第52話 放課後の邂逅
階段を上がってきたのは意外と言えば意外だけど、そうではなくもあるという人物。
「──おやおや。こんな時間に、こんなところで掃除とは。君たち何をやったんだい?」
個人的にあまり関わり合いになりたくない人物であり、僕たちになんて構わず通りすぎてくれてよかったのに、わざわざ立ち止まりわざとらしく声をかけてきた……。
「「……(ゴシゴシ)」」
「それも壁の掃除だなんて。落書きでもしたかな?」
「「…………(ゴシゴシ)」」
「……聞こえているよね? 君たちに何かしたかな? 二人ともに無視されるようなことをしてないと思うなー」
無反応でもめげずに話しかけてくるのは、伊達だと僕は思っているメガネに、最近
三年生らしく落ち着いた雰囲気で、どこか常に余裕があるように見える、あまり関わりたくない人物。
……なんだろう。本当にこの人に関わりたくないや。
「副会長。生徒会室はそこですよ」
「うん。ようやく返事してくれたのは嬉しいけど、副会長だからもちろん知ってるよね」
どうやらこの副会長は雅親にも好まれていないらしい。今のは「構わずにいけ。そして追い出されろ」ということだろう。
勉強会(女子会)を知らずに突撃して、
「そうでしたか。じゃあ自分はこれを片付けてきますので。失礼します」
「あっ、ずるい。僕が片付けてくるから!」
「一人で足りる。
「そんなの雅親がやってよ!」
自習室から持ってきたバケツと雑巾を持つと雅親は足早に、それも外にまで水を捨てにいくつもりらしく、遠回りになるのに中央階段を下りていく。
雅親は本気だ。本気で僕にこの人を押しつける気だ……。
「……君たち本人を目の前にあんまりだと思わないのかい? 三年生だし、副会長だし、知らない仲じゃないだろ」
「副会長。生徒会室はそこですよ」
「あぁ、もういいよ。わかったよ。嫌われ者は愛らしい会長か、
指をさして生徒会室の場所を教えてあげたら、副会長は何も知らずに生徒会室に入っていき、三十秒と経たずに中から飛び出してきた。
中で何があったのかはだいたい予想通りだが、何故だか親切をしてあげたこちらに向かってくる。
「──君、知ってたろ!? 教えてくれよ! あの女性陣の冷たい目と、その何倍もの威力の会長の声色。副会長の威厳が地に落ちたぞ!」
「それはよかったですね。あっ、生徒会室ならそこですよ」
「もう一度いけと!? 次は叩き出されるか、生徒会室に出入り禁止になるぞ!」
そうなったらそうなったでいいと思う。
何を思って結ちゃんがこの人を副会長にしたのか僕にはわからない。
三年生なのに会長になれなかったからではないのだろうが、そうでないならそれこそ意味がわからない。
綾瀬さん以外の生徒会のメンバーの選出基準が謎すぎる。
「確かに
「別にやきもちを焼いてませんし、冷たくもしてません」
「それは基本的な対応がこうということになるが!? 君はもっと優しい人間だろう」
「ならそれは、僕が優しいのは僕が優しくしたい人だけになんじゃないですか」
「僕だけは含まれないと!?」
含まれない。この人に優しくする理由がない。
それと久しぶりに対面してみてわかったことがある。僕はたぶんこの人のことが
嫌いだから優しくできないし、嫌いだから関わりたくないんだ。
人に対して苦手ではなく嫌いというのは初かもしれない。
「じゃあ僕は手を洗いにいくので失礼します」
こんなふうに素気無くしても少しも心が痛まない。
別にこの人にどう思われようと構わなく、それで不利益を被ろうと構わない。
この人に対してなら
「待ちなよ。
「……差し支える。何に?」
「こうも君に嫌われているとは思ってなかった。君と敵対するなら構わないんだけど、これでは敵対すらできない。一条君には会長の提言について話があったんだ。少し話したい。場所を変えよう」
「……」
「オーケー、オーケー、こちらの立ち位置を明確にした上でで構わない。僕は会長の案には反対なんだ。それと綾瀬君に口止めをしているのは僕だ。つまり僕に従ってくれる彼女も会長の案には思うところがあるというわけさ。少しは納得してくれたかい」
綾瀬さんとは話す機会がなくて今朝以降は話していないし、黒川さんから綾瀬さんについての話もなかった。
でも、口を滑らせた時の綾瀬さんの反応はこの人の圧力ではない(そんな力は副会長にない)。
あれは間違いなく結ちゃんからだろう。
まとめるとこの人がやっぱり嘘っぽいし、そんな話をわざわざする必要もない。
「……(スタスタ)」
「えっ、嘘、ここまで思わせぶりなこと言ってるのに聞かないの!? 会長とそっくりだよ。そういうところ」
僕がこの人で一番気に入らないのは手段を選ばないところだ。
僕も結ちゃんもこの人に従姉妹だなんて話していないのに知っていて、そこを利用して僕を自分の方に取り込めればなんて、考えもやり方も気に入らない。
「はぁ……。一条君、この邂逅は偶然だがある意味で必然だ。僕は君が生徒会室に呼び出されてすぐにでも、君に会おうと思っていたからね。そして君も僕に会おうとすぐに思うはずだ。会長に頼れないなら僕のところにきなよ」
生徒会室に入るのを諦めたのだろう副会長は手を洗って戻ったらおらず、遠回りをして時間をかけて戻ってきた雅親と、黒川さんの勉強会の終わりは同じくらいだった。
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