18.ソロモンの知恵

 俺の分は片付いた。

 彼女たちへと目を向けると、未だ戦闘を継続していた。


「また飛ばれる!」

「私に任せて」


 トールマンティスが背中の羽を広げて飛び立つ。

 長距離の飛行は出来ないが、滞空したり木から木へ飛び移る程度は出来る。

 アリアとの近接戦闘から逃げるように飛んだマンティスを、ティアの矢が迎撃する。

 直撃はしなかったが、動きを制限することは出来た様子。

 マンティスは五メートルほど後方に降りた。


「今度は逃がさない!」


 再びアリアと近接戦闘。

 短い時間で、マンティスとの斬り合いに慣れたアリアは、攻撃を受けきれるようになっていた。

 ティアも弓で援護している。

 一見順調にも見えるが、どうやら同じことを繰り返しているらしい。


 マンティスがまた飛び立つ素振りを見せる。


「またっ……マナ! 動き止められないかな?」

「やってみる」


 マナが杖を振るい、魔法陣を展開させる。

 放たれたのは氷の魔法。

 冷気を砲弾のように撃ち出し、着弾地点を瞬時に凍らせる。


「ありがと! ティア!」

「ええ! これなら狙えるわ!」


 アリアが両鎌を剣で受け、その隙にティアが矢を放つ。

 狙いは頭部。

 がら空きの頭部に、彼女の矢が命中する。


「ふぅ~ 何とか勝てたね」

「ええ」

「……うん」


 止まっている相手なら当てられる。

 言っていた通り、ティアは見事に命中させたな。

 ただ、それよりも気になったことがある。

 俺は彼女たちに歩み寄る。


「お疲れ様」

「ユースさん!」

「そっちはもう終わったんですね」

「速すぎ」

「いやまぁ、戦ったことある相手だったからね。それより――」


 俺はマナに視線を送り、続けて言う。


「結構苦戦してたみたいだけど、マナはどうして炎の魔法を使わなかったんだ?」

「……当てる自信、なかったから」

「ああ、戦う前に言ってたやつか」

「うん」


 マンティスの弱点は炎。

 炎の魔法であれば、一発当てただけでも倒せたはずだ。

 アリアが足止めして、マナが炎の魔法を放った直後に避ければ……

 というパターンが、おそらく最速確実にマンティスを倒せた方法だと思う。


「今更だけど、炎の魔法は使えるよね?」

「うん。種類だけならたくさんあるよ」

「コントロールが苦手なのか」

「苦手。それに外したらッて思うと、怖くて撃てなかった」


 なるほど。

 戦闘中とは言え、周りの環境を考えられるのは良いことだ。

 そもそも勝っているわけだし、責めることじゃない。

 だけど、ちょっともったいないと思った。


「マナは魔法を曲げたりとか、途中で消したりとかやったことある?」


 マナは横に首を振る。


「そんなこと出来るの?」

「出来るさ。良かったら次の戦闘で見せようか?」

「うん。見たい」

 

 そこから俺たちは場所を移動し、別の群れを探索する。

 北へ歩くこと数分。

 トールマンティス三体が集まっている所を発見。

 ちょうどいい感じに、木々が多くて入り組んでいるポイントだ。


「よく見てて」

「うん」


 俺は右手をかざし、基礎的な炎魔法【フレアバースト】を発動させる。

 この魔法は前方向に炎を放射するだけの、極めてシンプルな魔法だ。

 普通に撃てば、木に当たってしまう。

 そこは上手くコントロールすれば良い。

 発射後に放出した炎を三つに分け、木々を避けるような軌道を描く。

 炎は木に触れることなく、ジグザグ曲がりながらマンティス三体へ直撃する。


 かつて【魔人】と呼ばれた大魔法使いソロモンは言った。


「魔法とは、己の想像を形にする力だ」


 ……と。

 即ち、イメージこそが魔法を制御する主体。

 イメージを術式に落とし込み、現実に再現する。

 魔力はただの燃料でしかない。

 術式をアレンジ出来るかどうかが、自由な想像を体現できるかの鍵となる。


「大切なのは、自分がどう魔法を扱いたいか。そのための方法を学び、反復していく……魔法は夢があるけど、地道なものだよ」


 これも全部、ソロモンの記憶にあった言葉だ。

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