第117話 ホントウノワタシ ④
「────、────。──────!」
「……」
「──────。────、────」
どれだけ必死になって言葉を並べてみても、自分の言葉が響いていないとわかる時がある。
すごく必死なのにわかってもらえないから余計に言葉を発するわけだけど、実際にはその必死さの分だけ相手からは空虚に見えているのかもしれない。
確かなのは空虚な言葉なんて少しも届かないということと、普通はそこで折れるか諦めるかするしかないということだけ……。
「────」
しかし、私はそうと決めたら簡単には自分を折ることも諦めることもできないたちで。その上、切り捨てたものでさえ実は未練がましく思っていたらしい。
自分自身のことなのに「らしい」と表現したのは、自分の行動に自分が一番驚いているからに他ならない。
「……これは何のつもりなのかな?」
嫌そうな顔をしてそう言われても、自分も気がついたらの手を掴んでしまっていたのだから、何のつもりなのかと言われても私だって困る。
それでも今の行動に理由をつけるのなら、さっきの
もし今日何もなかったなら、こんならしくない真似を私はしていないと思うから。
「もうお話は終わり。あとは
だけどそんな普段の自分ならまずしない行動をして一つ
同時に言われた時から今までピンときていなかった言葉の意味も理解できた気がする。
言葉ではなく行動こそを信用するとあの人は言っていたけど、ならこれは
「ほら、放してって」
普段とまるで違う
誰も望んでいない最悪な結末を望む本気を確かに見たし感じた。
それは今だって少しも変わらない。
でも、これは。この手は……。
「放して」
この驚くほど冷たくて、おそらく触れる前からずっと小さく震えていたのだろう手は、私が思う佐々木
どれだけ言葉が本気を含んでいたとしても、これだって本当のことに違いない。
仮に目の前にあるどちらもが本当だった場合、私はどちらを信用すればいいのだろう? どうやって正しい答えを導き出せばいいのだろう?
大切なところで間違えてばかりの私は、どうすれば大切なところで間違えないですむのだろう。
「放してって!」
なんて、どのみち今日の私は朝から何をしても最低最悪で。それを必死になって取り返そうとする必要ももうないんだから、だったら最後くらい誰のことも気にせず自分が選びたい方を選ぶべきだ。
……私はこの手を離したくない。
会話は決裂しているんだから手を放したほうがいいと思うより、気づいてしまったもう一つの本当にみっともなくてもすがりつきたいと強く思う。
きっとこの手を放すのは正解じゃない。きっとこっちの方がダメだった時も後悔しない。
「いい加減にして!」
「待って──」
あぁ、そうなのか。私は。本当は。敵対して関係を悪くしたくなんてなくて、何がこの子をこうさせたのか、本当がどこにあるのかを知りたいと思ってるんだ。
この子を信じたくて、この子を信じたいんだ。それが私の本心だ。
なら、たとえ間違っていようと今取るべき行動は一つしかない。
「──放さない!」
「ちょ、ちょっと!? なんでこんな恥ずかしいこと、」
「わかってるから言わないで!」
手は振りほどかれてしまったけど放さないことには成功した。
咄嗟だったとはいえ。同性とはいえ。後ろからとはいえ。急に抱きしめるというのはどうかと私も思うけど、そうしないと逃げられてしまっただろうから仕方がなかったのだ。
うん、そうだ。そうに違いない。だから気を取り直していこう。
「ねぇ、奏音。あなた本当は
「……」
「私に本当は
残念ながら私にはこの子の頭の中がまったくわからない。だから疑いなく見えたものと感じたものをそのまま受け取ってしまっていた。
そんな私が何か隠れたものがあると気づいたところで、この子が自分を押し殺してでも見えないようにしているものに理解が及ぶわけもない。
だったらこの子自身に
「私がどうしたいかは言ったし、どうしてほしいのかも言ったよ。私は私の嫌いな奴が転がり落ちていく様が見たくて、有紗ちゃんにはそのままでいてもらいたいんだってちゃんと言ったよ」
「それは聞いた。でも、私だけはそのままでってどういう意味? 私に他の人を貶める役をしろってこと?」
「そうだよ。私は有紗ちゃんには私に協力してもらいたいんだ。その返答も有紗ちゃんがステージに上がるか上がらないかで判断するって言ったと思うんだけど? それとももう答えが出た?」
どこまでいっても佐々木の言葉の本気は変わらないけど、私だってこの子を信じたいのは本気だから大丈夫。もうそれで迷ったりしない。
それに今のに対する私の答えは最初から決まっている。何があろうと私の
「私はそれに協力はできないよ。だってそれじゃあ私が目指したものじゃなくなっちゃう」
「……
「それもできない。ここであなたを見捨てることも私にはできないよ」
「だったらどうするの? 有紗ちゃんに私の考えを改めさせられる?」
やはりというか慣れないからか、佐々木に感じた恐れは簡単にはなくならない。
特に目。佐々木は顔半分しか向けられなくて、私は片方の目しか見えないのに、何も偽っていないと訴えてくるあの本気の目が恐ろしい。
それでも諦めるわけにはいかない。
「奏音。私にあなたのことを話してくれない? なんだっていい。ちゃんと聞くから。教えてほしい!」
「……いいよ。残り時間はもういくらもないんだから。そんなことに時間を使ってくれるならそうしてあげる」
「そんなことじゃない! そんなことじゃないんだよ」
とはいえステージ上では空手部の話が終わり、最後の調理部の発表まであと二つの部しかない。
どこも持ち時間は最大で十五分と決まっているから、残り時間にすると最大三十分。早く切り上げられたりすれば三十分はない。下手したらもっと短い。
えーと。空手部の次が陸上部で、その次がボランティア部だったはず。
うちは空手部同様大会の報告がメインで文化祭の出し物に関する話はたぶんなくて、ボランティア部は逆に文化祭でのボランティア参加のお願いかな?
ど、どっちも十五分もかからないかも……。
「有紗ちゃん黙ってていいの? もう陸上部の話が始まるよ」
「わかってる。というかあなたの話でしょう!」
「……」
「黙らないで!」
「だって。急に自分の話とか言われても……」
「なんなの!? 調子狂うんだけど!?」
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