第9話「ゴブリンキング」

「どういうことでやんすか!?」ボッチェレヌが驚きの声をあげる。




ネドカイは険しい表情を保ったまま、短剣をゾーレの首に押し当てた。ゾーレの首から一筋の血が流れる。




「こういうことですよ。」にやりとネドカイは邪悪な笑みを浮かべると顎でボッチェレヌとデリトの後ろを指した。




「何・・・。」デリトが後ろを振り向くと王座の間の入り口部分、つまりデリトたちが入って来た隠し扉の反対側には、どこから現れたのかゴブリンの大群があふれていた。




ネドカイがにやりと笑った。


「私たちが先ほど入って来た通路とつながっている隠し扉は、王座の間に3つあるのよ。そして、どれも通った時に呼び鈴が密かに鳴って衛兵たちが駆けつけるってわけ。」




「ウラギリモノメ!」ボッチェレヌがなぜかカタコトで言った。




「そもそもあなたたちの味方ではないわ。それに通路の松明の掛かる壁につけてきたあの〇と×印は何の意味もない印ではなく、”緊急事態、衛兵を集めろ”って意味。」短剣を握りしめながら得意げにネドカイが言う。




「・・・じゃあ、私たちを最初からだましてたってわけね。」腕を後ろ手に縛られたゾーレが短剣がこれ以上くいこまないようにしながら苦しそうに呟く。




「その通り。それもこれも全て”キング”のためよ。」




ネドカイは口の端をひきあげ邪悪な笑みを浮かべた。その姿は先ほどまでの頼りない姿とは全く別物だったが、ゾーレはネドカイの手が少し震えているのに気付いた。








「良くやったぞ。娼館の館主よ。」




隠し扉ではなく王座の間の正面入り口から一体の小柄なゴブリンがゆっくりと歩いて入って来た。深紅のコートに身を包み、明らかに他のゴブリンとは格の違うオーラを放っていた。




「あれが、ゴブリンキング・・・!んー、思ったよりも小さいっすね。」ボッチェレヌががっかりとした声を出す。




「・・・くくく、何とでも言うがいい。貴様らはまさに袋の鼠。今、貴様らが入って来た隠し扉の奥の通路にもゴブリン兵を手配した。逃げ場はないぞ!このゴミムシどもがぁ!」


思ったよりも小さいという言葉に反応したのか最初は落ち着いた声だったのが、段々と大きく荒い声になった。


前世では180cmを超える身長で主に他人を見下ろす立場だったのが、異世界転生してからはゴブリン族の中でも背が低くなりコンプレックスになっていた。




「・・・何とでも言うがいいという割にはキレているように見えるが・・・」デリトはボウガンを取り出し、ゴブリンキングに向かって構えた。どうやらプライドの高い男のようだとデリトは見て取った。




「・・・良いのかな?君たちのお仲間である魔族の少女は娼館の館主に捕らえられ、絶対絶命なわけだが?」ゴブリンキングがデリト達から少し離れたところに立ち止まり、ゾーレに向かって顎をしゃくる。




「えっ、娼館の館主って、ゲババービとかいうあのゴブリンのことじゃなかったの・・・?」


ゾーレが驚いた声を上げる。


態度や卑しさからして、巨漢のゴブリン、マッチルカンと一緒にいた老ゴブリンのゲババービこそ娼館の主かと思っていた。




「そうよ。お嬢ちゃん。私はキングに忠誠を誓い、人間を裏切ったの。娼館を管理する立場でもありながら、娼館の連れ去られてきた女性たちに混ざって優しくしてあげる役目でもあるの。」




「・・・何でそんなことするの。あなたが女性たちに優しくしてあげる意味は?捕らえられた女性たちへの贖罪のつもり?」絶望に満ちた娼館の女性たちの憔悴しきった姿を思い出し、ゾーレは怒りで震えていた。




「・・・そりゃあ決まってるじゃない。たまには優しくしてあげないとすぐに心が壊れて使い物にならないし、逆に最初に安心感を与えてあげて絶望で落としてあげるとゴブリンたちの評判がよくなるからね。娼館の評価が上がり、良い噂が流れれば私も良い暮らしができるもの。少しくらい汚い格好に扮して横たわるくらいならいくらでもするわ。」




「酷すぎる・・・!あなた最低よ!女の敵!」ゾーレは洞窟で苦しんでいた女性たちを思い浮かべ、涙を流した。




「・・・しょうがないじゃない。こうするしか私にはなかったの。」誰にも聞こえないような小さな声でネドカイがつぶやいた。




「え?」ゾーレは一瞬聞き間違いかと思ったがネドカイは目を合わせず無視した。




「・・・とにかくこの娘コの命が惜しくなければ、おとなしく”キング”にひれ伏しなさい!」


ネドカイはゴブリンキングにボウガンを向けているデリトに叫んだ。ぐっと短剣に力を入れ、ゾーレに先ほどより深く傷をつけた。




「ネドカイ、どうやら君は本気のようだ。思えば、さきほど暗がりでこけたのはわざとだな。松明の印でゴブリンを密かに呼び出し、用意させておいた短剣を尻もちをつくふりをして拾ったというところだろう。」


デリトが観念したようにボウガンをおろした。




「分かればいい・・・」ネドカイが安心したように言いかけた。


「・・・だが、<孤独な管理者ローンリィアドミニスター>!」


ネドカイが言葉を言い切らないうちに、デリトは呪文を素早く唱えた。




呪文を言い終えると同時にデリトはボウガンを取り直し、矢を発射した。




<孤独な管理者ローンリィアドミニスター>はチート級魔法でSクラススキルの1つだった。


魔法により強化された矢は正確無比にゴブリンキングの心臓へ向かってマッハ1に近い速さで飛び出していった。




魔法で強化された弓矢は音速の速さで敵にめがけて飛んでいき、衝撃派で王座の間の装飾を破壊しながら空中を突き進んだ。




しかし、目にも止まらない速さの矢をゴブリンキングはさして見もせずに掴み、チート級魔法でダイヤモンド並みの硬度に強化されているはずの矢を片手でへし折った。


ゴブリンキングのチート級ステータスとして、動体視力や力、スピードでこの異世界で並ぶ者はいないほどの能力の高さを持っていた。




「撃て。」ゴブリンキングの合図とともに、ゴブリンキングの後ろに控えるゴブリンの大群による何百という矢がデリトのいる場所へ向かって飛んだ。




「デリトー!」ゾーレは叫んだが大量の矢は止まらず、デリトを貫通して王座の椅子に刺さった。


ゾーレは恐ろしくて目を瞑った。




「くくく、少しは楽しめそうだと思ったのにな。」ゴブリンキングはチート級の脚力を持って瞬時に飛び立ちデリトがいたであろう王座の近くに舞い降りた。




「ん?」しかし、そこには侵入者の死体どころか肉片すら残っていなかった。




「お目当てのものは見つからなかったか王様?」ゴブリンキングのすぐ後ろから声が聞こえると同時に体が吹き飛ぶ感覚を覚えた。




「デリト!」ゾーレは目を開いて、ゴブリンキングを後ろから蹴り飛ばすデリトを目にした。




「な、なぜ・・・?」ゴブリンキングが蹴り飛ばされ、王座の間の壁にめりこむのを見て、ゾーレの後ろにいるネドカイの手が緩む。


ゴブリンキングが攻撃される場面などネドカイが捕らえられてから見たことがなかった。




それを見逃さず、ゾーレは素早い身のこなしでネドカイのみぞおちに肘鉄をくらわせると、素早くネドカイの短剣を奪い取り、首をねらって振り下ろした。




ゾーレも魔王の娘なだけあって、チート級でないにしろ実は高い運動能力を備えていたのだ。




「がっ、」短剣の柄で不意をつかれたネドカイは気を失った。




「ゾーレ!良くやったでやんす!あっしもスキルパワーがたまってまいりやした!<綿詰め殺法ふわふわアサシン>!」




ボッチェレヌが呪文を唱えると何百といるゴブリンたちの口の中にふわふわとした綿毛が出現し、のどに詰まった。


ボッチェレヌは異世界転生者ではないのでチート級の魔法やスキルはないが、いくつかの魔法を使うことができた。


<綿詰め殺法ふわふわアサシン>は喉にピンポイントに綿毛を出現させるという凶悪な魔法だったが、B級スキルらしく数秒すると消えてしまうようなものだった。




「出たな!ボッチェレヌの卑怯殺法!連携するぞ!<無限洋弓銃インフィニティボウガン>!」デリトは空中に100個のボウガンを出現させた。


<無限洋弓銃インフィニティボウガン>は無限にボウガンを出せるS級スキルだったが、力の温存のため100個づつ出現させることにしていた。




デリトが手を振るとボウガンから無数の矢が飛び出し、綿がのどにつまり苦しんでいるゴブリンたちを貫いていった。




「ふわふわアサシンですよ!ひどいですぜ旦那!誰が卑怯殺法の使い手だ!」




「見たまんまだろ!ゾーレ、すぐに片づけてそちらに行く!」




デリトとボッチェレヌの猛攻により、ゴブリンの大群はほとんど倒されて動けなくなっていた。




しかし、がらがらと音を立ててゴブリンキングがめり込んだ壁を破壊して現れた。




「・・・やってくれるな。侵入者。」




「お目覚めか。キング。」




「それにしても人間なのにエルフ以上に魔法が使え、オーク並みの強靭な肉体と特殊な技の数々・・・。さては、貴様、私と同じだな。」 ゴブリンキングは口に入った砂利をプッと吐き捨てた。




「・・・というと?俺はゴブリンでも王様でもありませんが?」デリトはとぼけて見せたが、嫌な予感がした。




「・・・貴様は異世界転生者。そうだろう?」




「・・・だったらどうする。」デリトは少しひるんだ。なぜバレた。通常の異世界転生者ではデリトが自分たちと同じ異世界転生者など気づかずに殺されていく。




異世界1つに異世界転生者は必ず1人しかいない。だから、彼らは最期のその時まで異世界の裏ボスが出てきたくらいの気持ちのはずだ。




それなのに、この短時間で見破るとは。




「くくく、まさかこんなカマかけが当たるとはな。私も人を見る目は前世から引き続きあったというわけだな。お前は人よりも頭が良いのだろうが、裏を読もうと考えすぎるのと強いうぬぼれがあるな。」にやりと嬉しそうに、しかし、邪悪にゴブリンキングは笑った。




「それになるほど、先ほどは姿を消したうえで自分の分身の姿を出して、この私を油断させていたわけか。さては娼館の館主のことに感づいていたな。」ゴブリンキングが先ほどのことを思い出すようにそらを見た。




「・・・さて、どうかな。それと正確には分身ではなく、光の屈折を利用した錯覚だがな。」


そう答えながらデリトはゴブリンキングが思った以上に警戒しなくてはならない相手だと悟っていた。


ネドカイから道中聞いてはいたが、異世界転生者だからとはいえ、短期間で全ての種族を傘下に収めた奴なだけある。




「バレちまったんなら隠さず、遠慮はいらないな。<無限重火器インフィニティウェポン>!」デリトは先ほどのボウガンの技を解除し、機関銃やキャノン砲をはじめとする重火器を100個空中に出現させた。


異世界転生者だとバレぬうちに仕留めることができればと思ったが、方針転換して、相手の実力を見極めることにした。




デリトの権能”チートキラー”はとある条件下でないと発動しないため、できることなら異世界転生者であることはバレない方が望ましかった。




今までは、”チートキラー”が発動するかバレない限りは各異世界の世界観にあった武器や魔法だけを使うことにしていた。




「それでは、私も遠慮なく真の力を出せるな。」


ゴブリンキングが右手を天井に向かってつき上げる。


デリトは身構えた。


奴の”権能”は何だ。




あたりに転がったゴブリン兵たちの死体の山を見回した。




ステータス強化系や超回復系か。


捕食や賢者的な情報系か。




ゴブリンキングは右手を振り下ろした。


「<蘇りし我が戦友レヴァナントトループス>!」




ゴブリンキングが”権能”の呪文を叫ぶと既に息絶えていたはずのゴブリンの軍勢が1匹また1匹と起き上がった。

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