第2話

2.


コンコン、

「失礼します」

私は、ドアをノックして扉を開けた。

ここは私達の上司がいる政府が用意した鋼の司令塔だ。

ここの最上階にある部屋に上司はいる。

私はすぐに階段を登り、最上階の部屋の中に入った。

「失礼します。さっきでた指令のターゲットは無事、確保しました」

私は簡潔にそう伝えた。

「そうか、報告ご苦労。よくやった。下がってよい」

私は静かに部屋を出て、お店に戻った。

やっぱりお偉いさんは苦手だ。

偉そうに指令を出せばいいのだから。こちらの苦労なんて何ひとつ称えてはくれない。

一度でいいから刀を握らせてアイツ(上司)から一本取りたい。

そんなことができたらどれだけせいせいするか。でも上司だ。できるわけがない。

悔しいが従うしかない自分の無力さに打ちのめされた気分で歩いていたら、いつのまにかお店に着いていた。

「ただいま〜」

さすがに少し疲れた。早くお風呂を沸かして入りたい。

「お姉ちゃん。お風呂沸かすけどはいる?」

そう聞いたが、返事が返ってこない。どうしたのかと部屋の奥を覗くと、お姉ちゃんは刀の手入れをしていた。

こうなると何を言っても返事は返ってこない。お姉ちゃんは刀の手入れをしているときは集中しすぎて周囲の音が全て聞こえなくなるのだ。

まるで我が子のように刀を手入れしているお姉ちゃんの姿を見ると私までほんわかした気分になる。

「キィン」

お姉ちゃんが刀を手入れすると、短刀を手入れしている時だけ不思議な音が鳴り、私の短刀もその音に共鳴するように音が鳴る。

しかしこの音が何なのかはわからない。

そんな事を考えていると、同じ隊の隊員の緋倉朱里がお店に駆け込んで来た。

「大変だ。鋼の幹部達がこの村の偵察に来るそうだ。もし運悪くあいつらが見つかったらやばいことになる!」

と、入ってくるや否や一気に叫ぶようにそう言ってきた。

血相変えて一気にまくし立てながら言われたせいか、自分の心臓が速く脈打っているのが分かる

「何で幹部達が?どうしてわざわざうちの村まで?」

私は早口で緋倉に問いかけた。

「分からない。ただ、今考えられるのは何処からか情報が漏れたか、ただの気まぐれかの二つだ」

緋倉はとても焦っているらしく、早口にそのことだけ言うと他のみんなにも伝えなければいけないからと、走り去って行ってしまった。

私は急いでお姉ちゃんのもとに駆け寄り、緋倉からの情報を全て伝えた。

「お姉ちゃん、大変。幸いにも、もう刀の手入れは終わっていて、情報を忘れる前に全て伝える事が出来た。お姉ちゃんはその話を聞いた途端刀を持ち構えをとった。何事かと思っていたら、扉が乱暴に開けられスーツ姿の男達が数人入ってきた。間入れずにお姉ちゃんの短刀が男達のみぞおちに入り、次々と気絶して倒れてしまった。こういうところ、我が姉ながら恐ろしい。気絶した男達を外に放り出し、記憶がある程度消えるツボを短刀で突いておいた。来る直前の記憶から消えているだろう。

「さ、邪魔者は片付いた。色、お茶にする?」

私が男達を追い出し終え、家の中に入るとお姉ちゃんは既にお茶を飲んでいた。

「飲む。というかお姉ちゃん、政府の人間にも容赦ないね〜」

私は笑いながら言った。すると、

「あー、まぁ、あの子達の事が政府にバレるよりは記憶を少し消した方がいいでしょう」

と、笑いながら普通だと言うような顔で言ってきた。

こういう時、お姉ちゃんの体の中に黒い血が流れているとつくづく思う。

お姉ちゃんと私には政府の人間は誰も知らない大きな秘密がある。さっき、緋倉が焦ってうちに駆け込んで来たのもその秘密が原因だ。また、その秘密が政府にバレると多くの命が犠牲になる。だから、政府の人間が来るといつもああして気絶させ、記憶を消す。

「ハァァァァ、疲れた。政府の連中は急に来るから対応が大変だね」

相変わらずお茶を飲んでいるお姉ちゃんに愚痴を言うと、お姉ちゃんは静かに笑いながら言った。

「しょうがないわ。私たちは、政府に重大なことを隠しているんだもの。少しは我慢しましょう」

確かにそうだが、この頃政府の監視の目が強くなった気がする。

「あー、政府の下に何て付くんじゃなかった。こんなに辛いなんて。でも、あの子達が生きる為にはしょうがないよね」

そう、しょうがない。あの子達の為だ。そう思えば、辛くない。

「まぁ、いざとなったらあの計画を実行するまでよ。あの子達を守るためなら手段は選ばないわ」

お姉ちゃんは一瞬真面目な顔をした後、いつも通り笑顔になった。私はお姉ちゃんの笑顔が好きだ。でも時々、その笑顔が寂しそうに見えたり、消えたりする。その表情を見ると救ってあげたくなる。お姉ちゃんは私と生まれたタイミングが一分くらい早かっただけで、同い年なのだ。しかし、一人で抱え込もうとする。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ」

私が心配すると、お姉ちゃんは笑顔になって決まってそう答える。でも、私は分かる。お姉ちゃんが無理して笑顔を作っていると言う事を。

「お願いお姉ちゃん。私はお姉ちゃんを守る。だから、一人でそんなに抱え込もうとしないで。お願い。私はお姉ちゃんが辛そうな顔をしているのは見たくない。きっとあの子達も同じだよ。」

私は妹だ。でも、お姉ちゃんは同い年の双子の姉だ。気持ちの容量も同じくらいだ。だから、そのうち、お姉ちゃんの気持ちの容量は無くなってしまう。でも、お姉ちゃんは頑固な為、全ては喋ってくれない。

「大丈夫よ。ありがとう、色。私なら大丈夫」

「お姉ちゃん、全然大丈夫そうじゃないよ。辛いって顔に書いてある」

私がそう言った後、お姉ちゃんは黙ってしまった。次第にお姉ちゃんがあまりにも辛そうな顔をしてきたから、その話題はそこで終わりにした。

「あっ、そういえば、私、明日は例のところに行ってくるよ。だから、お姉ちゃんは留守番よろしく。お店はお休みだからゆっくりしてて」

「わかった。気をつけて行ってきて」

「はーい」

お姉ちゃんの許可は取ったし、明日は出かけるとしよう。明日は休みだ。

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