第8話 小町先輩とシュークリーム
地下1階には広々とした食料品売り場があり、そのブースから一歩出ると各種専門店が並んでいる。
有名な和菓子店や洋菓子店などがひしめき合い、通路には焼きたてのパンやケーキの香ばしく甘い香りなどが漂っていた。
一番大きなデパートと言う事もあり、多くの人々が買い物に訪れていた。
そんな多くの人波の流れに乗って、俺と小町先輩は並んで歩きながら洋菓子店を中心に見て回っていく。
「うぁ~目移りしちゃうな、眼福ってまさにこの事だね」
「本当ですね。実際に見ると確かにワクワクしてきますね」
「ねぇ、あのお店の新商品って凄い美味しいって噂なんだよ」
「へぇ~そうなんですか。それじゃ買って帰ろうかな?」
「じゃあ、後で戻って来ようよ」
「はい。ありがとうございます」
俺と小町先輩は雑談をしながら、手あたり次第に見つけた店へと入っていく。
ガラスカウンターの中には出来上がったばかりのデザートが並べられていた。
専門店と言う事もあり、同じ商品なのだが様々なバリエーションがあり、見ているだけだが飽きる事はない。
「何これ~凄く可愛い!」
「本当ですね。中々面白い事していますね」
小町先輩が興味を示したのはシュークリーム専門店だった。
そこで見つけたアニマル顔にアレンジされたシュークリームに先輩は心を奪われている様子だ。
「パンダにあらい熊…… 嘘でしょ!? コアラもあるぅぅ どれも可愛い過ぎるぅぅ」
小町先輩が感激しているアニマルシュークリームはシューの表面部分に色々なデコレーションを施しており、動物の特徴を上手く表現している。
良い事を思いついた俺はキラキラとした瞳で一心に見つめている小町先輩に俺は声をかけた。
「小町先輩、そのシュークリームが気になるのなら食べてみます? この先のフードコートに行けば飲食も出来ますよ」
「ええええ~ いいの? って言うか、もうその気になっちゃったんだけど」
俺の提案に小町先輩は一瞬で乗ってきた。
「勿論いいですよ。それじゃ一品ずつ選んで、食べましょう」
「えへへへ。それじゃ私は……」
小町先輩は大はしゃぎで一品を選び始める。
その後、先輩が選んだのはパンダのシュークリームで、店員さんの話によれば一番人気の商品との事だ。
そして俺は少しだけ考えた後、ワニを選んだ。
ワニはシュークリームではなくエクレアで作られていた。
「米倉君はワニさんにしたんだ。私もそれ気になってたんだよね」
「そうなんですか? それなら良ければ切り分けましょうか?」
「ほんと!? いいの?」
「いいですよ」
「じゃあ、私のパンダさんも分けるから交換しようね」
「はい。お願いします」
小町先輩は笑みを浮かべて喜んでくれた。
俺はその笑顔を見れただけで今日来て良かったと感じた。
俺達はお互いが選んだ商品を買い、フードコートへ移動を始める。
小町先輩は大事そうに商品が入った箱を抱きかかえていた。
さっきよりも確実に上機嫌になっており、それにつられて俺のテンションも一段階上がる。
俺達はフードコートに到着すると空いている場所がないか周囲を見渡してみた。
子供連れの家族たちが多くおり、パッと見渡したみた感じでは空いている席は無さそうだ。
「先輩は此処にいて貰えますか? 俺は奥の方で待機しています。二か所で何処かの席が空くのを待ちましょう」
「うんわかった。じゃあ席が取れたらラインするね」
「お願いします。俺も席が取れたら連絡を入れますので」
俺達は席を取る為に二手に分かれる事になる。
俺は先輩がいる場所の真反対側に移動すると場所が空くのを待つ事にした。
だが待っていても席が空く事はない。
「小町先輩の方はどうかな?」
そう考えた俺は小町先輩に連絡を取る為にバックの中からスマホを取り出した。
そしてラインを開こうとした瞬間、スマホのバイブレーション機能が作動し始める。
「おっ? 小町先輩が席を確保してくれたのかな?」
ラインを開くと予想通り先輩からのメッセージが入っていた。
だがそのコメントは【席が取れた】ではなく【助けて】だった。
「先輩!! 一体何があったんだ!?」
俺は一目散に走り出すと数十メートル先の小町先輩と別れた場所に向かった。
そこで俺の目に飛び込んで来たのは、二人の男に絡まれている小町先輩の姿だった。
「小町先輩!!」
その瞬間、俺は先輩を助けないとという想いに駆られていた。
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