03

 昔のことばかり思い出す。

 太った女の笑顔。それだけ。忘れられなくて、自分は今日もまたサルーンにいる。

 正義の味方は続けているが、基本的にはサルーンの用心棒。男と女の恋沙汰を、一歩引いたところから眺める。

 彼女が太ったままで。あの頃のままなら。どこかのタイミングで、結婚相手を探しに、ここへ来る。それだけの理由で、自分もここにいる。

 あれ以降、あの女と会うことはなかった。彼女は金持ちで、すぐ別の街に越したのだろう。自分は、内偵で見つけた狐が逃げたので、それを追った。全てが片付いたとき、女はもういなかった。

 運がないというか、なんというか。連絡先のひとつでも訊いておくべきだった。


「いや、違うな」


 ひとりごと。もっと深く、あの太った女について知るべきだった。もっと交わるべきだった。あの女が一途だと、分かっていれば。太った女を先に行かせることはなかった。女の肌をずたずたに裂いて、渡した服も着ないで持たせるような真似をしなくてすんだのに。

 全ては、自分の観察不足。彼女を周りに流されない強い女と勘違いした。


「はあ」


 ため息だけが、長い。

 この前から、ひとり、女がこちらを見ている。彼女とは似ても似つかない、圧倒的な美人。綺麗な体幹。それが、心を波立たせた。昔の太った女なんて忘れてしまえと叫ぶ自分と、自分が今ここにいる意味を思い出せと叫ぶ自分。

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