第12話 買い出し作業とリサーチ

 俺達はショッピングカートに買い物かごをのせると、店内を歩き始めた。

 俺がカートを押して、小町先輩が隣を歩いている。

 

 俺はデパートの事を思い出して、一度家に帰らなくて大丈夫かと聞いてみる。


「遊ぶのは駄目だけど、買い物位なら制服のままでも全然大丈夫だよ」


「それなら良かったです」


「米倉君、それでどんな食材を買うの?」


「ちょっと待って貰えますか、メモを作ってるんで確認します」


 俺はスマホを取り出すと、メモ帳を開いて足らない材料を確認する。

 

「購入する予定の材料はクッキーと生クリームにクリームチーズですね。残りの材料は部室にありましたので」


「了解、私も見つけたら声かけるね」


「はい、お願いします。あっそれと小町先輩に聞きたい事があるんですが良いですか?」


「私に聞きたい事? うん、何でも答えるよ」


「すみません。今回はレアチーズケーキを作るつもりなんですが、あれって結構アレンジが効くんですよ。それで先輩が好きな果物とかあればアレンジするので教えて貰いたくて」


 俺は何気なくそう言っただけなのに、小町先輩は口をあんぐりと開けたまま驚いて動かなくなる。

 

「私の為にアレンジまでしてくれるの!? うそっ待って、本気で嬉しいんだけど!」


 いつも思うが、小町先輩は感情表現が豊かだ。

 今回も本当に喜んでくれているのがわかる。


「そんなに喜んで貰えるなら俺もやる気が出ます」


 俺は素直な気持ちを言葉にした。


「えっと私が好きな果物よね…… あっ!?」


 小町先輩は嬉しそうに話しだそうとしていたのだが、急に何かを閃いた表情を浮かべると、顎に指を添えてフフフと口角を吊り上げた。

 

 そして急に寸劇が開始され始めた。


「甘いぞ、米倉少年! 相手の好きな物を聞く前に自分が好きな物を言うのが礼儀ではないのかね?」


 小町先輩は何役になりきっているのだろう?

 俺の事を米倉少年って呼びながら人差し指を指して来ている。


 先輩の仕草から見て、きっと探偵物のドラマか映画のアレンジなのだろう。

 本当ならノッてあげたいのだが、俺には上手く演じる事が出来ないので、普通に答えを返す事にした。


「俺の好きな果物ですか? そうですね、レアチーズケーキのアレンジに限定するなら…… 定番のイチゴやブルーベリーがやっぱり好きですね。でも前に作った抹茶も旨かったんだよな。となると抹茶と同類で攻めるのもありか?」


 俺は料理の事を考えだすと、周囲に人が居たとしても自分の世界に入ってしまう時があった。

 

「あっ、すみません。考えすぎていた様です」


 しばらくしてハッと我に返り、黙って待っていてくれた小町先輩に頭を下げた。


「えっ? 別に謝ることじゃないと思う。だって私が質問したんだから、それだけ周りが見えなくなる位に真剣に考えてくれたって事でしょ? 逆に嬉しいから」


「そんな事を言ってくれたのは小町先輩が初めてです」


「そうなの? 私からしたらそう思わない人の方がおかしいと思うんだけど」


 先輩はとても大きな心を持っている人だと感じた。

 肯定されただけなのだが、それが無性に嬉しく思える。

 俺は俺が作れる最高のレアチーズケーキを小町先輩に食べさせてあげたいと心から思った。

 

「それで小町先輩は何が好きなんですか?」


「それなんだけど、幾つかあるけど大丈夫?」


「大丈夫ですよ。とにかく一度教えてください」


「イチゴとブルーベリーと抹茶が食べたいな」


「へぇ~、俺が好きなのと同じなんですね」


「うふふ、実はさっき、米倉君が考えてくれていた時、凄くキラキラした目をしていたの。だから凄く美味しんだろうなって思って」


「俺、そんな顔してましたか?」


「うん、してたよ。こんな顔」


 小町先輩は顎に指を添えて、キザっぽいポーズを取り始める。


「嘘を付かないでください。俺がそんなポーズ取る筈が無いじゃないですか!!」


「あはは、ごめんって」


 小町先輩は舌を出して笑っていた。


 それにしても顔に出ていたとは…… 少し恥ずかしく思ったが、先輩も楽しそうにしてくれているので気にしない事にした。


「わかりました。それではアレンジの材料も決まったんで、食材を買いましょう」


「うん」


 俺達は三十分位で必要な食材を買い揃えていった。

 全部の材料を買い終え、スーパーから俺達は出ていく。


「小町先輩、俺はこのまま帰って、明日作るレアチーズケーキのアレンジ方法を考えてきます」


「凄く楽しみ。あっそうだ、明日、私も作るの手伝ってもいい? 私も一度作ってみたかったんだよね」


「そうなんですか? 俺は全然構いませんよ。それじゃ明日は小町先輩もエプロンを持って来て下さい」


「うん、二人で作るのってわくわくするね」


「安心して下さい。レアチーズケーキはそれ程難しい料理では無いので」


 その後、別れの挨拶を交わした俺と小町先輩はその場で解散する事となった。

 しかし別れた小町先輩が向かった方角は先輩の家がある方角ではなかった。


「もしかして別の用事があったのかな? それなら引っ張って申し訳なかったな」


 俺は小さくなっていく小町先輩の後ろ姿が見えなくなるまで、俺はその場に立ったまま見送っていた。

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