第4話「反逆の女神」
魔王城を出たデリトたち3人は急に強烈な光を浴び、立ちどまった。
気づくとそこには光り輝く鎧を纏った女性が立っていた。
女性は背中に大きな翼を生やして微笑んでいた。
「あの人は・・・!?」
魔族であるゾーレは何かを感じ取ったのか身構える。
「奴は転生の女神 ウルレカッスルだ。」
デリトが落ち着いて答えた。ゾーレは闇を代表する魔族だから、光を代表する女神であるウルレカッスルに相容れない気持ちを覚えているのだろう、とデリトは今まで培った観察眼をもって見ていた。
「ウル姐さん!お久しぶりっすね!」
ボッチェレヌがロケットのように素早く飛びながら近づいていく。
「ええ、お久しぶりです。ボッチェレヌ。」
転生の女神ウルレカッスルはニコリと優しく微笑みボッチェレヌをその豊満な胸で抱きしめた。
「でへへ、でへへ。」
ボッチェレヌは柔らかく白い肌に包み込まれ喜びの声を上げた。
ゾーレはその姿を見て自分の胸部と見比べた。
「・・・気にするな。きっと壁みたいおっぱいが好きな人もいるよ。」
ぽんぽんとデリトは娘を励ます気持ちでゾーレの肩をたたいた。
「・・・うるさい。てゆーか、もうちょっと別の言い方できなかったのか。」
ゾーレはむすっとむくれた。
「・・・・・・すまん。」
デリトは我ながら失言をしたことを認めた。
年頃の女の子と話すのにはいまだに慣れない。
もともと皮肉屋のシスデリトが、娘と同世代のゾーレを素直に励ますことは難しい所業だった。
ゾーレはまだ自分の胸とウルレカッスルのとを見比べている。
「ところで」少しして、ゾーレが少しむすっとしながら口を開いた。
「転生の女神って言ってたけどどういうこと?あの女は誰なの?」
「さっき言った通り、俺を別の世界からこの世界へ転生させた女神だ。・・・そして、他の転生の女神からは”反逆の女神”と呼ばれているらしい。」
ゾーレの声に怒りと憎しみが少々滲んでいることを感じながら、デリトは言った。
”あの女”という呼称からしていら立ちが現れている。さっきは”あの人”と言ってなかったか?
「ふーん、転生の女神ね・・・ん?”反逆の女神”って呼ぶのは何故?どちらも違うもの?」
「それはウルレカッスルが異世界転生を行う女神でありながら、俺を”異世界転生殺し”にした女神だからだ。」
「私が勝手についていくって決めただけだから・・・聞かないようにしてたんだけど。でもやっぱり気になるから聞いてもいい?・・・あなたは、何者なの?」
「彼はデリト=ヘロ。そして前世では槙野 鋼太郎という名だった普通の中年のおっさんよ。」ボッチェレヌと戯れていたウルレカッスルが急にゾーレの方に向き、語り掛けた。
女神の声は優しく、絹のように滑らかだった。
「おっさんて・・・、確かにそうだったけど。」今は20代中盤に転生しているが、前世は40代後半のおっさんであるデリトがひとり静かにショックを受けていた。
デリトはおっさんから若返ったことで密かに喜んでいたのだ。
「無職になって嫁と別居中。子供もいるけど奥さんにとられちゃって会えないし。職に就けずゲーム三昧の日々。」ボッチェレヌが付け加えた。
「おい、そこまで言わなくてもいい。前世は前世だ。しかも、ちょくちょく子供には会えてる。」
「前世ってことはデリトは生まれ変わったってこと?」
「その通りです。彼はおっさんだった前世で死に、私が1つの異世界を救ってもらうために転生させて新たな命を与えました。そして、彼は希望通りその異世界を救い、その能力と強さは他の世界も救うと私は思いました。だから”異世界転生殺し”の仕事を請け負ってもらっています。」そう言うとウルレカッスルは自分の胸にうずまったボッチェレヌの頭を優しく撫でた。
「・・・うーん、生まれ変わるってことはしたことないからよく知らないけど、そこは何となく理解できるような気がする・・・。でも、”異世界転生殺し”って?」
「異世界転生者とは俺のように前世で死に、別の世界――つまり異世界を救うために生まれ変わった者たちのことだ。そして、俺はその異世界転生者たちを殺す。それも二度と転生できないように。なぜなら、転生者の中にはその資格を持たないのに間違って異世界転生した者もいるからだ。」ウルレカッスルの代わりにデリトが答えた。
「資格を持たない・・・?」
ゾーレは何かが引っ掛かった。
「その通りです。それについて説明したいのですが、残念ながら今は時間がありません。魔王の娘、ゾーレ。デリトと一緒にこれから転生殺しの旅をするあなたにはいつか必ずお話しします。1つ言えることは、転生殺しはただの人殺しではありません。きちんとした理由があるのです。彼が人殺しではなく、断罪人である理由が。」
ウルレカッスルの優しげな、しかし、力強い声にゾーレは何も言えず、ただうなづいた。
先ほどまでウルレカッスルの胸に対して激しい憎悪を抱いていたゾーレは、今や目の前の転生の女神のことを、ただのおっぱい星人だとは思っていなかった。
「そして、デリト、ボッチェレヌ。早速ですが次の世界へ行きましょう。ことは一刻を争います。」ウルレカッスルはデリトの目をまっすぐ見た。
「ああ。わかっている。」デリトは軽くうなづいた。
「準備はよろしいようですね。・・・セフィロトの杖よ、我が勇者を転移させたまえ。」
そういうや、ウルレカッスルは持っていた杖を天に向かって振るった。
あたりは眩いばかりの光に包まれた。
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