第15話 涙ばかりの毎日 強いあいつの毎日

 日本の海岸線から、ハイパーループの路線沿いに、浮泳ふえいする影がふたつ。

「ひい、ひい」

ミドルががくがく震えている。

「老師は俺たちを殺す気か!」

 温厚なススムもさすがに参っている。


ミドルの左手にはめた指輪が光る。

《Hey, Guys》

ウィルの声であった。


《気分はどうかしら?》

陸上のウィルは呑気なものだ。


「これじゃ浮かばれねえよ」

ミドルの平泳ぎのスピードが遅くなる。


《まあ、そう言わないの。これもれっきとした修行なのよ。あんたたちはりき入りすぎてるからね。水に浮くってとても大事なのよ》


「それはそうだけど、これじゃ体がブヨブヨにふやけちゃうよ」

ススムの全身はだいぶ冷え切っていた。


《老師から伝言よ。ふたりとも水蜘蛛の術の許可が出たわ》

ミドルとススムは、なかなかどうしてスターアイランドまでの水のりを半分まで泳ぎきっていた。


「おお、神の御子が見せた奇跡の水上歩行だな!」

ミドルはからだを縮めると、水面から跳び上がった。


 必勝ひちかたミドルと阿弥陀あみだススムは、雲水翁より工学的サージカルオペレーションを受けている。気の循環が極まると、足の裏に水と反発するような力が生まれる。と言っても、ふたりの力だけではまだまだそんな芸当は出来ない。指輪の機構と体が呼応しないことには、水上歩行は成し得ない。


 雲水翁がスイッチを押したのだろう。二人の指輪がグリーンシグナルを発した。

「海の駅まで競争だぜ! 腹減った!」

「おう!」

ふたりは目にも留まらぬ早足で駆け抜けていった。


《ミドリはススメ、ね》





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