第19話 ストロング・ストマック

「こんなものが食えるか!」

食堂内に怒声が響いた。

「申し訳ありません、坊っちゃま」


身なりは良いが高圧的な少年が、皿をひっくり返していた。執事は黙々と拾い集める。


それを遠目に見ていた雲水流の弟子が立ち上がった。

「お、おい、 ミドル」

ススムの制止を振り払った。


「メシを粗末にするな」

ミドルは凄んだが、いかんせん身長は相手の方が上だ。


「なんだ、お前は?」

少年の名は、ボクラン・ド・ラ・フレネ。フランス貴族である。


「俺の名前は、必勝ひちかたミドル。金に意地汚い奴より、メシを粗末にするやつが許せない」


「ヒチカタ・・・ほう、オレの次の対戦相手じゃないか! 生意気な口を利いたことを、後悔させてやるぜ」



~~~~~~~~


「始め!」


ミドルはドゥニア・ゲランガンに初出場にもかかわらず、落ち着きを見せていた。

ラ・フレネが襲い掛かる。


「あ、あれ?」

ミドルは、パンチが届くまでのコンマ1秒でたいをスライドし、なんなくかわした。


「こ、こいつ、チョコマカと!」

ラ・フレネは連続で突きを繰り返すが、かすりもしない。


 リング際まで下がったミドルは、前方宙返りでたいを入れ替えた。

ラ・フレネは息を切らしている。決して体力が無いわけではなかった。精神的に追い詰められると、どんなにスタミナを誇った者でもあっけなく膝を折ってしまう。


 「イヤァーッ!!」

ミドルの左足がラ・フレネの顔面を捉える。次にみぞおち。そしてまた上段と中段の往復運動を繰り返す。計20連発なり。


「ストップ、ストーップ!」

スタンディングダウン。レフェリーストップにより、勝敗は決した。


~~~~~~~~


「ほれ、これでも食えって」

ミドルがシェフから受け取ったプレートを手渡す。

「なんだ、これは」

顔面と腹を、包帯でぐるぐる巻きにされたボクランが応える。


「伊勢焼きうどんだよ。いいから食べてみろって」

「ふん」


箸は使えないので、フォークですするボクラン。

「ん? こ、これは、なんという美味さだ!」


「ぼ、坊っちゃま、そんなにがっついて・・・」

ボクランは一心不乱に伊勢焼きうどんをかきこむ。


「ボクラン。あんたはさ、体の運動量が不十分だったんだよ。だからメシがまずかったんだ」


「こんなガキに教わるとはな。でもな、それだけじゃないぞ」

ミドルがキョトンとしている。


「伊勢焼きうどんが、ハナから美味すぎるんだよ!」


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