D

@nau2018

コールドスリープ

プシュー……


大きな音がして、扉が開く。


「………」


俺は目を開けた。


「何だ?」


口の中で呟く。


俺は何をしているのか?。

考えてみても頭の中は白紙だ。


ここは何処だ?。

そう思い上半身を起こし周りを見渡してみる。

どこかの小さな部屋、コンクリートの壁。

そして部屋に散らばる瓦礫の山。

それを目に入れ、俺はますます分からなくなった。


「………」


取りあえず立ち上がってみる。

そこで漸く自分が人1人入れるカプセル状の入れ物で寝ていた事に気づいた。


「何だ…」


何が何やら分からない。

ここはどこで、何故俺はここにいるのか?。

頭の中のあちこちで疑問が飛び交い混乱する頭で暫く呆然と立ち尽くす。

しかしいくら考えてみても答えは出てこない。


「………」


俺はカプセルのすぐ外の床を見た。

コンクリートらしき床には土が所々に被さり、埃も積もっている。


「………」


床から目を自分の足に向けた。

素足だ…。

もしカプセルから出たら足の裏に土や埃が付くだろう。

それはそれで嫌だが、一番の問題は石を踏んだり尖っているものが足に刺されば怪我をするという事だ。


俺は辺りに靴が落ちていないか見渡した。

しかしそんなモノはない。


「………」


取りあえず俺は今の状況を整理しようと腕を組む。

まず、このカプセル状のモノで寝ていた。

これが何かは分からないが、とにかくこれで寝ていた。

そしてここはコンクリートの建物の1室だろう。

土砂や埃や瓦礫が散乱している事から廃墟の可能性は高い。


「………」


現時点で判るのはそれだけだ。

あと判るのは自分は素足で服は…寝間着だという事のみだ。


「………」


腕を組んだ状態で暫く周りを睨みならが心を落ち着かせる。

どうすべきか…。


「………」


考えてみても時間のみが過ぎていく。

この状態を抜け出す為には、この部屋を出て外に行く必要がある。

しかしそうは思っても素足で床を歩くのは躊躇われる。

何か少しトゲッっぽいものがあれば忽ち怪我をする。


「………」


更に時間だけが過ぎる。

どう考えてみてもこのままこうしていても埒が開かない。


「行くか…」


行くしかない。


「仕方ない」


そう思い俺はカプセルを跨いで片方の足を床に着けた。

その途端ひやりとした感触が足の裏に広がる。


「冷たい…」


コンクリートの床は実に冷たい。

しかしそうは言っていられない。

俺は更に片方の足を床に着ける。


「さて…」


部屋の外は明るい。

というか陽の光が眩しすぎて外がどうなっているのかはっきりと見えない。


「何だ、この眩しさ…」


俺は目を細めて建物の出口に向かってゆっくりと歩き出した。


チクッ


「うっ」


足の裏にチクリとするものを感じて俺は咄嗟に足を上げる。

これがあるから素足は嫌だ。

俺は慎重に床の上を土や瓦礫を避けつつソロリソロリと歩いていく。

しかし既に足の裏は埃まみれである。


「………」


俺は振り向き、カプセルを見た

俺が寝ていたカプセル状の物体は、昔SF映画で見た冷凍睡眠カプセルみたいな形に見える。


「………」


そこで俺は立ち止まった。


「昔見た…映画…?、昔…?」


昔を考えてみて俺は気づいた。


「俺は誰だ?」


自分自身の事についての記憶がない…。

おや?…と思いながら記憶を探ってみても、それは思い出せない。

今思い出していたSF映画を観たという記憶も酷くおぼろげだ。


「俺は誰だ?」


尚も呟いてみる。

しかし何度考えてみてもまったく思い出せない。


「………」


とにかく分からないながらも取りあえず出口に向かって歩き出した。

そして足の裏が汚れながらも出口までたどり着いた。

外からの眩しい光に薄目になりながら俺は外に出た。


「………」


ゆっくりと目を開ける。

俺の目の前には崩れたビル群や潰された車っぽいもの、折れ曲がった街灯、瓦礫の山、ボコボコになった街路があった。


「何だこれは…」


戦争映画で観たような風景だ。


「戦争…映画…?」


自分の頭に浮かんできた事に自問自答した。

その戦争映画もどこで観たのかまったく記憶にない。


「どうなっている…」


とにかく目の前にあるのは廃墟と化しているらしい風景だ。


「………」


俺は周囲を見渡す。

人影はなかった。

人の気配はおろか物音1つしない。


「さて…」


どうするべきか…。

目の前の状況は何がどうなっているのかは分からない…が、少なくとも今必要な物は分かる。

とにかく靴だ。

街を探索するにも何をするにも靴がなくては動き回る事は困難である。

しかし靴を探そうにも誰もいない状況ではどこに行けば手に入るのか見当もつかない。


「どうする」


亀裂が入り砕けたボコボコの街路を歩くだけで足の裏は傷だらけになってしまうだろう


「靴屋はないか…」


そう、靴屋だ。

街には靴屋がある筈だ。

しかし街角に靴屋…はない。

あるのはネット購入だった。


「ネット購入?」


確かネットワークにアクセスして購入していた筈…。

ならば街角には無いという事になる…が。


「くそ」


舌打ちをし、周りに靴が落ちていないかどうか見渡す。

しかしそう都合よくは落ちていたりはしない。


「それにしても誰もいないのか?」


見た限りにおいて廃墟なのは明らかだ。

もう誰も住んではいまい。

しかし誰かいて靴をくれれば言う事は無しだ。

とはいえ銃を持った物騒な連中はお呼びではないが。

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