10.西の洞窟【追放側】

 新メンバーにドタキャンされたレイズたち。

 怒り落胆するかと思われたが、開き直って普段通りにクエストを選び始めた。

 すでにクエスト選びのピークは過ぎ、ボードから人が捌け始めている。


「良いの残ってるかな~」

「なかったら休みにしようよ」

「それもありですね」

「さんせーい」


 軽いノリでボード前に移動する。

 羽振りの良いクエストは、もうほとんど取られてしまっている。

 そんな中、魔法使いのシーアが一枚の依頼書を見つける。


「あれは?」


 シーアが指をさして教える。

 空っぽ同然になった右側のボードで、ぽつりと一枚だけ残った依頼書。

 レイズが手に取り、内容を確認する。


「えっと、納品クエストだな。納品物はシャドウスネークの鱗だって」

「シャドウスネーク……確か、西の洞窟に生息している巨大な蛇だったはずだな」

「蛇なら前に戦わなかったっけ?」

「あれは森林にいるグロウスネークよ」


 グロウスネーク。

 湿地帯や湿気の多い森林エリアに生息する大蛇のモンスター。

 体中の鱗が鏡のように光を反射するため、目視では透明になっているように見える。

 全長は大きい個体で八〇メートルにも及ぶ。


「そーだっけ? まっ、同じ蛇だし基本は一緒でしょ」

「だな! そもそも洞窟にいるわけだし、あれより小っさいだろ?」

「そうだろうな」

「報酬も中々良いですし、これにしますか?」

「おう! 決定だな」


 レイズたちは納品クエストを受けることにした。

 ちなみに、依頼書には備考欄があって、達成に役立つヒントが書かれている。

 ほとんどが常識的な内容を記載してあるだけなので、慣れてきた冒険者はチェックしない。

 ただし、今回に限っては見ておくべきだった。

 ユースがいなくなった今だからこそ……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 クエストで指定されたエリアは、西にある山岳地帯。

 その一部に、巨大な洞窟の穴がある。

 大昔、炭鉱に使われていたそうだが、現在はモンスターの棲家となり果てていた。

 特に光を嫌うモンスターは、洞窟の中を好む。

 シャドウスネークもその一体だ。


「よーし、ランタン持ったか?」

「もちろんだ」


 ゴードンがランタンを見せる。

 それを見てレイズが頷き、手で中へ入ると合図する。

 彼らは何度かこの洞窟に訪れているが、深部まで潜ったことはない。

 シャドウスネークは、洞窟の最深部付近にいる。


「鱗っていうのが面倒だな」

「うむ。討伐のほうが、よっぽど楽ではあるな」

「だから残ってたのかもね」


 モンスターは討伐すると、結晶を落として肉体は消滅してしまう。

 その際に素材が残ることもあるが、基本的には運任せだ。

 確実に素材を入手するのであれば、討伐前に必要な素材をモンスターからはぎ取る必要がある。

 討伐前にモンスターから奪った素材は、本体を討伐しても消滅しない。

 ちなみに原理はよくわかっていないとか。

 モンスターについては、現代でも研究が進められ、謎が増えていく一方らしい。


 しばらく歩き、奥へと近づいていく。

 先駆者が残した目印を辿れば、迷うことはない。

 彼らは順調に進んでいった。

 そして――


「出たな!」


 黒い大蛇ととエンカウントした。

 洞窟の最深部は柱が乱立する広い空間が広がっていた。

 その中で唸り、黒い衣を纏った蛇が、赤い目をギラつかせている。


「あれがシャドウスネークか」

「思ったより大きいわ」

「森のと一緒くらいじゃない?」

「どっちでも良い! さっさと弱らせて鱗をはぎ取るぞ!」


 レイズが剣を、ゴードンが盾とハンマーを構える。

 後衛では、シーアが杖を持ち魔法を放つ準備を、アンリエッタは両手を握り祈りを捧げる。


「主よ――我が同胞を悪しき力より退け給え」

「サンキュー!」

「感謝する」


 前衛二人をアンリエッタが強化した。

 続けてレイズがシーアに指示を出す。


「シーア! 先手必勝だ!」

「わかってる――バーンストライク!」


 シーアが炎の魔法を発動させる。

 彼女の頭上に浮かぶ三つの火球が、シャドウスネークに放たれる。

 火球は着弾後、爆発してダメージを与える。


「よし! いくぞゴードン!」

「うむ」


 初撃の成功に続いて、レイズとゴードンが前に出る。

 ゴードンが正面に立ち、敵の攻撃を引き付けながら、レイズが斬りこむ。

 今まではここに、ユースも加わっていた。

 が、単純な戦闘では、彼の消失はほとんど影響していない。


「むっ、毒のブレスか! アンリエッタ!」

「もう加護はかけてあるわ」

「さすがだな」


 なぜなら、彼らは単純に強いからだ。

 多くの戦闘を経験し、それぞれが才能を有していた。

 Sランクにまでなったのだから、弱いはずがない。

 いや、だからこその過信があったのだろう。


「おっ、ゴードン! こいつ攻撃したら普通に鱗はがれるぞ」

「おお! それは僥倖だな」

「ああ、ラッキーだぜ」


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