第5話「異世界 ”ゴブリンズスレイブ”」

ゾーレが目を開けるとあたりは暗く、鬱蒼と草が茂り、木立が密に生えている場所にいた。どうやら、ゾーレがいるのは人里離れた森のようだった。




「・・・これが異世界・・・?」




 あたりを見まわすと見えるのは闇と木々だけだった。








 流れる空気に感じ慣れない淀みがあるため、以前自分がいた世界とは確かに違うようだが、みたところはゾーレがもといた世界の数多くの森とあまり変わらないように見えた。




 ざわざわと風が木立の間を荒く流れた。あたりには冷たい空気がたちこめていた。




「あれ?デリトたちは・・・」




戸惑いながら慌てて周りをもう一度見回して見たがやはりほかの人の気配は無いようだった。








「おーい、デリト、ボッチェレヌどこー?」




大きな声でデリトたちを呼んでみたものの返事は無く、声は森の木立の間に吸い込まれていくだけだった。




 ふと、突然不安に襲われた。




「なに、誰?」




 ゾーレは魔族のため五感が人間よりも優れていた。




 その耳が周囲の草の擦れる音を察知し、鼻は先ほど感じなかった異臭を嗅ぎ取っていた。




 異世界転生者であるデリトに比べればチートのスキルや特殊なスキル”権能”も高すぎる身体能力もゾーレは持ち合わせていなかったが、軽い魔法も扱うことができ、その魔法で少しそり曲がって半月型をした刀を造ることができた。




 魔法で造った刀は使い捨てで時間が経つと壊れてしまうが、切れ味はとても鋭かった。




 ゾーレは魔法で片刃刀を2つ造り出し、先ほど音のした方に向けて構えた。








ふと突然、後ろの草むらの陰から2匹のゴブリンが飛び出してきた。




 しまった、先ほどの異臭と音は囮・・・!そう思う間もなく、ゾーレは2匹のゴブリンにのしかかられ組み伏せられてしまった。




 ゴブリンはさまざまなファンタジー作品に登場する耳と鼻が長く、背の低い緑色をした人型のモンスターだ。




 するとガサガサと音がし、あたりに潜んでいたであろうゴブリンが10匹あまりぞろぞろと出てきた。




「ちょっと放しなさいよ!ケダモノ!」




 ゾーレは力を込めてゴブリンたちをどかそうとするが、後からでてきたゴブリンたちにも、のしかかられ、ついには縄で縛られてしまった。




「やめて!」




 




 ゾーレの拒否もむなしく、ゴブリンたちはにやにやとした笑いを浮かべてどこかに隠していたであろう台車に乗せた。




 ゾーレは大きな叫び声を上げ続けていたが、口に猿ぐつわをかまされて声をあげられなくなってしまった。やがて台車がどこへか向かって動き始め、逃げ出そうとしようにも手足も縛られてしまった状態ではどうしようもなかった。








 十数分後、ゾーレが連れ去られた場所の近くをデリトたちが歩いていた。デリトはフードのついたローブを着ていた。








 デリトのスリーピーススーツは通常の異世界では目立つため、異世界転移直後はスーツではなく、各異世界に合うような姿に変身するのだった。また、武器も基本的には各異世界に合わせているため、この異世界では2丁のボウガンや剣に変わっていた。




 デリトは魔法で武器や服を取り出したりしまったりすることが可能だが、ある事のために異世界転移して、しばらくは2丁拳銃やスーツを隠しているのだった。




 「全く、ウルレカッスルのやつめ、転移に失敗するとは・・・。ボッチェレヌと俺も再会するのに少し時間がかかるくらいバラバラに転移させるとは・・・」




 「まぁまぁ、こんなことは初めてじゃ無いですし・・・そもそもウルレカッスルの姐さんは転生の女神であって転移の女神では無いですし・・・」




 「転生の方がよっぽど難しいだろ。どう考えても。・・・ダメだな、ポンコツ女神は。」




 デリトは大きくため息をついた。ウルレカッスルはきっちりしているように見えてどこか抜けていておっとりとしていた。




 「まぁまぁ・・・それにしてもゾーレはどこに・・・。確かさっき、こっちからゾーレの声が聞こえてきたと思ったんでやんすが・・・」




「待て。」




 デリトが下を見て、立ち止まった。




「これはゾーレの短剣か・・・?」デリトは先ほど落とされたゾーレの短剣を2つ拾い上げた。拾い上げてすぐに、ゾーレの魔法でできた短剣はボロリと崩れ落ちた。




「時間が少し経っている・・・?」




「そうみたいでやんすねぇ、みてくだせぇ旦那。馬車かなんかの轍です。もしかして・・・」




「なにかの事件に巻き込まれたようだ。連れ去られたのか・・・?」




「なんだか心配でやんす!胸がざわざわするでやんす!ざわ・・・ざわ・・・。」ふっとボッチェレヌはデリトの顔を見上げた。




「・・・・・・。」見事なまでの無表情でデリトは轍の先を見ていた。今のデリトにはボッチェレヌのボケは通じないようだった。




「・・・はい。すみません、真面目なところ。行きましょう。旦那。」




「ああ。」




デリトとボッチェレヌは急いで轍の後を走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る