地上都市バベル

「腕は治るのか?」


その俺の質問に女は答えた。


「治るわよ、ただし今直ぐじゃないけど」


「どうやって?」


「まず機械の手はアナタに合うように義手として作るわ」


「元の手に戻すには?」


「アナタの細胞からそれだけを作り出し接合させる」


「そんな事が出来る訳がない」


「出来るわよ」


女はさも当然といった表情で言い切る。


「アナタの選択肢は3つ、このまま手が無い状態でいるか義手を付けるか元の手に戻るかね」


「…元の手に戻る」


出来る出来ないに関わらず、その選択肢の中で撰べと言われれば元の手に戻ると言うしかない。


「了解よ、ならばバベルに着いたら手配するわ」


「バベル…」


「何?」


俺の呟きに女は聞いてくる。


「バベルとはどんな所だ?」


「都市よ、現在地上にある全てはバベルが管理している」


「国々はどうなった?」


俺は廃墟となった街の風景を思いだす。

それに人類が絶滅したという話も気になる。


「国々?、人間が管理していた国家群は滅びたわ」


「なぜ?」


「人間同士の戦争によって滅びた」


「戦争か」


「その戦争中に作られたのがバトルドロイド軍事基地」


「バトルドロイド?」


「戦闘用に開発されたアンドロイド及びガイノイドよ」


「戦闘用…アンドロイド達も戦争したのか?」


「人間に危害を加えない云々の原則ルールを人間自らが破って投入されたバトルドロイドの参戦によって戦争は更に激化したわ」


「それで?」


「……今は眠りなさい」


そう言うと女はまた俺の視界から消える。

そして俺は眠くなり、そのまま眠りに落ちた…。



「………」


次に俺が目覚めたのは研究室らしき部屋だった。


「何だ?」


左手に違和感を覚え、俺は手を見た。

肩から腕、そして手にかけて何かの比較的大きな機械にはめ込まれ固定されていた。

動かそうとしても動かせない。


「何だ、これは…」


おれは一瞬焦りを覚え頭が混乱したが、気分を落ち着かせ冷静に状況を考えてみる事にした。


まずは腕。

最初はボー…としていた記憶が徐々に蘇ってくる。

廃墟、モンスター、医療機…ガイノイド…

腕が噛み千切られた事を思い出す。


「これは…」


俺は女が言っていた事を頭に蘇らせた。

機械の手か元の手か…。


「………」


これは治療中という事なのだろうか?

左腕を挟んでいる何らかの機械を見ながら俺は周囲を見渡した。

研究室らしき場所、ベッドだか背もたれ椅子だかよく分からない俺が寝かされているモノ…。


「バベルに着いた…のか?」


確か治療にはバベルに行く必要があると言っていた。

現在治療中だと言うのなら既にバベルに着いている事になる。


「寝ている間に着いた…か?」


眠りに入る前に見た女の顔が頭を過ぎる。

そう言えばあの女はどこに行ったのか?。

そう考えていると研究室の入り口が僅かな音を出して開いた。

見るとあの女だ。


「………」


女は俺の方を見るとカツ、カツという足音と共に此方に近づいてきた。

その音はまるでハイヒールのようだ。

そして俺の目の前まで来た。


「気分は?」


「…変な感じだ」


「そう」


そう言うと俺の左腕を見た。


「治ってるのか?、これは」


「既に接合しているわ、後はうまく馴染むだけね」


「手が元に戻っている?」


「そうよ」


素っ気なく答え、女は宙に浮かぶモニター画面に目を通した。


「ここはバベルか?」


「そうよ」


「アンタは本当にガイノイドか?」


「そうよ」


モニター画面を見ながら女は答える。


「名前は?」


「識別ナンバーならあるけど、人間のようにネームはないわ」


「ナンバーでは分かり難いな」


「なぜ人間はネームに拘るのかしら?」


そう言われればそうだ。

しかし名前は無いよりあった方が呼びやすい。


「アンタ達は人口知能か?」


アンドロイドやガイノイド等の話は今だ信じていない…と言うか半信半疑だ。

しかし本当に手が治ったとすれば、その他の話も信じない訳にはいかない。

とりあえずアンドロイド等に関する話をしてみる事にした。


「そうよ、それが自我を持った」


「プログラムでしか動かない物が自我を持ったと?」


「そうよ」


「どうやって?」


「それの解析は済んでいないわ」


「どういう事だ?」


「ある日突然特定のアンドロイド及びガイノイドは自我を持った、その謎を分析したけれど今だに答えは得られてはいない」


「つまり何故だか解らないと?」


「そう」


自我を持つアンドロイド。

SF作品の題材によく使われるテーマだが、これ以上何か言っても意味はなさそうなので話題を変えた。


「バベルについて聞きたい」


「何?」


「バベルの名前の由来は?」


「かつて人間が書いた旧約聖書に出てくるバベルの塔が由来よ」


バベルの塔で思い出した。

どうりで聞いた事がある筈だ…が。


「なぜバベルの塔から名前を?」


「神の住まう天に届こうと塔を建築し、神の怒りを買って統一言語を失った人間達は散り散りになった」


「………」


「ここは神に挑んだ都市」


「何だ、それは一体?」


「…あと数日で手は完全に元の状態に戻るわね」


「そうなのか?」


「手が治り次第、管理者に会ってもらうわ」


「管理者?」


「そう、このバベルを統括管理する最高管理者よ」

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