第51話 彼氏彼女のピンチ ⑩
二人には見えていた結果をあとになって理解したところですでに手遅れであり、どうして自分にはこうも
「どうしてこうなった……」
加えてもう一つどうしてと言うなら、
二人はどの時点であの展開を予想できていたのだろう? 僕には違う展開しか予想できなかったというのに。
そして一番身近なはずの僕は、どうして二人よりも結ちゃんへの理解が薄いのだろう……。
「──
「
「うぉぉぉぉっ、い、
箱崎さんの荷物だけ持ってすぐに生徒会室にいく勇気は出ず、友人Bこと雅親の帰りを箱崎さんがいた席で待っていたのだが。
この自習室の机の間には仕切りがあり、覗き込みでもしない限り隣が見えないとはいえ、後ろ姿を見たらわかるだろうにそんなに驚かれるとは思わなかった。
「えーと、
「いや、何を言っている。ここが勉強するための場所だろう。わかるように言え」
「……生徒会室に勉強しにいった」
「それは行ったのではなく、連れて行かれたではないのか?」
「そうとも言う」
コンビニから戻ってきたら彼女が荷物を置いたままおらず、「生徒会室にいった」と言われれば「連れていかれた」のだと理解することは僕でもできる。
つまり雅親と同じように考えられるということだ。
しかしそうなると、どうして結ちゃんに関してはわからないのか。謎だ。
「──
「あっ、
「うぉぉぉぉっ、一条殿!? 箱崎女子が一条殿になった!?」
「箱崎さんは生徒会室に連れていかれてしまっただけだよ」
同じクラスである黒川さんから友人Dこと和也も、休み明けの放課後は雅親と一緒に自習室らしいと聞いていた。
和也は放っておいたら黒川さんと同じくらい勉強しない男だから、雅親が誘い(強制的に)やらせているのだろう。
「生徒会室って、えっ、箱崎女子は女王陛下に拉致られたの!?」
「和也、女王陛下って言うのやめた方がいいよ。結ちゃんそれに眉をひそめる時があるよ」
「お前たち話が進まないからやめろ。で、どうして一条だけはここにいるんだ?」
「一人じゃ乗り込めないから二人を待ってたんだよ。いこうか」
雅親を呼んでこなかった場合の結ちゃんと、逃げられなかったのを恨んでいる黒川さんと箱崎さんとを、僕一人で受け持つのは無理だからとは言えない。言わない。
それと、雅親と同じく嫌な顔をしている和也も連れてこいとは言われていないが、連れていけば結ちゃんはもちろん、恨みも分散するかもしれないから連れていく。
これならだいぶリスクは減ったはず。
箱崎さんは彼氏である雅親に、結ちゃんは和也にどうにかしてもらおうと思う。
僕は黒川さん一人で手一杯になる、
「そうだ。その前に二人には聞きたいことがあったんだ」
「……何だ?」「何でしょう?」
「結ちゃんに僕と黒川さんのことを話したのはどっちかなって。ここへはそれを聞きにきたんだ」
「そういうことか。黒川
喋りながら雅親が左側からと僕が右側から、逃げるつもりだったらしい和也を実行前に捕まえることに成功した。
顔に出るというわかりやすい反応をしたと思ったらこれだ。
結ちゃんに喋ってくれた犯人は友人Dこと和也だった。やはり和也も連れていこう。
「──ふ、二人ともはなして!」
「自習室で大声出すと迷惑になるから。外で話を聞くから」
「京子の荷物をまとめるのに少し離すぞ」
「ちょ、雅親!?」
言うと同時に左側の雅親は手を離し、主に雅親が捕まえていた和也は逃走を再開、僕の拘束を振り切り自習室から飛び出していってしまった……。
「すまない」
「もっと上手くやろうよ! これじゃ恨みが分散しない……」
「何の話だ? それより生徒会室だ。いくぞ」
出ていた箱崎さんの教科書、ノート、筆記用具を手早くまとめた雅親は出入り口に向かって歩き出す。
一目散に逃げた和也も気にはなるが、雅親の言う通り今は生徒会室だ。
時間が経つにつれ恨みも入りにくさも増す。
「あっ、そこの壁の靴跡が連行の原因で、やったのは箱崎さんだから。あとで綺麗にするの手伝ってね」
「あ、あいつはー」
通りがかりに見えた靴跡の説明もし、箱崎さんの協力は得られないだろうから雅親に協力を求めておく。
そしてこれを帰りまでにやりたいからという名目で、最悪の場合は生徒会室から脱出することもできるだろうとも思っておく。
「──失礼します。この度は箱崎京子がご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。 ……?」
まったく躊躇うことなく生徒会室のドアを我先に開け(僕ではこうはいかない)、彼女の短気すら自分が謝ってみせる雅親は流石だ(僕ではこうはできない)。
こうして見ると雅親は
……で、雅親は何故停止したのだろう?
「一条、これは何だ? 何の会だ?」
「何って、結ちゃん主催の勉強会でしょう?」
体格のいい雅親が横に動いてくれたことで生徒会室の中が僕にも見え、そこに広がっていたのはこれまた予想外の光景。
まず立っているのが結ちゃんではなく黒川さんだ。
黒川さん以外は結ちゃんも、箱崎さんも、生徒会室にいたのだろう
黒川さんがホワイトボードを使い、何かしらの講義が行われているようだ。
「ちょっとホワイトボードを見ていてください」
生徒たちにそう言うと黒川さんはドアの前の僕たちのところまでやってきて、どうするのかと思ったら強めに足を踏まれた。い、痛い……。
「遅い。何分かかってんだ」
「ぼ、暴力はダメだって……」
「あーしがどれだけ大変だったと思う」
「それは、でも、これは何?」
「ところどころ女子力が低く、もったいないみなさんへの勉強会だよ。男は邪魔だからさっきのとこ掃除してきて。終わったら呼ぶから」
単純に勉強会が嫌な黒川さんが話題をすり替え、自分のペースに持ち込んだだけなのでは?
……なんて言ったら足を踏まれるくらいでは済まなそうだ。大人しく従おう。
「雅親。黒川さんに従おう」
「……あぁ」
僕と同じく足を踏まれたはずの雅親は微動だにせず、振り返る瞬間まで箱崎さんを見ていた。
それが単に箱崎さんが彼女だからなのか、箱崎さんが楽しそうだからなのかはわからない。
その様子に違和感を覚えた僕の頭の中には、箱崎さんの言っていた「お前にも話があったんだ」という言葉が何故だかよぎった……。
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