11.準備不足【追放側】
シャドウスネーク。
全長はグロウスネークよりやや小さい七〇メートル前後。
暗闇を好み、日の光に弱い性質があるため、洞窟や深い森の中でしか生息していない。
シャドウスネークの鱗は、一定のダメージを与えると勝手に落ちる。
その理由は――
「ん? 何だ?」
「鱗が動いて……!?」
鱗を変質させ、小型の分身を生成する特性をもっているからだ。
「鱗が蛇になりやがったぞ!」
「はぁ? 何それどういうこと!?」
「わかるかよ! とにかく倒せ!」
小さな蛇は、シャドウスネークの分身体。
本体と同じように毒を吐き、鋭い牙も有している。
「くそっ、どんどん増えやがるぞ!」
「だが倒せない強さではない。冷静に対処すれば良いのだ」
「二人とも離れて。一気に焼き殺すから」
分身体の強さは、本体に比べれば微々たる物だ。
しかし、厄介なのは数にある。
本体を攻撃すればするほど、鱗が落ちて新たな分身を生み出す。
さらに鱗は数秒で回復してしまうため、ほぼ無限に増え続ける。
そして何より……
「おいおい……これ倒すと消えちまうぞ!」
分身体を倒すと、媒介となった鱗は消滅してしまう。
シャドウスネークの攻略法は、基本的にはシンプル。
一撃で止めを刺せばいい。
そうすれば、厄介な分身体は発生しない。
ただし、鱗を入手したい場合はちょっと面倒だ。
まず、一定のダメージを与えて分身体を生み出させる。
その分身体を倒さず、誰か一人が引き付けておく。
引き付けている隙に、大技を放って本体を倒す。
すると、分身体は消滅して、媒介となった鱗だけが落ちる。
これが正しいシャドウスネークの攻略法。
また、鱗のある特徴の所為で、採取後も色々と面倒だったりする。
だから、知っている冒険者たちは受けたがらない。
事前に調べていれば、こんなことにはならなかっただろう。
「くそっ、まだ増えてるぞ!」
「でも増やさないと鱗は取れないわよ」
「わかってる!」
しかし、彼らはロクに調べもせず受注した。
Sランクのパーティーにはありえない失態だが、彼らとしては普段通りだった。
そう、ユースが不在という一点を除いて、彼らはいつも通りに戦っていた。
ユースの役割は、戦闘ではなくその前にあった。
事前にエリアの情報を集めたり、モンスターの特性を把握したり。
それに伴って必要な道具を準備し、可能な範囲で支援する。
そうやって、地味にクエスト達成に貢献していた。
だが、地味な役回りにスポットライトが当たることはなかった。
彼らは気付かぬまま、ユースの知識や機転に助けられていたのだ。
「ゴードン!」
「すまんがこっちも手一杯だ」
「ちっ……」
こんなはずじゃなかった。
レイズは心の中でそう呟いていた。
未だに自分たちが苦戦している理由にはたどり着かない。
彼らにとって、ユースの存在はその程度でしかった。
とは言え、彼らも決して弱いわけではない。
苦戦を強いられながらも戦い続け、自分たちの力だけで相手の特徴を把握。
攻略法にたどり着き、何とか勝利を納める。
「はぁ……やっと終わった」
「中々骨のある相手であったな」
「もう無理。ちょっと休ませて」
「駄目ですよ。こんな場所で休憩していたら、他のモンスターに襲われます」
「アンリエッタの言う通りだ。さっさと出るぞ」
そう言って、レイズたちは鱗を回収していく。
「何か袋とかないか?」
「私が持っている」
「おっ、準備が良いね~」
ゴードンが出した袋に、拾った鱗を入れていく。
少し袋が小さめだったこともあり、口の部分から中身が見えている状態だ。
それをゴードンが肩に担いで持ち帰る。
「帰るぞ~」
「うむ」
「はーい」
「帰りも慎重に行きましょう」
ここでも彼らの無知が表れる。
シャドウスネークの鱗には、変わった特徴がある。
それは、日光に極めて弱いということ。
直接日光を浴びてしまうと、黒い鱗が白く変色してしまう。
さらに変色は、他の鱗にも伝染する。
白く変色した鱗は、価値が一気に落ちてしまうため、納品物としては適応されない。
ちなみに、これは注意事項として依頼書の備考欄に書いてあったことだ。
この後、口が空いた状態で外に出て、鱗が変色して……
どうなったのか、想像するのは簡単だろう。
そして、これは彼らにとって序章に過ぎない。
より不運が、惨めな体験が彼らを待っている。
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