第7話
「あれを飲んだせいか、少し体が熱くて、お前を見ると何だかムラムラする」
それ媚薬も盛られてない?
玉玲はたじろぎながら幻耀の顔を見あげた。
よく見るとほんのり顔が赤い。呼吸も少し荒いような。
「太子様……?」
恐る恐る呼びかけた玉玲に、幻耀は鋭い目つきで告げる。
「名前で呼べと言っただろう」
攻撃的な表情が怖くなり後ずさると、幻耀も奥へと距離を詰めてきた。
臥牀の上でほんの少しだけの距離を取り、
息が届くほど間近に幻耀が迫ってきた。
「……幻耀様」
「玉玲」
「待っ――」
制止しようと開いた唇が、強引にからめ捕られてしまう。
獣のようにむさぼってきた幻耀の
抵抗しようと彼の胸を押したが、胸筋の硬さを感じるばかりでびくともしなかった。
しばらく玉玲の唇を堪能した彼の口は、滑るように下へと向かっていく。
ようやく唇を解放された玉玲は、彼の次の行動に狼狽の声をあげた。
「ちょっと、幻耀様?」
鎖骨の上の柔肌に強く吸いついてきたのだ。
そして、彼の唇は更に柔らかい場所へと這っていく。
「待ってください! 幻耀様!」
玉玲は必死になって抵抗した。だが、幻耀は少しも体を離そうとしない。
そればかりか、邪魔な玉玲の夜着をはだけようとする。
「やっ……!」
肩を露出させられ、玉玲が抵抗の声をあげた直後のことだった。
ダンダンダン!
ハッとして窓を見あげると、莉莉が硝子に
幻耀がひるんだ一瞬の隙を突いて、玉玲は横へと転がり逃げ、窓を開ける。
すぐさま莉莉が室内へと飛び込んできた。
牙を剥き出しにしながら幻耀を鋭く睨みつけ、ものすごい形相だ。
「この
莉莉は玉玲をかばうように立ち、幻耀を「シャーッ!」と威嚇した。
何もしてこないと判断したのか、莉莉も威嚇体勢を解き、枕の横で香箱座りをする。
「おいらもここに移る。おいらが見張ってれば、交尾する気になんかならねえだろ」
――交尾って。
莉莉の言葉に、玉玲は赤くなる。他に言い方はないのか。いや、直球な言い方をされても困るけど。
「ちっ」
――ちって。
舌打ちした幻耀を、玉玲は警戒心をあらわに凝視した。
羹のせいなのだろうが、本当に怖かったのだ。彼が彼ではない気がして。
限界まで距離を取って警戒していると、幻耀が大きく溜息をついて言った。
「俺がどうかしていた。何もしないから、お前もここで寝ろ」
羹の効力が抜けたのだろう。少し気落ちしていたが、いつもの幻耀に戻ったようだった。
部屋を出ていけば彼を傷つけてしまう気がして、玉玲はそのまま臥牀の上にとどまる。
しばらくすると、幻耀は
そのまま座っているわけにもいかず、玉玲も限界まで彼と距離を取って横になる。
ただ、あんなことをされた後なのだ。とても眠れるはずがない。
もふもふ部屋の方がよほど眠れていたに違いない。
※
鶏鳴が朝の澄んだ空気を震わせる。
寝返りを打つと、作り物のように美しく整った寝顔が目に入った。
ぐっすり眠っている幻耀が恨めしい。
彼のことは寝かせたままにして、玉玲は静かに臥牀から出る。
「おう。どっか行くのか?」
宣言通り幻耀を一晩中見張っていた莉莉が声をかけてきた。
玉玲は「しーっ」と人差し指を唇の前にあてる。
そして、頷いた莉莉と一緒にこっそり部屋を出た。幻耀をゆっくり休ませてあげたかったし、どんな顔をして話せばいいかわからない。羹の影響があったからとはいえ、危うく夫婦の契りを交わすところだったのだ。
赤面しながら歩いていると、寝不足の元凶とばったり出くわした。
諸悪の根源が満足そうな笑みを浮かべて、玉玲に挨拶する。
「お妃様、祝着至極に存じます。よくぞ夜のお勤めを果たされました。この伽蓉、夢にまで見た願いが叶い、胸がいっぱいです。あとは待望のお世継ぎを懐妊していただければ」
玉玲は伽蓉に冷めきった目を向けた。
「勤めって? 昨日の夜は何もありませんでしたよ」
伽蓉の笑みが凍りつき、顔に悲壮感を漂わせながら詰め寄ってくる。
「何もって? 殿下に、あんなことやこんなことはされなかったのですか!?」
「されてません! 何も! 昨日幻耀様が私を抱くことはありませんでした」
はっきりと答えてやる。口づけはあったけれど、絶対に言ってやるものか。
「伽蓉さん、幻耀様の羹に危ないものを入れましたね?」
あえて媚薬とは言わず、玉玲は少し言葉を濁して尋ねる。
「危ないもの? わたくしが殿下の料理にそのようなものを入れるはずがないでしょう!? 体に悪い影響がないか、侍女にちゃんと毒味をさせて確かめましたわ! 初老の太監にもムラムラしていたようですけれど。もちろん体に悪い影響はございません!」
結局危ないものを入れてたんじゃないかよ。初老の宦官に興奮するくらいなのだから。体に悪い影響を与えまくりだ。
玉玲はあきれ返りながら、怒りをみなぎらせて訴える。
「二度とそういうものは入れないでください! 次やったら本気で怒りますからね!」
幻耀にとっても、あれは望まぬ行為だったはずだ。次やらなくても玉玲はかなり本気で怒っていた。
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