第2話「堕天使」
、とある異世界へ転生してきた男がいた。
彼の名前はデリト=ヘロ。前世でトラック事故に巻き込まれて死亡したが、転生の女神の手により、異世界へ転生してきたのだった。
彼は転生者として新たな命を与えられる変わりに、転生の女神に命じられるまま悪魔に制圧された世界を救う事になったのだった。
デリト=ヘロは転生の女神に勝手につけられた名前で、前世では
娘が一人いて、結婚していたが、契約社員として働いていた会社をクビになり無職になったのをきっかけにギャンブルにハマってしまい妻と娘とは別居中だった。
娘と妻に謝ろうと決心した矢先の事故死だった。
転生したのは天使や悪魔、獣人が同じ街中で交錯するようなファンタジー感がありながら、ネオンサインが輝き、スラム街のように建物がひしめくサイバーパンクな世界”リードワールド”だった。
そして、彼の頭は”リードワールド”の最後の戦いの断片を追憶していた。
「・・・メイ!大丈夫か!」
デリトは後ろに控えた赤い服の女性メイに声をかけた。
敵が放った攻撃をデリトがなんとか防いだところだった。
メイは前世でシスデリトが槙野 鋼太郎だった時に愛していた妻、メイと名前も顔も瓜二つな女性だった。
槙野 銘。顔立ちが美しいだけでなく、気立てが良く、優しく女神のようで、何をやってもうまくいかない自分にはもったいない妻だった。前世での妻であるメイは赤みのあるロングヘア―をそのままにしていたが、異世界でのメイは髪の毛を2つに結っていた。
デリトは素直に謝れず今生の別れとなってしまった前世の妻に償うような気持ちで、リードワールドのメイに接していた。
「デリトこそ!ルシファーの今の攻撃にびびっちゃったんじゃないでしょうね!」
デリトが追憶していたのはメイと臨んだ天使族長ルシファーとの最後の戦いの一幕だった。
リードワールドの支配種族は人間族のほかに天使族と悪魔族がいた。
ルシファーは最初こそ、数が少ない天使族を守るという理想を掲げ、悪魔たちを操り暗躍していた。
ルシファーは悪魔と敵対し、人間族に味方している天使族の長でありながら、実は悪魔たちを裏で操ることで人間族を殺し、もともと他の種族よりも数の多い人間族に世界が支配されないようにしていた。
しかし、悪魔たちを操る中で悪魔たちの魔力に毒されて心からの本当の悪魔となってしまっていた。彼は天使族や悪魔族を掌握し、人間族までも支配する魔王になろうとしていた。
転生主人公としてチートなステータスの高さを誇るデリトは魔王たるルシファーと同等かそれ以上の力を持っていた。
ただし、デリトは、仲間たちを守らなければいけないため、少々分が悪かった。
「・・・貴様は我と同等の力を持っているらしいが、弱い仲間を守らなければいけない貴様が勝てるかな。天使族長たるこのルシファーに。」
ルシファーが6つの翼をはばたかせながら、余裕の笑みを浮かべる。
前世にいる時は異世界転生者はとんでもないチートステータスを持っているからどんなに強いモンスターも余裕で葬れるものと思っていたが、さすがに現実はそう甘くはないらしい。
よく考えればルシファーはこの異世界を裏で牛耳っているラスボスのような存在だった。
簡単に勝てるものではなかった。
「・・・だが、守る!」
デリトは右手に持つ刀に力をこめた。
リードワールドでは剣といえばサイバーパンクな日本刀で、もともと日本人であるデリトには馴染みが深いものだった。
チートステータスを持っているとはいえ必ずしもいつも敵に勝てるわけではなく、仲間たちに助けられることも多かった。そのため、仲間たちとは深い絆を築いていた。
特に前世の妻と瓜二つだったメイには恋愛感情や友情を超えた愛情を感じていた。
「ついに本気を出すか勇者よ。しかし、これならどうかな!<片翼の天使>フール・エンジェル・・・!」
ルシファーは力をこめると6人に分身した。
分身するとともにルシファーの分身体の翼は1つとなっていた。
「おいおい・・・そんなんありか・・・。なんとか隠れの忍者かよ・・・」
デリトは2人のルシファーの分身に同時に攻撃されながらなんとか防ぎきり、ルシファーを1人づつ攻撃していった。
攻撃して息の根を止めたと思ってもすぐにルシファーの分身体は消え、新しい分身が生まれてしまう。
倒しても倒しても余裕な笑みを浮かべて現れるルシファーは不気味だった。
「ルシファー、お前はすごいイケメンだが、さすがにキモいだろ、それは。」
デリトは余裕ぶって悪口を言ってみたが、さすがに今までにないほど苦戦していた。
分身体と思えないほどの力とスピードのあるルシファーに後ろで仲間たちも同様に苦戦していた。メイは2丁拳銃で2体同時に応戦している。
「・・・待てよ、ここは異世界。ゲームやアニメの異世界と同じようなシステムだ。」
今までだってゲームの知識が敵を倒すのに役立ってきたはずだ。
ふと、デリトは攻略法を思い当たった。
今まで倒してきた敵でも、空を飛ぶ敵には近距離武器ではどんな方法でもダメージを与えられなかったり、ゲームのような攻撃や攻略法が有効だとわかっていた。
これがゲームだったらと仮定すれば、おそらくルシファーを倒す方法は2つ。
分身のもとになる本体を倒すか、分身体をすべて同時に倒すかだ。
「よし!いくつか試してみるか!おそらくだが、倒し方が分かったぞ!」
デリトはニヤリと笑みを浮かべて後ろを振り返った。
しかし、振り返ると仲間たちは全員死んでいた。
「は・・・?」
困惑するデリトの目の前に残酷な笑みを浮かべたルシファーがいた。
他の仲間たちはバラバラにされ、ルシファーの足元には血だらけのメイの頭があった。
血の海にメイのトレードマークである赤いリボンが浮いていた。
「ほう。教えてくれ、デリト。私の倒し方とやらを。・・・ただし、仲間たちと協力するのはもう無理だぞ。全員死んだからな。さて、一人で私に勝てるかな。」
ルシファーの不気味なほど落ち着いた声を最後にシスデリトの記憶は飛んでいた。
はっ、と正気を取り戻したときには仲間たちと同じようにルシファーも横たわっていた。
しかし、誰かがルシファーの体やいくつも生えた翼をバラバラにしていた。
・・・もしかして、俺がやったのか・・・?
見下ろすとデリトの手は血で真っ赤に染まっていた。
またしても彼の記憶はそこで途切れていた。
「・・・おーい、旦那!旦那!」
ボッチェレヌの声が呼ぶ声が聞こえた。
昔のことを思い出して少しぼーっとしていたらしい。
デリトは頭を振った。
「ああ、なんだ。ボッチェレヌ。」
「もう、旦那。ボケっとしてないでくださいよ。ほら、あすこ、人がいますよ。」
「?」
ボッチェレヌが指した先には1人だけ少女が残っていた。
先ほどブラックウィンドに首を絞められていた魔王の娘だった。
ボッチェレヌとデリトが警戒しながら見ていると少女はこちらまで走ってきて、近づくとゆっくりとした足取りになった。
「あの・・・」
少女は不安そうな声でもじもじとしていた。 緊張しているようだ。
用心のためデリトは銃に手を伸ばした。 先ほど倒したブラックウィンドの罠か?
「ブラックウィンドを倒してくれてありがとう。」
少女は可愛らしい笑顔で笑った。
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