第23話 ハプニング・イヴニング

「よくここまで来れたな」

ミドルを褒め称える、バルマン。

「バルマンのおっちゃん、余裕こいてると痛い目見るぜ」

ミドルはあの時よりもさらに力を付けている。


「ここではコイルガンは使えないぞ」

砂浜でもないし、ミドルに有利なフィールドではなかった。


「分かってるって。それにここでコイルガン使っちゃったら、会場がめちゃくちゃになるからね」

ミドルが話もほどほどに、ファイティングポーズを取った。

次の瞬間、バルマンが視界から消えた。


ミドルが上空を見上げる。

「バカめ、うしろだ!」

バルマンの跳び蹴りを食らってミドルは大きくふっとんだ。


「てててて・・・」

神足のバルマン、一筋縄ではいかない。


「ミドル、落ち着いてよく見るのよ!」

ミドルが負けたらハローデンに帰らなければならないウィルも、応援に熱が入る。


手を休めることなく、バルマンが襲いかかる。あまりの速さに、残像が映るほどだった。しかし。


「おうっ!」

バルマンが顔面を殴打され、うずくまる。

バルマン本体と残像の二体の攻撃を、ミドルはなんなく対処し、本体のバルマンをとらえることに成功した。


まぐれだろうとバルマンは同じ攻撃を繰り返したが、何度やっても読まれてしまう。

「おっちゃん、俺に残像攻撃は効かないぜ。あんたのカラダから流れる微量の磁気を俺の拳がキャッチするんだ。残像からは磁気が出ていないから、違う戦法を考えたほうがいいぜ」


ウィルは、バルマンが何か口に含んだところを見留めた。

「ミドル、気をつけて!」

「遅い!」

バルマンはミドルの顔に向かって、黒い塗料を吐きかけた。口に含んでもさして影響の無い、ドイツの自然健康塗料である。


「まだだ、メインカメラがやられただけだ!」

バルマンがミドルを警戒して距離を置いたが、ミドルは的確に反応し、詰めてくる。引きずるような靴音が、バルマンを畏怖させた。


「耳障りな音を立てるな、ミドル!」

バルマンが猛烈な勢いでミドルに突進した。


目を閉じたとしても、光は感じるものである。余計な情報がシャットダウンされるため、感覚は研ぎ澄まされる。


バルマンが神足で突っ込んだせいで、ミドルのロシアンフックはひとたまりも無かった。あわれ、イーシャナ・バルマンはテン・カウントでも立ち上がることが出来ず、レフェリーはミドルの右腕を高々と掲げた。

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