第67話 嵐の中で ④

 不機嫌なところに食いつかれた姫川ひめかわさんだったが、教師に対してキレるのをギリギリで思いとどまり。

 その代わり足早に保健室を出ていこうとするも、そこを生活指導の教師(キレる原因)に止められ、僕と養護教諭は内心ヒヤッとした。


 しかし、話を聞きたいと生活指導に説得されている間も姫川さんは不機嫌なままだったのだが、結局はキレることもなく生活指導の提案に付き合うことにしてくれた。


 姫川さんのこの意外と言うしかない反応をどうしてと思うが、姫川さんに話を聞きたいのだろう生活指導としてはありがたく、当事者ではない僕としても教師から直に話を聞けるというのはありがたい。


 たとえ黒川くろかわさんと僕が交際関係にあろうと、学校は僕には何も教えてはくれないだろうし。

 そもそも交際しているとおおっぴらに言えるものでもないし……。


「先生はな。上司からの何とかしろの圧力と、保護者からの説明しろの圧力と、アホ、、のせいなんだからあのアホ、、、、に全部の責任を取らせたいけど後が怖いという、複雑な気持ちの中に今現在いるんだ……」


「どうしてそんな愚痴を生徒にするんですか? 私たちそのせいで遅刻してるんですけど。どうでもいい話なら今からでも教室にいきます」


 カバンに手をかけスッと立ち上がった姫川さんの言うことは最もだ。

 姫川さんのオマケにすぎない僕だが、そんな愚痴を聞くためにこの場にいるわけではないし、聞きたいことはもっと踏み込んだ話だ。

 そんな話だというなら僕も姫川さんに続こう。


「待て、お前たち。ふざけているわけではないぞ! まずは先生の心情を述べておかないと先生の話はできないんだ」


「……次はないですからね。そして遅刻は馬鹿な教師のせいだと言いますから」


「授業なら大丈夫だ。お前たち一年の一時間目の授業はない。先週の金曜日に起きた事故の話、、、、と二回目のアンケートだ。そして、そんなことをお前たちにさせるなら直接話を聞いた方がいいみたいだからな。別室で話を聞いていたと担任には説明する」


 黒川くろかわさんのあの状況から起きた事柄に「事故」と言うところに拭えない違和感を感じる。

 故意にとまでは言わないけど、綾瀬あやせさんから聞いた限り直前に何かはあったんだから、単なる事故ではないはずなんだ。


 でも、そこを知るための対応に見えなくもない。

 再びアンケートを行えば事故の情報は何かしら上がってくるだろうし、一度目では出なかった情報も出てくるかもしれないから無駄だとは言えない。


「そういうことなら私納得です。一条いちじょうくんは何かないの? 聞ける時に聞いた方がいいわよ、、、、、、、、、、、、、、


 ……ああ、そうか。姫川さんが嫌々ながらも残った理由は僕のためか。

 すでに黒川さんから頼まれた言伝は伝え終わっているし、嫌がらせにも噂にも無関係なんだからここで生活指導に聞くような話もないはずなのに、これを機会と思っている僕のために姫川さんは機会を作ってくれたんだ。


「二回目のアンケートを行う理由は黒川さんが怪我をしたからですか?」


 なら、僕はそれをきちんと活かすべきだ。

 新学期が始まって新体制になった部活動に忙しい姫川さんとは、以前のように教室でしかやり取りをしていなかったというのに。

 隣の席で毎日顔を合わせいたのに「忙しそうだから」と何も言わなかったのに。

 本当は頼よるべきだっただろうに最悪の結果になるまで頼らなかったのに。

 そんな僕に助け舟を出してくれるなんて……。


「そうだな、対応は間違っていないはずが事態は最悪の結果になったからだ。変な噂が流れる前に起きた事を周知させて憶測を排除。同時に黒川美雪みゆきに関する噂の方にも対策をとる。学校はきちんと対応を取るからやめろと警告するわけだ」


「……警告。でも、警告だと言うならどうしてアンケートは一年にだけなんですか? 先週と同じく一律にやるべきでしょう」


「二、三年は後日必要なら行う。あの事故で一番ざわついているのは一年だし、黒川美雪も一年だ。これで事態に収拾がつくなら二、三年はアンケート自体を行わないつもりだ」


「それじゃ誰が噂を流してるのかわからない……。警告だと言うなら全学年にするべきだ!」


 警告が副会長まで届かないのでは意味がない。

 この際。先生に副会長が噂の元凶なんだと言ってしまいたいけど、ゆいちゃんは「そうだけどそれだけじゃない」と含みを持たせたし、まだ僕は春馬はるまくんのところに真相を聞きにいってない。


 そんな僕が不確かなことをここで口にするべきではない。それでは噂を作る副会長と同じだ。

 あの人が嘘しか言わないなら、僕は本当のことしか言わない。

 副会長と同じになんてなってたまるか。


「おー、珍しいこともあるもんだ。お前が声を荒げるとは。って、彼女のこととなれば別か? まずは確認か。お前たちが付き合ってるって本当か?」


「……はい」


「そうか。しかし怖い顔すんな。鯨岡くじらおかのことは把握してる。だがな、あいつはアホだがバカじゃない。それが非常に厄介なんだ」


「えっ、副会長のこと。噂のことを知ってるんですか?」


「まあな。お前より知ってるのは間違いないが、そんな反応するってことは『鯨岡が黒川美雪の噂を流した』としか知らないな? なら話は終わりだ。彼氏だろうと何も教えられない。きちんと対応は取るから任せろ」


 どうやら上手くかまをかけられた。

 しかし、わからない。噂の裏に何があるのか検討もつかない。

 ここで下手に食い下がっても駄目だということしかわからない。


 生活指導が副会長のことも把握していて、対応もできると言うなら任せるしかない。

 少なくとも今はそうするべきだ……。

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