第30話 御殿場のお転婆

 1年B組に転入生がやって来た。

「静岡出身の供米田くまいでんキョウ子さんだ。みんな仲良くするように」

数学教師の担任・マス大山は、全然数学をやっているように見えない。


「あ!」

ミドルはキョウ子を指さした。


「あら、ゲランガンの会場をぶっ壊した不良中学生じゃないの」

キョウ子は、ミドルに負けたのがよっぽど悔しかったらしい。


「キミこそ、お転婆娘のキョウ子ちゃんじゃん」

お転婆という字面を見ると女性への差別用語だと早合点してしまうが、これはオランダ語のontembaarの当て字で、"負けん気"というような意味になる。


「あ~、こらこら。喧嘩はリング上でするように」

智の気より血の気の多い二人。



「ウィル、どうしたんだい?」

なにか思案している天才少女に、ススムが問い掛ける。


「ううん、なんでもないわ」

(ススムくんとわたしもだけど、どんどん北伊勢市に人が集まってるわね。県外ナンバーも増えてるし、雲水伯楽なら何か知ってるのかしら)


ススムの左隣がウィル。その前に座っているのがミドル。キョウ子は、ミドルの右隣に座るように指示された。


「最悪な気分ね」

転入初日なので、学習教材を何も持ち合わせていないキョウ子。


「こういう時は、隣の人間が教科書を見せたりするんだよな~」

「必要ないわ」

ぶっきらぼうに言い放った、オンテンバール。


「ミドル。供米田は、武道だけでなく学問も相当な高位者だ。お前も素直に教えてもらうといい」


ウィルは勿論のこと、ススムといいキョウ子といい、1年B組は勉強が得意な面々が多い。学年で後ろから数えた方が早いミドルは、肩身が狭かった。


「ねえ、供米田さん」

ウィルが語りかけたので、キョウ子は首を左に旋回させた。


「あなたも雲水翁の一門にお入りになったらどうかしら?」

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