第49話 彼氏彼女のピンチ ⑨
「──僕は、僕はさっき何て言うのが正しかったんだろう」
静かなところにいるからだろうか?
頭の中をぐるぐると回るだけでなく、口をつくのは言葉にしたところで答えの出ない言葉。
後悔しているわけではないから後悔とは違うが、友人たちに「違う」とも「そうだ」とも言えなかったことの、どちらの場合の結末も考えようとしてしまう。
あの時。僕がどちらかの言葉を発する直前に、タイミングがいいのか悪いのか
すでに
黒川さんの乱入でドタバタしているうちに予鈴が鳴ってしまえば、話の途中だろうと解散するしかなかった。
あれでは仕方のない終わり方だったとわかっていても、もやもやしたものが胸の中に残ったままで放課後になったというわけで。
そして、まだ終わっていないのだから切り替えていかなくてもと思っても、一人では答えの出ないそれを引きずってしまっているというわけで……。
「──さてね。ただ、余計なことを言わなかったんだからよかったんじゃない。あーしたちに今必要なのは敵じゃなくて味方だよ」
口をついただけで尋ねたわけではなかったのだが、隣の席からすぐさま答えが返ってきた。
僕にある「そうだ」とも「違う」とも異なる、実に黒川さんらしい回答だ。
僕があのまま言葉を発していたら、友人たちは敵ではなくても味方でもない状況だったかもしれない。
あの場面で僕は肯定はしなかっただろう。
そして否定をしたところで言えることは限られてしまい、ただ二人の好意を無下にするだけの結果になっていた。
そうなると黒川さんの言うように「余計なことを言わない」があの場の正解であり、事態を悪化させない最善だった。
あそこで無理に事情を説明しなくてもその機会は必ずある。黒川さんならこう言うだろうし、それが正しい回答だと僕も思う。
「黒川さん」
「なに?」
「えーと、ありがとう。かな?」
「……よくわからないけど、どういたしまして?」
しかし、黒川さんがあの乱入について明確な理由を言わないのが気にはなる。
もしかして僕が一人だと危ないと判断して、急いで止めにきたのだろうか?
自ら気を使って僕たちだけにしたのに、自らそれを破った理由があるならそうだろう。
もし黒川さんが現れず、僕一人で
「うん、現状味方が多い方がいいのは間違いない。まずは
「ならそろそろ行こう。今日中に裏を取るってのを完遂するよ。ついでに仲間をゲットだ!」
黒川さんは今日は放課後まで現れなかった僕のクラスの、僕の隣の席(早々に部活に向かう
「──それにしても、
「運動部は三年生が抜けた新体制になってどこも忙しいみたいだし、関係ない人たちも来週から小テストがあるからじゃない? 休みの期間の勉強があやしかった人はたぶんみんな自習室にいるよ。 ……僕たちも勉強していく?」
「していかない。あーしは小テストなんて知らない」
目的地がその二階の端にある自習室なんだからと思って一応言ってみたが、歩みが一瞬たりとも止まることなく予想通りの返事が、しかも即答で返ってくる。
まぁ、任意補習の期間の確認という意味合いのテストだから、嫌々ながらも授業に出ていたし出題範囲は問題ないだろう。
待てよ、そういえば……。
「そういえばさ、あとは自分でやるからって言った課題は提出したの?」
「……ダシタヨ」
「絶対に出してないじゃん! 小テストはともかく、提出物は早めに出さないとまずいよ」
「あー、あー、うるさいうるさい。そういうお小言は間に合ってるから!」
黒川さんはすごく勘はいいし、とても頼りになるが、こういうところはダメだと思う。
僕が同じクラスだったらいちいち確認しているが、クラスが別では提出物までは目が届かない。
言っても聞かないだろうから、次会った時に
「おい、自習室で騒ぐな! なんだ、バカップルか」
「
「ハコザキさん? 一条、だれこのリンちゃん足す
いるだろうと思っていた人に自習室に入るなり見つかるというか、彼女は入り口から一番近い席に座っていた。
そして、すごく短くかつ的確に箱崎さんを説明してくれた黒川さんにはありがたくもあり、ちょっと黙っていてもらいたくもある。
というか、もう黙ってほしい!
「……ほう、綾瀬はともかく姫川美咲と比べられるなんて不愉快でしかない。黒川
「えっ、なにこの暴力で物事を解決する感じの子!? 一条、たすけてー!」
お、遅かったーーっ!
気が短いのは知ってるけどそれにしてもだろ。
当たり前だけど注目を集めている自習室内に、箱崎さんを止められるような人は、いない! 仕方ない……。
「
「残念だったな、一条。雅親も
黒川さんの腕を掴んだもう片方で掴まれたかと思ったら、ものすごい力で自習室から引きずり出される。
黒川さんも僕も抵抗したところで、黒帯である彼女に敵う可能性はないし、暴力沙汰はよろしくない。
だけど、これはかなりの物理的なピンチだ……。
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