第114話 ホントウノワタシ
まさか
でも、今日でなければ一生言わなかっただろうから言えてよかった。
本当はあの日。助けられた時に言うべき言葉だったわけだけど、当時は自分のことばかりが前に出て「ありがとう」とさえ言えてなかったから。
遅れに遅れた自己満足だけど言えてよかった。
あぁ、「おめでとう」とも言えばよかったかな?
なんてこっちは言う資格がないや……。
私のせいで
だからせめて最後くらいは私がやるんだ。私が。
「──あなたは自分がやろうとしていることの
今朝。黒川さんの代役をさらに代わってくれと調理部の部長である先輩に頼みにいった。
部長である先輩が黒川さんの代わりをやったところでただの通達。それでみんなの黒川さんへの見方が変わるとは思えなかったから。
そしてこれが最も簡単に
しかし現実には私の考えなどすぐに見破った先輩に表情一つ変えずに痛いところをすばり突かれ。一日かけて覚悟を決めてきたはずが最初から涙が出そうになった。
だけどそんな、「やっぱりやめようかな」なんて思ってしまう弱い自分を黙らせてなんとか踏みとどまった。
「はぁ……。いい加減に頭を上げなさい。どうしてこう言い出したら聞かないのでしょう。私はあなたたちのために言っているのに……」
いつも無愛想に見える先輩の言うことも心配もちゃんとわかってる。
先輩は優しいから私の無茶を止めてくれるし、優しいから最後には折れてくれるのだとわかってる。それに黙って甘えていればこれまで通り何の問題もないともわかってる。
でも、こればかりは甘えていてはダメなんだ。それでは私が私を許せないから。
「
本音を言えば私一人にしてもらいたかったのだけど、無愛想なままの先輩がなんだか怒っている気がしたので駄々をこねるのはやめにした。
どのみちその場には私一人になるようにするつもりなのだから、わざわざ折れてくれた先輩を刺激する必要もないと思ったからだ。
あとは最も厄介なやつをどうするかだったけど、私が何もせずとも勝手に不調をきたしていたから、保健室にいかせるだけで楽に行動不能にできた。
そうなれば私は同じ舞台に上がる先輩だけをどうにかすればよくて、その先輩も直前まで黒川さんと一緒に舞台袖にいるとなれば大した苦労もない。
本当は一条にぶつけるつもりだった兄に頼んで、調理部の発表の前に先輩をトラブルがあったとでも言って呼び出してもらえば舞台袖には自分一人。
私は誰にも何も話していないから邪魔も助けも入らない。
そして黒川さんのことを書き込んだのは自分だとステージの上で告白すればそれで
私が表立って黒川さんを庇うこと、ましてその代わりをするなんてことは、私の周囲の誰が見てもまずあり得ないことで。
そしてそれは良くも悪くも目立つ彼女と、それを良く思わない人たちとの緩衝材を努めていたはずの私が、その役割を勝手に放棄するという意味を持つわけで。
その結末は火を見るより明らかだ。
私の告白のあと黒川さんへの同情は多く集まり、私への非難はそれ以上に多く集まることだろう。
そして私という最早なくても困らないであろう緩衝材は役目を終える。
それだけで済めばいいがたぶんそうはならない。
私は周囲の顔色ばかり伺ってきたからわかるんだ。落ちるのはあっという間だと……。
「はっ、はっ、はっ──」
自分の
逃げ道は全部潰したのに逃げ出したくてたまらない。
今になってどうして私一人がこんなことをしなければならないのかと強く思ってしまう。
でも、ここで私が逃げ出したら
そう思う気持ちも確かにあるから逃げたくても逃げられない。
……でも、黒川さんは半分は自業自得だろうとも思ってしまう。
あれだけ派手にやれば他の子からよく思わるわけないし、好きな人や気になる人を横から盗られた子たちからは恨まれて当然。それで少しくらい痛い思いをしたからってなんだっていうんだ。
私とは違って庇ってくれるヤツだっているじゃないか。私とは違うじゃ、
「っ、最低だ。なんにも変わってない」
私は自分の意見をちゃんと言える強い人になりたかった。
別にわがままを通したいわけじゃなくて、自分というものを通せる人。自分の思ってることを言える人。自分の意志を貫くことができる人に。
可能な限り関わりたくない大嫌いな兄や、同じくらい嫌いな無神経で配慮が足りない一条のように私はなりたかった。
そのために精一杯努力したし、そうなれたと思ってたんだけどなぁ。全然ダメだ。弱いままだった。
本当は欲しかったものを切り捨てて、周りにいっぱいいっぱい気を使って。それでみんなに認めてもらえて頼ってもらえる人になったのに。
いざとなれば自分が一番かわいいだなんて。なんて。なんて。みっともない。
「……助けてよ……」
その上、自分で全部やったことなのに都合の良い言葉まで勝手に口から出る始末。泣いていないのが唯一の救いだけどそれすらもう無理かもしれない。
頭の中の嫌な方へのイメージばかりが明確になっていき、意外と丸く収まってくれるかもとどこかで思っていたのさえ塗りつぶされていく。
そしてとうとうステージに上がったらそれで終わりだという恐怖に涙がこぼれた。
「助けてよ。私のことも……」
周りに誰も知っている人がいない入学の日に出会って。同じような境遇の互いをそれぞれが一人目の友達にして。どっちが多く友達を作れるかなんて競争し始めて。結局そんなことをしてた間が一番楽しくて。
でも、友達だったはずが何かがちょっとずつズレていって。好意なのかそうではないのかわからない感情に振り回されて。その感情はそのうち何か別なものに成り果てて。最後にはどうしたいいのかわからなくなって。
だけど、クラスが離れることがなかったから側だけは取り繕わなくてはいけなくて。これが好きならそうではなかったんだとようやく知った時にはもう遅くて。友達だったはずが扱い方がわならない怪物にしか思えなくなって。
最近彼女ができたと知ってなんでか無性に苛々して。そんなこと話せる相手もいないから匿名で苛々を吐き出してみて。その結果はただ自分の弱さと愚かさを実感させられるだけだった……。
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