第72話 たどり着いた裏側 ②

「いっちー。わかったと思うが、オマエが一人頑張ったところでコレ、、はどうにもならない問題だぜ。掲示板を潰して終わりなら、とっくの昔に終わってるからな」


 春馬はるまくんがはっきりと言ったことは、僕にこの真実への道を教えたゆいちゃんも、僕が知らないことをいいように利用してきた副会長も、僕に「任せろ」と言った生活指導もわかってた。

 みんな噂となって表に出てくる仕組みを知っていても、その根底、、をどうしようもないとわかってたんだ。


 本来。裏サイトなんて言っても掲示板はあくまで掲示板でしかないと僕は思う。

 問題はそこにある匿名性と利便性。姿が見えないことによるモラルの低下だろう。

 つまるところ利用する側の問題と言えると思う。


 だけど、掲示板の中は自分たちのよく知る場所での出来事が話題の大部分であり、タイムリーにそれが更新されていくんだ。

 中には熱が異常に高まったり、様々な憶測が出たりするものもあるだろう。


 それに行き過ぎた発言を止めるような仕組みも、積極的にブレーキをかける人間もいないとなれば、話題は内容次第でいくらでも膨れ上がる。

 膨れあがった話題が個人の話題で、その個人の知名度が高かったりすれば、どうなるのかは悪い意味でわかりやすい。


 みんなはそんなふうにして誰の姿も見えないやり取りで出来上がった、ただ陰湿なだけのものを相手に、自分たちに出来ることをしてきたのだろう。

 裏サイト。何代目なのかはわからないが掲示板が存在していたのはそのためだ。


 相手、、の姿は見えずとも掲示板を監視できていれば先回りすることも、注意して見ることも、対応を取るにしてもその選択肢は増えるはずだから。

 そしてこれが裏側を僕が知らなかった理由でもあるんだろう……。


「一年のいっちーは知らなくて当然なんだが、裏サイトの存在が明るみになった去年は中々にヒドい、、、もんだったぜ。そりゃあ学校はあらゆる意味で断とうとするし、絶対に広まらないように対策する」


 当然だ。春馬くんは言わなかったけど、学校を辞める人まで出る事態だったんだ。

 当時のサイトはすぐ閉鎖されたはずだし、と同じかそれ以上の騒ぎになったのだろう。

 それでも中等部まで話は聞こえてこなかった。


 校舎がグランドの上下とはいえ同じ敷地内にあって、一部の部活動では深い関わりもあるのにこれはおかしい。

 つまり学校も先生たちも本気だったということだ。あるいは必死だったとも言い換えられる。

 明るみになった事態に尽力した生徒、、もいたはずだ。


 そんないたはずの生徒の一人に心当たりがある。

 間違いなく心残りだっただろう。

 自分の代でなんとかして卒業したかったはずだ。

 先輩はそんな素振りは一度だって見せなかったけど、絶対にそう思っていたしそうしたかったはずだ……。


「──まとめると裏サイトに関してオマエに出来ることは何もないってことだ。話はこれで終わりでいいよな。オレに任されても困るが、後はオレ以外、、の連中に任せるんだな」


「……」


「ほら、帰った帰った。オレは忙しいんだ。ヤロウにせいで潰れたサイトを立て直したり、普通に振られる会計の仕事もあるんだからな」


「……はぁ? えっ、立て直すって裏サイトを?」


 瞬時には情報を飲み込めないでいた僕でも気づいた。春馬くんが何かおかしなことを言っていると。

 裏サイトが閉鎖されてなくなったというのなら、わざわざ立て直すなんて意味がわからなかったからだ。しかし、


「当たり前だろ。どうせすぐに誰かが作るんだ。なら、待つ時間と探す手間を省くべきだろ。作ればいた奴らはまず戻ってくるし、ヤロウはもうあそこの実力者だ。こっちが本物だって発信してもらうさ」


 と、春馬くんからは返ってきた。

 時間が経てば「なるほど」とも思えるが、裏サイトすら飲み込めていない僕は増える情報量に混乱するばかりだった。


「裏サイトの偽物ってなに!? じゃなくて、副会長が実力者ってどういうこと。あと本当に裏サイトは必要あるの!」


「あーうるせぇ! 裏サイトって言うから悪く聞こえんだ。生徒が交流できる公式じゃない場所。こう覚えろ!」


「でも結局は裏サイトだよね!?」


 納得できない僕が一向に帰らなかったからだろう。春馬くんはかなりイライラしながらも、副会長の裏サイト内での立ち位置を説明してくれた。

 さらに情報量が増えたわけだけど聞けてよかった。


 副会長はこれまでいくつもの噂を掲示板に持ち込み、掲示板内での発言力と支持を獲得しているらしい(もちろん匿名でだ)。

 加えて他のSNSとも併用して手広く、そして狡猾に情報を発信しているとのことだった。


 これが私的にならクロに違いないが、裏サイトをコントロール、、、、、、するという大義名分が存在するからシロ。たまたま、、、、噂の一つが炎上したとしてもグレーだと春馬くんは言ったが、僕から見たら真っ黒でしかない。

 あの人はわかっていて火に油を注いだはずだからだ。


 そしてこれを聞いた僕の中では、これ以上は下がりようがないと思っていた副会長の評価はマイナスをさらに下回り、春馬くんが「悪者」と副会長を言ったのが本当にしっくりきた。

 あの人こそを悪者だと僕は心から思うし、本当に僕はあの人のことが嫌いなんだと改めて実感した。

 そのうち特大のバチが当たることを願っている。


◇◇◇


 結局、僕は昼休みの終わりまで生徒会室にいた。

 春馬くんは途中から諦めたらしく僕がいてもパソコンに集中していたけど、話しかければそれなりに返事してくれた。


 僕たちの裏サイトから始まった会話は生徒会の話になり、最後には生徒会なんてやりそうにない春馬くんが生徒会をやっている理由まで至り。

 僕は基準が不明だった今年の生徒会メンバーの選出基準が大いに理解できた。


「オレが生徒会なんて似合わないことしてんのはそういうわけだ。頼まれたから仕方なくだ。会計なら適任、、は違うわけだからな」


「……あー」


「おい、それはどういう意味の『あー』だ!?」


 先輩に頼まれていたから生徒会に入った春馬くんは、会計しかできなそうだから会計だったのだ。

 本来なら書記の人の方が会計に向いているというか、あの人が会計じゃない理由が「不安だから」じゃないというのは衝撃的だった。


 会計なんて言ってもお金を直接どうこうはできないと思うが、万が一があるのではと僕は思ってしまう。限りなくありそうで怖い……。

 と、とにかく、役職はあとから付けたところが大きいということだ!


 現在の生徒会メンバーの選出基準は知名度と影響力。噂に対抗するための人選ということらしい。

 ダブルスコアで会長になった結ちゃんは言うまでもない。知名度も影響力もかなり高い。


 三年生はまあ副会長だろう(結ちゃんにダブルスコアで負けてるけど)。

 二年生からは両極端な二人(キャラクター的は陰と陽であり、しかしおそらく二人とも闇属性)。

 そして僕たち一年生からは内部進学者から……。


「この基準でなら一年は鯨岡くじらおか妹だとオレは思うが、嫌だって秒で断られたらしいぜ。いっちーも断ったんだろ? 声をかけた二人も嫌だって言うから顧問がブチギレてたぜ」


 確かに四月にそんな話が結ちゃんからあった。

 あの時は生徒会なんて理由も意味もわからないし、結ちゃんは当然詳しいことを何も言わないし、結ちゃんと一緒とか無理でしかないから即断った。


 そしてこれ、有紗ありささんも副会長から誘われたのではないだろうか?

 だって、生徒会の顧問から直接声をかけられたなら話は変わっていたかもしれない。

 結ちゃんとどっちが怖いかと言えばどっちもどっち。その時に目の前に立っていた方が怖いと思う……。


「──そ、その話はいいじゃん! 綾瀬あやせさんで適任だよ。僕には荷が重すぎるし」


「……別にどうでもいいんだけどよ。で、いっちーはこれから、、、、どうすんの? これ以上に首を突っ込みたいならそれこそ生徒会に入るしかないぜ。実際それが一番いい解決法だしな」


「僕は……」


 結ちゃんが僕に裏側を教えたのは簡単にはいかないのだと教えるためと、ひとまずの解決法を示すためだろう。


 例えば。僕が生徒会に入って大きな影響力を持つ人たちと傍から見て近しくなれば、結果的にそれは黒川くろかわさんを守る、、ことに繋がるだろう。

 一時的だろうと間違いなく効果はある。

 

 でも、僕のやり方や考え方とは違っている。

 結ちゃんはきっと裏サイトを必要悪と言うだろう。目的を同じくする他の生徒会メンバーも同様に考えているはずだ。


 でも、それは間違っていると僕は思う。

 一人でも被害を受ける人がいるならやっぱり必要なくて、以前と同じことを繰り返すかもしれないならやっぱりいらない。

 これは今回の標的が黒川さんだったから思うわけじゃない。だけど、


「僕は、陰でこそこそ悪口を言うのを許せない。裏サイトにも同じことを思ってる。だけど、それを僕がどうすることもできないこともわかってる。だからできないことはしない」


「……つまり?」


「僕が守れるのは自分の周りだけってこと。そして今回僕が、、望むのは噂が出る前と同じように彼女が過ごせるようになることだけ。僕はこっちに尽力するから裏サイトは春馬くんたちに任せるよ」


 僕は今回の件に副会長以外の悪者を求める気はない。ただ、以前と変わらずに黒川さんが学校に通えればそれだけでいい。

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