第104話 建前ではなく本音で ⑧
「──別にわからないならわからなくていいんじゃない?
例え互いに本音で話したとしても、全部をわかってもらえるわけないし、全部をわかってあげられるわけもないのだから……。
それでも僕はわかろうとするのをやめたくはないのだ。たとえなんにもならなくてもだ。
「……じゃあさ。あーしがいま何を思っているのか当ててみ? 完璧に当たったら考えを改めるから」
「たぶん。アイス食べたいかな。あの自販機のやつ」
「えっ、正解なんだけど! スゴい、スゴくない!?」
ずごいと驚いてくれた黒川さんには申し訳ないけど、これについてはそんなにすごくはない。
車の中から斜めの位置に見えているアイスの自販機を、黒川さんが見ていたのに気づいていたからそうかなと思っただけだ。
だから推測が当たったというだけで、理解したわけではない。その証拠に、
「じゃあどれを食べたいと思ってるのかは!?」
「うーん……。いつものチョコミント?」
「はずれー。正解はあの新しいやつでしたー」
「それは流石にわからないよ」
「なんだ勘だったのか。スゲーと思って損した。完璧には当てられなかったから
という具合に全てを理解することはできなかったし、理不尽な理由でアイスを買いにもいかされた。
個人的には認められないチョコミントが五割。あとはチョコ、バニラ、キャラメル、そして新商品が残りの割合を占める計算で、チョコミントが選ばれる確率が最も高かったはずなのに……。
まとめると普段から見ている彼女のことさえ、正解に当てるのは難しいということだ。
「どうしたの?」
「あんまり美味しくない……。残りは一条食べて」
「あんまり美味しくないのに?」
「もったいないじゃん。一条は美味しく感じるかもだし」
おまけに気まぐれまで入ってくるとなれば理解するのはさらに困難となる。
確かなのは黒川さんはこのアイスを二度と買わないが、僕は「まぁ、普通かな?」だったからまた買う可能性はなくはない。たまにならあるかもしれないということか。
……話が逸れてしまったけどアイス一つにしても誰かを理解するのは難しく、しかしこんな内容ならそんなもんだろうと思うという話だ。
「お待たせー。レジが混んでて遅くなっちゃった。 ……一条君。そのアイスいくらだった?お金払うから。で、
「えっ、いや、なんの話だか……。ごめんなさい。もうしません!」
だけど、世の中には夕飯の買い出しをしてくるとスーパーに行っていたはずなのに、戻ってきた時の様子を見ただけであった事を正確に把握する人もいるわけで。
その推理を尋ねてみれば、僕が自分一人でアイスを買ってきて食べるはずはなく。そうなるとアイスを欲しがったのは娘となり。どうせ美味しくなかったと僕に押しつけたんだろうと、まるで最初から見ていたように完璧に推理された。
僕にはこれが超能力みたいに思えてならなかったんだけど、黒川さんママは別に普通のことだと言い、黒川さんも誤魔化しきれないと思ったからこそ早々に謝ったんだろう。
この関係こそが理解ということなんじゃないのかと僕は思ったのだが……。
「一条君の言う理解って今みたいなのを
「えー……」
「ごめんなさい。さっきは言い方が悪かったわね。あれは私の持論だものね。そうね、たぶん一条君は何を変えることもないのよ。信じられているうちは彼女は君を裏切れないんだから」
押してきた買い物カートを娘に戻してくるようにと言った黒川さんママは何故だか楽しそうで、何がおかしいのか笑っていて、「真剣に悩んでるんだけどな……」と僕は思うしかなかった。
「友達というのは不満も悪口も言えるくらいがちょうどいいと思うわよ。だいたい悪口だって相手のことを知らなきゃ言えないのよ?」
「……」
「美雪も戻ってきたしおしまいね。次は家にいらっしゃい。あ、でも、その前に明日もあったか……。美雪、明日はどうするの?」
信じられているから裏切れない。その意味を聞いた瞬間はよくわからなかったけど、改めて考えると信用と理解。そのどちらもが含まれているんじゃないかと思うんだ。
有紗さんの行動に理由をつけるにしてもわかりやすい。
僕は
「明日も学校に行くに決まってんじゃん!」
「へー、まあ頑張って!」
「明日休みなんでしょ。学校まで送ってよね!」
「えー、めんどくさいんだけど……」
「……だから一条。
……黒川さんに電話する気にならなくて現実逃避していたのに、真面目にやっていたら最後には現実へと引き戻す彼女からのお言葉まで回想してしまった。
これから昨日と同じかそれ以上のことを言わないといけなんだとしたら、僕は本当に明日は学校に行けないかもしれない……。
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