2.ガラクタの山
夜の街を一人で歩く。
フラフラとしながら、宿屋へと向かっている。
頭の中は、いまだ整理がついていない。
ついさっきの出来事が、色濃く根付いて頭から離れてくれない。
考えても同じなのに、何度も考えてしまう。
あの時こうしていれば、とか。
最初から別のパーティーに入れば……なんて無意味な考えばかり浮かぶ。
後悔ばかりだ。
宿屋に到着した俺は、もらった箱を無造作に地面へ置く。
ガチャンと大きな音がしたけど、今は気にならない。
そのままベッドへ倒れこみ、無気力に目を瞑る。
この日の記憶は、それが最後だった。
翌日――
いつもの時間に目が覚めた。
徐に起き上がり、時計を見て準備を始める。
ギルド会館へ向かうための準備を……
「あっ、もういらないのか」
ぼそりと呟いた言葉が、自分の頭の中でグルグル残る。
自分で言ったはずなのに、誰かに言われたようにすら感じる。
たぶん、まだ信じられないんだ。
記憶は真実だと告げていても、心がそれに追いつかない。
そのまま一時間くらい、ぼーっとベッドに座っていた。
ガチャン――
不意に足元から金属音が聞こえてきた。
俺は音に反応して、視線を下に向ける。
「これ……」
昨日、彼らから譲り受けた戦利品だ。
彼らと受けた最後のクエストは、複数パーティーによるダンジョンの探索。
その時に得られた戦利品の一部を、去り際に受け取っていたんだっけ。
餞別?
違うね、これは押し付けだ。
だってこの中身は、使い物にならないガラクタばかりなんだから。
「……確認だけしとくか」
ただ、他にやることもない。
俺は箱を机の上に置いて、一つずつ確認していくことにした。
とは言え、半数以上はダンジョン内で鑑定済み。
覚えている限り、していなさそうなものは六つくらい。
俺は一つ目を取り出す。
「剣の……柄?」
一つ目は、刃の部分が錆落ちて持ち手だけになった剣。
この場合は剣だった物か。
念のため、鑑定スキルで見てみよう。
「鑑定――」
対象に触れて、スキル名を口にする。
これでスキルは発動し、情報が見えるようになる。
〇鑑定結果〇
名称:風化した剣
分類:武器
詳細:不明
「詳細は古すぎてわからない……か」
鑑定スキルも万能ではない。
あまりに年月が経過していたり、破損が激しい物の情報は読み取れない。
続けて他の戦利品も鑑定していく。
〇鑑定結果〇
名称:破損した槍先
分類:武器素材
詳細:不明
名称:魔法石の欠片
分類:武器素材
詳細:不明
名称:風化した弓
分類:武器
詳細:不明
名称:旗の切れ布
分類:不明
詳細:不明
次々に見ていくが、どれも破損が激しく完璧には鑑定できない。
まぁこれだけ壊れていれば、鑑定したところで売れもしないけど。
「最後の一つか……」
残ったのは、真黒な水晶だった。
掌にギリギリ乗せられる大きさで、ずっしりと重い。
これに関しては、破損もあまりしてないように見える。
鑑定を発動させる。
「えっと……【真実の水晶】?」
〇鑑定結果〇
名称:真実の水晶
分類:魔道具
詳細:鑑定不能
これが鑑定で見えた情報だ。
真っ黒の水晶は、【真実の水晶】という魔道具らしい。
魔道具は、特殊な効果を発動させる魔法の道具で、現代では生活用品にも活用されている。
他の戦利品と一緒にあったわけだし、魔道具でも相当古い物だろう。
何より気になるのは、詳細の部分。
「鑑定不能? こんなの初めてだぞ」
さっきまでの「不明」とは異なる。
劣化が原因ではなく、この魔道具そのものが影響しているのだろうか。
もしかすると、かなりのお宝なのかもしれない。
ただ、鑑定で見れない以上、確かめる術がない。
いいや、一つだけある。
大抵の魔道具は、魔力を流すことで効果を発揮する。
つまり、どんな効果なのかを確かめたければ、発動させてしまえばいい。
「でも……リスキーだよな」
どんな効果かわからない。
危険な代物であれば、自分の身も危ない。
本来ならば思いついても、絶対に試さない方法だ。
だけど、この時の俺は色んなことに絶望していて、冷静な判断が出来ていなかったんだ。
特に考えもなく、徐に水晶へ手を伸ばす。
いっそのこと、全てなかったことになれば良い。
そんなことすら思い浮かべて、投げやりな気持ちで魔力を注ぎ込む。
すると――
「……何も起こんないのか」
水晶はピクリとも反応しない。
魔力を流しても、効果は発揮されなかった。
そのことが無性に腹立たしく思えて、水晶を強く握り持ち上げる。
真実の水晶……
真実……
ふざけるな――何が真実だよ。
「真実なんて糞くらえだ!」
そう叫んで、思いっきり水晶を地面に投げつける。
水晶は激しく地面と衝突して、豪快に割れてしまう。
勢いが良かったこともあり、粉々になった欠片が霧のように舞う。
その瞬間、砕けた水晶の欠片が紫色の光を放つ。
「なっ――」
瞬きを一回。
次に開いたとき、目の前が真っ暗になっていた。
身体は重く、水の底に沈んでいくような感覚に襲われる。
何だよ……これ。
もしかして……俺は死んだのか?
そう思えるような光景だった。
ただし、身体の感覚はハッキリとしている。
死んでしまったとしたら、身体の重さなんて感じるのだろうか。
いや、それ以上に……
暗い。
何も見えないし、寂しい。
自分一人で海を漂っている感じかな。
そんなことを考えていた俺は、小さな、とても小さな光を見つける。
一つではなく、いくつもある。
まるで夜空の星のように、気づけば暗闇は小さな光で満たされていた。
「何だ?」
光の一つに手を伸ばす。
それは光ではなく、一枚のフィルムだった。
映し出されているのは自分。
過去の自分、あるいは未来の自分。
それを俺は見せられている。
理解の追いつかないまま、大量の記憶を見せ続けられる。
その中でも特に、彼らとの冒険が色濃く見えてしまうのは皮肉なものだ。
「ああ……何で俺は、こんな所に一人でいるんだろう」
そう呟き、流れていく記憶を眺める。
楽しそうにしている自分も、確かにいたんだ。
笑っている自分と、一緒に冒険をする彼ら。
楽しい光景のはずが、今では腹立たしく思う。
だってそうだろう?
この時から、彼らは俺を見限るつもりでいたんだ。
かけてくれた労いの言葉も、賞賛もすべて、嘘でしかなかったんだ。
「ふざけるな」
腹が立つ。
どうして自分だけが、こんな思いをしているのか。
彼らにかけた時間は取り戻せない。
この先俺は……ずっと惨めな思いをして生きていくのか。
それは仕方がないことなのだろうか。
いや、そんなこと――
「良いわけないだろ!」
叫んだ。
俺の魂が、心がそう震えた。
そのとき、記憶は一つに集結して、強い光となる。
強い光は、俺のことを待っているように見えた。
だから俺は、精一杯に手を伸ばしたんだ。
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