第47話 彼氏彼女のピンチ ⑦

「な、なんだよ。こんなところに呼び出して」

「教室じゃタイミングが合わなかったから。ごめん」

「別に謝らなくてもいいけど……」

「うん」


 メガネをかけた友人Aこと木田きだくんに、朝のうちに話しかけるつもりがタイミングが見つからず、昼休みにいつもの場所でになってしまった。

 それもこれも今日は姫川ひめかわさんに、あれやこれやと引き留められることが多かったからだ。


 黒川くろかわさんが「あーしは邪魔だろうから」と気を利かせてくれても、朝から一度も黒川さんが現れないからか姫川さんからの干渉が多かった。

 足し引きではゼロ。いや、昼休みになっているのを考えるとむしろマイナスだったのかもしれない。


 薄々思っていたことだが、「あちらを立てればこちらが立たぬ、双方立てれば身が立たぬ」ということわざが二人にはしっくりくる。

 どちらも無下にできない僕も悪いのだろうが、終いには僕の身がもたない気がする。


 しかし、姫川さんに冷たくしようものなら後が怖いし、黒川さんに冷たくするとか絶対に無理だし。

 そうなると、身がもたなくなるまでは続けるしかないというわけかーー。


「──それで話って?」


「えっ、あぁ、それはもちろんあるんだけど。その前にいい?」


「なんだよ、なんか他人行儀すぎないか?」


「じゃあ聞くけどさ。髪の毛とかメガネとかどうしたの!? あと制服もそんな派手な色のシャツを中に着てなかったよね!? 香水もちょっとつけすぎだよ!?」


 新学期になった初日から気づいていた友人Aの変化。

 草食系男子を絵に描いたような友人Aが、夏休みが明けたら(見た目だけ)別人のようになっており、なんかこう「どうした!?」とずっと言いたかった。


 髪の毛は薄くだが染め、メガネはコンタクトになり、服装はちょっと派手なくらいにと変化している。

 何があったらこうなるのかわからない。

 彼は夏の暑さでどうかしてしまったのだろうか?

 僕はそんな彼に、違和感に、違和感に、違和感しかないのだが。


「これはその、彼女に恥をかかせないようにした結果だよ。昔は少し地味すぎた。おかげで今は世界が変わったよ」


「何言ってるの!? 彼女と上手くいってるのはよかったけど、その変化に彼女は納得してくれてるの!?」


「えっ、彼女もこんな感じだけど。二人でやったんだ」


「…………。」


 絶句というのはこういう状態を指すのだろう。本当に何も言葉が出ない。

 まさか僕に彼氏彼女のきっかけを与えてくれた友人Aの彼女まで、この友人A……いや木田のようになってしまったとは。


 友人Cとは違う真逆の存在への変身というのか、以前と現在のイメージしか変わっていないからなのか、なんかそうじゃない感が強すぎる。

 誰も彼らを止めなかったのだろうか?

 あと、ゆいちゃんに指摘されたら致命的な問題を増やさないでほしい。


「まあ、そういうわけだから。で、話って?」

「結ちゃん。生徒会長のことなんだけど」

「えっ、うそ、目をつけられてる!? まさかもう手遅れ……とかじゃないよね?」

「マズイかなって自覚はあるんだ……」


 もちろん校則では木田(現)は全てダメなんだけど、結ちゃんがそこに関しては寛容だからか生徒会の取り締まりは緩い。

 現に派手な人たちは全学年にいるし、前の生徒会長からしてそんなだったから、結ちゃんも寛容になるしかなかったのかもしれない。


 というか、黒川さんが結ちゃんに服装を何も言われないんだったら、他の人が言われることはないと思ったり思わなかったり。

 しかし、これを一緒に連れて歩けばその限りではない。結ちゃんに木田(現)を指摘されたら僕たちが詰む。


「そ、そうなんだな!? どうしたらお怒りを収められる。一条、頼むから教えてくれ。ボクたち友達だろう!」


「うーん、木田くん関係なさそうだし、これ以上問題を増やしたくないから関わらない方向で。じゃあまた教室でね」


 友人Aはシロだ。

 彼が結ちゃんに喋った人間だとするなら、その時に服装を指摘されて元の彼に戻っているはずだ。

 以上のことからシロだと判明した木田に構わず次に行こう。


「──待って、一条くんって! 夏休み前はすまなかったと思ってる。一条の好みも考えずにただ自分の意見を押し付けただけだった。ボクたちが間違っていたんだ!」


「……ボクたち、、? みんなで僕のことを話したの、いつ?」


「あぁ、灯籠流しのお祭りの次の日だから二十一日だな。部活で学校きたらなんかみんなと会ってさ。その時に一条に謝ろうってなったんだ」


 夏休み中でも学校が開いているお盆明けで、僕以外の友人たちが揃った時があったのか。

 そこに生徒会でも何かがあれば、同じ日に結ちゃんも綾瀬さんもいただろう。


 信治しんじくんは結ちゃんが来たのが二十二日だと言ってたからタイミングも合う。

 しかし、残る三人のうち誰かまではわからない。


「ねぇ、誰がその話を始めたのかわかる?」


「うん? あー、最後に合流したからわからない。もうそんな話をしているところにだったし、三人ともかなりテンパってて……。あっ、でも赤津あかつは直前に見かけたから違うんじゃないかな?」


 ヘアスタイルが特徴的な友人Bこと赤津くんを木田が見間違えることはないだろうし、二人は部活は別だが活動するのが隣同士だから直前に見たというならそうなんだろう。

 そして木田が結ちゃんを見ていないのなら、同じ階にいた赤津もシロか?


「木田くん。僕がLINEしてもスルーだから僕の名前を出さずに、赤津くんをここに呼び出してくれない?」


「それは構わないけど、これはなんなんだ? 生徒会長がお怒りというわけじゃないのか?」


「いや、お怒りはお怒りなんだ」


「なんなんだよ、一瞬期待したのに! くそっ、あいつも巻き込んでやる!」


 これで友人Bこと赤津くんはここに現れる。

 その間にするべきはシロだとわかった木田くんへの事情の大まかな説明と、残る二人と同じクラスの黒川さんへの連絡。

 黒川さんも綾瀬さんから何かしら聞き出しているはずだし、こっちの状況も話しておきたい。

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