」
急に上がった悲鳴の方向をデリトが見るとボッチェレヌとゾーレがゴブリンゾンビたちに取り囲まれていた。
「ゴブリンの王様はあのビッグでホットなドラゴンだけじゃなくてゴブリンゾンビたちも一緒に操れるでやんすか!?ジーザス!」
ボッチェレヌがゾンビに感化されたのか何故かハリウッド映画の英訳のような言葉でリアクションしながらもゾーレとともにゴブリンゾンビたちと戦っていた。
ゾーレも魔王の娘なだけあってそれなりに強かったが、倒しても倒しても起き上がるゾンビたちに苦戦していた。
デリトは目の前の破壊竜とゴブリンキング、そしてゴブリンゾンビたちを見て逡巡した。
「くそっ、破壊竜ゴブリンゾンビから目をそらさせるためか。・・・逃げるぞ!2人とも!」
デリトは<無限重火器インフィニティウェポン>を行使しながら、身をひるがえして走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます