ガイノイド
四足歩行の怪物に向けて瓦礫の破片を投げようとした俺は手を止めた。
怪物は建物の影から出てきたとはいえ、またそこで足を止め此方の様子を窺っている。
「こっちに来るなよ…」
そう呟きいつでも投げられるように構えたまま怪物の動きに集中した。
投げるのを止めたのは怪物が襲ってきた訳ではないからだ。
投げて当たって逃げれば良いが、逆に怒って襲ってこないとも限らない。
「近づいてくるなよ…向こうに行け…」
俺は怪物を睨む。
しかしその俺の願いとは裏腹に、怪物は唸り声を上げて威嚇してきた。
「くそ!!」
舌打ちをし、怪物に向けて瓦礫の破片を投げつける。
その破片は命中する事なく怪物の手前で地に落ちた。
その破片に刺激され、怪物は走って向かってきた。
「無理だ!!」
俺は背を向けて走り出した。
犬程度の大きさならともかくライオン並みの大きさでは素手で戦っても勝ち目はない。
しかし走っても恐らく直ぐに追いつかれる。
こんなのと遭遇した時点で俺は終わっていたと言える。
「くそ!!」
俺は振り返り手を大きく広げて怪物を迎え撃つ。
追いかけてきた怪物は俺が真正面を向いた事に反応し、追いかけるのを止めて少し後ずさった。
この辺りは普通の犬と大して変わらない。
俺は足を路面に叩きつけ、その音で怪物を怯ませようとした。
しかしそれは逆効果だった。
それが却って怪物の怒りを更に倍増させる事になったようだ
。
怪物は口を開け、涎を垂らし牙を見せる。
そして一気に襲いかかってきた。
「うわ!!」
俺は手で怪物を制しようとしたが、突進を受けて倒れ込む。
「うぐっ」
倒れ込んだ俺の腕に怪物は噛みついてきた。
「うわあぁぁぁぁーーー!!!!」
必死に振り解こうともがくが、怪物は更に深く噛みつき肉から骨に到達した。
「ぎゃあぁぁぁぁーーー!!!!」
俺は絶叫する。
痛みよりもとにかく腕に食らいついている怪物を引き離したい一心で片方の拳で怪物を殴りつけた。
しかし怪物に何らの痛みも与えていない感じだ。
それでも必死に殴りつける。
ぐちゃっ…という音と共に噛みつかれていた俺の腕は噛み千切られた。
「うわあぁぁぁ!!」
叫びながらも急いで立ち上がり逃げ出す。
腕を気にしている余裕はない。
ここまま行けば全身噛み千切られて殺されてしまうだろう。
よろけながらも俺は怪物に背を向けて逃げ出した。
しかし転けた。
もうだめだ…。
俺は怪物の方を見た。
怪物は俺の方に走ってきて…。
そこで俺の意識は飛んだ……。
「………」
俺はうっすらと目を開けた。
「………」
何が起こったのか?。
というかここはどこだ…。
混乱する頭だったが、段々と思い出してきた。
廃墟で目覚めた事、廃墟を探索した事、空腹と寒さ、そして怪物……。
俺は思い出した。
怪物と遭遇して…確か…。
「夢…か?」
怪物と遭遇した事は夢だったか?。
夢だったのだろう…。
そう思い俺は左腕を見た。
左腕は肘から先が無くなっている。
「……嘘だろ……」
夢かと思っていたら夢ではなかったようだ。
「ちくしょう…」
手が無くなった事に対するショックが襲ってくる。
「くそ、くそ……」
目を瞑り俺は口の中で呟いた。
「………」
そして俺は目を開けた。
ショックではあるが、今度は今自分が置かれている状況を確認しなくてはならない。
「ここは…」
言いかけて俺はいきなり目の前に現れた顔に驚く。
仰向けに寝ている俺の顔を覗き込んできた女。
開口一番、「気分は?」と言ってきた。
俺は飛び起きようとするも、体がまったくいうことを利かず指一本動かす事も出来なかった。
「誰だアンタは?」
しかし女は答えずもう一度同じ事を聞いてくる。
「気分は?」
「…最悪だ」
「そう」
そう言うと女は小首を捻る。
改めてよくみると顔は端正で金髪碧眼の美女…とでも言おうか。
とにかく美人だ。
ただ、女の垂れた髪の毛の先が俺の顔に少し掛かっているのは鬱陶しい限りだが。
「怪物は?」
俺が1番気になる事はそれだ。
どうなったのか…だ。
「アナタを襲ったダグは殺したわ」
「ダグ?」
「あの怪物のネームよ」
「殺したって…銃か何かでか?」
「そう」
そう言うと女は俺から目を外し、そのまま視界から消えた。
「アンタは誰だ」
俺は女に呼びかける。
少し離れた所から女の声が聞こえた。
「ガイノイドよ」
「ガイ…ノイド?」
「簡単に言うなら女性型アンドロイドと言った所かしら?」
「アンド…ロイド?」
アンドロイドとは男型のロボットの事だ。
アンドロイド・ガイノイド併せてヒューマノイドと呼ぶ。
SF映画で観た…が、どこで観たかはやはり覚えていない。
俺は今見た女の顔を思い出す。
しかしどう考えても人間であってロボットとは到底思えない。
「からかっているのか?」
「真実よ」
「……ここはどこだ?」
「医療機よ」
「医療…機?」
「怪我人を収容し治しながら移動する高速飛行機」
「飛行機の中か?」
「そう」
「どこに向かっているんだ?」
「地上都市バベル」
「バベル?」
バベルという名前に聞き覚えがある。
しかしどこでだったかは覚えていない。
「なぜそこに行くんだ?」
「アナタが人間だからよ」
「?」
「絶滅した筈の人間を保護したのよ」
「?、人間が絶滅?」
「そう、絶滅」
「それは一体…」
俺がそう言いかけた時、再び女が俺の顔を覗き込んだ。
「腕を治すわ」
「何?」
「機械の腕か、元の腕かどちらが良い?」
女はさらりと言った。
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