第56話 放課後の邂逅 ⑤

 僕たちは副会長に相談、、しにいったわけだが、直前に春馬はるまくんに受けた助言、、のおかげで、僕はきっちり一定のラインを引いて話をすることができたのだと思う。


 相談しにきたわけだから立場は下でも、言わなくていいことを考えて話すことができた。

 余計なことはたぶん一つも言わなかった。

 これは最後に副会長から出た言葉がそうだと示している。


「──へぇ、君はもっと感情的、、、になると思っていたのだが、意外とどうして最後まで冷静だったね。会長の指導と、春馬会計の助言、そして彼女が隣にいたからかな? 予想の何倍も厄介な奴だったな君は」


 副会長から本当の意味で余裕がなくなることはなかったが、それでも真面目な部分というか真剣さが見えた。いや、引き出したんだ。

 つまり僕は副会長に褒められたのだと思う。


 副会長も箱崎はこざきさんも言っていたが、僕はもっと感情的になると思われていたのだろう。

 実際何もなかったらそうなっていたはず……。

 そして冷静さを欠けば様々な意味で上手な副会長が有利であり、僕たちは副会長のいいようにされていただろう。


「──この件に関して君が敵でなくてよかった。敵対関係ではなく協力関係を結べたことは素直に嬉しいよ。黒川くろかわさん、君にも協力してもらえて嬉しい。これでやっと表立って動ける」


 しかし結果はイーブン、いや、相手が相手だけに十分な結果だと言える。

 互いの現状と立ち位置の確認をし、話し合いの末に僕たちと副会長は協力関係になった。


 僕たちは男女交際の禁止から始まった一連の出来事への協力を、副会長は男女交際の禁止の裏にあった嫌がらせを含む噂話の解明を目的にした協力関係。

 互いに現状を打破するための協力者を得たのだ。


 副会長は嫌がらせや噂話を把握していても、表立って動けないのを不満に思っていた。

 生徒会はもちろん学校も事態を把握していても、学校としては問題にしたいわけもなく、学校から止められれば生徒会は勝手に動けないというのが現状だったからだと副会長は言った。


 でも、被害者が被害を訴えれば学校は動かないわけにはいかないとも言った。

 黒川さんが被害を訴えることで表沙汰になり、把握に留まっていた事態にはメスが入る。

 そうなれば事態は進展し、いい方に向かうだろうと、向かわせてみせると副会長は語った。


「……うん、やっぱり君たちには話しておこうかな。僕がどうしても事件を表沙汰にしたい理由というのをさ」


「そんなのあるんですか? さっきの『今だけの青春を』って話は?」


「あれも本当さ。男女交際を推奨しはしないが禁止にしようとも思わない。青春というのは我々の今だけの特権で、みんなに謳歌してほしいし僕もしたい。恋愛なんてのは青春の最もなところだ。目先だと文化祭に修学旅行なんか絶好のチャンスだろ。あぁ、僕たちは修学旅行ではなく遠足か。今年は、」


「わ、わかりましたから続きを!」


 互いに上辺だけだろうと信用し合えたからか、副会長は話し合いが終わってから初めて、副会長としてではない彼自身の本音を漏らした。

 副会長には副会長なりの正義があったんだと僕は知った。一日経った今になっても意外に感じるけど。


「君たちは知らないだろうが実は去年。一人の退学者がいた。卒業間近で自主退学された」


「退学って……」


「そうだ。我が校ではあり得ないと言っていいことで、その理由というのがあろうことか嫌がらせを受けていたからだ。受験生にはキツいものだったんだろう。耐えられるほど強い人でもなかったんだろう。学校はそのあとになって事態を把握したというわけさ。これを君は許せるか?」


 語る副会長は間違いなく本気で怒っていた。

 副会長の人間性がどうであれ、学校のことに関しては真面目な副会長だからではない。

 退学者と何かしらの関係性があり、自分が無力だったからだと感じた。


 退学に特別な理由があったのなら仕方ないだろうが、その理由が嫌がらせや悪意のある噂話だなんて僕だって許せない。

 知っている人だったなら尚更だ。でも、


「いえ、そんな話は……。でも生徒会長、、、、は? あの人が何も知らなかった?」


 ゆいちゃんの前の生徒会長。

 今年の卒業生であり、僕に秘密の場所を教えてくれた、生徒会長なのに真面目すぎず、ところどころ破天荒で、幅広く人気者だった人。


「酷く後悔していたよ。私は近くにいて何も気づかなかったとね。安斎あんざい君に後を頼みはしなかったようだが安斎君は後を継いだ。後継となるための選挙にダブルスコアで負けた僕が悪いんだけど、安斎君の対応ではいつまで経っても犯人を見つけられない」


「は、犯人って、在校生の中に?」


「あぁ、今も同様のことが起きているんだ。間違いないだろう。そして実はね。僕は一人疑っている人物がいるんだ」


「誰ですか……」


「春馬会計だ。もちろん証拠があるわけではない。僕が彼の性格やスキルから勝手に推理したに過ぎないが、可能性としてなくはないと考えている。先ほどはニアミスしてしまったが、君たちにはできれば彼との接触は避けてもらいたい。僕はこの先の彼の動向を注視したいんだ」


 どんな人間が嫌がらせをするのかなんてわからない。何の確信もなく誰かを疑いたくはない。

 だけど、生まれてしまった疑念は消えない。

 春馬くんは他より優秀で、噂話が好きで、性格もまあまあ悪く、絶対にそうではないとは言い切れない……。


 でも、それとは別に気になることもある。

 いっちー、、、、と僕を呼ぶのは何故だ?

 僕を唯一そう呼んだ人に気に入られていたことへの意趣返しのつもりなのか?

 どうして助言になるような真似をしたのか?

 どうして生徒会なんて柄にもないことをしているのか?


 僕たちの間にいた人がいなくなってしまってからは昨日初めて会ったし、以前から仲良くもできていないからわからないけど、副会長と協力関係である以上は接触を避けるべきだろう……Zzz……Zzz……。

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