第12話
「あの数なら二人に任せて大丈夫よ。あたしたちは高みの見物といきましょう。ほら早く!」
玉玲は慌てて漣霞の背中に飛び乗る。
とたんに漣霞は空へと飛び立ち、人間の手が届かない高さで停止飛行した。
「あの小僧、空を飛んだぞ! あやかしか!?」
私兵たちが驚愕の表情で玉玲を見あげる。
彼らにはあやかしである漣霞は視えないから、玉玲が独りでに飛びあがり、宙に浮いているように見えたのだろう。
「う、うろたえるな! 目の前の敵に集中しろ!」
都督が明らかに狼狽した様子で、私兵たちをたしなめた。
八名の男たちに囲まれた幻晴は、後ろにいる幻耀をチラリと見て問いかける。
「この程度の人数で俺たちに挑もうだなんて、
「気をゆるめるな。一気に片をつけるぞ」
幻耀が妖刀を構えた瞬間、まとう空気と表情が鋭く変化した。
束の間ひるむ私兵たちだったが、数を頼りとばかりに幻耀へと斬りかかっていく。
幻耀は退くどころか、自ら前へと駆け出て敵を迎え撃った。
男が刀を振りかぶったところで、白刃の光がひらめき、突風が
矢を思わせる速さだった。
男には何が起きたのかわからなかったに違いない。
胴をなぎ払われた男は、目を見開いたまま地面に倒れて失神した。
幻耀の得物が人を斬ることのできない妖刀でなければ、真っ二つになっていたかもしれない。そう感じさせるほど、圧倒的な力と
「おい、立ち止まるな! 数で押せ!」
怖じ気づく私兵たちを、都督がまた離れた場所から
命じられた四人の私兵たちはゴクリと
逃げ場を封じつつ同時に攻撃を仕掛けようという算段だろう。
一人の男が「は!」と気合いの声をあげるや、四人全員が幻耀へと斬りかかっていった。
幻耀は動かない。左足を後ろに下げ、妖刀も左側へと移動させて溜めの姿勢を取る。
彼が動いたのは、四人の得物が幻耀へと振りおろされる直前だった。
竜巻が巻き起こる。玉玲はそう錯覚した。
幻耀が右足を軸にして、妖刀を素速く横へ旋回させたのだ。
妖刀の
四人は仰向けに倒れ、地面に背中を打ちつけて昏倒する。
一瞬の出来事だった。竜巻があっという間に四人を襲って去っていったと思うくらいの。
「……すごい」
空から様子を見ていた玉玲は、瞠目したまま賞賛の声をこぼす。俗に回転斬りと呼ばれている技だろう。幻耀がやると芸術的で、まるで演舞のようにも見えた。
相当な力と速さ、そして時機を見極める眼力と技術がなければ、とてもこんなふうにはいかない。
彼は強いと聞いてはいたけれど、ここまでだったとは。
「あれ? 兄上はもう五人も倒されたのですか? さすがだなぁ」
思わず見入っていると、近くから
彼の近くには、すでに三人の男たちが倒れている。
幻耀の絶技に目を奪われているうちに、幻晴もしっかり他の私兵を倒していたようだ。
幻耀ばかり見ていて、正直すまなかった。
「あとはお前だけだな」
呆然と立ちつくしていた都督の方へ幻耀は近づいていき、妖刀の切っ先を向ける。
「ひぃっ!」
都督は小さな悲鳴をあげて、その場から逃げ出そうとした。
漣霞がすぐにその先へと飛行し、玉玲は逃げ道をふさぐように都督の前に降り立つ。
観念したのか、都督はその場で膝を折り、幻耀に向かって
「申し訳ございませんでしたぁ! 全てお話しいたします。ですから、どうか命だけは!」
ひれ伏す都督に、幻耀は刃を突きつけたまま告げる。
「では、白状してもらおうか。あやかしによる被害として国に虚偽の申告をし、税や農作物を横領していたな?」
「はい。その通りでございます」
玉玲は幻耀の隣に移動し、次の疑問をぶつけた。
「詐取した農作物はどうしていたんですか? あれだけの量です。毎年どこかに売り払っていたんじゃないですか?」
まずいと思ったのか、都督はこちらにつむじを向けたまま黙り込む。
だが、幻耀が「答えろ」と鋭く促すや、体を震わせながら白状した。
「隣国の闇商人に売っておりました。近隣の街の商人だと、足がつきやすいので」
「地下に収められていた農作物も闇商人に近々売り払う予定だったんですね?」
「……その通りです」
あきらめきった都督の声が、裏院に弱々しく響く。
「では、今のことを全て主上の前で話してもらおうか。相応の裁きが下ることだろう」
幻耀は妖刀を鞘に収め、幻晴が縄で都督の体を縛りあげた。
「これで解決ですね」
玉玲は笑顔で言って、ホッと息をつく。都督の暴挙に一時はどうなることかと思ったが、強力な味方がいてくれて本当に助かった。
「それにしても第四皇子のやつ、怠慢すぎない? ちゃんと調べれば暴けないことでもなさそうなのに」
漣霞がこぼしたもっともな意見に、幻耀が見解を述べる。
「実績をあげることに
「全然示せてないけど。逆に墓穴を掘ったわよね?」
「まさかこうして私たちが調べるとは思わなかっただろうしね」
漣霞に同意を求められた玉玲は頷いて、微苦笑を浮かべた。
「でも、第四皇子が早計で助かりましたね。これで二件目ですし、さすがにただでは済まないでしょう」
幻晴の言う通り、毘毘も紬紬も第四皇子に誤認逮捕されたのだ。調査を
何よりこれで、無実の罪で捕まったあやかしたちを解放することができる。
きっと全てがいい方向に向かうはず。
「じゃあ、二件ともうまく解決できたことですし、帰りましょうか」
玉玲は晴れ晴れとした表情で告げ、門に向かって歩き出す。
あやかしと人間による謎解き調査部隊は、意気揚々と後宮へ帰還したのだった。
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