モンスター

俺はザラザラした路面を慎重に歩き出した。

靴がないとまったく歩きにくいものだ。


ひたひた…ひたひた…ひたひた…


靴を求め廃墟の街を彷徨う。

それにしても土砂や瓦礫は落ちていても衣服類はまったく見当たらない。


「くそ!!」


足の裏にまた痛みが走る。

見ると小さなプラスチックの破片を踏んでしまったようだ。

そんな事がさっきから多くある。

既に足の裏は血が滲んだりしている。


「腹が立つ」


何故靴の一つも転がっていないのか。

例えサイズが合わなくても素足よりはマシだ。

そう思いながらひたすら街を散策する。

幾つか建物内にも入って見てみたが、やはり何もない。


「駄目だ」


いい加減足の裏の痛さに耐えかね、着ている上着を脱ぐ。

これを足に巻けば楽になれるだろう。


「切るモノは…」


ハサミでもあれば半分切って左右の足に巻ける。

しかし肝心のハサミが無い。

仕方なく俺は手で引きちぎろうとした。

だが繊維が丈夫すぎて手で引きちぎれない。


「くそ!!」


苛立ちながら俺は歯で切れ目を付けようと噛んだ。

しかしまったく千切れる様子はない。


「こうなれば…」


最後の手段である。

上着を右足に、ズボンを脱いで左足に巻きつけた。


「これでよし」


足底の部分を厚めにし上で結んだ俺はようやく落ち着いた。

下着姿だけになったが、足が痛いよりは遥かにマシだ。

何よりこれでソロソロとしか動けなかった状況は改善され移動が速くなり行動範囲が広がる。


「さて…」


見た目はあれだが足が楽になった俺は早足で街を探索した。


「………」


それにしてもここは何なのか。

戦争で廃墟になった?。

ここに住んでいた人はどうなったのか?。

死体が転がっていない以上、住んでいた人々はどこかに避難しているのだろう。

しかし、そんな中なぜ自分だけあの場所で寝ていたのか…。

考え出すとキリがない。


時間にしてどのくらい街のあちこちを調べていただろう。

約1時間程?、それとも2時間?3時間?。

陽が照り明るかった外もそろそろ日が落ち夕方の様相を見せ始めていた。

先程まで好奇心と疑問だらけで、衣服や靴を探していた俺は急に空腹を覚えた。


「腹が減った…」


勿論食べ物などあろう筈もない。

夜になれば明かりなどないだろうし、瓦礫だらけの暗闇の中で睡眠を取らなければならない。


「腹も減ったし、寒くなってきたな」


夕方になり日が暮れ始めてくると日中暖かかった気温が急に下がってきた感じを受ける。

現在下着だけの姿では肌寒くなってきた。

寝る時には足に巻いている寝間着を着て寝る必要があるだろう。

いや、今でももう寝間着を着たい心境だ。


やがて辺りは薄暗闇に覆われる。

俺は探索を諦め手頃な場所を選んで座り込んだ。

そして足から服を解き、着た。

そうこうしている内に完全に陽の明かりは失われた。

真っ暗闇の建物の中、俺はその暗さに吃驚する。

電気の光に慣れた人間にはその暗闇は恐怖さえ感じる。

反対に外が明るい。


俺はソロソロと建物の中を移動し、外に出る。

空を見上げれば月の光が辺りを照らしていた。


「腹が減った」


寒さと空腹の中、俺は瓦礫の座れそうな場所に座り月を眺めならがボーっとした。

取りあえず今出来る事は何もない。

探索は明日の朝に再び再開…だが、とにかく空腹だ。

今日見て回った結果を考えるに明日食料にありつけるとは到底思えない。

せめて水でも飲みたいが、水道の蛇口を捻っても水は出てこなかった。


「くそ!!」


状況が分からず怒りだけが沸いてくる。

しかし今はただ、明日になるのを待つしかない。


「………」


それからどのくらい時間が立ったか。

ようやく眠たくなってきた俺は月の光の中、横になった。

建物の中に入って寝た方が安全だろうが、中は暗すぎて不気味で視覚も奪われる為、まだ光のある外の方が何かあった時に対応が取れる分マシだ。


そうして俺は目を閉じる。


と…


暫くしてしゃり…という音がした。


「………」


しゃり…


「………」


しゃり…しゃり…


最初は単なる気のせいかも知れないと思ったが、確かに聞こえた。

何かが近づいてくる音だ。


俺は目を開け飛び起きた。


「………」


素早く辺りを見渡す。

何かが近づいている…のは間違いない。

それが何か分からない事への恐怖が襲ってきた。


「何だ…」


思わず口にしてしまう。

恐怖に駆られた時は口に出して和らげた方が気は楽になる。


「………!!」


音のしていた方で建物の影に隠れて何かが動いている。

俺はその影を注視した。


「………」


その影は少し止まっていたが、また動き出した。

そして建物の影から静かに出てきてその姿が月明かりに照らし出される。


それは四足歩行の生物。

ライオンぐらいの大きさに毛が生え手足は長い。

顔は犬のようであり、口から覗く牙は鋭そうだ。


「何だ、コイツは!!」


俺の知っている生物の中でこんなモノはいない。

その容姿は明らかに怪物モンスターだ。


俺は咄嗟に何か掴もうと手元を辺りを見る。

パイプでも鉄の棒でも何かあれば武器になる。

コイツが何なのかは分からないが、襲ってきたら素手で戦うのは無理だ。

しかし周囲に武器になりそうな物はない。

あるとすれば瓦礫の破片ぐらいのものだ。


「………」


俺は瓦礫の破片を手に持つ。

何も無いよりは遥かにマシだ。

投げてコイツに当たって逃げ出したらそれで良い。

俺は破片を投げようと構えた。

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