17.いずれ自分の力に

 トールマンティス五匹の討伐。

 ヒール草の採取。

 ラタの実の採取。


 今回受けた三つのクエストだ。

 メインはトールマンティス討伐クエスト。

 他二つは、その道中にこなせるサブクエスト。

 ヒール草は昨日も受けたから場所は知っているし、ラタの実も道中によく見かけた。

 背の高い木で、リンゴみたいな形をしたオレンジの実がラタだ。

 普通に食べるとめちゃくちゃ苦いけど、お酒にすると絶品らしい。

 そして――


「トールマンティスかぁ~ 私たちは戦ったことないモンスターだね」

「ええ。名前を知ってる程度ね」

「大きいカマキリ?」


 マナが首を傾げて俺に目を向ける。

 俺は頷き説明する。


「それで合ってるよ。体長三メートルを超える大型のカマキリ。かなり凶暴で他の魔物も捕食する」


 特徴は、何と言っても二本の鎌だ。

 強靭な鎌は、鉄の鎧もケーキみたいにサックリ斬れる。

 人の身体なんて、一振りで真っ二つだ。


「真っ二つ……」

「加えて動きも素早い。背中の羽で、短い距離なら飛ぶことも出来る」

「だ、大丈夫なんですか? 私たちで……」

「厳しい相手だよ。だけど、俺も一緒にいるし、決して勝てない相手じゃないと思う」

「お兄さん、弱点は?」

「炎による攻撃か、頭を潰すこと……っとその前に」


 俺は立ち止まり、上を見上げる。

 彼女たちもつられて上を見上げる。

 するとそこには、鮮やかなオレンジ色の実がなっていた。


「ラタの実だ!」

「あれを採取しておこう」


 見つけたのは偶然。

 ラタの実は森全体でよく見つけられるけど、早いうちに終わらせておくほうが楽だ。


「いっぱい生っていますね」

「……でも高い」

「ユースさん、どうやって取りますか?」

「どうすれば良いと思う?」


 アリアの質問に、俺は質問で返した。

 う~んと少し考えたアリアは、上を見上げながら答える。


「木を揺らすとか、のぼる?」

「それも良いけど、上に何がいるかわからないよ? 揺らしたら大量の虫が落ちてきたり」

「む、虫……」

「虫くらい別にいいじゃない」

「ボクは嫌だから、やるなら離れてやってね」


 ティアは大丈夫そうだが、マナは虫が苦手らしいな。

 アリアも得意ではなさそうだ。


「矢なら届きそうな距離ですね」

「俺もそう思う。ティア、やってみる?」

「はい」


 ティアがそう言うと、アリアとマナは少し離れた所に移動した。

 虫が降ってくるのを嫌がったのか。

 残った俺とティアは、上を見上げて距離を測る。

 ティアは千里眼持ちじゃないけど、元々視力が並外れて高い。


 ティアが左手を構えると、光の弓を顕現させる。

 俺は少しだけ驚いて、声に出す。


「魔法弓? ティアも使えたんだね」

「はい、一応は」


 腰には普通の弓も装備している。

 魔法弓が使えるなら、普通の弓は邪魔な気もするけど。

 そう思っている俺をしり目に、ティアは真剣な表情で狙いを定める。

 

 そして――


 矢を放ち、ラタの実を枝ごと射抜く。

 落下してきた実は、俺がキャッチした。


「いい狙いだね」

「ふぅ~ ありがとうございます。でも私では、ユースさんみたいにはいきませんよ」

「何で? ちゃんと当たったけど?」


 ティアは首を横に振る。


「私は止まっている相手じゃないと、上手く当てられなくて……普通の弓なら何とか当てられるんですけど、魔法弓はコントロールが難しいです」

「ああ、それで普通の弓も持ってるのか」

「はい。ユースさんはどのくらい訓練したのですか?」

「えっ、あぁー」


 前にも聞かれた質問だな。

 人の一生分……なんて答えられないし。

 今言えることは――


「たくさんだよ。自分が満足するまでかな」

「そう……ですよね」


 努力にゴールはない。

 少なくとも俺は、そう思っている。


 ラタの実を採取した俺たちは、次なるターゲットを探しながら奥へと進んでいく。

 道中にヒール草もしっかり採取して、三つのうち二つのクエストを完了させた。

 残る一つは今回のメインクエスト……


「トールマンティスだけだな」


 俺がそう言うと、三人はこくりと頷く。

 彼女たちにとっては初対面の相手。

 巨大なカマキリで、強靭な両腕の鎌が鉄の鎧すら斬り裂く。

 

「俺とアリアが前衛で攻撃を受けるから、二人は援護を頼むよ」

「狙いは頭部ですよね?」

「ああ。マナは隙を見て、炎の魔法を食らわせてやれ」

「いいの? 周りが森だから、引火するかもしれないけど」

「そこは上手く当ててほしいかな」

「……やってみる」


 歩きながら簡単に作戦を話し、各々の役割をイメージする。

 出来れば一匹ずつ出会ってくれると、戦い方を覚えるのにはもってこいだ。

 ただ、そういうのは運だし、早々上手くは回らない。


「いたぞ」

「思ったよりも大きい……しかも三匹」

「ああ」

 

 トールマンティスは数匹の群れで行動することが多い。

 三匹でも少ないほうだ。

 俺たちは茂みに隠れながら、役割の最終確認をする。


「俺が右の二匹を引き付けるから、アリアは左の一匹を頼むよ」

「はい!」

「二人はアリアの援護をメインに」

「了解しました」

「うん」

「よし、行くぞ!」


 そう言って、最初に俺が茂みから飛び出す。

 両手には剣を握り、剣の加護で空中に剣を生成。

 雨のように降らせ地面に突き刺し、一匹と二匹の間で境界線を引く。


「気を付けてね! アリア」

「はい!」


 俺とアリアはトールマンティスとの交戦を開始する。

 以前に何度か戦ったことのあるモンスターだから、俺は動きを知っている。

 鎌の切れ味はすさまじいが、剣まで折られるほどではない。

 ちゃんと剣で受ければ、脅威にはならない。

 さらに腕の関節部分を狙って斬れば、鎌ごと腕を落とせる。


「こうすれば、お前は何も出来ないだろ?」


 両方の腕を落とし、無防備になった頭を切断。

 近接での戦い方は、こうして鎌を封じる所から始める。

 残る一匹は俺の背後を取り、大きく両鎌を振り上げていた。

 隙をつかれたように見えるが――


「見えてるよ」


 剣の雨を降らせ、マンティスの全身を串刺しにする。

 衝撃で振り下ろした鎌は逸れ、俺の横を掠める。

 首にも一本が突き刺さっていて、抵抗しようと鎌を上げながら、力尽きて倒れこむ。


 剣聖から受け継いだスキル、技能。

 どれも強力で素晴らしい力だ。

 だが、同時に強力すぎて、今の俺には少し余る。

 以前にゴブリンと戦った時の経験から、複数の継承したスキルを同時に使うほど、体力の消耗が激しいと知った。

 あれ以来、戦闘ではなるべく一人のスキルを使うように心がけている。

 だけどいつかは……彼らの力をすべて使いこなし、自分なりの力へと昇華したいと密かに思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る