第53話 放課後の邂逅 ②
「──待ったか?」
今日も放課後は部活ではなく自習室に行くらしい
その理由は昨日の箱崎さんの反応で何となく気づいてはいた。
話があるからと指定されたこの場所も、自習室にいくのに教室から一番近い階段がすぐそこであり。
しかし昇降口からは角度的に見えない、意外と人目につかないところ。
これらから考えるに箱崎さんが一人の理由は、自分は一人でなければならないからだろう。
そうなると話の内容は不明でも、誰に関する話なのかはわかってくる。
「僕たちも今きたところ。それより話って?」
「雅親のことだ。あいつの前ではできない話でな」
「うん、そうかなって思ってた」
初対面の昨日は一触即発だったのに、今日になったら仲良くとはどういう仕組みなんだろうと思うが、仲が悪いよりは良い方がいいので触れない。
女の子にはいろいろあるのだと思っておく。
「そんでキョウちゃん。硬派くんに聞かれるとマズい話って?」
「えっ、キョウちゃんって、箱崎さんのこと?」
「そうだけど、何?」
「なんでもないです。続けてください」
本当にどういう仕組みなんだろう……。
昨日、僕と駅で別れたあと連絡先を交換していたのもさっき知ったばかりだし。
何よりキョウちゃん? キョウちゃんって。なんてフレンドリーな。
黒川さんは
でもそれでは
二人のあれはあれで成立しているんだ。
「──キョウちゃん」
「あぁ、相談というのは雅親のことだが、それにはちょっと前置きが必要でな。ちょうど今日も入っていたので持ってきた」
箱崎さんがスカートのポケットから取り出したのは一枚のぐしゃぐしゃな紙。
ぐしゃぐしゃは元からそうなのか箱崎さんがやったのかは不明だが、汚い字で書かれている太字の文字はあまりに酷い。
そして箱崎さんの言い方では、これが初めてではないように聞こえる。
「……暴力女って、これ……」
「最近は大人しくしているが以前の私はその通りだからな。否定もしにくいので困っている」
「そうじゃなくて。これ、嫌がらせじゃないか! いつからこんなことが。このこと先生に言った!」
「落ち着け。お前はそんな反応をするだろうがこれは前置きだと言ったろ。これは大した問題じゃない」
とてもではないが前置きで済ませられる話じゃないぞ。雅親はこのことを知っているのか?
……いや、雅親が知っているなら我先に、何を差し置いても行動するはずだ。
そんな素振りはまったく見えなかったし、僕には隠していたんだとしても友人たちからも何も聞こえてこなかった。
何よりだ。どうしてこの場に雅親はいない?
箱崎さんは雅親の前ではできない話と言った。
これは知っていてできないのか、知らないからできないのか。どっちだ……。
「そんで本題は? その紙ってわけじゃないんだよね」
「
「……まぁ、なくはない。あーしもけっこう派手にやったからね」
「だろうな。今も続いているか?」
「……」
黒川さんは否定してほしいのに否定してくれない。そして肯定しなくてもその沈黙は肯定するのと変わらない。
僕は黒川さんといて何も気づかなかったのか?
彼女ができて浮かれていたなんて言って済ませられない。気づかなくてごめんなんて謝ったりもできない。
僕は何をやっていたんだ……。
「
「箱崎さん、そんなわけにいかないよ。黙ってることなんてできない」
「同じような反応をした雅親にも言ったが、
「──そんなわけないだろ!」
そんなわけがない。絶対に嘘だ。
紙を見ただけの僕ですら不快でしかないんだ、当人が何も思わないわけない。
どんな手を使ってもやった奴を見つけ出して、少なくともこんなこと許されないと言ってやらなければならない。
「お前たちが怒る気持ちはわかるし嬉しい。でもな、今の私たちはこんなのを気にする必要がないくらいに充実しているんだ。そうだろ?」
「そう、だね。充実してる。満たされてる。前の自分に向けられたものを気にすることもない。だから言わなかったし、問題にしようとも思わない。内容に間違いもないし」
「言われのない誹謗中傷ならシメてやるところだがな。だから気にするな。必要ならちゃんと相談する。
僕や雅親が思うことと、黒川さんや箱崎さんが思うことは、両極端なはずなのに気持ちの意味ではそう遠くないのだろう。
僕も雅親も満たされていて不満もないから許せなくて、黒川さんも箱崎さんも満たされていて不満もないから許せるというわけだ。
……この僕たちの意見はどちらかが折れない限りは変わらないし、僕は彼女の意見を尊重する。
その上で自分なりに行動するだろう。
例えば目の届くところに、放課後一緒にいてみたりするだろう。断りにくい理由をつけて。
「雅親は上で待ってるんでしょ。話を進めよう」
放課後に自習室というのは雅親なりの行動なんだ。それなら昨日の雅親の反応も頷ける。
自習室に拘束されるのに箱崎さんが飽きてきているのも気づいていたろうし、意図せずに気が晴れる出来事が起きていたのには安堵したことだろう。
「あぁ、そうさせてもらう。この紙がまた入っているようになったのは今週に、新学期になってからだということと、これは去年もあったということ。このことから一年の外部進学者は容疑者から外れる。ここまではいいな?」
「うん」
「次に標的になるのは悪目立ちする人間だ。私や黒川などはいい標的だろう。で、標的になるような人間は総じてこんなものを気にしていない。だから何の問題にもなっていない。ちなみに私はこれを毎回廊下のゴミ箱に流れ作業で捨てている」
「えっ、うん」
「問題はここからだ。これは紙と一緒に噂も付属するものなんだが、紙がなくても噂だけ立つ人間がいる。そしてその噂というのはマイナスのものだけじゃないんだ。例えば、お前とかな」
「……うん?」
僕は箱崎さんに言われたことにまったくピンとこないが、黒川さんはハッとした表情で僕を見ている。
黒川さんには心当たりがあるということだ。
「あーしのことだ」
「そうだ。お前たちが上手くやっているという噂だ。そして、
「……どういうこと?」
「だってそうだろう。黒川には悪い噂も立ち、一方ではいいのかはわからないがマイナスではない噂も立っているんだ。やってる奴は何がしたいんだ?」
友人たちもマイナスには受け取っていないし、周囲もマイナスよりはプラスに受け取る人が多い気もする。でも……。
「二つが繋がってるって根拠は? 嫌がらせと噂は別な問題なんじゃないの?」
「それをお前に言うのが非常に心苦しいんだが……」
「どういうこと?」
「雅親は本心ではお前たちをまったく認めていないんだ。でも、他と変わらないように振る舞ってる。そしてそれが
まさか……。
いやいや、そんなわけないだろ。
そんなわけが、ない。
雅親を除く友人たちの誰かが噂の出どころだなんてわけがない……。
「赤津、木田、
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