第6話
6.
私は敵の大将を担ぎ、敵の兵士の攻撃を避けながら城に戻る道を全力で走っていた。途中、矢が私の目に刺さったが、気にせずスピードを上げ、城の前で思い切り飛び上がり、屋上に着地した。下の兵士達は私が大将を連れて行ってしまった事と私が城の屋上に地上からのジャンプで降り立ったことに呆然としていた。私は大将を城の地下牢に閉じ込め、目を覚ますまで子供達に見張っておくように頼んだ。大将が目を覚ますまでの間、私は傷の治療を朱里に頼んだ。
「朱里、心臓に刺し傷、眼は矢を抜いたら原型を留められなくなっちゃった」
私がそう言うと、朱里は呆れた様にまずは心臓の傷を見てくれた。
「ん。心臓の方は傷が消えてる。だから、もう大丈夫だと思う。けど、眼がね。なーんで矢を抜いちゃったのかなぁ?ん?」
朱里がそう言いながら詰め寄ってきた。
「朱里、怖い。というか、さりげなく心臓に注射器刺すのやめて。自分でやる」
何か心臓が痛いと思ったら、注射針が刺さっていた。朱里の手をどけ、自分で漆黒の液体を注入した。二回目となれば痛くない。そして、全て注入し終えると、緋色の液体が入った注射器をもう一度心臓に刺し、注入した。少し痛みが現れたが、数十秒で落ち着いた。
「ふう」
私が体の痛みが引いて安堵していると、体が痙攣し始めた。そして数分後、体の痙攣が止まり、体の異常が無くなると鏡を見た。すると、眼が元どおりになり、普通に見えるようになっていた。朱里の薬の凄さに圧倒していると、大将の目が覚めたと見張りの子供達から伝言がきた。
「色様、あいつが目覚めました」
その伝言を聞くと、私は急いで地下牢へと走った。私が地下牢に到着すると、確か大将は目覚めていた。しかし、両手足は鎖で縛られ、何とも酷い姿だった。私は格子に付いている扉を開け、牢の中に入った。そして、大将は私が入ってきた事に気づき、顔を上げた。しかし、私の顔を見るなり目を見開き口をあんぐりと開けた。どうやら驚いているようだ。
「な、何でお前は生きている。心臓に刀が刺さり貫通したはずだぞ」
数十秒間沈黙があったが、やっとのことで大将が一言だけ喋った。
驚くのも当然だ。何故なら、私の負った傷が全て無くなっているからだ。傷跡さえも残っていない。
「ああ、私は傷を負ってもすぐに治っちゃうんだよね」
「は?そんな事はありえないだろう」
私が答えると、間髪入れずに大将からそう返ってきた。勿論、普通ならそういう事はありえない。“普通”ならね。でも私は、普通じゃない。体の中にある薬を入れている。その薬には、治癒能力が増加する効果がある。だから、傷の程度にもよるが大体の傷は一瞬で治癒する。しかし、さっきの眼の様に、治りづらい事もあり、その時は薬を追加する。そうすれば、一瞬でどんな傷でも治る。この薬は緋色をしている。漆黒の色をした液体の事はまた後ほど説明しよう。
「ホントだって。見て」
私はそう言って側に居た見張りの子が持っていた懐刀を貰うと、一切のまよを見せずに自分の心臓に勢いよく突き刺した。
「ぐっ....ううっ」
「おい、何やってんだ⁈」
私が呻き声を上げながら倒れると、大将は信じられないという顔で見てきた。そして、焦ったように立ち上がろうとしたが、鎖で両手足を縛られている為、立ち上がれずにその場にただ鎖ががちゃがちゃいっただけだった。まあ、そんな心配も無用。私はすぐに起き上がった。
「はあ、久しぶりに自分で心臓を貫通させた」
私がこんな事を言うと、大将は口を開けたまま固まっていた。
「お前、化け物か?いや、刀に細工をしてあるって可能性....」
大将は懐刀に細工がしてあるという考えを私に言ってきたが、最後までは言えなかった。何故なら、大将がその考えを言い終える前に私が大将の顔の前に血の付いた懐刀を突き出したからだ。さすがの大将も、その刀を見て言葉を失った。そして、私の心臓部分を見て再度気絶した。私の心臓部分は、服だけ切れており、肌に傷は無かった。当然だけど....。私は一度牢を出て、城の中の自分の部屋に戻った。すると、部屋の中には鷹優と朱里がいた。
「やっと戻ってきたか。どうだ、奴の状態は」
私が部屋に入るなり、鷹優が静かに聞いてきた。
「うん。また気絶しちゃったけど大丈夫そうだよ。でも念のため、朱里は後で診察してきてもらえる?」
「わかった。けど、色、敵にそんな事する必要あるの?」
私は鷹優の質問に答えた。しかし朱里は私の頼みを聞いた途端、全身から嫌々オーラがびんびん出してきた。確かに、敵を診察するメリットはいつもなら無い。しかし、今回は別だ。お姉ちゃんの居場所を吐くまで死なせるわけにはいかない。
「朱里、お願い。私は、あいつがお姉ちゃんの居場所を吐くまで死なせられない。ここであいつが死んだら、お姉ちゃんへの手がかかりがなくなっちゃう」
私が念を押しながら言うと、諦めたように朱里は立ち上がった。
「どうしたの朱里。いきなり立ち上がって」
私が驚いていると、朱里は部屋を飛び出して行ってしまった。
「あいつはなんなんだまったく」
鷹優が呆れたように朱里が走っていった方を見ながら呟いた。
「ところで、色。その後どうだ。怪しい行動をしていた奴はいたか?」
鷹優の言葉で、この場の空気が変わった。
「ううん、いない。というか、本当に内通者なんているの?」
私はまだ内通者がいるという鷹優の考えが正しいとは思っていない。
「ああ、必ずいる。確証は無いが、勘というやつだ」
しかし、鷹優はいると断言する。
「勘?それだけでよく仲間を疑えるね」
私は段々鷹優の考えに苛々してきて、おもわず強い口調になってしまった。
「当たり前だろう。俺達は、そうして今まで戦ってきたんだから。色、思い出せ。俺達は何度騙された。他人を信用しちゃダメだ」
「でも、みんなは他人じゃない。ずっと一緒に暮らして、同じ釜の飯を食べた仲間だよ」
確かに、鷹優の言う事も一理ある。しかし、それは暗殺者が相手の時の事であって、仲間が裏切った事は絶対に無い。
「確かにそうだ。だが、裏切るのは簡単だ。たとえどんなに一緒にいた時間が長くても、裏切る奴は裏切る」
「何でそんな簡単に仲間を疑えるの?」と私が鷹優に言おうとした刹那、部屋の襖が開き、朱里が戻ってきた。
「たっだいま〜。って、何この空気。なんかあったの?」
「「あった」」
私と鷹優は見事に息ぴったりのテンポで言った。
「朱里、座れ」
鷹優が朱里にそう言うと、朱里は察したのか大人しく静かに座った。
「しっかり聞いてほしい。朱里、俺はこの隊の中に政府への内通者がいると考えている。今回の計画は絶対に政府に漏れるはずがなかった。だが、今はこのありさまだ。計画が漏れ、城が包囲されている」
「たしかに。私も同じことを考えていた」
私は驚いた。朱里は絶対に反対のことを考えていると思っていたからだ。
「ちょ、ちょっと朱里。朱里も内通者がいると考えていたの?」
「うん、そうだよ。今回の戦いの中で、不審なことがいくつかあったからね」
私は絶句してしまった。え、不審なこと?たしかに政府に今回の計画が漏れたのは気になったが、別に気にしてなかった。
「その計画が政府に漏れたのが一番の不審なことなんだよ」
鷹優が絶句している私の心を読んだかのようにそう言ってきた。言われてみれば、確かにおかしい。この計画は絶対に政府が勘付かないように計画されていた。そこで、私は大きな事に気がついた。
「わかったか色。そう、この計画には最大の落とし穴がある。確かに政府に勘付かれないよう計画されているが、内通者がいたとすれば話は別だ」
鷹優がまたもや私の心を読んだかのようにそう告げた。そう、この計画には、内通者がいた時の対処方法がない。つまり、政府に知られても内通者がいればおかしくないのだ。逆に言えば、内通者がいない限り、この計画は絶対にバレないという事だ。
「でも、この計画の決行を政府が仕組んだっていう考えもあるよ」
おそらく、そんな可能性がは一%にも満たないと思うけど。
「いや、その可能性は極めて低い。もし政府が仕向けたとして、政府に何のメリットがある。流石にメリットがないのに戦いを仕向けて来るような無脳ではないはずだ」
「アー、ヤッパリソウデスヨネ」
くそー。鷹優に論破された私は最後、棒読みでしか答えられなかった。
「やっぱり、内通者が」
「ああ、いる」
やっぱり、鷹優は考えを変えない。鷹優がそこまで言うのなら、いるんだろう。確証はないけど。
「でも、一体誰」
「まだそこまでの目星も付いていない。ただ、分かっている事は子供達は内通者ではないという事だ。あいつらのことを内通者にしても、政府は有力な情報は得られないからな」
「じゃあ、大人っていう事?」
「その可能性が高い。ただ、もう一人、大人じゃないが頭がキレる奴がいる」
「それって....」
「まぁ、まだ一つの可能性だ。深く気にすることはない」
鷹優は淡々と告げると立ち上がって、部屋を出ていった。一方の私は、混乱していた。鷹優がいう「大人じゃないけど頭がキレる奴」とは、おそらく江のことだろう。そんな事を考えていると、いきなり大きな声が聞こえた。
「ーき、色っ」
「あっ」
いかん、朱里の存在をすっかり忘れていた。
「ごめん。えと、何?」
「もう、ひどいよ鷹優と色で勝手に話を進めちゃうしさー」
「ごめんって。でも、朱里も会話に入ってくればよかったのに」
「そんな隙も無かったよー」
私は朱里のあーだこーだを聞き流しながら、さっきの鷹優との会話を思い出していた。そんな事をしていると、満足したのか朱里は部屋を出ていった。ちなみに、時間を確認したら、一時間半経っていた。
「あー」朱里が出ていき、一人になった部屋で私は呻き声を上げた。頭がこんがらがって、パンクしそうだ。畳に突っ伏していると、ノックの音がした。
コンコン
「はーい」
私がそう言って襖を開けると、そこには江がいた。
「何、江」
「えっと、その....」
「ん?」
珍しく江の言葉の歯切が悪い。
「私は内通者ではありません!」
「そんな大きな声で言わなくても、私は江が内通者だなんて思ってないよ」
当たり前だ。江が内通者のわけがない。
「そうですか.....疑って、申し訳ありませんでした」
「いやいや、こっちも色々と悪かったし、こちらこそほんとにごめんね」
別に、江は謝らなくていいのに。
江はそう言うと、部屋から出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます