16.迫る脅威、続く日常

「ありがとー! お兄ちゃん!」

「ああ。もう盗られるんじゃないぞ」

「うん!」


 男の子は笑顔で去っていく。

 俺は手を振りながら、走り去る男の子を見送った。


「さて、ギルド会館に行こうか」


 そうして、俺たちはギルド会館への道へ戻る。

 ちょっとした道草にしては時間がかかって、すっかり日は落ちてしまっている。


 ギルド会館に到着すると、同じように完了報告を待つ人の列が出来ていた。

 俺たちもその列に加わり順番を待つ。

 二十分くらい経過して、ようやく自分たちの番になる。


「確認お願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢に採取したヒール草を手渡し、量を確認してもらう。

 すぐに終わって、報酬が支払われる。


「こちらが今回の報酬になります。ご確認くださいませ」

「はい」


 思ったより金額が多い。

 定価よりも一割くらい報酬が多く手に入ったようだ。


「ありがとうございます」

「やりましたね!」

「ああ。まぁ今回は、特にモンスターとも戦ってないしな」

「そうですね~ 前みたいにゴブリンとかが襲って来なくて良かったですよ」

「ちょっとアリア……怖いこと思い出させないで」

「あれはトラウマ」

 

 報酬受け取り直後、俺たちは軽く談笑をしていた。

 今となっては笑い話だが、彼女たちにとっては重大な時間だっただろう。

 その会話を受付嬢も聞いていた。


「ゴブリン?」

「え、あ、はい。ここに来る途中で、彼女たちの馬車がゴブリンに襲われたんですよ」

「そうだったのですか? おかしいですね……」

「何がです?」

「いえ、あの森にゴブリンが生息しているという情報は、これまで上がっていないんです」

「えっ、でもいましたよ?」


 俺がそう言うと、三人も同調するように頷く。

 数にして十体以上の軍団だ。

 てっきり森に巣があって、一部隊が狩りに出てきたのかと思っていたけど。

 どうやら違うらしいな。


「申し訳ありません。もう少し詳しい状況を教えていただけませんか?」

「はい」


 俺たちは受付嬢に、襲われていたときの状況を話した。

 それを聞いた受付嬢は、考えている様子を見せてから言う。


「ありがとうございます。念のため、上にも報告しておきます」

「はい、お願いします」

「あのユースさん、そんなに大事何ですか?」

「大事というか、留意すべきことではあるよ。新しいモンスターの参入は、森全体に影響するからね」

「なるほど」


 アリアの疑問もわかる。

 ゴブリンは下級のモンスターで、ちゃんと戦えば大したことのない相手だ。

 それでも、ゴブリンに村や町を滅ぼされたという報告はなくならない。

 脅威である以上、街を守る者として、ギルドも把握しておきたいのだろう。


 思えばこのときからだった。

 この街を……いや、もっと広い範囲を取り込んで、一つの思惑が蠢いていたのは。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日も俺たちはクエストを受ける。

 昨日よりも少し早い時間に集合して、急ぎ足でギルド会館へ向かった。

 すでに人だかりが出来ていたボード前を見ながら、アリアたち三人がごくりと息をのむ。


「そう身構えなくていい。まだ突っ込むわけじゃないから」

「で、でも今日は……」

「ああ、今日は余り物のクエストじゃ困る。だから、俺が選んでとってくるよ」

「お兄さん一人で?」

「いいのですか?」


 そう言いながら、ティアとマナはちょっぴり嬉しそうだ。

 俺は小さくうなずいてから言う。


「別に全員で行く必要はないからな。それにどうせ、選ぶのは俺の仕事になる」

「ユースさん、今日はどんなクエストに行く予定なんですか?」

「何か、までは決めていないけど、討伐クエストに行くつもりではいるよ」


 昨日の最初で、森の地形は大まかに把握できた。

 次に必要なのは、モンスターの種類とその習性を覚えること。

 聞いていた情報が正しいのか、自分たちの目で確かめる。

 もちろん、戦える相手かどうかの判断は、俺がしなくちゃだけど。


「じゃあ行ってくるよ」

「はい! お願いします」

「ああ、楽しみに待っててくれ」


 そう言い、俺はクエストボードへと足を進める。

 何度見ても圧巻の人の数だ。

 男女問わずひしめき合って、見ているだけでも暑苦しい。

 良い意味では活気があると言えるのだけど、端から見たらめちゃくちゃなだけだな。

 いや、冒険者らしいと言えばそうなのだけど。


「よし」


 気合を入れて、真正面から突っ込んでいく。

 レンガの積み重ねじゃないんだし、人と人との間には隙間がある。

 そこを上手く縫っていけば、ちゃんとたどり着ける。

 シルバーロードにいた時も、クエストを選ぶのは俺の仕事だったからな。

 こういうことには慣れている。

 その経験が活きているのだと思うと、ちょっぴり複雑な気分だ。


 ボード前にたどり着く。

 時間をかけて選んでいる暇はない。

 俺は右から左はざっと依頼書を見定めた。

 そこからめぼしいクエストを、三つ選び抜く。


「あっ! お帰りなさい!」

「ただいま」


 戻った俺を、アリアの声が出迎えてくれた。

 駆け寄ってくる三人を前に立ち止まり、小さく息をつく。

 アリアが尋ねてくる。


「どうでしたか?」

「うん。とりあえず選んできたよ」


 そう言って、俺は三枚の依頼書を見せた。

 マナがキョトンとした表情で呟く。


「三つも?」

「討伐クエストは一つだけどね。他二つは採取、一緒に受けると効率が良い」

「なるほど、本来は採取系はサブクエストですからね」


 ティアの言う通り、採取クエストはいわゆるおまけだ。

 メインのクエストのついでに受けて、追加の報酬をうけとる。

 慣れた冒険者ならそうするのがセオリー。


「今日は冒険者らしく稼ぎも考えよう」


 いつまでも、収入が乏しいんじゃやってられないからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る