第17話 ハイジャンプ作戦

「プロミネンスウイルスのワクチン接種で、人体に磁力を帯びたなんて話が出てるな」

ススムがニュースのネタを話題にする。

「俺みてーじゃん! まだ接種の予約は取れてないけど」

ミドルがランチに使うフォークとナイフを吸い寄せた。


「ほら、見てみろよ」

ススムが促した方向には、供米田くまいでんキョウ子がいた。

「へえ、名前は供米田なのに、ハンバーガーなんて食べるんだ」

キョウ子はぴりぴりしたオーラを発していて、誰も寄りつかなかった。



~午後の部~


 ミドルとキョウ子がゲランガン(闘技場)で向かい合っていた。

両手を合わせて互いに礼をする。


「始め!」

レフェリーの掛け声とともに、先にしかけたのはキョウ子だった。


 ミドルの襟を掴むと、豪快に背負い投げの体勢に入った。

「打撃では不利でも、体術なら力の差なんて関係無いんだから!」

「おっしゃる通り!」

 まだ成長途上のミドルも、体格では恵まれているとは言い難い。逆らうこと無くモノの見事に投げ飛ばされた。が、飛ばされすぎだろう。


 キョウ子が呆気に取られている。ダメージを減らすためには、地面に叩き付けられる前に自分で飛んだ方がいい。


「あなた、人間?」

「正真正銘、地球生まれのジャパニーズだぜ」


「なら、これはどうかしら?」

組み合うと、キョウ子は巧みにミドルの手を固めて関節を決めた。

「いてててて!」

ミドルはキョウ子のカラダごとジャンプしてロープへと逃れた。


「おい、ミドル! 逃げてばっかりいないで闘え!」

セコンドのススムが吠えた。


「どうしたの 遠慮は要らないわよ?」

キョウ子のファイティングポースは伊達じゃ無い。

「誰にも負けぬバトルをしたいね」

そう言うと、ミドルは目を閉じた。


「ふふ、古代武術の真似事かしら?」

キョウ子は一手目が速い。組むのに馴れていないミドルは防戦一方だった。


 闘いにおいて、目線は合わせるべきでない。単に右を見たから右から攻撃が来るというのを読まれるだけでなく、目であらゆる意図を読まれてしまうためだ。余談だが、会話においては、積極的に目と目で通じ合いたいものだ。


 キョウ子は、どうやらミドルの視線を読んで、その裏をかいているようであった。


 ミドルの左こめかみが熱を発した。キョウ子は、スタッド付きのグローブをはめていたのである。磁界の急激な変化に、ミドルはすぐさま反応した。


ミドルが反転してキョウ子の右腕を掴むと、勢いよくロープ外へ放り投げた。


「場外! 勝者、ミドル・ヒチカタ!」

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