第48話 彼氏彼女のピンチ ⑧
「
「すまないね。だが、ボクをこうしたのはキミだ。
いつもの場所こと実習棟の屋上に呼び出され、十分ほどで現れた赤津くんはすごく不満そうだ。
おそらく机の下に隠れていた僕と、唯一の出入り口を塞いだ木田くんとを見て、単に呼び出されたわけではないと状況を察したからだろう。
「頭も服もいい店紹介してやって、彼女と遊びに行きたいってのにも世話焼いてやったのによ」
「もちろん感謝しているとも。しかし、怖いものは怖いのだからしかないだろ。伝えた通りヤバいんだって!」
──なるほど。草食系男子代表の木田くんの変化が、元からそんな感じの赤津くんに相談した結果ならば頷ける。
髪型を含まない赤津くんに、木田くんは以外と興味があったわけだ。まあ、だからといって「そうじゃない」感は拭えないわけだけど。
「……つまりあれか? これはオマエとそこにいる
「うん、正解。
「そうならそうだと初めから言えよ。調子に乗って木田がやらかしたのかと思ったわ! しかし、そうなると男女交際の禁止ってマジかよ」
結ちゃん関連だとすぐに気づいた赤津くんに「でも、どうして?」と尋ねる前に、彼の口から今さっき木田くんに話したばかりのワードが出た。
それも、いくら噂好きの彼でもピンポイントで言い当てられるわけがない内容のだ。
どういうことだ?
なんで彼からその話が出る?
いや、まずは当初の目的を……。
「待って、それどこで聞いたの?」
──当初の目的なんて言ってられない。結ちゃんに喋ったのが赤津くんかどうかは後回しでいい。
それよりも内容は前後であるが、そのままでは結びつかないこっちの方が重要だ。
「さっき購買に並んでた時に前から聞こえたんだよ。つまんねーこと言ってんなと思ってたら、一条がいて木田がテンパってる。それで木田の彼女関係じゃないならそれしかないだろ」
出どころは事情を知っている人間からじゃない?
それはもう本当にどこから話が出ているのかわからない……あれっ、そういえばその話を
もしかして話していたのはあの時に聞いていた誰かか?
「話をしてたのって誰だった?」
「オマエらんとこのクラスのヤツと、ウチのクラスのヤツと、他のクラスからもいたな」
「……誰が話を始めたのかわかる」
「途中から聞こえてきた話を誰がし始めたのかなんてわかんねーよ。連中も笑い話って感じだったぜ。連中は生徒会長様がどれだけヤバいヤツか知らないから仕方ないんだけどな」
僕たちの話を聞いていた誰かが、聞いた内容を笑い話で済ませるかは不明。
それに黒川さんが気づいたとはいえ、あの場から一目散に逃げたという事実がある。
笑い話程度に受け取ったと高を括るには難しい……。
「一条、顔色悪いぞ。大丈夫か。つーか、オマエが関係してんのか?」
「一条……。赤津、今聞いたばかりをそのまま話すよ」
「頼むわ。休み明け早々にまさかの大事かよ」
その通りだ。大事にならないようにするために動いていたはずが、気づかない間に大事になりつつある。
何よりの問題はどの程度の広まりの速さで、どの程度の信憑性で、どの程度の事態になっているのかわからないということ。
これは早急に決着をつけないとダメだ……黒川さん?
「もしもし、どうしたの?」
『リンちゃんに逃げられたー。で、そっちは?』
あっ、出てからであれだけど校舎内で電話をかけたりすると怒られるな。
しかし僕は人目につかない屋上だし、黒川さんも他の音が入らないってことは一人なんだろう。
バレなければいいとは思わないが、今は緊急事態で必要だったということにしよう。
「それが、その、二人とは話したんだけど、男女交際の禁止って話を聞いたって……」
『あー、あの時の逃げ足の速い誰かか。口も軽かったわけね。今どこ?』
「いつものとこだけど、黒川さん?」
……急に通話が切れた。
もしかして近くに誰かきたんだろうか?
それも生徒ではなく先生だったとか?
名前出てるし結ちゃんとか?
本当に現れたら困るから今のなしで。
あるいは
「──今の誰だ?」
「黒川さんだけど」
「……何も言うまい。一条の
「さっき木田くんも同じこと言ってたけど、僕の好みってなに? 僕そんな話してないよね」
友人たちがどうしてだか黒川さんのことを納得しているように感じる。
そこについてどう言おうかと考えていた僕としてはありがたくもあり、夏休み前からの態度の変化にはかなりの驚きがある。
そして僕の好みってなんなんだろう?
「だってオマエ、
「──はぁ!? なにその嘘は……」
いや、そういえば夏休み前にそんな噂があった。僕が姫川さんを振ったという根も葉もない噂が。
でもあれは、姫川さんと
あの時はもう友人たちとは連絡が途絶えていて、直接内容を話してはいないけど、それをみんなは鵜呑みにしたってことだろうか?
ならこの際、違うものは違うと言わないといけないけど、なんだかそう違ってもいないような気もする。
姫川さんとは付き合っておらず、黒川さんと付き合っているし。
姫川さんからは略奪とか、彼女がいてもいいとか言われているが、そんなわけにいかないし。
困った。はっきり否定したくても、まったく違うとも言えないや。
僕がどう言おうと姫川さんに角が立つ。
学校では猫被ってる姫川さんから言ってもらうわけにもいかない。どうしよう……。
「あながち間違ってないんだろ。ならそれはもう姫川より黒川の方がいいってことだ。しかしまさか一条の好みが低身長な女だったとはな。小柄なってのはわからなくもないが、ギャルだのビッチだのが好きなのは知らなかった。そんな癖を知りたくなかったわ……」
「なにを言って、」
「まあまあ、振られた姫川さんも新しい恋を見つけたみたいでよかったってことで。しかし、今でも一条の隣で以前と変わらずにいられる姫川さんは流石だよな」
「……」
なんだこれ、どういうことだ?
僕たちは何の話をしていた?
噂は同じ噂だけど、これはもう出来上がっている。当事者たちの意思に関係なくそうだとなってしまっている。
彼らが何も知らないわけでないだけに、噂が噂を呼んで彼らの中で出来上がってしまったのか?
「オレももう黒川がダメだなんて言わねーよ。黒川と上手くやってるんだから、あの時のオマエの言葉が正しかったってことだ。まあ、今は応援してっから。木田みたいに何かあったら言えよ」
「そうだぞ、それがボクたちの
……ここで
黒川さんにも、姫川さんにも、高木くんにも、友人たちにも嘘をつくことになる。
この先もずっと嘘を続けていくことになる。
でも、わざわざ違うと言う必要はあるのか?
このままなら友人たちとは元通りになり、黒川さんとの交際も気にせず続けられ、結ちゃんのことにも友人たちの協力を得られるだろう。
僕にとってはこれ以上ない状況になる。
「僕は、」
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